1.認知症とは
認知症とは、脳の病気や障がいなどさまざまな原因によって脳の働きが低下し、日常生活や対人関係に支障が出る状態を指します。
認知症の現状と今後
日本における高齢者(65歳以上)のうち認知症患者数は2012年に462万人で、7人に1人の割合でした。2025年には730万人に上るとの推計があり、割合は5人に1人と予測されています。患者数が増える一方、ケアする側は不足の状況にあります。
認知症を予防し共生する取り組みとして、2019年に「認知症施策推進大綱」が策定されました。認知症の発症や進行を遅らせ、認知症になっても希望をもって日常生活を過ごせる社会作りを基本目標としながら、認知症医療・介護に携わる人への支援も盛り込まれています。
その一つに、認知症対応力向上研修の受講促進があります。増加傾向にある認知症患者のケアと共生のためには、人材を充足させることに加え従事する側が正しく認知症を理解することが求められています。
2.認知症介護に関する資格
実務経験なしでも受けられる資格
認知症に関する資格には実務経験を必要としないものもあります。これから認知症ケアに携わりたい人や、ケアする家族など誰でも受験できます。
認知症ケア指導管理士(初級・上級)
医療・介護現場で働く人のスキルアップを目的とした認定資格です。初級は資格や経験を問わず誰でも受けられ、認知症に関する基本的な理解から、認知症ケア指導管理士の役割、実践的な支援や治療方法について学べます。
上級ではより専門的な知識を身につけ、指導者としての人材育成を目的としています。資格は2年ごとの更新制で、講習や試験はなく更新料5,000円がかかります。
受験資格 |
上級:初級の資格を取得している必要がある |
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日程 |
年2回(7月・12月) |
試験会場 |
東京 、大阪、札幌、仙台、名古屋、福岡、長崎、富山、秋田 |
費用 |
初級 上級 |
出題形式 |
初級:60問五肢択一のマークシート方式 |
合格ライン |
初級:7割の正解率 上級:非公開 |
合格率 |
初級:59.2% |
認知症介助士
認知症の人と共生するための知識や接し方が身につけられる資格です。介護、医療関係者だけでなく、接客・接遇を通して認知症の人と接する機会がある販売員や受付スタッフ、認知症の家族がいる人などを対象としています。
試験日程や会場選びの選択肢が多く、一度資格を取得すれば更新の必要がありません。また、合格率も9割と高いので比較的取得しやすい資格といえます。
日程 |
開催日程は試験会場、受験方法により異なる |
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受験方法 |
1.オンラインまたは各指定会場にてセミナー受講後に検定試験を受ける |
試験会場 |
受験方法1:東京、静岡、愛知、大阪、岡山、福岡 |
費用 |
セミナーおよび検定試験:19,800円(テキスト付き)、16,500円(テキストなし) |
出題形式 |
受験方法1・2:30問(選択肢)からなるマークシート式 |
合格ライン |
1問1点の30点満点中21点以上 |
合格率 |
9割以上 |
認知症ライフパートナー
認知症ライフパートナーとは認知症患者がその人らしい生活を送れるよう寄り添い、サポートする人です。1〜3級まであり、それぞれの内容は次のとおりです。
3級:認知症の特徴を理解したうえで、周辺症状への対応やコミュニケーション方法を習得します。
2級:身体的ケアに加え、メンタルケアもできる人材養成を目的としています。認知症のアセスメント手法や、日常生活で取り入れられる回想法、音楽や植物を使ったアクティビティの習得を目指します。
1級:認知症の人だけでなく家族への心理的支援や認知症の早期発見、予防といった専門的な知識を習得できます。指導的立場になることを目標とし、コミュニケーション能力や情報収集能力、マネジメント能力も身につきます。
日程 |
2・3級:年2回(7月・12月) |
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試験会場 |
2・3級:札幌・仙台*・東京・名古屋・大阪・岡山・福岡・熊本 |
費用 |
3級:6,000円 |
出題形式 |
2・3級:マークシート式 |
合格ライン |
2・3級:100点満点中70点以上 |
合格率 |
3級:71.3% |
認知症ケア准専門士
認知症ケアの理念など基礎的な知識から、コミュニケーション法や在宅支援といった実践的な内容を習得します。認知症ケア准専門士の取得後5年以内であれば認知症ケア専門士の一次試験が免除されます。
受験資格 |
受験する年度末までに18歳以上に達しており、認知症ケアをおこなう施設や機関などで「認知症ケアの実務経験」がない人 |
