訪問看護の生活ケアでは何をする? 食事や排泄ケア、スキンケア、服薬サポートなど

自宅療養中の人のもとへ出向き、健康状態の確認や医療処置、療養指導などをおこなう訪問看護。利用者が快適に療養生活をおくれるようにサポートする「生活ケア」の内容や注意点について紹介します。

訪問看護の生活ケアとは?

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・訪問看護のアセスメントでは何を診る? アセスメント項目や大切な考え方とは

※ケアの方法は利用者の状態や訪問看護事業所によっても異なります。主治医や所属する事業所が定める方法に則っておこなってください。

1.訪問看護の生活ケアとは


訪問看護は、おもに自宅で療養する方のもとに看護師などが訪問しケアをおこなうサービスです。主治医が作成する訪問看護指示書に基づき、健康状態のチェックや医療処置、療養指導、生活ケアなどをおこないます。

訪問看護の生活ケアでは、利用者が快適な療養生活を過ごせるように、食事や排泄、身体の清潔、服薬管理、住環境整備などの指導や介助をおこないます。ケアをするには、利用者の疾患や健康状態、生活状況全体のアセスメント(評価・分析)が欠かせません。アセスメントについては以下の記事で解説していますので、参考にしてください。
訪問看護のアセスメントでは何を診る? アセスメント項目や大切な考え方とは

2.食事のケア


「生きることは食べること」とも言われるほど、生活において食事の時間は大切です。身体機能の低下により食べることが難しくなってきた人でも、できるだけ食べる楽しみを持ち続けられるケアを考えましょう。食事のケアで大切なポイントを4つ紹介します。

2-1.食事状況のアセスメント


どのような環境で何をどのくらい食べているのか、家族の食事介助のやり方はどうか、摂食嚥下(えんげ)機能が低下していないかをチェックします。摂食嚥下機能の評価に関しては、必要に応じて医師や歯科衛生士、言語聴覚士にも診てもらいましょう。

厚生労働省が公表している「口腔機能自己チェックシート」を使うと、家族でも簡単に口内の健康度を診断することができ、本人や家族の意識づけにも有効です。「1、1a、1b」のいずれかがある場合は口腔機能低下の恐れがあります。

■口腔機能自己チェックシート

①固いものが食べにくいですか (1.はい/2.いいえ)
②お茶や汁物等でむせることがありますか (1.はい/2.いいえ)
③口がかわきやすいですか (1.はい/2.いいえ)
④薬が飲み込みにくくなりましたか (1.はい/2.いいえ)
⑤話すときに舌がひっかかりますか (1.はい/2.いいえ)
⑥口臭が気になりますか (1.はい/2.いいえ)
⑦食事にかかる時間は長くなりましたか (1.はい/2.いいえ)
⑧薄味がわかりにくくなりましたか (1.はい/2.いいえ)
⑨食べこぼしがありますか (1.はい/2.いいえ)
⑩食後に口の中に食べ物が残りやすいですか (1.はい/2.いいえ)
⑪自分の歯または入れ歯で左右の奥歯をしっかりとかみしめられますか
 (1a.どちらもできない/ 1b.片方だけできる/2.両方できる)

出典:口腔機能向上マニュアル ~高齢者が一生おいしく、楽しく、 安全な食生活を営むために~ (改訂版)(厚生労働省)


2-2.食事環境の整備


食欲は、食事をとる環境次第で変わります。座位をとることができる人は、できるだけ寝室ではなく食卓についたほうが生活にメリハリが出て良いでしょう。テレビなどをつけての「ながら食事」は、意識がそちらに持っていかれるため、食事に集中できる環境をつくることも重要です。

食事中は正しい姿勢をとることも心がけます。姿勢が悪いと、食べ物を口に運ぶこと、飲み込むことがしづらくなり、誤嚥のリスクが高まります。後ろにのけ反り気味に座ってしまうようであれば、背中にタオルやクッションをはさんで背骨がまっすぐ、もしくは頭部がやや前傾気味に座れるようにします。テーブルの位置が高すぎたり低すぎたりしないかも確認しましょう。

食器やダイニングの机・椅子などが使いづらい場合は、要介護状態でも使いやすい食事用自助具や介護用品の提案も考えましょう。福祉用具専門相談員に相談してもいいです。
参考:生活便利用具データベース(公益財団法人日本テクノエイド協会)

