【転職者インタビュー】調剤薬局オーナー4年目 36歳/転職3回(薬剤師)

医療福祉業界で働く人の人生を掘り下げるインタビュー。今回は当時32歳という若さで薬局を立ち上げた薬剤師のKさん(36歳)です。お子さんの妊娠中に開業準備を進めたというKさんは、どのような経歴でいまにいたったのでしょうか?

扶養控除の相談イメージ

1.今日の転職経験者はこんな人

薬剤師の生い立ち


ーまずは簡単なプロフィールをお伺いしてもいいですか?

年齢は36歳で、職業は薬剤師です。いまは夫と4歳になる息子と3人で埼玉に住んでいます。

ちなみにいま妊娠中で、来月出産予定です。出産ぎりぎりまで働こうかなと思っていて。

ーそんな大変な時期にすみません。やっぱり妊娠した状態で働くのは大変ですか?

大変ですよ。もう歩くだけでつらいですし、屈めないし重いものは持てないし。

ーそうですよね、本当にすごいです。転職は何回経験していますか?

2回転職したのち、4年前に埼玉にこの薬局を開業しました。

なので、転職回数は合計で3回ってことになるんですかね。

ー開業したのが32歳のときってことですよね? まだお若いのにすごい。

若さの勢いでやっちゃった感じもありますね。

2.薬剤師を目指したきっかけ

ー開業のお話もすごく気になるんですが、まずはバックボーンからお伺いしたいと思います。ご出身はどちらですか?

出身は東京です。生まれてからこのお店をオープンするまでは、ずっと都内で過ごしていました。

ーご両親は何をされている方ですか?

両親は自営業です。建築関係の仕事で、主に内装を手がけています。

この薬局の内装も両親に施工してもらったので、初期費用はかなり抑えられたんです。

薬局イメージ

薬局内には、お子さんを飽きさせないキッズスペースも用意

ー素敵な薬局ですもんね。では、薬剤師を目指し始めたのはご両親の影響ではないんですね?

両親の影響は全くないですね。

薬剤師を目指し始めたのは、ほんと小さい頃からなんです。

たしか小学3年生くらいかな? 薬局に行った時に「薬剤師ってかっこいい……」って一目惚れに近い感じでした。

ー正直、子どもが憧れる職業としては珍しい気がします。

そうですよね。私も「薬剤師になりたい!」っていう小学生に出会ったことないですもん。

分包機ってわかりますか? ざっくり説明すると、お薬を服用パターンに応じて袋詰めしてくれる機械なんですけど。

いまではほとんど自動化されているんですが、当時はまだ半分手動のような感じで、見た目がいまよりもメカニックだったんですよ。

その分包機を操作してる姿が科学者みたいで、すごいかっこよく見えたんですよね。

ーなるほど。では、それからずっと薬剤師を目指して?

あと料理も好きだったので、高校3年の進路を選ぶ時期に栄養士と薬剤師ですごく悩みました。

最終的に薬剤師に決めた理由は、結婚・出産を経ても復帰しやすいということを聞いたので。

あとは、やっぱりお給料をそれなりに貰えるってところも魅力でしたね。

3.大学時代

ーいま36歳ということは、当時の薬学部はまだ4年制ですよね?

あ、そうです。いまは6年制ですもんね。

2年分ゆとりをもって勉強できる環境は羨ましいなと思いつつ、あの勉強漬けだった毎日がさらに2年も伸びると考えると……なんとも言えませんね。

ーやはり勉強は大変でしたか?

そうですね。とくに最後の1年間は国家試験対策の予備校にも通っていたので、寝る時間と食事の時間以外は机に向かっていました。

でも、国家試験のときより大学入試のほうが勉強したんじゃないかな。

ーということは、それなりにレベルの高い大学へ?

いや、まったくです!

もちろん第1志望や第2志望は、それなりに有名なところを希望していたんですが、私の努力が足りず。

ー第3志望くらいの学校へ?

