アドバイスをいただいた先輩美容師
Aさん
美容師歴9年目、都内のサロンに勤務。
新人時代に気をつけていた接客ポイントについて振り返っていただきました。
1.美容師に求められる接客とは
ヘアサロンでは、カットやカラーなどの施術に加えてお客さまが心情的にも体感的にも満足できるおもてなしが求められます。
接客マナーはお客さまとの良好な人間関係を築くだけでなく、サロン全体の信用や評価を得るためにも欠かせません。新人のうちから押さえておきたい基本的なポイントについて確認しましょう。
2.新人美容師が押さえておきたい基本マナー
・身だしなみ
美容師として・サロンの一員としてふさわしい、清潔感のある身だしなみを心がけましょう。
身だしなみのポイント
髪 |
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爪 |
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アクセサリー |
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服装 |
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におい |
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先輩美容師からのアドバイス
やはり美容師として大事なのは髪型。自分自身がヘアカタログになるイメージで、自分に似合うスタイルにしておきましょう。
服装に求められるのは清潔感と流行です。汚れたものは着用せず、サロンの雰囲気やトレンドを考慮した服装を意識しましょう。
お客さまやスタッフと近い距離で接するので臭い対策も大切。周りが不快に思う臭い・香りは避けましょう。部屋干し臭やニンニク臭などは要注意です!
・挨拶
挨拶はお客さまと一番最初に交わす会話です。「〇〇さま(さん)、こんにちは!」と笑顔で相手の目をしっかり見て挨拶をします。
このとき、声の大きさは聞き取りやすい適度な大きさを心がけましょう。声のトーンは、普段話しているときより一段階高いトーンを意識します。
挨拶とあわせてお辞儀をする際は、適切な角度*でおこないます。
挨拶のポイント
- 笑顔で相手の目をしっかり見る
- 聞き取りやすい声の大きさ・トーンを心がける
- お辞儀は適切な角度でおこなう
先輩美容師からのアドバイス
「相手の目を見る」はとくに意識してほしいポイント。身体の向きや視線がズレた挨拶はやめましょう。お客さまだけでなくスタッフ間での挨拶も同様です。
また、挨拶は「タイミング」も大事です。お客さまが来店した瞬間に挨拶をすると、急かしている印象を与えることも。かといってしばらく挨拶がないとお客さまを不安にさせてしまいます。先輩を見て「急かさない・不安にさせない・丁度いいタイミング」を探りましょう。
・指示の受け方・報告の仕方
指示の受け方
新人の仕事は、多くの場合が先輩からの指示を受けることから始まります。指示を間違えて受け取ってしまうと、お客さまに迷惑をかけるようなミスにつながる可能性も……。早合点せず正確に指示を受けることが大切です。
指示を受けた際は、5W1H(いつ、どこで、だれが、なにを、なぜ、どのように)に注意して聞きます。不安な部分や疑問点は、指示を聞き終えてから確認しましょう。
また、同時に複数の指示が出たときは「〇〇のあとに△△でよろしいでしょうか」と仕事の優先順位を確認します。
指示の受け方のポイント
- 5W1Hに注意して聞く
- 同時に複数の指示が出た際は優先順位を確認する
先輩美容師からのアドバイス
サロンによって異なりますが、指示を受けたときは必要に応じてメモをとりましょう。
とくに「何かの手順」などマニュアル的なことを教わったときは、後から見返せるようにメモを残しておくと、何度も同じことを聞かずに動けますよ。
報告の仕方
指示された仕事が終わったタイミングで、指示を出した人に「〇〇さまのカットの準備ができました」など具体的かつ簡潔に報告します。
仕事が終わるまでに時間がかかりそうな場合は、指示を出した人に進捗がわかるよう途中経過を報告しましょう。
もし仕事の途中でミスや失敗をしてしまったら、できるだけ早く報告しましょう。このときも具体的かつ簡潔な報告を心がけます。
報告のポイント
- 具体的かつ簡潔に
- 時間がかかる場合は途中経過を報告する
- ミスや失敗ほど早めの報告を
・話の仕方・話の聞き方
話の仕方
お客さまとの会話では、相手が理解できるようわかりやすく伝えることが大切です。美容師同士で使う専門用語は避け、お客さまにわかりやすい言葉を選びましょう。
また、明るい表情や態度で話すことが大切ですが、話が盛り上がりすぎて失礼な態度にならないよう注意が必要です。極端に語尾を上げたり伸ばしたりせず、適切な言葉遣いで話しましょう*。
話し方のポイント
- 専門用語は使わず、わかりやすい言葉を選ぶ
- 明るい表情や態度で話す
- 極端に語尾を上げたり伸ばしたりしない
- 適切な言葉遣いで話す
先輩美容師からのアドバイス
社会人になったばかりということもあり、新人美容師はお客さまにとって「距離が近すぎる言葉遣い」になりがちです。とくに「マジ・ヤバい」などの若者言葉の多用や語尾には注意しましょう。