2-3.調理法の工夫


食べる能力の低い人が通常食を食べると誤嚥のリスクがありますし、反対に食べる能力の高い人がとろみ食ばかり食べていると、嚥下機能の低下を招いてしまいます。アセスメントの結果、現在の調理法が適切でない場合は、嚥下機能にあわせた調理法でつくるように提案しましょう。

日本摂食嚥下リハビリテーション学会が発表している「嚥下調整食分類2013」では、食事の分類およびとろみの分類を段階別に解説しています。医療や福祉現場でも広く取り入れられている基準なので、参考にしてみてください。

■嚥下食ピラミッド
嚥下食ピラミッド

毎日手作りの食事を用意するのは大変なことです。食事状況を見て、市販の介護食品や配食サービスを取り入れるなど、家族の負担を減らすためのアドバイスもできると良いでしょう。

2-4.口腔ケア・マッサージ


口の中が潤っていると飲み込みやすくなり、誤嚥性肺炎の予防にもなります。食事の前には、口腔ケア用のスポンジブラシと水を使って口内を潤す方法や、「唾液腺マッサージ」で唾液の分泌を促す方法が有効です。唾液腺マッサージは、本人や家族でもできます。

■唾液腺マッサージの方法
唾液腺マッサージ
a. 耳下腺への刺激
人差し指から小指までの4本の指を頬にあて、上の奥歯あたりを後ろから前へ向かって回す(10回)

b. 顎下腺への刺激
親指を顎の骨の内側の柔らかい部分にあて、耳の下から顎の下まで5ヶ所くらいを順番に押す(各5回ずつ)

c. 舌下腺への刺激
両手の親指をそろえ、顎の真下から(各5回ずつ)手を突き上げるように押す(10回)

出典:要介護高齢者の口腔ケア | e-ヘルスネット(厚生労働省)


よく笑う人・会話が多い人は、口のまわりの筋肉が使われることで唾液の分泌量も増え、飲み込む力が衰えにくいです。できるだけ人とのコミュニケーションを増やして、しゃべることで健康につなげていきましょう。

3.排泄ケア


高齢になると慢性的な便秘になる人が増えます。これは、食事や水分の摂取量が少なくなることや、筋肉が衰えて排便機能が弱くなることが原因として挙げられます。排泄が適切におこなわれないと、イライラしたり、不眠やさらなる食欲低下を招いたりすることにつながります。

排泄ケアについては以下のポイントでアセスメントし、必要に応じて食事や水分量の見直し、マッサージ、浣腸、摘便をおこないます。

◎ 便・尿の状態はどうか
◎ 食事や水分量は適切か
◎ 生活リズムは乱れていないか
◎ 排泄環境は整っているか
◎ 排泄のための動作が可能か

排泄は人の尊厳に大きく関わることなので、利用者を十分配慮しながらおこないましょう。とくに浣腸、摘便、排泄物の処理時には、便について余計な言及はせず、速やかに作業を進めます。

4.スキンケア


高齢者は加齢によって体内の水分量が低下することで、皮膚のバリア機能が弱くなり、皮膚トラブルを引き起こしやすくなります。

在宅で起こりやすい皮膚トラブルによる症状は、乾燥、かぶれ、低温やけど、スキンテア、褥瘡(じょくそう)など。

これらの予防や改善に有効なスキンケアのポイントは、以下の3つです。

■洗浄

清拭や洗髪、入浴などで汗や皮脂などを取り除き身体を清潔にします。高齢者の皮膚は非常に繊細で、身体を洗ったり拭いたりするだけでも傷がつくため、慎重におこないます。

■保湿

洗浄すると、皮膚のバリア機能や水分の保持機能を持つ皮脂まで取り除いてしまうため、保湿剤を使ってしっかりと保湿します。

■保護

寝具や衣服のシワが皮膚に当たって圧迫しないように注意します。また、汗や排泄物などから皮膚を保護するためのクリームやオイルなどを使うことも有効です。

身体を清潔に保つことは、皮膚トラブルの予防・改善のほかにも、「感染症予防」、清拭のために関節や筋肉を動かすことで「拘縮(こうしゅく)・廃用症候群の予防」、身体がきれいになることでの気分転換・意欲向上などの「リラクゼーション」の効果があります。