それどころか、第4、第5と落ちづづけて、日程的に最後に残っていた大学になんとか滑り込みました。

なのでたぶん、第13志望くらいのところです(笑)。

ー学生生活で楽しかったこと、つらかったことを教えてください。

楽しかったことは、普通の大学生と同じだと思います。サークルとかバイトとか。

つらかったのは病院実習ですね。

ー看護師さんからはそういった話をよく聞きますけど、やっぱり薬剤師さんも?

私はつらかったですね。都内でも有数の大病院で実習させてもらったんですが、先生たちの学歴差別がすごくて……。

他大学の子たちは、みんな意欲が高くて自らその病院を希望してきていることが多かったんですが、私の場合は学校から指定されて決まったので、そういう消極的なところも目についちゃったんですかね。けっこう厳しくあたられました。

ーそういった学歴差別は、社会人になってからも感じることはありましたか?

資格取得して働き出してからは全くなかったです。

そこからは、いち薬剤師として見られるので。

ー就職活動はどのように進めましたか?

4年生の4〜5月くらいに就活を始めました。

たしか3社くらい受けて、内定を貰ったのが7月くらいでしたかね。

ー就活時の職場選びで重視したポイントは?

まず外せない条件は「調剤薬局」という点でした。

そもそものスタートが調剤薬局の薬剤師さんへの憧れでしたから。あと、実習を経験してからは、病院に対して嫌なイメージがあったので。

そのほかの条件は、首都圏でお給料も低くなければいいかなと。

4.大手調剤薬局での悩み

ー新卒で入った職場はどんな調剤薬局でしたか?

けっこう大きな会社で、調剤薬局のほかに治験事業もおこなっていました。

もちろん調剤薬局での勤務を希望していたんですが、入社後に治験担当へ配置転換することも可能だと聞いたので、今後の選択肢の幅が広がっていいなと。

ただ実際に配属されたのは、調剤薬局といっても施設在宅をメインにしている薬局でした。

ーなるほど。新卒給与はどれくらいでしたか?

えっと、どれくらいだったかな。

はっきりとは覚えていないんですが、たしか総支給で28万円くらいだったと思います。賞与が年2回で。

ー転職はどのタイミングでおこなったんですか? 転職理由も教えてください。

5年働いたタイミングで転職しました。

理由としては、在宅の業務に疑問を持ち始めてしまったことが大きいですね。

担当する施設によると思うんですが、そのときのメイン顧客が大きな介護施設だったので、患者さん一人ひとりに寄り添うと言うより、薬の運び屋って感じでした。

ー「薬の運び屋」はちょっと怪しい響きですね。施設スタッフに薬を届けるだけ、というような感じですか?

そうですね。例えば、「軟膏1本を1時間近くかけて運ぶだけ」ということもありました。

もっと身近な環境で一人ひとりに服薬指導をさせてくれって上司にも掛け合ったんですが、「いまの会社の方針だから」って断られてしまい。

薬剤師の仕事ってなんだろうって悩んでしまいました。

ー配送業者のような感じになってしまっていたんですね。

あとは、3年目で薬局長を任されてしまい、売り上げの数字だけを厳しく求められたのも精神的に苦しかったですね。休みもなかなか取れなかったですし。

ーたしかに新卒3年目で薬局長は大変そうです。

5.小規模な調剤薬局→派遣薬剤師へと転職

ーその次はどのように転職活動を進めましたか?

実はそのタイミングで、薬剤師を辞めることも視野に入れていました。

薬剤師の資格を活かせる別の仕事はないかなと。

それで転職サイトをいろいろ見ていたら、Amazonが薬剤師を募集していたんです。

ーAmazonって、あのネットショッピングで有名な?