話の聞き方
お客さまとの会話では「相手が話しやすい聞き方」を意識しましょう。
お客さまが話しているときは、鏡越しに相手を見て自然なアイコンタクトを心がけます。適度に相づちを打ちながら穏やかな表情で聞きましょう。質問は話の腰を折らないタイミングを見計らい、相手が話しやすい環境を作ります。
聞き方のポイント
- 鏡越しに相手を見て自然なアイコンタクトをする
- 適度に相づちを打つ
- 穏やかな表情で聞く
- 質問は話の腰を折らないタイミングでする
先輩美容師からのアドバイス
会話をしていないときでも、鏡越しにお客さまの表情や様子をチェックしておきましょう。
また、食い気味に返事やリアクションをすると会話を妨げる原因になります。しっかり話を聞き終えてからにしましょう。
3.お迎えからお見送りまでの流れと接客ポイント
・お迎え~受付
まずは笑顔でお迎えし、明るく挨拶をします。お客さまの予約を確認したあと荷物を預かり、待合スペースへご案内します。
予約をしていないお客さまの場合は受け入れ可否を確認し、受け入れが可能であれば待合スペースへご案内しましょう。受け入れが難しい場合は空いている日時で次回の予約をするか確認し、「せっかくお越しいただいたのに申し訳ございません。またのお越しをお待ちしております」といった言葉を添えてお見送りをします。
先輩美容師からのアドバイス
マスクをしていると口元が見えないので、お迎えのときは目元でも笑顔を伝えられると良いですね。
また、予約なしのお客さまが受け入れ不可能な場合、チェーン店であれば近隣の店舗を案内できると親切です。
・席への案内~担当者への引き継ぎ
待合スペースのお客さまを席まで案内します。案内の際はお客さまの2~3歩前を歩きましょう。お客さまの様子や施術にかかる時間を考慮し、施術前にお手洗いを使用するかも確認します。
お客さまが座ったあとは、スタイリストが来ることを伝え引き継ぎをします。
先輩美容師からのアドバイス
新人がお客さまと接するのは、とても短い時間で回数も限られています。悪い印象を与えてしまうと、次に挽回するタイミングはなかなかありません。
ちょっとした案内でも丁寧さを心がけましょう。一瞬の空気感が大切です!
・施術
シャンプーなどの施術をおこなうとき、初めての方には「シャンプーを担当させていただきます〇〇です。よろしくお願いします」と自分の名前を伝えて挨拶をします。
施術の前には「パーマをかけるのでかぶれを防ぐクリームを塗りますね」など、これからおこなう施術の説明をおこないましょう。
先輩美容師からのアドバイス
こまめな声掛け・優しさ・丁寧さが大切です。
スタイリストが言葉少なく施術を進めていたとしても、それは既にお客さまとの信頼関係を築いているからこそできること。新人から同じようにされると雑に感じてしまいます。
前提として「スタイリストとお客さまの関係性」と「新人とお客さまの関係性」は違うということを理解しておきましょう。
・雑誌・ドリンクのサービス
雑誌はお客さまの年齢やファッション、好みなどを考慮して選びます。数冊の中からお客さまに選んでもらう際は、お客さまの目線まで下げて見せましょう。
ドリンクは事前に苦手なものや飲めないものが無いかを確認し、お客さまが取りやすいように利き手側に置くと親切です。
先輩美容師からのアドバイス
雑誌やドリンクのサービスは施術の合間におこなうため、手先が汚れていることが意外に多いです。
第三者から見て不潔な印象を与えないよう、なるべく手先をきれいにした状態で提供できると良いですね!
・会計〜お見送り
会計のタイミングで、預かった荷物や上着類を確認してお客さまに渡します。会計は施術内容と金額を確認しながら丁寧におこないましょう。
お客さまが帰る際はサロンの施設形態に応じて、ドアを開ける・エレベーターのボタンを押すなどをします。最後に「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」などお礼を述べましょう。
先輩美容師からのアドバイス
預かった荷物の出し間違えは不信感につながるため、お客さまに渡す前によく確認しましょう。
お会計は時間がかかってしまっても良いので、ミスがないように落ち着いて対応しましょう。速さよりも丁寧さ・正確さが大事です。
4.先輩美容師に聞く! 会話のつまずき克服ポイント
美容師の接客において「会話」はとても重要ですが、苦手意識を持つ人も多いのではないでしょうか。自身も人見知りだと言う先輩美容師Aさんに聞いた、会話のつまずき克服ポイントを紹介します。
・お客さまとの会話が続かない……
なにか話したいけれどネタがない……というときは「この前の休みに〇〇へ行ったんですよ」など、自分の休日の過ごし方をネタにするのも一つの手段です。そこから意外と話が広がることもあります。
どうしてもネタがないときは無理に話そうとせず、お客さまから話したタイミングで聞く側に専念するのも良いでしょう。
・人見知りでうまく喋れるか不安
実は人見知りの美容師は少なくありません。人見知りを克服してきた先輩も多いはず。周りの先輩の姿を見て、話のきっかけ作りや会話の内容などを盗みましょう。場数を踏めばだんだんと慣れてきます。
ずっと全力で話そうと思うと疲れてしまうので、会話を楽しむ時間と落ち着いて施術をする時間で緩急をつけるのがコツです。
・誰とでも積極的に会話するべき?
