「大変だからこそやりがいがある」地域包括支援センターの社会福祉士に聞く“仕事のモチベの保ち方”

地域包括支援センターの社会福祉士とはどんなお仕事なのか。複数の福祉現場を経験し、一般企業を経て地域包括支援センターの非常勤社会福祉士となったFさんに、働くうえでの心持ちと仕事に対する胸の内を聞きました。

「大変だからこそやりがいがある」地域包括支援センターの社会福祉士に聞く“仕事のモチベの保ち方”

高齢者のありとあらゆる相談に乗る仕事

社会福祉士歴13年のFさん
社会福祉士歴13年のFさん

──地域包括支援センター(以下:包括)とはどういった施設でしょうか。

65歳以上の高齢者の相談窓口です。総合相談という大きな枠組みであらゆる相談にのります。介護保険に関することや権利擁護、例えば成年後見制度の相談や虐待に関することなど内容はさまざまです。

高齢者とその関係者が、介護・医療・保険・福祉など生活上の困りごとがある際に支援をおこなう

65歳未満でも、介護保険の特定疾病に該当する方で介護保険サービスを利用する人は包括が支援します。

──包括の中で社会福祉士のFさんはどんなお仕事をされていますか?

支援するにあたって問題がある──例えば経済面の問題や家族がいないなど、社会的な背景が難しい方の対応をすることが多いです。

──高齢者が直接相談にいらっしゃるんですか?

高齢者の家族、高齢者本人、病院の退院支援部門(看護師・医療ソーシャルワーカー)の順に多いですかね。市役所やケアマネからの相談もあります。

身近な相談窓口なので「電気代が支払えない、電気がつかない」みたいなこともあり、これをきっかけに支援が始まることもよくありますね。

──相談を足がかりとして解決策を見出していくんですね。先ほど虐待に関する相談もあるとおっしゃっていましたが、どのような対応をされるのでしょうか。

虐待は原則2人対応です。聞き得た情報をもとに、どのような職種が関わるのがいいかを判断します。例えば体調確認が必要であれば医療職(保健師・看護師)と一緒に対応する形です。

私たちの包括では最初の聞き取りは社会福祉士が主となり、本人や家族と面談することが多いように思います。

虐待疑いの通報があった際の初期対応例

包括が抱える“ケアプラン問題”

──非常勤とのことですが、常勤の方と仕事内容に違いはありますか?

常勤の社会福祉士と同じですが、担当案件がちょっと少ないかな。私はケアプランの担当を月に25件程度、常勤職員は30件程度を受け持っています。

──包括といえばケアプラン作成の業務圧迫が問題視されているようですが、Fさんの事業所はどうですか?

介護予防ケアマネジメント業務に時間を多く費やしていると表現するほうが正しいかもしれません。

プラン作成以外に、モニタリング、事業所から届く報告書に目を通す、評価表の作成、サービス担当者会議をおこなう、サービス調整、ときに退院支援もあります。

──めちゃくちゃ忙しそう。

これに加えて権利擁護や介護保険の申請に関する相談など、いわゆるプランにはならない相談をそれぞれ5件から10件抱えています。

ケアプランの担当が包括内でいっぱいになると居宅介護支援事業所に委託するのですが、私の働く地域では委託できる事業所が少なく、委託先も手一杯というのが現状です。

やむを得ず包括が担当するため件数が増え、ケアマネジメント業務が他業務を圧迫していると言えると思います。

そこで“プランナー”と呼ばれるケアマネジメント業務のみをおこなう職員を採用する包括もありますね。

人の人生に関わるプレッシャー

──現在の職場にいたるまでの経緯を教えてください。

福祉の事業所をいくつか経験し、一般企業への転職を機に今の地域に引っ越してきました。

地域包括支援センター Fさんの経歴

──一度福祉のお仕事から離れているんですね。その理由は?

