【コロナ禍インタビュー】薬剤師 35歳 女性の場合

新型コロナウイルスの流行が医療や福祉、美容関係の仕事に就いている方にどのような影響を与えているのか、当事者の声を聞くインタビュー企画。今回話を伺ったのは、シングルマザーとして2人の子どもを育てながら都内の調剤薬局で働く薬剤師の女性です。離婚にコロナ禍と激動の1年を振り返ってもらいました。

コロナ禍インタビュー 薬剤師 35歳 女性

話を伺ったのは、2人の子どもを育てるシングルマザーの薬剤師

コロナ禍インタビュー 薬剤師 35歳 女性

※取材は感染症対策に十分に配慮し実施しました。

──まずは簡単にプロフィールを教えてください。

神戸出身の35歳で、現在は都内で薬剤師として働いています。夫とは2年前に別れ、6歳と4歳の子どもの3人で暮らしています。

──では、2020年はいろいろ大変だったのでは……?

そうですね(笑)。正直に言えば、コロナよりそっちの影響が大きいかな。

──子育てに関する話も追ってお伺いしたいのですが、まずはこれまでの経歴について簡単に教えていただけますか?

大学卒業後は地元・神戸の調剤薬局に就職して3年働き、結婚を機に仙台へ。さらに東京に引っ越してから2回転職しているので、現在の薬局が東京で3つ目の職場です。

──転職理由をお伺いしてもいいですか?

1回目はマタハラです。

──えっ!

長男を妊娠したときに「産休? うちにはないよ?」って言われてしまいました。確かその年の流行語大賞に「マタハラ」がランクインしていたのでタイムリーでしたね(笑)。

──勤務先に制度がなくても、産休は取得できるはずなんですけどね。

小規模な事業者だとまだまだそういうことはあると思います。

──2回目の転職理由は?

ビルの建て替えでお店そのものがなくなってしまいました。

──移転の可能性はなかったんですか?

社長がほかにも医薬品関連の事業を手がけていて、薬局を続ける気があまりなかったみたいですね。

薬局の数は今やコンビニより多いし、薬価差益も改定の度に小さくなってるし……。薬局はだんだん儲かりづらくなっているんです。そのうえ薬局の仕事ってこまごまとしていて面倒なことが多いんですよ。だから続けていくにはすごく労力がかかるんです。

	薬剤師Kさんの経歴

──なるほど。では、現在の職場について詳しく教えていただけますか?

駅ビルに入っている小さな調剤薬局で、従業員は管理薬剤師と私(薬剤師)と事務員さんの3名のみです。

パートで入社して、正社員になったのが2019年かな? 正社員と言っても子どもがいるので、週32時間の短時間勤務の契約で働いています。4時間勤務の日と8時間勤務の日があります。

新型コロナウイルスの影響で処方箋が激減

──処方箋の枚数は1日何枚くらいですか?

新型コロナウイルスが流行する前は1日40枚〜50枚くらいでした。

──ちなみに診療科目は?

主に一般内科です。糖尿病や高血圧など生活習慣病で定期的な受診が必要な方が多いですね。それに加えて、冬から春にかけてはインフルエンザや花粉症の患者さんが増えて忙しくなるんですが、昨年はコロナの影響で減りましたね。

──どのくらい減りましたか?

一番少ないときで1日10枚以下まで減ってしまいました。今は1日30枚ほどに落ち着いていますが、それでも以前より3〜4割少ないですね。

コロナ禍インタビュー 薬剤師 35歳 女性

──時系列で説明してもらうとどうなりますか?

まず3月には処方期間が長くなり始めました。近くの内科は施設基準で原則30日までしか処方箋を切れないんですが、ドクターが「感染の危険がある」という理由で60日分処方するようになりました。

──先生の判断で基準を超えて延ばせるんですね。

正当な理由があればもちろん。糖尿や高血圧などの基礎疾患のある患者さんが多いので「感染リスク」は正当な理由に当たると思います。

──なるほど。では、3月に60日分処方された患者さんは4月には来ないということになりますね。

それで4月、5月あたりに一気に処方箋が減ってしまいました。1日に10枚いかない日もありました。

──1日10枚以下って、1時間に1人来店するかどうかって感じですか?

そうですね。お店を開けていても誰も来ないので暇で暇で……。ただ、4月10日には厚労省から「0410対応」が発表されたので、最初はその対応で少しバタバタしていました。

0410対応とは?

新型コロナウイルス感染拡大防止のため、「電話や情報通信機器を用いた服薬指導」が時限的な措置として認められました。厚生労働省がこの措置を発表したのが2020年4月10日だったことから「0410対応」と呼びます。これにより処方箋のFAX送信、電話・オンラインでの服薬指導、薬の郵送が可能になりました。

──服薬指導はオンラインでおこなったんですか?

いえ、服薬指導は電話で、お薬は郵送ですね。

──5月末には緊急事態宣言が解除されましたが、その後はどうでしたか?