お客さまによって、会話を楽しみたい人、落ち着いて施術を受けたい人などさまざまです。また、同じお客さまでも日によって気分や体調は異なります。
まずは少し話してみて、表情や反応でお客さまに合った会話の量を判断しましょう。
5.敬語の基本―尊敬語、謙譲語、丁寧語―
お客さまとの距離を縮めようとするあまり、なれなれしい言葉遣いで接すると相手に不快な思いをさせてしまいます。
「親しみやすさ」と「なれなれしさ」は別物です。「お客さまと美容師」という立場を保つために、敬語の基本を紹介します。なお、敬語の“丁寧さ”の程度はサロンによって異なるため、サロンの方針を確認しましょう。
【尊敬語】
尊敬語は相手を立て、敬意を表す言葉です。
基本 |
尊敬語 |
例 |
---|---|---|
いる |
いらっしゃる |
そこにいらっしゃるのが◯◯さんです |
行く |
いらっしゃる |
いらっしゃったことがあるんですね |
来る |
いらっしゃる お見えになる |
◯◯さんがいらっしゃいました ◯◯さんがお見えになりました |
する |
される なさる |
どうされましたか? どうなさいましたか? |
知る |
ご存じ |
ご存じでしたか? |
見る |
ご覧になる |
ご覧になったことはありますか? |
聞く |
お尋ねになる |
以前お尋ねになった件ですね |
言う |
おっしゃる |
以前おっしゃっていた件ですね |
食べる |
召し上がる |
ランチは何を召し上がりましたか? |
【謙譲語】
謙譲語は自分がへりくだることで相手を高め、敬意を表す言葉です。
基本 |
謙譲語 |
例 |
---|---|---|
いる |
おります |
レセプションにおります |
行く |
伺う 参る |
すぐに伺います すぐに参ります |
来る |
伺う 参る |
こちらには以前◯◯と伺いました こちらには以前◯◯と参りました |
する |
いたす |
こちらからご連絡いたします |
知る |
存じる 存じ上げる |
◯◯については存じませんでした ◯◯さんのことはよく存じ上げております |
見る |
拝見する |
お手紙を拝見しました |
聞く |
伺う 承る |
ご用件を伺います ご用件を承ります |
言う |
申す |
◯◯さんを担当する、山田と申します |
食べる |
いただく |
いただきます |
【丁寧語】
丁寧語は上品な言葉遣いで相手への敬意を表す言葉です。尊敬語や謙譲語が難しいと感じたら、まずは丁寧語を使えるようにするところから始めましょう。
基本 |
丁寧語 |
例 |
---|---|---|
〜だ |
〜です、〜ます |
◯◯さんを担当する、山田です ◯◯さんを担当する、山田といいます |
わかりました |
承知しました かしこまりました |
─ |
ごめんなさい |
申し訳ありません 失礼しました |
─ |
どう |
いかが |
ご気分はいかがですか? |
誰 |
どなた |
どなたのご紹介でいらっしゃいましたか? |
ちょっと |
少々 |
少々お待ちいただけますか? |
あとで |
のちほど |
のちほど承ります |
じゃあ |
それでは |
それでは、こちらにご記入いただけますか? |
6.大切なのは感謝の気持ち―先輩美容師からのメッセージ―
サービス業である美容師の接客マナーは目配り、気配り、心配りの範囲が広く、さまざまなことに気をつけなければなりません。
忙しい仕事のなかですぐに完璧にこなすことは難しいですが、一人ひとりがサロンの「顔」である意識を持ってお客さまと接することが大切です。
先輩美容師からのメッセージ
一番最初はシャンプーもできないので、とりあえず笑顔を心がけていました。新人のうちはとにかく短い接客時間の中で「顔と名前を覚えてもらう」「応援してもらう」ことが大切です。
忙しいサロンワークでは、気を抜くと接し方が機械的になりがちです。気持ちの良い接客をするためにも、新人の皆さんには「来てくださるお客さまへの感謝の気持ち」を忘れずに持っていてほしいです。