
お話を伺ったのは、訪問看護ステーションを起業した看護師

高校生まで野球一筋だったMさん。将来を見据えて看護師の道を選びました。看護師になってからは、独立・開業までに一般企業を含め6回の転職を経験しています。前回のインタビューでは、Mさんの生い立ちや転職経験について詳しく伺っています。こちらもご覧ください。
>【転職者インタビューvol.12】男性看護師8年目31歳/転職6回(特定機能病院→総合病院→営業マン→夜勤専従→訪問看護ステーション所長)
初めてのコロナ対応─事業所での対策とは?

※インタビューはオンラインでおこないました。
── 2020年1月に事業所をオープンされたんですね。
はい、開業のタイミングではコロナの影響がなくて。オープンから緊急事態宣言までぎりぎり3ヶ月あって良かったなと思います。
── 開業のお話、あとで詳しく聞かせてください。 訪問看護の仕事ではコロナの影響はありましたか?
影響で言うと、ちょうど先週、初めて陽性患者さんの在宅対応をしました。
リスクを最小限にするため、接触時間を最小限にしながら必要な服薬やバイタルチェックをおこなうことを心がけましたね。
ほかの利用者さんへの感染リスクを考慮し、陽性患者さんへの訪問は1日の最後におこなっていました。
訪問が終了したら直帰し、帰宅次第シャワーを浴びながら着ていたユニフォームを全部手洗いしたうえで、洗濯機で洗濯していました。

── 奥さんの反応は?
最初は「ついに対応するの?!」という反応でした。
いつかそんなときが来るとは思っていたけれど、いざ自分が当事者になるとは……という感じです。
医療がひっ迫する今、在宅の現場であっても、「私たちのできることをやるしかない」という想いは同じでした。
── 事業所ではどんな対策をされていますか?
換気・アルコール消毒・手洗いうがいの徹底、アクリル版の設置、ガウンや手袋の着用などですね。開業のタイミングだったので、ガウンや手袋を多めに準備できたことは良かったです。
私たちが感染リスクを避けることはもちろんですが、利用者さんの異変に気がつけるかどうかもポイントになってくると考えています。注意すべき点については、ミーティングでスタッフへ共有しています。
── コロナ禍の訪問看護では、時差勤務も可能ですか?
訪問時間に合わせた時差勤務を実施していて、できるだけ直行直帰を心がけています。もともとiPadでカルテを記入できるようにしていたので大きな混乱はなく助かりました。

── 感染拡大を受けて、利用者さんからの反応はどうでしたか?
感染に対する不安感を訴える利用者さんは多くいらっしゃいましたが、訪問業務自体に影響はありませんでした。
利用者さんはそれぞれ「訪問看護が介入しなければならないご事情」があり、利用者さんご自身もそれを理解されているケースがほとんどです。自分たちが感染のリスクとならないよう十分に配慮しながら、訪問業務をおこなっていました。
── なるほど。医療機関にはコロナに関するさまざまな支援が発表されていますが、管理者として補助金などを調べることも大変じゃないですか?
待っているだけでは情報は得られないので、自分から情報を集めることが必要になります。
── どんな補助金を申請しましたか?
医療従事者慰労金、緊急包括支援金、あとは新型コロナウイルスによるかかり増し経費の補助ですね。区からの給付金も申請しました。
自分一人では情報を網羅できているか不安なので、訪問看護ステーションをやっている知り合いに聞いたりもしています。
── 横の繋がりは大事ですね。4月の緊急事態宣言のときの営業はどうしてましたか?
できる限り営業を自粛していました。訪問も最小限にして、スタッフも訪問がなければ事業所には来ない「半休業」みたいなかたちで、本当に必要な場合だけ出社していました。
── コロナ禍での訪問看護、大変だと感じることは何ですか?
難しい部分はたくさんありますが、営業や挨拶まわりといった地域との関係作りが一番大変ですね。
── 直接会うことが難しいですもんね。
新設の事業所だったので、営業活動ができないことで「認知してもらうこと」が大変だった印象です。
ケアマネさんから信頼して利用者さんをご紹介いただくには、顔の見える関係が大切なので、直接会えない状況というのは本当にイレギュラーでした。
── なるほど。コロナ関係でスタッフから相談はありましたか?
なかったですね。今年度に関してはうまくいったこともあって、ボーナスも出すことができましたし、コロナきっかけで辞めてしまうスタッフもいませんでした。
でも利用者さんからは「手袋が売っていない」とか、「アルコールが売っていない」などの相談を受けることがありますね。基本的に家を出られない方が多く、ご自身では買いに行けないケースもあるので。できる限りサポートしています。
── さまざまな病院や事業所での勤務経験があるMさんから、これから転職をする人へアドバイスをお願いします。
コロナの影響もあって、病院であっても在宅医療であっても非常に難しい状況にあると感じています。
こんなタイミングだからこそ、長期的な目線で「自分が本当にやりたいことに向き合う姿勢」が大切になってくると思います。
新しい生活様式─密を避ける生活、10分だけの帰省
Mさんの私生活での変化
- ・外食はほぼなし、自炊やお弁当が増えた
- ・帰ったらすぐにシャワーを浴びるように
- ・バイクを購入し移動に活用
- ・都内の実家へは10分だけ訪問し、挨拶のみ
── 私生活でもコロナによる変化はありましたか?
外食をほぼしなくなって、お弁当を食べることが増えましたね。帰ってすぐシャワーを浴びるとか、生活様式や行動パターンも変わりました。
あとは管理者という立場上、感染のリスクを少しでも下げたくて、電車やバス移動はやめました。バイクを買ったので通勤・移動の全てをバイクに変えました。
なるべく家にいますが、外出が必要なときにはバイクで移動しています。
── バイク移動なら人との接触を減らせますもんね。家族との過ごし方も変わりましたか?
記念日や誕生日などのイベントはまったくやらなくなりましたね。
年末年始も、親族で集まることはしませんでした。高齢の祖母の顔を見るためだけに実家を訪問しましたが、滞在時間は10分でしたね。
着いたらすぐに手を洗って、皆でマスクをして立ったまま、挨拶だけして帰るみたいな感じですね。実家は都内なのでそれもバイクで行きました。
実際に祖母に会ったら「今年のお正月は誰も来ないの」って悲しそうな顔で話していたのが、帰る頃にはパアッと明るくなっていて、人と人が顔を合わせることのパワーを感じましたね。
あと、妻がリモートワークになって。私が早く帰ったときには、仕事の邪魔をしないよう静かにしなきゃいけないのが大変です。