少しずつ患者さんも戻ってきたのですが、薬が切れているのに「コロナが怖くて来なかった」と言う患者さんが多くて、正直「コロナよりお薬を飲まないほうがよっぽど怖い!」って思いました……。

──症状が悪化したら怖いですよね……。

それで患者さんも「病院には行かなくちゃいけない」「お薬は飲まなきゃいけない」ってことには気がついてくれたんだと思います。7月、8月頃の第2波の影響はほとんどありませんでした

──秋以降はどうでしたか?

10月〜12月頃には「0410対応を止める」という病院も増えてきて、病院も通常営業に戻ったのかなと思いました。一時期は「胃カメラなんてとんでもない!」「歯医者には行けない!」という風潮でしたが、秋ごろから健康診断もふつうにできますし、歯医者さんもふつうに混んでますよね。病院に対する抵抗は少なくなったんじゃないかなと思います。

──1月には再び緊急事態宣言が発令されましたが、影響は?

1月の緊急事態宣言の影響もほぼないですね。定期受診が必要な方は戻ってきてますし──。ただ、症状が安定している方は(処方期間が)60日のままですし、新患も少ないです。もともと駅ビルの中にあるので新患の多い薬局だったんですが……。なのでその影響は続いています。

コロナ禍における世の中と薬局の動向

薬剤師の感染リスクは?

──新型コロナウイルスに感染している疑いのある患者さんは来店しましたか?

内科に発熱外来があるので、もちろんいらっしゃいます。

──発熱外来について詳しく教えてもらえますか?

始まったのは10月か11月だったかな? 発熱外来は完全予約制で、受診時間も区切られてるので、一般の患者さんと接触することはまずありません。ドクターが診て、PCR検査が必要と判断すれば提携している総合病院に送って……って流れですね。

──どのくらいの方が陽性だったんでしょうか?

累計で年末には3桁超えてましたね

──3桁! 感染対策はどのようにおこなっていたんですか?

マスクは普段から使っていますが、パーテーションを設置して、患者さんが帰るたびに消毒しています。

──換気はどうですか?

換気? 換気か……うちは駅ビルだから窓が開かないんですよね。なので、一度にお客さんが複数名来ると事務員さんが入口を開けたりしてくれてます。

コロナ禍における薬局の感染対策

──私の場合、身近に感染した人もいないので「3桁」と聞くとちょっと驚いてしまうんですが、ずいぶん落ち着いていますね。

薬剤師っていうのは患者さんに触れてはいけないと法律で決まっているので、極端に接触が少ないんですよ。だから医療系の職種の中でも感染リスクは低いほうだと思います。隣の内科のドクターが防護服を着て完全防備で対応しているのと比べると、対照的かもしれません。

私の弟は介護職で老人ホームで働いているんですが、利用者の方との接触が多いので私よりよほど感染リスクが高いと思います。危険手当として1日3,000円もらえるらしいです。

──1日に3,000円ですか!

「私も欲しいな」って思っちゃうんですけど(笑)、感染リスクを考えれば妥当なんじゃないでしょうか。

雇用・給与は維持されたけれど

──処方箋が減ったことで実際に待遇などに影響はありましたか?

それがないんですよ。うちの場合は社長が比較的早い段階で「雇用は守る」と宣言してくれて、給与も変わっていません

▼薬剤師Kさんの給与明細

薬剤師の給与明細

──支給項目が、シンプルですね。通勤手当以外に手当の支給はないんですか?

土曜出勤があれば休日手当がつくんですがほとんどないですし、残業手当も基本的につかないんですよ。その代わり子どもが熱出して急遽お迎えに行かなくちゃならないときには早めに帰らせてもらったり、そこらへんの融通はきくので「行って来い」かな?

──仙台や神戸でも働かれていましたが、やはり地方より東京のほうが待遇はいいんでしょうか?

それが逆なんですよ。ほかの医療従事者もそうかと思いますが、地方のほうが人手不足が深刻なので東京より地方のほうが待遇がいいんです。待遇を良くしないと採用できないというか。実際、仙台のほうが給与が高かったです。

都道府県別 薬剤師の年収

─参考:厚生労働省|令和元年 賃金構造基本統計調査

──賞与はどうですか?

賞与ないんですよ!

──賞与がないと年収がかなり変わってきませんか?

そうですね。年収を考えると「やっぱりもっと働くべきかな」と思うこともあります。「5、600万円稼げば、2人の子どもたちが大学に行けるかな」とかいろいろ考えちゃいますね。

子育ては1人ではできないから

──新型コロナウイルスが保育環境に与えた影響はありましたか?

