1.訪問看護とは
1-1.訪問看護の概要
1-2.訪問看護師が働く場所
1-3.訪問看護師の従事者数
2.訪問看護の基本
2-1.医療保険と介護保険
2-2.訪問看護指示書
2-3.訪問看護計画書と訪問看護報告書
3.訪問看護師として働く
3-1.必要な資格・経験
3-2.仕事内容
3-3.メリット・デメリット
3-4.服装・持ち物
3-5.1日のスケジュール
3-6.給料
3-7.訪問看護に向いている人
1.訪問看護とは
1-1.訪問看護の概要
訪問看護とは、自宅で療養する方のもとに看護師などが訪問しケアをおこなうサービスです。主治医が作成する訪問看護指示書に基づき、健康状態のチェックや療養指導、医療処置、身体介護などをおこないます。
利用者とその家族の相談に乗り、アドバイスをすることも重要な業務の一つ。利用者・家族・主治医の橋渡し的な存在として、また地域に関わる他職種との連携をスムーズにおこなう調整役としても訪問看護師の役割は重要です。
利用者のイメージとして、高齢者で寝たきりの方の印象が強いかもしれませんが、乳幼児の小児分野から高齢者まで、幅広い年齢が対象です。
診療科は内科系だけでなく、精神科疾患、脳神経・整形外科のリハビリに特化したケア、ターミナルケアなど多岐に渡り対応します。
1-2.訪問看護師が働く場所
訪問看護に従事している看護師の就業場所は、訪問看護ステーション、病院、クリニック(診療所)があります。
訪問看護ステーションは、訪問看護をおこなう職員たちの事業所として機能しており、訪問看護師は訪問看護ステーションを拠点として利用者のお宅へ赴き、看護サービスを提供します。
■訪問看護事業所数の推移訪問看護ステーションの事業所数は、2018年4月時点で9,676ヶ所(※3)。 2012年度(平成24年度)の診療報酬改定・介護報酬改定以降、急速に数を増やしています。
その一方、訪問看護を実施している病院・クリニックの数は徐々に減少傾向にあります。
1-3.訪問看護師の従事者数
2018年末時点(※2)の訪問看護ステーションで働く看護師は 44,569人、准看護師は 4,219人 でした(常勤換算)。 就業中の看護師/准看護師の総数を100%とした場合、訪問看護ステーション勤務の構成割合は、看護師 4.0% 、准看護師 1.6% にあたります。
訪問看護ステーション1事業所あたりの看護職員(看護師、准看護師、保健師、助産師)の平均人数は 4.8人 です(※1)。 この構成比率は徐々に下がっており、代わりに理学療法士や作業療法士などの別職種の割合が増えています。
2.訪問看護の基本
2-1.医療保険と介護保険
訪問看護サービスは、医療保険または介護保険が適用される公的保険の給付対象です。それぞれの保険が適用される条件は以下のように分かれています。
医療保険 | 介護保険 | |
---|---|---|
利用対象者 | 医師が必要と判断した者 | 要介護・要支援認定を受けている者(原則65歳以上) |
利用上限 | 原則週3回以内 | 要介護・要支援度に準じる |
自己負担額 | 70歳以上:1〜3割 6〜69歳:原則3割 6歳未満:2割 | 原則1割 (一定以上の所得者は2~3割) |
要介護認定を受けた利用者には、基本的に介護保険が優先適用されます。また、特定の疾患がある方や主治医の指示を受けた場合は、上記の限りではありません。
2-2.訪問看護指示書
訪問看護を導入する際には、医療保険・介護保険いずれの場合でも、主治医が作成する「訪問看護指示書」が必要です。 訪問看護に関する指示書は以下のようにいくつか種類があります。
■訪問看護指示書の種類医療保険・介護保険共通で利用できる一般的な指示書
「特別訪問看護指示書」
肺炎や心不全などの急性増悪、終末期、退院直後の時期などで頻繁に訪問看護が必要な場合に、基本の上限回数に制限されず、医療保険の訪問看護が利用できる指示書
「在宅患者訪問点滴注射指示書」
週3日以上の点滴注射が必要な場合の指示書
主治医が作成した指示書の交付を受け、訪問看護ステーションと利用者で契約を結ぶことではじめて訪問看護サービスが開始されます。
2-3.訪問看護計画書と訪問看護報告書
■訪問看護計画書の記載例
指示書を受け取った訪問看護ステーションは、指示書の内容をもとに「訪問看護計画書」を作成します。看護やリハビリの目標、問題点、解決方法、評価などをまとめ、主治医と利用者・その家族に提出します。医療知識のない人が読んでも理解できるよう、分かりやすい言葉で書くことが大切です。
また、計画書に基づき訪問看護を実施したら、定期的に報告も必要です。「訪問看護報告書」を毎月1回作成し、主治医に提出します。
なお、訪問看護計画書および報告書は、准看護師が作成することはできません。
3.訪問看護師として働く
3-1.必要な資格・経験
訪問看護師として働くには、大前提として看護師または准看護師の資格を持っていること。そして、訪問看護ステーションまたは訪問看護をおこなっている病院・クリニックに所属している必要があります。
