1.業務委託とは
・業務委託の概要
「業務委託」とは、業務の依頼主である委託者と雇用関係を結ばずに、対等な立場で業務をおこなう契約形態のことを言います。
個人事業主やフリーランスと呼ばれる“個人”と企業が結ぶ契約のことを業務委託契約だと思っている方もいるかもしれませんが、企業同士などの法人間でも業務委託契約は一般的です。
委託者にとっては、自社内で対応できる人手や知見がない際に業務委託契約を活用することで、「専門性の高い業務を必要なときにだけ依頼できる」「コストを低く抑えられる」などのメリットがあります。
・業務委託契約の種類
実は「業務委託」は法律上の正式名称ではありません。法律(民法)で定義されている契約形態には「請負契約」「委任(準委任)契約」「雇用契約」の3種類があり、このうち「請負契約」「委任(準委任)契約」の2つをまとめて「業務委託契約」と呼んでいます。
請負契約 | 委任契約 | 準委任契約 | |
---|---|---|---|
報酬 | 成果物に対して支払われる | 遂行する業務自体に対して支払われる | 遂行する業務自体に対して支払われる |
完成責任 | ある | ない | ない |
業務内容 | 製作行為に関する業務 | 法律行為に関する業務 | 法律行為以外の業務 |
請負契約は、成果物を完成させることで報酬を受け取ることができる契約です。仕事の進め方やどれだけ働いたかという過程は関係なく、成果物を不備なく完成させ納品できたかどうか(「完成責任」と言う)が問われます。
一方の委任(準委任)契約は、契約期間中に決まった業務を遂行することで報酬を受け取る契約のことを言います。具体的な成果物を定めづらい仕事に多い形式です。
なお、委任契約と準委任契約は、“法律を扱うかどうか”で分けられます。弁護士や税理士などの士業は委任契約、法律を扱わない職種は準委任契約として分類されます。
・会社員・派遣社員との違い
続いて、会社員(正社員、契約社員、パート・アルバイトを含む)と派遣社員、業務委託の労働条件の違いについて見てみましょう。
業務委託 | 会社員 | 派遣社員 | |
---|---|---|---|
契約形態 | 請負契約 委任(準委任)契約 | 雇用契約 | 雇用契約 |
雇用主 | なし | 企業など(直接雇用) | 派遣会社(間接雇用) |
提供するもの | 成果物 業務の遂行 | 労働力 | 労働力 |
指揮命令権 | なし | あり | あり |
労働時間 | 制約なし | 制約あり | 制約あり |
労働の対価 | 報酬 | 賃金 | 賃金 |
社会保険 | なし(自己加入) | あり | あり |
業務委託契約と雇用契約の大きな違いは、指揮命令権の有無です。指揮命令権とは、雇用主が従業員に対して業務上の指示をおこなう権利のことを言います。業務委託の場合は指揮命令権が発生しないため、受託者は仕事の進め方や業務に費やす時間を自由に決めることができ、委託者が口出しすることはできません。
また、社会保険の有無も大きなポイントです。雇用契約の場合、雇用主は従業員を社会保険に加入させる義務があります。しかし業務委託で働く場合は、自分で手続きをおこない加入する必要があります。また、雇用契約では保険料の一部を雇用主が負担してくれますが、業務委託で自己加入する場合は全額自己負担となります。
2.業務委託のメリット・デメリット
業務委託契約者と雇用契約者の働き方の違いについて見てきました。以上を踏まえて業務委託のメリット・デメリットをまとめると、次のようになります。
業務委託のメリット | 業務委託のデメリット |
---|---|
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業務委託の働き方を一言で表すならば「自由に働けるが、自己責任を伴う」と言えるでしょう。
自分のペースで好きな仕事ができる反面、会社員であれば受けられる権利や制度は適用されません。自分の身は自分で守り、自立した働き方が求められるのが業務委託の働き方なのです。
tips|業務委託契約の受託者を守る「下請法」とは?
業務委託契約に労働法は適用されませんが、受託者を守る法律として「下請法」が適用される場合があります。下請法は本来下請け業者の利益を守る目的で作られた法律ですが、一定の条件を満たせば個人事業主やフリーランスも対象となります。
※医師や弁護士などは下請法の適用対象外です。
下請法では発注側の親事業者に対して、義務事項と禁止事項を定めています。例えば発注時に報酬の金額や支払期日、仕事内容などをまとめた契約書類の発行・保存を義務付ける、契約で決めた報酬の減額を禁止するなどです。これにより親事業者が不当な取引を持ちかけたとしても、書類を証拠として取引拒否などができるようになります。
下請法が適用されるかどうかは、発注側・受注側それぞれの資本金額や取引内容によって異なります。詳しくは公正取引委員会のサイトを確認してください。
3.業務委託として働く
・業務委託契約での仕事の探し方
業務委託で働く場合、自分で仕事を探してきて受注する必要があります。
業務委託の仕事の探し方
- ・前職までの繋がりや知人からの紹介
- ・自己開拓で営業をかける
- ・業務委託の求人サイトを利用する など
なにもツテがない状態から仕事を見つけるのは簡単ではありません。そのため、独立までの間に勤め先で得意客を作ったり、業界内で人脈を広げたりするなどして、足場を固めてから個人事業主やフリーランスとして独立する人が多くいます。
なお、ジョブメドレーをはじめとした求人サイトでも業務委託の仕事が紹介されています。ウェブ上で効率的に案件を見つけるひとつの手段として活用してみてください。
・業務委託契約書は必要?
