開催概要
国際モダンホスピタルショウは、医療や保健、福祉分野におけるサービスの質の向上や現場で役立つ最新の機器、システムなどが一堂に集まる展示会です。一般社団法人日本病院会と一般社団法人日本経営協会が共催するこのイベントには40年以上の歴史があります。

今回のショウでは、医療情報システム、看護、介護・福祉・リハビリなど10の分野から約180ものブースが出展され、各ブースでは、製品のデモンストレーションや説明がおこなわれていました。中でも医療情報システムが最多の115ブースで、業務の効率化や経営管理などに役立つシステムの展示が複数ありました。
主催者企画のセミナーでは、200名近くが聴講できる会場でさまざまなテーマのシンポジウムや発表が連日おこなわれていたほか、主催者セミナーの中にはオンラインで配信されているものもあり、来場できなくても視聴できる工夫がなされていました。
ICTで妊娠期から老齢期までの課題を解決!
母子支援におけるICTの活用
展示会場を歩いていて印象的だったのが、ICT化が医療・福祉の場で想像以上に進んでいることでした。主催者セミナーでも、コロナ禍で進んだ「ICTを活用した母子支援」をテーマに各地の事例が紹介されました。

はじめに看護協会常任理事の井本氏から、分娩に関する課題として日本社会における晩産化や、分娩可能な病院の少なさのほか、コロナ以後は両親学級の中止や立ち会い・見舞いなどの制限による妊婦の孤立化などが挙げられました。
このような課題に対し、大阪母子医療センターではZoomを使ったライブ形式のマタニティクラスを実施し、アンケート結果からは「祖父母なども参加できたので良かった」「堅苦しくない雰囲気だった」など高い満足度であったことが紹介されました。
オンラインだからこそ、ライブ配信による双方向のやりとりを大切にし、温もりを感じてもらうことを目指しているようです。
人材不足を補うためのICT活用
医療・介護の現場では人手不足が常態化していると言われています。少子高齢化が進む現代において人材確保はいずれの病院・施設でも課題です。
会場では、採血や採尿の受付ができる自動販売機のような機械や、訪問診療において直接医師が訪問せずにタブレット端末を使用したオンライン診療ができるシステム、モバイル分娩監視装置などの業務効率化に役立つサービスが多く目にとまりました。




これは、全自動の排泄処理ロボット「マインレット爽」です。本体とホースにつながる専用のおむつにカップを取り付けて使用すると、センサーが排泄を感知し即座に排泄物を自動吸引します。排泄後のおしりも自動的に洗浄・除湿されるため、おむつ内の不快感や臭いを軽減し、衛生的な空間を保ちます。利用者の中にはおむつ交換に抵抗がある人もいるため、尊厳を守ることにもつながります。
ICTを活用したサービスや製品からは、働き手・ケアする側だけでなく利用者側の利便性も高め、双方に心地良い環境作りを担っていることが感じられました。機械でカバーできることは機械に任せることで作業を効率化し、人の細やかな技術やコミュニケーションに使う時間が増え、利用者の満足度にもつながるサービスは今後も増えていきそうです。
女性の活躍を応援するポップアップイベント!
ナースライフバランス研究室って?

今回のポップアップイベントとして、女性の活躍を応援する企業や団体が集まったブースがありました。その中の一つ、看護師の多様性のある働き方をサポートしているナースライフバランス研究室代表の西山妙子氏に、活動を始められた経緯や思いを聞いてみました。
西山氏は、手術室に所属する看護師、いわゆるオペ看として急性期病院や大学病院で経験を積んだあと、パートや夜勤専従などさまざまな働き方を模索。現在は訪問看護師として働くかたわらナースライフバランス研究室やマインヘルスケア株式会社の代表を務めています。
ナースライフバランス研究室とは、看護師が“自分らしさ”を大切に働けるよう、さまざまな活動をおこなっているコミュニティーです。主な活動には、悩みを抱えている看護師に職場や上下関係なく相談できるメンターをつなげるメンターナースサービスや、看護師ライター養成講座、多様な働き方を紹介するナース図鑑、訪問看護勉強会などがあります。
活動のきっかけはホリエモン
幅広い活動を展開する西山氏。きっかけは、ホリエモン(堀江貴文氏)のオンラインサロンに参加したことだと言います。
「私自身ホリエモンに興味があったわけではないのですが、夫に誘われて行ってみたら、オンラインでいろんな立場や職場の人が活発に意見交換していて、こうしたスタイルの交流を看護業界にもぜひ取り入れたい! と思いました。始めていくうちに、ライター講座や訪問看護の勉強会などさまざまな活動に派生していきました」
今では、メンターナースに登録している看護師の数は1,000人を超え、看護師として新たなキャリアをスタートさせる人が続出しています。
看護業界の課題解決には”柔軟さ”が不可欠!
人手不足の常態化などさまざまな課題がある看護業界。西山氏は柔軟な考えが足りないことが原因ではないかと指摘します。
「看護師は人の命を扱う責任重大な職務のため、ただでさえ精神的にも肉体的にもつらい仕事です。週3でも働けるようにしたり、子どもが保育園に通っている間だけ働いたり多様な働き方を認めることが雇用側に求められていると感じます。家と職場の往復だけになるとつらいと思うので。看護師らしさにとらわれず自分らしさを大切にしてほしいです」
西山氏が入職した20年以上前から現在に至るまで、業界内であまり変化は感じないと言います。看護学生の頃から病院で働くことが前提のカリキュラムで進むため、変化のためには教育の段階から見直す必要性を感じているようです。
「看護師のライフステージにおける離職や、少子化による人材確保の課題に関しても、柔軟な勤務形態を雇用側も従業員側も受け入れることで課題の解決に近づけるのではないかと思います。また、雇用側はもっと従業員に理解を示してあげること、従業員側もほかの業種や職種とも接し、世界を広げてみることが大切です」
自分の心身を大切にすることが、おもしろさにつながっていく
社会全体で働き方改革や教育改革が進められていますが、変化を実感するには時間がかかるものです。今まさに働き方やキャリアで悩んでいる人はどうすれば良いのでしょうか。
「人から言われたことだけをこなしていくのではなく、人としてどうなりたいか考え、自分の人生も、心身も大切にすることで仕事を見つめ直すことや長期的な就労につながっていくはず」
看護師らしさにとらわれず、自分の生活を大切にすることで看護師としての人生がより楽しくおもしろく変えられる。そんな思いが伝わってきました。
今回のショウでは、職場でメンターナースの存在を紹介してくれる病院や診療所などの協力先を募り、さらなる認知度アップを目指しているそうです。また、コロナの状況にもよりますが、今後はリアルな場での交流イベントも徐々に増やしていきたいと意気込みを聞かせてくれました。今後の躍進にますます期待できそうです。
おわりに
医療サービスや人材の偏在化、感染症対策などさまざまな課題がある医療・福祉業界。今回の国際モダンホスピタルショウ2022では、そんな課題解決につながるシステムや機器が展示されていました。
機械と人それぞれが持つ技術の融合によって、利用者も従事者側にも心地よいサービス提供につなげられることを期待しています。