訪問看護には、医療処置や身体介護、利用者やその家族・医師・地域の関係者とのコミュニケーションなど、あらゆる業務を一人で担当する必要があるため、看護師としての臨床経験が少なくとも3年以上あったほうがいいと言われることが多いです。
しかし最近では、新卒であっても働くことができる訪問看護ステーションも増えており、事業者や各自治体主催で養成研修をおこなったり、先輩に同行しながら訪問経験を積んだりすることで、経験不足の訪問看護師をフォローする体制もできてきています。
訪問看護で働くことを考えている看護師からは「一人で対応できるか心配」という声をよく耳にします。訪問看護はたしかに一人で利用者宅へ赴きますが、在宅医療では「他職種連携」の考え方がとくに重要になります。主治医やケアマネジャー、訪問介護員、リハビリスタッフなどのさまざまな職種と共に、チームとして利用者の在宅生活を支える必要があるのです。
最初から一人ですべてのことをできる人はいないので、訪問看護ステーションの所長や先輩看護師、地域の医療福祉関係者と相談し、力を合わせながら訪問看護師として成長していければ良いでしょう。
3-2.仕事内容
訪問看護でのサービス内容は、利用者の日々の健康管理からターミナルケアまで幅広いです。利用者本人と家族の希望と状況に応じて、医療的視点と利用者・家族に寄り添った視点、どちらも持ち合わせた対応が求められます。
■健康状態の観察・助言
バイタルチェックや問診で健康状態に変化がないかチェックし、必要なアドバイスをします
■家族の支援・相談
在宅介護で困っていることなどを聞き、アドバイスや必要な支援を提供します
■日常生活の看護
食事や栄養管理、口腔ケア、排泄ケア、体位交換などをサポートします
■褥瘡(じょくそう)の予防・処置
褥瘡予防のケアと指導、評価などをおこないます
■認知症と精神疾患のケア
服薬管理や家族への対応方法をアドバイスします
■医療処置
主治医の指示のもと、点滴やカテーテル管理、インスリン注射などをおこないます
■医療機器の管理・指導
人工呼吸器などの管理と家族への使用方法の指導などをおこないます
■リハビリ
身体機能や嚥下機能の回復のためのリハビリをおこないます
■ターミナルケア
在宅での看取り、利用者・家族の心のケアをおこないます
3-3.メリット・デメリット
訪問看護師として働く上でのメリット・デメリットにはどんなことがあるでしょうか? ご自身の働き方や看護観と比べてみて、自分に合うかどうか考えてみましょう。
■メリット◎ 利用者と時間をかけて1対1で向き合うことができる
病院の大勢いる看護師のうちの一人ではなく「訪問看護師の◯◯さん」として、利用者の生活に時間をかけてじっくり関わることで、その人の人柄や人生にも触れることができます。訪問看護の醍醐味とも言えるでしょう。
◎ 介護予防〜高度医療まで幅広い知識が身につく
小児から高齢者、介護予防から高度医療まで、診療科の枠を超えて関わるため幅広い知識や対応力が身につきます。
◎ 夜勤がなく労働日数・時間の調整がしやすい
夜勤がない代わりにオンコールがありますが、交代制で頻度も少ないので夜勤よりも負担が少ないことが多いようです。また、午前/午後だけの訪問や週3日勤務などの調整がしやすいところも人気の理由です。
△ 一人での訪問のため責任が重いと感じやすい
訪問先では自分一人ですべての対応が求められるため、責任の重さを感じてしまう方も少なくありません。しかし困った場合には、電話やオンラインツールで訪問看護ステーションや主治医に相談することもできるため、過度にプレッシャーに感じる必要はないかもしれません。
△ 夏場や冬場、悪天候時は大変なときも
自転車で移動している訪問看護師にとっては、猛暑や積雪、大雨などの影響を直に受けてしまいます。心配な人は、希望する職場がどのような移動手段を使っているのか事前に確認すると良いでしょう。
3-4.服装・持ち物
■服装
利用者の家庭へ訪問する際、基本的にナース服は着用しません。ナース服は病院や医療の印象が強いため、在宅療養している利用者に不要な緊張感を与えてしまう可能性があります。また、近所の方にも看護師が訪問していることが知られてしまうので、着用しないほうが良いとされています。
訪問看護ステーションによっては制服が貸与されるところもありますし、制服がない場合は動きやすい私服を用意します。
トップスはポロシャツやシャツ、ボトムはチノパンなどの動きやすいパンツスタイルが一般的です。デニムはカジュアル過ぎるためNG。また、屈んだときに下着や素肌が見えないよう、胸元が広く開いたトップスや股下が浅いボトムは避けましょう。髪が長い人は束ね、爪は短く整えます。