写真提供:Mさん
── たしかにリモートワークとの兼ね合いは大変そうです。ほかにも大変だなと思うことはありますか?
自分がもしコロナになったらと考えると本当に不安ですね。
一人暮らしであれば多少は気が楽になるのかもしれません。
── 周りの人への影響を考えてしまいますもんね。
もし自分が感染したら事業所のスタッフだけでなく、妻や自分と関わりのある全ての人々に迷惑がかかってしまうという不安は常にありますね。
今回は実際に陽性患者さんのお宅に訪問する経験をしたことで、改めて気持ちが引き締まりました。
いつ収束するのかわからない以上、今後もそういった不安は抱え続けると思います。
── 4月の緊急事態宣言時と比べて、2回目の緊急事態宣言は違うなと思う点はありますか?
個人的には、前回よりも外出している人が多いと感じています。
なので夕食を買いにお弁当屋さんに入る前にも、店内の混雑具合や感染対策に前向きかは気にしてしまいますね。
「少しでも地域でお金を使おう」という意識もあって、個人商店で小さく営業しているお店に行くようにしています。
独立・開業話─地域に根付いた事業所を目指して

── 独立・開業について教えて下さい。2020年1月に開業されたとのことですが、開業準備はいつ頃から始めたのですか?
2019年の5月に前職の訪問看護ステーションを辞めて、6月から知り合いのところで働きながら開業の準備を進めました。
── 独立・開業しようと思ったきっかけは?
一番は妻の勧めもあったからでしょうか。
独立については漠然と考えていましたが、一人だけでは決断できなかったと思います。
── 現在働いているスタッフは何名ですか?
看護師、言語聴覚士、理学療法士など計6名です。
── 開業資金と売上について教えてください。
純粋な開業資金だけでいえば200万円くらいですね。
オープン時の事務所の備品は、統廃合によって閉めることになった事業者さんに譲っていただいたものなので、比較的資金に余裕を持ってスタートできたと思います。
スタッフの協力もあって、おかげさまで売上は開業4ヶ月目から黒字を維持できています。本当にありがたいですね。
── 4ヶ月目から黒字は早いですね! ご自身の給与は変わりましたか?
創業期ということもあって、正直なところ変化はありません。今は忍耐の時ですね。
前回のインタビュー時よりも年収は下がっているので、独立したい方の夢を壊してしまわないかが不安です(苦笑)。

