1.零売薬局とは
処方箋医薬品以外の医療用医薬品を販売することを零売(れいばい)といい、零売をおこなう薬局を零売薬局といいます。また、零売は分割販売とも呼ばれます。
一般に医療用医薬品とは、医師の診察を経て発行された処方箋に基づき交付される医薬品のことです。ただし、医療用医薬品の中には必ず処方箋が必要な「処方箋医薬品」以外に、一定の条件を満たせば処方箋がなくても購入できる「処方箋医薬品以外の医療用医薬品(以下、非処方箋医薬品)」というものがあります。
現在、約1万5,000品目もの医療用医薬品がある中で、その約半数が非処方箋医薬品に該当します。
医薬品の分類と販売方法
医薬品の分類 | 販売方法 | |||
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薬局医薬品 | 医療用医薬品 | 処方箋医薬品 | 対面販売 | |
処方箋医薬品以外の医療用医薬品 | ||||
薬局製造販売医薬品 | 特定販売※可 (毒薬・劇薬を除く) | |||
OTC医薬品 | 要指導医薬品 | ダイレクトOTC・スイッチ直後品目、毒薬、劇薬 | 対面販売 | |
一般用医薬品 | 第1類医薬品 | 特定販売可 | ||
指定第2類医薬品 | ||||
第2類医薬品 | ||||
第3類医薬品 |
零売ではやむを得ない場合に限り、非処方箋医薬品を対面で販売することができます。通信販売や訪問販売、代理人への販売は認められていません。
また零売は公的保険が適用されないため、購入者の全額自己負担となります。しかし病院の診察料や検査料などがかからないため、医薬品の種類や必要数によっては処方薬の総費用とほぼ変わらない、もしくは零売のほうが安くなることもあります。
零売薬局で販売可能な医薬品の例
- 解熱鎮痛薬
- 胃腸薬
- 整腸剤
- 便秘薬
- 風邪薬
- 抗アレルギー薬
- ビタミン剤
- 漢方薬
- 塗布剤(塗り薬)
- 貼付剤(貼り薬)
- 点眼薬 など
2.零売薬局が注目される背景・現状・課題
背景
零売はもともと法令上での明確な規定がなく、一部薬局では販売がおこなわれていました。厚生労働省が零売を容認したのは2005年4月の薬事法改正です。医薬品分類を現在の分類に刷新するとともに「やむを得ず販売を行わざるを得ない場合」に限り、条件付きでの販売を認めました(販売条件の詳細は後述)。
月日が経ち、医療費の増加が重大な社会問題になると、政府は医療費抑制のためさまざまな政策を打ち出すようになります。2016年度の診療報酬改定以降、調剤報酬額は減算傾向にあり、苦しい経営状況に立たされる薬局が増えてきました。従来の病院からの送客、処方箋にもとづく保険調剤を主な収益としていた経営方針の見直しを迫られるようになります。
2017年には「セルフメディケーション税制」が開始され、国民一人ひとりが自分自身で健康を管理する「セルフメディケーション」が推奨されるようになりました。風邪などの軽い病気であれば病院を受診せずに一般用医薬品を活用することが勧められています。零売での購入はあくまで「やむを得ない場合に限る」という条件付きではあるものの、処方薬と市販薬の中間、第3の選択肢を求める購入者のニーズに応えようとオープンする零売薬局が現れ始めました。
さらに2020年以降、新型コロナウイルス流行下で病院への足が遠のくなか、感染リスクを抑えて病院と同じ医薬品を購入できる零売薬局はメディアなどでも取り上げられるようになり、徐々に注目が集まっています。
tips|零売の起源
「零売」という言葉は古くから存在していました。財団法人日本医薬情報センターが発行する『JAPIC NEWS 2010年10月号』によると、日本では明治時代の薬律(薬剤師・薬局が制度化された法令)の中にその記述が見られます。「封緘した容器を開けて毒薬劇薬を零蕒(零売)することはできない」という主旨の記載があり、「零蕒=切り売り」の意味で使われていたということです。
現状と課題
2022年現在、零売専門のチェーン薬局を中心に徐々に増えてはいるものの、零売薬局は全国でも数十件と数えるほどしかありません。これにはいくつかの理由があります。
〈安全性が担保しづらい〉
医師の診察を受けないことで持病が悪化したり、病気の発見が遅れたりするリスクがあります。
また保険調剤の場合、正しい服薬方法にも関わらず重大な副作用が発生した場合には、医薬品副作用被害救済制度で補償を受けることができます。しかし零売で購入した医薬品の場合、零売の理由が妥当でないと判断されると補償を受けられない可能性があります。
〈医療機関・薬局との関係性〉
零売薬局を利用することで病院を受診しない人が増えると、当然、近隣の病院の収益に影響を与えることになります。また調剤薬局や一般用医薬品を扱うドラッグストアにも与える影響は大きいと考えられます。
〈利益が確保しづらい〉
調剤薬局の場合、近隣の病院の処方箋を受けて調剤することが主な収益源となりますが、零売薬局の場合は病院からの送客がないため、自社での集客が肝になります。また零売は全額購入者負担となるため、種類や販売数によっては病院で処方箋をもらう場合より高額になることもあり、販売が難しいケースもあります。さらに零売の販売価格は適正の範囲内であれば薬局が自由に設定できるため、今後は零売薬局同士での価格競争が起きることも考えられます。
こういった課題があるなか、2020年には一般社団法人日本零売薬局協会が発足しました。協会では安全で適正な零売を普及するためのガイドラインを策定するなど、環境の整備を進めています。
3.零売の販売条件・薬剤師に求められる役割
非処方箋医薬品を零売するには、厚生労働省が通知している次の条件を遵守する必要があります。
零売の販売条件
- 一般用医薬品の販売を考慮したうえで、やむを得ず非処方箋医薬品を販売する場合は、必要に応じた受診勧奨をおこなうこと
- 使用者本人のみに対面で販売すること
- 処方薬等との相互作用・重複投薬を防止するため、薬歴管理をおこなうこと
- 医療用医薬品であることを十分に考慮した服薬指導をおこなうこと
- 必要最小限の数量のみを販売すること
- 販売品目、販売日、販売数量、患者の氏名・連絡先などの販売記録を作成すること
- 調剤室または備蓄倉庫での保管と分割をおこなうこと
- 分割販売する元の添付文書等の写しを添付すること など
参考:厚生労働省「薬食発 0318 第4号 薬局医薬品の取扱いについて」
零売を実施する薬局で働く薬剤師には、より丁寧なカウンセリングや服薬指導が求められます。購入者の既往歴や薬歴、症状、困りごとなどを細かく聞き出し、適切な提案・指導をおこなうため、医薬品に関する豊富な知識はもちろん、病理的な知識や病態把握のためのコミュニケーションスキルなど、幅広い能力が必要です。
また、現時点で零売は、やむを得ない場合にのみ販売することが原則であり、販売の可否を適切に判断し、必要に応じて医療機関への適切な受診を促す意味でも、その責任は大きなものとなります。
薬剤師の職能という観点からも、零売と薬局を取り巻く状況がどのように変化していくのか、今後も注目です。
参考
- 厚生労働省|医薬品の販売制度
- 厚生労働省|診療報酬改定について