身だしなみにおいて重要なのは、「清潔感」「キチンと感」です。人の第一印象は出会って3〜5秒で決まるとも言われます。たとえ清潔感があっても派手なメイクや高級品を身に着けていると、利用者や家族、地域の方たちが良い印象を抱かないこともあるでしょう。外見から信頼してもらえるような身だしなみを心がけましょう。
■持ち物
訪問看護で使用するバッグにはさまざまなものが詰まっています。訪問看護ステーション指定のものだけでなく、自分で使いやすいものを買う人もいるようです。主な持ち物は以下のとおりです。
聴診器(ステート)、体温計、血圧計、パルスオキシメーター、ペンライト、メジャーなど
検査や処置をする道具
採血セット、駆血帯、アルコール綿、医療用テープ、点滴セット、ビニール手袋、ガーゼ、包帯、爪切りセット、はさみ、消毒液、シャワーエプロン、ゴミ袋など
その他
感染対策グッズ、記録用紙、筆記用具、スリッパ、スマートフォン等の連絡機器、福祉カタログ・介護事業所リストなど
3-5.1日のスケジュール
訪問看護ステーションで働く看護師の1日の訪問軒数は、平均4〜5軒程度。基本は自分一人で訪問しますが、入所したての人や経験の少ない人は、先輩に同行しながら徐々に一人立ちしていきます。
■訪問看護の1日の仕事の流れ訪問看護ステーションに出勤。前日担当スタッフからの申し送りを受けます。スタッフ間で情報共有後、訪問の準備をし、午前中の訪問に向かいます。
9:30 訪問1軒目
地域や訪問看護ステーションごとに違いはありますが、自転車・原付・車などで移動します。訪問先では、利用者の健康状態のチェックのほかその人にあったケアを提供し、家族ともコミュニケーションをとります。
10:30 訪問2軒目
12:00 お昼休憩
お昼は訪問看護ステーションに戻って取ります。スケジュールによっては、訪問先近くで済ませることもあるようです。1時間ほど休憩を取ってから、午後の訪問へ向かいます。
13:00 訪問3軒目
訪問先ごとに、小児、精神科疾患、ターミナルケアなどさまざまな利用者の方を担当します。
14:30 訪問4軒目
16:00 訪問看護ステーションへ戻り、記録・申し送り
その日の利用者の状態や処置の記録、看護計画の修正、所長や関係者へ情報共有をし、引き継ぐ職員へ申し送りをおこないます。
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3-6.給料
2020年4月時点でジョブメドレーに掲載されている看護師/准看護師の訪問看護ステーションの求人の平均給料は以下のとおりでした。(※各種手当や残業代、賞与などは含みません)
平均給料上限 | 平均給料下限 | 平均給料 | |
---|---|---|---|
正職員(月給) | 340,033円 | 268,394円 | 304,214円 |
契約職員(月給) | 290,018円 | 220,242円 | 255,130円 |
パート・バイト(時給) | 2,117円 | 1,661円 | 1,889円 |
正職員、契約職員、パート・バイトどの雇用形態においても、看護師/准看護師全体の給料よりも高い結果となりました。夜勤手当などを差し引いた基本給・時給だけで考えると、事業所ごとの差もありますが、訪問看護ステーションでは比較的高給が期待できると言えるでしょう。
3-7.訪問看護に向いている人
訪問看護はどんな人に向いているのでしょうか? まずは、利用者のことを生活から見ることが好きであること。病院で看護師をしていると、診断名がつけられた状態で入院、治療するなかで患者と関わるため、疾患からその人を見てしまうことが多いです。しかし訪問看護では、自宅で過ごす利用者の生活の延長線上で関わっていきます。
本来、看護師としてはどちらの視点も大切です。その前提の上で、疾患から見るか、生活から見るか。自分はどちらが向いているのか、日々の看護業務を通してなんとなくでも自覚している人も多いのではないでしょうか?
病院で疾患から見る看護に疑問を抱く方は、利用者の生活に密接に関われる訪問看護が向いているかもしれません。
■参考資料
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000170290.pdf
※2:就業保健師・助産師・看護師・准看護師 結果の概要(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/eisei/18/dl/kekka1.pdf
※3:平成30年度訪問看護講師人材養成研修会(一般社団法人全国訪問看護事業協会)
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000491025.pdf
※4:訪問看護事業所における看護職員と理学療法士等のより良い連携のための手引き(一般社団法人全国訪問看護事業協会)
https://www.zenhokan.or.jp/wp-content/uploads/nspt-guide.pdf
『ナースのためのやさしくわかる訪問看護』(ナツメ社)