── 事業所で大事にされていることは?
訪問看護として質の高いものを提供することは勿論ですが、「地域に根付く」を大事にしています。言葉では簡単に聞こえるかもしれませんが、それを体現するのは長い道のりだと感じています。
例えば、ボランティアや社会福祉協議会などの団体さん、自治会長さんと手を取り合いながら、「利用者さんを外に連れ出すイベント」などを発信して、「地域に根付く」ことや「専門知識の普及」にアプローチしていきたいです。
── コロナ禍の今はイベントの開催が難しいですが、今後はどんなイベントをしていきたいですか?
ちょうど4月の緊急事態宣言期間中だったので中止になってしまいましたが、クリニックに併設されているオレンジカフェ(認知症カフェ)を借りて、「ST(言語聴覚士)の分野でみる認知症」「失語症の講座」「コミュニケーションのとり方」などの講座を開催する予定でした。
チラシも配布済みで、40~50人くらい集まるような大きな話になっていましたが、当面は大人数で集まるようなイベントの開催は難しいと感じています。
ほかには、保育園や小学校へ、発達に課題のあるお子さんの為の取り組みも進めていきたいです。
── 開催直前のイベントもあったんですね……! 自粛が明けて開催できると良いですね。
そうですね。緊急事態宣言が解除されたら、一気にいろいろなことが前進できると良いなと思っています。
── 開業して良かったことは何ですか?
利用者さんからの要望に対して、常に最善を尽くせることですね。
地域の今の課題に正面からアプローチしていけることが一番のやりがいです。
── 反対に、開業して大変なことは何ですか?
管理者としてだけでなく、会社の運営責任者として、スタッフとそのご家族の生活も守らなければいけないので、より責任が重くなったとは感じていますね。
── やはり残業時間や休日は変わりましたか?
▼前回インタビュー時の回答より
—訪問看護ステーションではどんな働き方をしてますか?
月〜金曜の9〜18時まで働いてます。月の平均残業時間は20〜30時間くらいです。基本的に土日休みなんですけど、たまにオンコール当番があります。年間休日日数は120日くらいです。
【転職者インタビューvol.12】男性看護師8年目31歳/転職6回(特定機能病院→総合病院→営業マン→夜勤専従→訪問看護ステーション所長)より
変わりましたね。創業期ということもあって、完全なオフという意味でのお休みは確保しにくいです。
実際にステーションを開業してみると、土日の利用をご希望される方が想定よりも多くて。今後はもっとニーズに応えていくために、事業所の土日の稼働についても伸ばしていきたいです。

写真提供:Mさん
── 独立して、私生活でも変化はありましたか?
一番の変化はユニフォーム中心の生活になったことで、私服の出番が極端に少なくなったことでしょうか(笑)。
あとは規則正しい生活を送るようになりましたね。やはり身体は資本だという気持ちが強くなりました。
── 独立を考えている人へのアドバイスはありますか?
自分一人だけでできることは限られているので、同じ志を持った仲間がいると、独立をするタイミングで力になってくれることが多いです。
ほかには、既に開業している先輩方との繋がりがあると、ノウハウを教えてもらうことができるので、職場だけに留まらずさまざまな繋がりを作っておくことを勧めます。
あとは、意志を持ってやりきる覚悟を持つことでしょうか。独立は楽しい部分だけでなく、その分責任も重くなるので、ブレない軸があるかどうかが大切になってきます。
コロナが収束したらやりたいこと
── コロナが落ち着いたら何がしたいですか?
やっぱり、4月に準備していたイベントのリベンジをしたいですね。
長期的には高齢者だけでなく、小児の領域に向けたアプローチもしていきたいと考えています。
「地域に根付く」 が理念なので、高齢者だけでなく小児の領域でも、プロフェッショナルと力を合わせながら、長く続くような活動の場を作りたいです。
── 「地域に根付く」事業所ならではの活動ですね。個人的にやりたいことはありますか?
Retty(飲食店の検索アプリ)で見つけたお店に行きたいですね。行きたいリストだけ溜まっていく日々です(笑)。
── Rettyよく見られるんですね! ほかによく使うアプリは前と変わらずですか?
▼前回インタビュー時の回答より
—よく使うアプリってありますか?
Mさん:1位「将棋ウォーズ」2位「シムシティ」3位「LINE」です。将棋とシムシティは暇さえあればやってますね。
【転職者インタビューvol.12】男性看護師8年目31歳/転職6回(特定機能病院→総合病院→営業マン→夜勤専従→訪問看護ステーション所長)より
将棋は今もよくやります。シムシティはやらなくなりました(笑)。将棋はコロナが落ち着くタイミングがあれば区の大会に出たいと思っています。
── 区の大会! 本格的ですね。
コツコツと頑張ってます!時間があるときに、ABEMAの将棋チャンネルや「将棋系」と呼ばれるユーチューバーさんの動画を見ています。
── イベントに新しい事業、プライベートではお店巡りや将棋と、やりたいことがたくさんですね! ありがとうございました!