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日程 |
年1回(7月) |
試験会場 |
WEB試験 |
費用 |
12,000円 |
出題形式 |
4分野から五者択一の50問(合計200問) |
合格ライン |
4分野を合計した200問中、満点の70%以上 |
合格率 |
非公開 |
実務経験が必要な資格
介護や医療の分野で実務経験を積んでいる人のスキルアップや、キャリアパスに役立つ資格を紹介します。
認知症ケア専門士
一般社団法人日本認知症ケア学会が主催する民間資格です。医療機関、デイサービス、グループホームなどさまざまな場で活かせる高い知識と専門技術が身につきます。倫理観を得ることで患者やその家族、職場における信頼度向上も期待できます。
受験資格 |
受験する年の3月31日より過去10年間において、3年以上の認知症ケアの実務経験*を有する人 *実務経験を証明する施設・団体・機関は認知症専門でなくても可 |
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日程 |
年1回(一次試験7月、二次試験8月) |
試験会場 |
WEB試験 |
費用 |
一次試験:3,000円×受験分野数(4分野で12,000円) |
出題形式 |
4分野から五者択一の50問(合計200問) |
合格ライン |
各分野70%以上の正答率 |
合格率 |
53.7%(2021年の結果) |
認知症ケア上級専門士
認知症ケアの専門的な知識をもち、ケアチーム内におけるリーダーや指導者としての活躍が期待される資格です。科学的エビデンスに基づいた説明と実践が期待されています。資格取得後は、マネジメント業務や地域のアドバイザーなどで専門性が活かせます。
受験資格 |
1.認知症ケア専門士としての経験が3年以上
*単位は指定の領域における学会参加や論文発表等により取得可能 |
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日程 |
年1回(12月) |
試験会場 |
WEB試験 |
費用 |
10,000円 |
出題形式 |
五者択一の50問 |
合格ライン |
正答率70%以上 |
合格率 |
63.6%(2021年の結果) |
3.認知症介護に役立つ研修
無資格の介護従事者に義務付けられている研修
認知症介護基礎研修
令和3年度介護報酬改定により受講必須となった研修です。認知症ケアに携わるうえで最低限の知識や技術に加え、実践する際の考え方を習得することで、介護・ケアサービス利用者やその家族に寄り添うケアの提供が可能になります。
自身が提供したサービスについて、同僚に正しく伝えられることが目標とされています。
受講対象 |
介護保険施設や事業者、介護保険サービスを提供する事業所において、介護に直接携わる職員のうち医療・福祉関係の資格を持っていない人 *有資格者でも受講可能 |
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日程 |
eラーニングの場合いつでも受講可能 |
受講会場 |
WEB試験/集合型研修の場合は自治体ごとに異なる |
費用 |
1,000~5,000円程度 |
実務経験が必要な研修
認知症介護実践研修(実践者研修・リーダー研修)
認知症の人が能力に応じて自立した生活を送れるよう、支援するスキルを身につけます。実践者研修とリーダー研修があり、実践者研修ではサービス形態にかかわらず現場の中心的存在として活躍できる技術を学びます。
リーダー研修では、施設や事業所において職員の指導やチームケアの導入、施策が展開できるようなスキルを習得します。
施設によっては研修受講者の配置を義務付けているところもあるほか、配置義務がなくても受講者がいることで認知症加算の対象となるため、就職に有利に働く可能性もあります。
受講資格 |
実践者研修:事業所などで介護・看護の経験がある人など *要件は自治体ごとに異なる場合がある |
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日程 |
自治体ごとに異なる |
受講会場 |
WEB試験/集合型研修の場合は自治体ごとに異なる |
費用 |
実践者研修:無料~40,000円程度 |
認知症介護実践研修の修了が歓迎されているケアマネジャーの求人はこちら
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認知症対応型サービス事業管理者研修
事業所の管理者(予定含む)を対象におこなう研修で、認知症の人が能力に応じて自立した生活を送るための施設運営について学びます。具体的には、適切なケアやサービス提供のほか、労務管理、サービス指定基準、サービスの質向上についてです。