自分では気づいていない才能があるんじゃないかと思って3年ほど働いてみました。あと、福祉の仕事ってどうしてもストレスがあって。

一般企業で働くうちにやっぱり高齢者に関わる包括の仕事がしたいなと思って、今の職場に転職したんです。

──高齢者に関わる仕事っていろいろありますが、なぜ包括なのでしょうか。

さまざまな業務に携わりたかったからです。包括の仕事は在宅生活の支援や地域活動、権利擁護に関することなど幅広いんです。

ケアマネや病院、行政などたくさんの方と連携を図りますし、職種や立場によって視点が異なるので勉強になります。

──自己成長のためなんですね。それでも仕事上のストレスはあると思うのですが、例えばどんなときに大変だなと感じますか?

人の人生に関わるって本当に大変で、プレッシャーなんです。相談者の明日の生活を左右することもありますし、ときに緊急性が求められることもあって。

現在の包括は土日休みなので、金曜日の夕方に「食事の準備ができない」「食べるものがない」って相談に来られたら、慌ててあらゆる調整をしなきゃいけないこともあります。

──食事の準備ができないとはどういった状況でしょうか。

早期退院を希望して家に帰ってきたのはいいけど、体力が戻っていないので買い物に行ったり調理ができないというケースがありました。

年金支給日や生活保護支給日前にお金を使いきってしまった、という相談も稀にあります。

──緊急の相談ごとに時間は関係ないですもんね。

夕方に介護保険の申請をして、急いでヘルパー調整して……なんてことを数時間でやらなきゃいけないこともあります。

休みの日でも「お弁当を受け取って食べているかな」とか気になっちゃうんです。そう思うと正直やりたくないなと思うこともあります。

──ではどう折り合いをつけているんでしょうか?

うまく割り切るといいますか……冷たく聞こえるかも知れませんが、やれることはやったと自分に言い聞かせることですね。

──相談者の生活に入り込みすぎない、ということでしょうか。

おっしゃるとおり。社会福祉士に限らず福祉職や医療職の方って本当に優しい方が多いんです。だからなんでもしてあげたくなってしまいがちですが、あえて一線を引くのが秘訣です。

高齢者の歴史に向き合うおもしろさ

どんなお仕事もそうでしょうけど、辞めたいなぁ……と思っていたら良い仕事に出会ってしまう。それでまた続けたくなっちゃうってあると思います。社会福祉士の仕事もそうです。

──くぅぅぅわかる……。具体的にどんなときにそう感じますか?

いろいろありますが、困難なやりとりが徐々に進んでいって、その様子を見届けているときです。「私、社会福祉士として頑張ってる!」って感じます。

──そうなんですね! ちなみに困難なケースとは?

例えば、生活保護受給にならない程度の収入(年金)があるけど、借金があって介護サービス利用料が支払えない。でも関わってくれる家族や友人がいないから、サービスを利用しないと生活できない。さらに介護保険料を滞納していて利用料の負担割合が高いというようなケースがありました。

お金を使いきってしまう背景など、主訴の裏側にある本当の課題を見つけることが大切なんです。年金だけでは生活できず生活保護受給の相談に繋がったり、お金の管理する能力が欠如していることから後見人の申し立てに相談が発展することもあります。

──なかなか複雑な状況。そういった相談がスムーズに進まないからこその専門職なんですね。

社会福祉士は面接技術なども学ぶので、専門性を活かしながら相談者と駆け引きをするのもおもしろいです。

そう簡単に上手くはいきませんが、例えば生活保護の受給や介護保険を申請して結果が得られたとか、私たちが支援するなかでの目標に到達するとやりがいを感じます。

わずかな目標でもそこに至るまでのプロセスは人それぞれですし、すごく難しいこともあるんです。

──“もつれ”が解けたときにやりがいを感じるんですね。

その方の歩んできた人生を考えながら支援の方法を練るのもおもしろいです。

相談者は何十年も生きてこられた歴史があるわけじゃないですか。私たちはその歴史のわずかな“点”での関わりでしかないんです。どう生きてきて、どういう考えを持っているかによってもアプローチの仕方が変わります。