業務委託契約を結ぶ際、書類による契約は必須でしょうか? 民法では委託者と受託者の合意があれば、口頭であっても契約は成立するとされています。しかし口頭契約は証拠として残らず後々トラブルになりかねませんので、しっかりと書類上で契約内容を明示し、お互いに保管しておくことが大切です。
業務委託契約書は、委託者が作成・発行し、受託者が承諾する形で締結されます。
業務委託契約書の雛形
(引用:国土交通省|業務委託契約書の例)
業務委託契約書に必要な記載事項の例
- ・契約の目的
- ・委託業務の内容
- ・委託業務の遂行方法
- ・契約期間と自動更新の有無
- ・報酬と支払時期
- ・再委託(受託した案件をさらに委託すること)の可否
- ・禁止事項
- ・秘密保持
- ・損害賠償
- ・契約の解除
- ・反社会的勢力の排除
- ・合意管轄(どこの裁判所で裁判をおこなうか)
4.業務委託の確定申告について
会社員などの給与所得者の場合、税金や社会保険料は給与から天引きされ、会社が代わりに納付してくれるため、確定申告が必要なケースは限定的です。しかし業務委託契約で働く場合は、条件によっては自分で確定申告をおこなう必要があります。
・確定申告が必要な条件とは?
業務委託契約により報酬を得ている場合、本業か副業か、年間でどのくらい収入を得ているのか(年間所得はいくらか)によって該当条件は異なります。
確定申告が必要な人の条件
- ・本業として業務委託をしている場合:年間所得が48万円超
- ・副業として業務委託をしている場合:年間所得が20万円超
本業として業務委託で働いている人の収入は事業所得にあたります。所得税の基礎控除額は、合計所得金額が2,400万円以下であれば年間48万円(※2020年度改正)ですので、この金額内であれば課税の対象外となり、確定申告は不要となります。
会社員などで給与所得を得ながら業務委託でも働く場合は、副業で得た収入は原則として雑所得として計上されます。この場合、年間所得が20万円以下であれば、確定申告は必要ありません。
・源泉徴収はされる?
法人と個人との間で業務委託契約を結ぶ場合、報酬に対して源泉徴収が必要となるケースがあります。源泉徴収が必要な報酬には、「原稿料・講演料」「社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬」「広告宣伝のために支払う賞金」などがあります。そのほかの対象範囲は該当する方が限られますので、詳しくは国税庁のサイトを確認してください。
源泉徴収がされているのに確定申告をおこなわないと、必要以上に税金を納めてしまう可能性があります。年に一度漏れなく確定申告をすることで、払いすぎた税金の還付を受け取れるようにしましょう。
5.医療・福祉・美容業界における業務委託
・業務委託が多い分野・職種
医療・福祉・美容業界において、業務委託の仕事が多い分野と職種は何でしょうか?ジョブメドレーで取り扱い中の50種以上の職種のうち、業務委託の求人が多い職種をまとめてみました。
代替医療分野
柔道整復師、鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師、整体師/セラピスト
美容分野
美容師、理容師、ネイリスト、アイリスト、エステティシャン
いずれの職種も一対一でお客さんと接することが共通しているようです。これら以外の医療、介護、保育、福祉分野の職種の多くはチームで業務を進める性質があるため、業務委託の働き方が少ないと考えられます。
・業務委託で働く人の体験談
最後に、実際に業務委託として働く人の体験談を紹介します。過去にジョブメドレーの取材に応じてくれたTさんは、20歳で美容師からアイリストに転身。マツエクサロンの従業員として5年間働いたあと、個人事業主として独立されました。
──独立しても同じ店舗で働いていたんですよね? 美容師でいうところの「面貸し」のような形態ですか?
はい、本当にそんな感じです。
社員として働いているときから、指名のお客様が8〜9割くらいを占めていたので、それなら個人事業主になったほうが絶対にいいなって思い、オーナーに相談したんです。そしたら「全然いいよー」と言ってもらえて。
条件としては、個人売上の50%が自分の報酬になるという形です。
売上が100万円を下回ることはなかったので、月収は50〜60万円くらいでした。社員時代の倍くらい増えましたね。
──すごい売れっ子ですね! 収入面以外での変化はありましたか?
個人事業主になってもお店は同じだし、抱えていたお客様もそのままなので、ほとんど変わりませんでしたよ。なので、個人事業主といっても半独立という感じです。
ただ、お客様の予約状況に合わせて勤務時間や休日を自由に決められるようになったので、生活の自由度はすごく上がりましたね。
順調に思えた独立ですが、このあと活動拠点を大阪から東京に移したところ、ゼロからの集客に苦戦することに……。
全編はこちらのリンクから読めますので、ぜひチェックしてみてくださいね。
> 【転職者インタビュー】アイリスト7年目 26歳/転職3回(美容師→アイリスト)
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