受講後は、事業所の運営や率先役として活躍することが期待されます。経営や管理職として、多角的な視点から認知症支援をおこなうスキルが身につきます。
受講資格 |
・指定認知症対応型通所介護、指定小規模多機能型居宅介護、指定認知症対応型共同生活介護、看護小規模多機能型居宅介護事業所の管理者(予定含む) *管理者として就任している(予定含む)事業所がある自治体の長に申請後、長を介して実施主体の長に受講希望を申し出る |
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日程 |
自治体ごとに異なる |
受講会場 |
WEB試験/集合型研修の場合は自治体ごとに異なる |
費用 |
無料~10,000円程度 |
認知症対応型サービス事業管理者研修の修了が歓迎されているケアマネジャーの求人はこちら
認知症対応型サービス事業管理者研修の修了が歓迎されている管理職(介護)の求人はこちら
認知症介護指導者養成研修
認知症介護実践研修などの企画をおこない、講義や演習、実習を担当する認知症介護指導者になるための研修です。介護全般に関することから、認知症ケアに関する教育方法、授業方法といった実践的な内容を学び、職場における実習もおこないます。
組織において指導的な役割が期待され、責任あるポジションを任されます。また、認知症本人やその家族、地域住民からの相談対応や情報提供など地域介護の発展のためにも活躍することが期待されています。
受講資格 |
・医師、保健師、助産師、看護師、准看護師、理学療法士、作業療法士、社会福祉士、介護福祉士、言語聴覚士、精神保健福祉士のいずれかの資格をもつ人または準ずる人 *要件は自治体ごとに異なる場合あり |
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日程 |
自治体ごとに異なるため住まいの地域を管轄する試験センターへ確認 |
受講会場 |
WEB試験/集合型研修の場合は自治体ごとに異なる |
費用 |
10,000~40,000円程度 |
小規模多機能型サービス等計画作成担当者研修
指定小規模多機能型居宅介護事業所の計画作成担当者となる人が、利用者に関する居宅介護支援計画や指定介護予防サービスの利用計画などを作るための知識や技術を身につけます。小規模多機能型サービスの特徴やほかのサービスとの違いが理解でき、チームケアについても学べます。
受講資格 |
・小規模多機能型居宅介護事業所、看護小規模多機能型居宅介護事業所の計画作成担当者(予定含む) |
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日程 |
自治体ごとに異なる |
受講会場 |
WEB試験/集合型研修の場合は自治体ごとに異なる |
費用 |
無料〜13,000円程度 |
小規模多機能型サービス等計画作成担当者研修の修了が歓迎されるケアマネジャーの求人はこちら
認知症対応型サービス事業開設者研修
認知症に対応している事業の代表者(予定含む)が、認知症の基本的な理解、認知症高齢者ケアのあり方、適切なサービス提供のあり方を学びます。
認知症対応型サービス事業管理者研修では、事業所の管理と運営のためのより実践的な技術を学ぶのに対し、認知症対応型サービス事業開設者研修では運営に必要な知識や理念の理解に重きが置かれています。
受講資格 |
研修を受ける都道府県内に、対象となる介護サービスを開設予定の人。対象の介護サービスは主に次のとおり
・認知症対応型共同生活介護事業 |
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日程 |
自治体ごとに異なる |
受講会場 |
WEB試験/集合型研修の場合は自治体ごとに異なる |
費用 |
無料~20,000円程度 |
4.目標やスキルアップが叶えられる資格・研修選びを
今後ますます高齢化が進み、認知症介護をおこなえる人材ニーズが高まることが予想されます。資格や研修を活用し、正しく認知症を理解することが利用者に寄り添うサービス提供や地域におけるケアの質向上につながります。
資格や研修はいくつかありますが、どのようなことにチャレンジしたいのか将来を見据えて必要な資格・研修選びをおこなうのがおすすめです。また、給与や業務内容に関する悩みの解決に役立つといった視点も参考に、資格や研修を検討してみてください。
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参考
- 内閣府:第1章 高齢化の状況(第2節3)
- 認知症施策推進関係閣僚会議:認知症施策推進大綱
- 一般財団法人 職業技能振興会
- 公益財団法人 日本ケアフィット共育機構:認知症介助士セミナー
- 一般社団法人 日本認知症コミュニケーション協会:認知症ライフパートナー検定試験
- 一般社団法人日本認知症ケア学会