最初の緊急事態宣言が出た4月に、子どもたちは実家の神戸に疎開させました。

私が医療従事者なので保育園でいつもどおり預かってもらうこともできたんですが、当時はこれから東京で感染が拡大して人が大勢亡くなるんじゃないかって危機感が強くて……。

結果的に母が孫2人の世話に音を上げてしまったので、ゴールデンウィーク前には迎えに行ったんですけどね(笑)。

──その後はいつもどおり預けられるんですか?

はい、私が「医療従事者」に該当するので閉鎖中も預かってもらえましたし、最初の緊急事態宣言解除後はいつもどおりです。保育園も4月の閉鎖で懲りてるみたいですね。

──懲りている?

いつもなら年齢別に預かるところ、受け入れる子どもの数が減ってしまったので、0歳児から6歳児までをまとめて保育しなくちゃいけなくて大変だったようです。5歳とか6歳の子どもたちに自由に遊ばせてあげたくても、同じクラスに0歳の子もいるから「あれはダメ」「これは危ない」みたいな。

思うように保育できないので、保育士さんたちの「私は保育士として何をしているのだろうか……?」という空気はひしひしと感じました。保育士さんも自分の子どもを預けて、こうして働いているわけなので。

──保育士さんたちも職責を果たそうと必死なんですね……。お一人だと送り迎えだけでも大変そうですね。

私の場合は本当に友人に支えられてます。私が仕事で遅くなるときは近くに住む友人にお迎えをお願いすることもありますし、「持つべきものは友達」です。

春からは上の子が小学生なのでますます大変になりそうですが、これからも周りを頼りながらやっていきたいと思います。子育ては1人ではできないので

コロナ禍インタビュー 薬剤師 35歳 女性

薬剤師として生きる

──そもそもなぜ薬剤師を目指したんですか?

うーん、一言で言うと「食いっぱぐれたくない」

──ほかにもいろいろな資格がありますが、その中から薬剤師を選んだ理由は?

患者さんに触れたりするのは無理だなと思っていたので。ましてや針なんて絶対刺せません! 別の言い方をするなら「臨床から一歩引いた職種」がよかったというか。患者さんと1対1で常に向き合っている状態よりも、少し離れたところからたくさんの患者さんをサポートできるほうが向いているかなと。

──なるほど。

でも、一番の理由はやはり自立していたかったからですかね。こうやって離婚したりするのも昔の女性は難しかったと思うんです。経済的に自立していれば結婚に縛られることもないし、選択肢を持てるので。学費を出してくれた親は複雑かもしれませんが。

──(離婚について)ご自身はどう感じていますか?

めちゃくちゃ楽になりましたね!

別れる前は夫が帰ってくる気配がするだけでビクビクして気が休まらなかったし、下の子が離乳食のときは家族全員違うものを食べていたので、毎日の食事の準備だけでも大変で。

──どういうことですか?

下の子の離乳食に、上の子の食事、私はつまみさえあればいいタイプなんですが、夫は主菜・副菜・ご飯・汁物が揃っていないとダメな人だったので、毎日4人分違う食事を用意してました。今は子どもたちが同じものを食べれるようになったので、それさえ用意しておけばいいので。気を使わなきゃならない対象が1人減って楽です。

結婚はもういいかな。今は子どもたちが健やかに育ってくれさえすれば十分です。

コロナ禍インタビュー 薬剤師 35歳 女性

──ほかに業界全体に対して求めることはありますか?

世間的に「薬剤師=薬を棚から出す人」というイメージが強いのでそこをなんとかしてほしいです。薬剤師には疑義照会という大事な仕事があるんですが、先生の処方内容にミスがあった場合にそれを指摘できるのは薬剤師しかいないので責任重大なんです。実際に10枚に1枚くらいは疑義照会しているんじゃないかな?

疑義照会とは?

医師の発行した処方箋の内容に疑問点や不明点があるときに、薬剤師から医師に対して確認をおこなうこと。日本で1日に出される約220万枚の処方箋のうち約3%が疑義照会にかけられ、うち約70%が処方変更になっています。疑義照会は薬剤師のみに認められた行為であり、処方ミスを防ぐ“最後の砦”となっています。

──疑義照会の結果70%の処方箋が変更になると言われていますが?

どうかな……、それは先生によりますね。疑義照会しても「医者の指示通りに薬を出せばいいんだよ」って態度の方もいますからね。

──聞き方にも気を使いそうですね。

「疑義照会」という単語はまず使わないですね。単なる書き間違いということもあるのに「疑義」って響きが重すぎるので、「ちょっと確認させていただきたいことがあるんですが〜」って聞いてます。

処方ミスを見落として患者さんに健康被害があればそれは薬剤師の責任なので、些細なことでもとにかく確認します。

疾患別薬理学

──大変なお仕事ですね。処方箋には処方意図なんて書いてないですもんね。限られた情報から判断するのって難しくないですか?

そうなんですよ! そのためにお薬手帳はきちんと持参してほしいですね。お薬手帳には患者さん本人が思っている以上にいろんな情報が詰まっているので。

──最後に一言お願いします!

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