そうです。当時は、薬のオンライン販売が可能になるかどうかっていう時代だったので、それを見越しての募集でした。

3次面接までいったんですが、「内定を出しても今後の法整備の内容によっては採用できないかもしれない」と言われ、そこで辞退しました。

ーそれで、やっぱり薬局に戻ったと。

そうなりますね。前回は大きな会社で失敗したので、次は都内で5店舗くらいしか展開していない小さめの薬局に就職しました。

習い事をやっていたので、プライベートの時間をしっかり取れそうだったのと、提示してもらった給与がけっこうよかったのも決め手ですね。

ーちなみに提示された給与はどれくらいでしたか?

だいたい年収で600万円くらいでした。

ー大きな会社と小さな会社をくらべてみてどうでしたか?

やっぱり大手の方が教育体制がしっかりしていますね。なので、新卒で大手に入れたことはよかったなと思います。

小さい会社のよさは社長との距離が近いところでしょうか。ただ、私が転職した会社の社長はもともと薬剤師ではないので、現場のことをいまいちわかってくれませんでしたが。

ーその会社では何年くらい働いていたんですか?

ちょうど3年です。結局、社長との考えが合わずに辞めてしまいました。

その後は派遣会社に登録して、1年間だけ派遣薬剤師として働きました。

ー派遣薬剤師ってあまり聞いたことがないんですが、どのような働き方なんでしょうか?

私は1年通して同じ薬局で働いていましたが、人によっては毎日違う薬局に派遣されたり、1週間単位で働いたりと、いろいろあるようです。

一般的には、通常のパートさんよりは時給が高めに設定されているようですね。

私の場合は1年間働いたのち、産休・育休に入って、そのまま復帰することなく辞めて、夫とこの薬局を立ち上げました。

6.自身の薬局をオープン

薬局イメージ2

緑と白を基調とした明るい薬局内

ー旦那さんも薬剤師なんでしょうか?

いえ、夫はプロスポーツ選手です。

ースポーツ選手ですか? すごい!

なので、夫が自身のセカンドキャリアを考えた時に、何かしらの会社を経営したいという想いがあったみたいです。

また、ちょうどそのころ知り合いのドクターが「誰かこのあたりで薬局をオープンしてくれないかな」と探していたんです。

私としても、夫と協力し合いながらなら薬局をやっていけるかなと思い、開業に踏み切りました。

会社の経営を夫が担当して、私は薬局の代表を。合同会社のような感じです。

ーということは、妊娠中に開業の準備を進めたということですか?

長男の妊娠中に夫と相談しながら準備を進めて、薬局ができたのが生後半年くらいのタイミングですね。

ーなるほど。その年は出産に開業と、怒涛の1年でしたね。

そうなんです。

結婚してすぐに妊娠したので、転職→結婚→出産→開業とあまりに目まぐるしくて、その2年間くらいの記憶がほとんどありません(笑)。

ー子育てと開業の同時進行はすごく大変かと思いますが、どのように両立させていたんですか?

結婚を機に夫の両親と一緒に住み始めたので、家事や子育てもすごく協力してもらっていました。

当たり前ですけど、1人ではここまでやってこれませんでしたね。

ーこちらの薬局をオープンするうえで、こだわった点などはありますか?

なるべく「薬局っぽくない薬局」にしたいなと思いました。

病院や薬局に行くときって、どうしても身構えちゃうと思うんですけど、おしゃべりをしにふらっと立ち寄れるような薬局にしたいなって。

なので、内装は医療機関っぽさを感じないように緑を多くしたり、オーガニック商品を置いたりしています。

7.薬局経営にまつわるお金の話

開業薬局の売り上げ

ー開業資金はどれくらいかかりましたか?

資本金が400万円で、融資してもらったのは1,500万円です。

ー正直なところ、薬局の月の売上はどれくらいですか?

だいたい平均して270万円くらいでしょうか。

そこから薬局の諸経費が170万円くらいかかって、残りの100万円を会社の運営費だったり役員報酬にまわしたりしてます。

ーなるほど。現在、従業員は何人雇っていますか?