例えば元弁護士さんだったら契約の日時にこだわるかもしれないし、経理のお仕事をされていた方ならお金にこだわりがあるかもしれない。

これを考えるのも対人援助職の醍醐味です。

包括の社会福祉士の一日

社会福祉士の一日 地域包括支援センター勤務 Fさんの場合

──訪問する時間が多いですね。

相談対応や状況確認のために訪問しています。

──お昼休憩中もお仕事をすることがあるんですか。

高齢者のご家族はお勤めの方も多いので、お昼ぐらいに電話をかけて来られる方もいます。なのでお昼をとりながら仕事をすることもあります。

──15時からの研修や講座とはどんな内容でしょうか。

高齢者の集まりで介護保険について説明したりなどの出前講座です。あとは介護サービス事業所や訪問看護ステーションで研修することもあります。

──非常勤での勤務は月曜から金曜ですか?

そうですね。今の包括は基本土日休みで、私は平日に1日か2日くらいお休みをいただいています。法人の母体や委託元の市町村によってお休みは違うと思います。

──現在のお給料について教えていただけますか?

時給1,350円で、とくに手当はありません。交通費は別途いただいていますし、残業代もでます。季節によりますが、残業は月に2時間くらいです。常勤のスタッフやほかの包括さんはもっと残業していると思います。

仕事を続けられる理由は「山」

硫黄岳

──ところでなぜ非常勤なのでしょうか。差し支えなければ教えてください。

私、登山が好きなんですよ、だから山に行くための時間が必要なんです。ワークライフバランスってやつです。主人も山登りをする人なんですが、平日休みなものですからそこに合わせたくて、あえての非常勤なんです。

資格を活かせる包括で非常勤として働きたいと思っていたら、たまたま求人を見つけました。

──なるほど趣味のため!

というのも、病院で働いていたときは定時が17時なのに17時からが忙しくて、20時まで働くことがよくあったんです。当時は主人より先に出勤して、主人より遅く帰るみたいな生活でストレスが半端じゃなくて。そんなときに山に出会ったんです。

山に登っているときは「ツラい……もう歩きたくない」って思いながら進むんですけど、その間は仕事のことを忘れていることに気づいちゃったんです。

──気持ちをリセットできるんですね。ちなみに思い出の山はあります?

東京と山梨と埼玉の境にある雲取山ってご存じですか? 標高が高かったし、テントを背負って行ったのですが、体力を奪われて大変でした。でも山頂から見える奥秩父の山々の景色がすごく綺麗で。

天気が悪いときに行った北海道の山は怖かったです。熊が出るんじゃないかっていう恐怖心と戦いながら登ったので印象深いです。

御座山
旦那さんと登山を楽しむために今お住まいの地域に引っ越した

社会福祉士に向いている人って?

──Fさんの視点で、どんな人が社会福祉士に向いていると思いますか? 必要な素養などもあれば教えてください。

うーん……社会福祉士全般でいうと、人に興味があることは必要ですかね。その人が歩んできた人生や歴史に興味が持てるというか。あとは人になにかをしてあげたいという思いがベースにあることも大事です。

包括の社会福祉士という視点では、地域に関心があることも大事だと思います。地域行事に参加しながら、担当する高齢者たちがもっと暮らしやすくなるにはどうしたらいいのか、そこに興味を抱けることです。

──人だけでなく地域にまで目を向けられるとなお良いと。

あとはチームワークを大切にできる人ですね。誰かと連携して物事を進められることも重要だと思います。病院スタッフやケアマネジャーさん、地域の民生委員さん、ときには弁護士さんとも仕事をすることもありますから。

仕事として求められていることなので、広く興味を持てる方は向いているのではないでしょうか。

地域包括支援センターで働こうと思っている方へFさんからのメッセージ

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