スキンケアをおこなう際は、排泄ケア同様、利用者への配慮を心がけましょう。

5.浮腫のケア


「浮腫(ふしゅ)」とは、細胞組織に余分な水分が溜まって腫れてしまう状態のこと。いわゆる「むくみ」です。

浮腫の原因は、静脈やリンパ管の異常で起こる「局所性浮腫」と、全身疾患から起こる「全身性浮腫」の2種類に大別できます。正しい治療やケア方法は、発症原因の疾患によって異なるため、主治医の診断に基づいておこなってください。

予防のために有効なのは、身体を動かすこと。一日中同じ体勢でいると水分が溜まり浮腫の原因となるため、定期的な離床や簡単な体操をする習慣ができるよう、本人や家族、リハビリ職員などと連携しながら日々の生活に取り入れていきましょう。

6.移動・移乗サポート


別の場所への「移動」やベッドや椅子などへの「移乗」は日常的におこなう動作ですが、移動や移乗には転倒のリスクがあります。

厚生労働省の調べ(※2)によると「骨折・転倒」は、高齢者が要介護になる原因として4番目に多く(1位:認知症、2位:脳血管疾患、3位:高齢による衰弱)、事故によるものでは最多です。

高齢者が転倒してしまう要因には、身体的な内的要因と、環境による外的要因の2つがあります。

<内的要因>
・加齢による筋力や注意能力の低下
・病気による後遺症、運動機能障害、認知機能障害
・服薬の副作用

<外的要因>
・住まいのリスク(段差や障害物がある、足元が暗く見えづらい)
・衣類のリスク(サイズの合わない衣服や靴を着用している)
・福祉用具のリスク(福祉用具のメンテナンスが不十分)
・介護力のリスク(身体介助の技術不足による転倒)

日常的な身体介助は、訪問介護員や家族が中心となりおこないます。訪問看護師の役割は、アセスメントを通じこれらの原因を見極め、転倒リスクを減らすためのケア・療養指導をすることです。

ただし、一方的な環境改善のための指摘とならないよう注意しましょう。訪問看護師が提案する導線が物理的に安全だとしても、利用者にとっては「不慣れで不安な導線」かもしれません。突然環境が変わることで心的ストレスにつながることもあります。利用者や家族の意向も踏まえながら、徐々に改善していけるよう指導しましょう。

また、身体機能の評価については理学療法士と、福祉用具については福祉用具専門相談員と、ほかの専門職とも連携しながら、利用者のADL(日常生活動作)の維持、転倒リスク軽減のためのサポートをしていきます。

7.服薬サポート


訪問看護師の服薬サポートでは、処方されている薬の役割を説明し、利用者が自分の身体を守るための、服薬の意識づけをすることが重要です。

とくに高齢者の場合、何種類もの薬を処方されてそれぞれの薬効がわからないまま飲んでいたり、薬を飲み忘れたことを隠してしまったり、飲み忘れた分をまとめて服薬したりするケースがあります。それらを咎めても逆効果になるため、薬を摂ることの意味を家族も含めて丁寧に説明し、理解してもらいましょう。

また、カプセル剤や錠剤が飲みづらいなどの理由で、処方された薬が実際は飲めていないということもあります。利用者の服薬能力や健康状態を医師に伝え、適切な薬を処方してもらうようにすることも訪問看護師の役割の一つです。

近年、活躍の場が広がりつつある訪問薬剤師とも連携しながら、利用者の服薬サポートをしていきましょう。



■参考資料
※1:『ナースのためのやさしくわかる訪問看護』(ナツメ社)

※2:御注意ください!日常生活での高齢者の転倒・転落!(消費者庁)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/caution/caution_009/pdf/caution_009_180912_0001.pdf

※3:在宅療養者の服薬にかかわる訪問看護の実態と課題(岐阜県立看護大学紀要 第4巻1号)
http://www.math.s.chiba-u.ac.jp/~yasuda/Chiba/open2all/kango3.pdf

※4:加齢に伴う皮膚の変化と高齢者のスキンケア(Expert Nurse 2018年3月号別刷り)
https://www.almediaweb.jp/expert/ad/_shared/pdf/ac1906_03.pdf

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