薬剤師のパートさんを2名雇わせてもらってます。

どちらも30代後半の女性です。

ー従業員の募集はどのような手段で?

1人は求人サイトの無料キャンペーンで、もう1人は薬局前に張っていた張り紙から。

なので、幸いなことに採用費は1円もかかりませんでした。

ー開業したことで感じた、メリットとデメリットを教えてください。

1番のメリットは、自分の理想としていた「薬剤師の仕事」ができるところですね。

患者さん一人ひとりとしっかり関われますし、自分のお店なのでより丁寧な対応を心がけるようになりました。

あとは、本当に自分がいいと思ったことを自由に発信できる点も魅力ですね。

私はオーガニック商品が好きなので、子育て中のママさんにおすすめしたい商品を置いています。

薬局イメージ3
雑貨屋さんのような品揃え

ーたしかに、普通の薬局ではみられないオシャレな感じですよね。

そうですか? ありがとうございます!

一方で大きなデメリットは、自分で全責任を負う必要があるという点です。

会社で働いていた時には感じることのなかったプレッシャーがありますね。

ほかには経理や各種手続きなど、薬剤師業務以外にも覚えないといけないことが多い点ですかね。

例えば今回のコロナのような場合には、各種補助金のことを調べて申請したり。

ーやはりコロナの影響は大きいですか?

けっこう大きいです。患者さんの数も3割くらい減ったかな?

以前は1日20人くらいだったのが、いまは15人くらいになりました。

ーコロナ禍の経営において、なにか工夫した点などはありますか?

やっぱり、みなさんが求めているものはできるだけ提供していきたいので、マスクや消毒液などはさまざまなルートから探しました。

それでも本当に限られた数しか仕入れられなくて、申し訳ない気持ちで……。

ー薬局として、今後の展望などがあれば教えてください。

それほど大きな望みや目標はないんです。

マイペースにやって、地域のみなさんのためになる薬局にしたいですね。

ーでは最後に、これから結婚や出産を考えている求職者に対してアドバイスなどあれば。

私は派遣薬剤師という立場でも産休・育休を取らせてもらえたんですが、会社によっては取りづらいところもあると思うので、出産するまでは正社員として雇ってもらったほうがいいかなと思います。

あとはそうですね、やっぱり大きい職場のほうが従業員もたくさんいるので、急な休みが必要になったときも助けてくれるんじゃないでしょうか?

8.(番外編)生活・お金・家庭の話

ーここからは私生活について聞かせてください。お休みの日は何をしていますか?

基本的には家で子どもと遊んでますね。

この状況下では、なかなか出掛けることもできないので。

ー家事の役割分担などはありますか?

決まっているわけではありませんが、料理は私で片付けを夫がやってくれています。

そのほか洗濯物などは、私の仕事中に義母がやってくれることが多いので、すごく助かっています。

たまに薬局の受付や掃除なども手伝ってくれるんですよ。

ーとてもいいお義母さんですね。少しつっこんだ質問ですが、世帯年収はどれくらいですか?

夫の仕事の関係で波もあるんですが、平均したらだいたい1,500万円くらいですかね。

ー羨ましいです……。月の固定支出の内訳を教えてもらえますか?

だいたいこんな感じです。

アピールポイントは家賃の安さですね。埼玉で、6LDKで15万円なんですよ。

薬剤師の支出

ー家賃すごく安いですね!

安いですよね。 2019年の台風で浸水した部屋らしく、相場の半額くらいで借りられました。

もちろん、いまは綺麗に補修されてますよ。

ープロスポーツ選手との結婚生活ってどんな感じですか?

たぶん、ほかの家庭とそれほど違いはないと思います。

やっぱり栄養や健康面は気にしますけど、それ以外は普通ですね。

喧嘩もそれほどしませんし。

ーなるほど。本日は以上です。ありがとうございました!

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