目次
福祉×建設業が強み「AMATUHI」とは
株式会社AMATUHIは「障がいの有無に関わらず、全ての人が自分らしくあるために、豊かな暮らしを創造すること。」をミッションに掲げ、2021年に設立された会社です。
事業の柱となっているのは、障がい者グループホーム事業と建設不動産事業です。グループホーム事業は、全国的にもまだ数が少ない「日中サービス支援型グループホーム」を中心に、24時間365日体制で介護が必要な重度障がい者向けのサービスを提供しています。2024年6月現在、東京、神奈川、千葉、埼玉に13のグループホームを運営し、今後も45拠点まで開設計画が進んでいます。
建設不動産事業では、自社のグループホームに特化した建設と販売をおこなっています。グループホームを運営する会社が直接設計・建設まで手がけることによって、利用者は住みやすく、従業員は働きやすい環境を実現できる点が大きな強みです。さらに、空き地や空き家を活用することで地域経済の活性化にも貢献しています。
また、障がい者の暮らしを多角的に支えるために、就労継続支援事業で障がい者の就労を支援するほか、2024年には訪問看護事業も開始し、医療・福祉業界で存在感を増している会社です。
今回は、AMATUHIの代表取締役・吉田さんとグループホームの職員2名に取材を実施。福祉×建設の珍しい事業モデルが生み出すサービスの魅力に迫ります。
社長インタビュー
話を聞いた人
代表取締役・行政書士 吉田 竜真さん
幼少期の精神障がいによる後遺症から学校を中退。フリーター生活を経て、自身の実体験を活かした仕事を志し、障がい福祉事業を全国展開する企業に就職。スーパーバイザー、本部長、取締役まで歴任した後、2018年に福祉専門の行政書士として独立。100社以上の福祉事業の経営に携わる。2021年に株式会社AMATUHIを創業、代表取締役に就任する。
自身の障がい経験から、持続可能な福祉ビジネスへの挑戦
──吉田さんは幼いころの精神障がいを公表されていますが、ご自身の経験が創業のきっかけになったのでしょうか。
吉田さん:はい、幼少期にトリコチロマニア(抜毛症)の精神障がいがあり、その後も身体的な後遺症から自信を失いやすく、自暴自棄な気持ちを長く抱えて生きてきました。そういった経緯から障がい福祉の会社に就職しましたが、日々仕事に取り組むなかで、8050問題や老障介護の親亡き後の問題、医療費削減に伴う病床数の減少などにより、障がい者が安心して暮らせる居場所が不足しているという現実を目の当たりにしました。
そこから建設・不動産・金融のノウハウを持つメンバーとの出会いがきっかけとなり、福祉の現場で培った経験と行政書士の知識を活かして、2021年に株式会社AMATUHIを創業しました。
──障がい者グループホームを運営する会社は多くありますが、建設や不動産業まで手がける会社は珍しいですよね。なぜその事業モデルに至ったのでしょうか。
障がい福祉サービスは社会的意義の大きな事業ですが、公費や助成金だけに依存していてはこれからの持続的なサービス提供は難しいと感じています。20年、30年と成長しながら雇用を維持していくには、利益を生み出し続けられる事業モデルであることが必要だと考えました。
そこで、グループホーム事業と建設不動産事業を融合した事業モデルを構築しました。これにより、障がいを持つ多くの方々に安心安全な暮らしを提供しながら、投資家や地域社会にも貢献できる持続可能なサービスがつくれると考えたのです。
──福祉との相性が良く収益性も見込める事業を組み合わせることで、長く安定した事業モデルをつくったのですね。AMATUHIが運営するグループホーム「AMANEKU」には、どのような特徴がありますか?
まず一つは、利用者のニーズに合わせた支援体制を整えていることです。私たちは障がい者の生活を支える企業として、利用者さま一人ひとりに寄り添い、生活目標や将来の夢を一緒に考え、実現に向けたサポートをおこなっています。そのため、基準以上の割合でサービス管理責任者を配置する事業所もありますし、利用者さまの個別支援計画のモニタリングはすべての事業所で法令上求められる以上の頻度と回数で実施しています。これによって、一人ひとりのニーズを捉えたサービスの実現を目指しています。
もう一つは、積極的に地域社会との交流の機会を創出していることです。地域での交流は社会参加において非常に重要ですが、障がい者は自分らしさを実感できるきっかけやチャンスが相対的に少ないと感じています。そのためAMANEKUでは、地域住民との交流イベントやボランティア活動に積極的に参加することで、障がい者が地域社会の一員として隔たりなく活躍できるよう後押しをしています。
──利用者目線のサービスを徹底しているのですね。建設不動産業と協業することによるメリットや特徴としては、具体的にどのような点が挙げられますか?
例えば、事務室は出入口近くに設置したほうが便利だという意見や、階段にはケガ防止の観点からドアを取りつけて安全性を確保すること、壁の色は何色だと落ち着いて過ごしやすいかなど、細かなアイデアが日々の生活の中から見つかります。そういった声を設計・施工チームに共有し、トライアンドエラーを繰り返すことで、さらに暮らしやすい施設づくりにつながっていきます。
通常、建設会社は建てて売ってしまえば終わりかもしれないですが、運営会社としてはそこからサービスの提供が始まるわけです。ホームの耐久性が悪かったり生活しづらい設計になっていたりすると、利用者さまはもちろん働くスタッフや物件オーナーにとっても利点がなく、自ら首を絞める形になってしまいます。品質とコストのバランスを追求することにより、良いものが生まれると考えています。
週休3日制ほか多彩な制度で職員をサポート
──AMATUHIにはどのような理由で入社する人が多いですか?
「障がいの有無に関わらず、全ての人が自分らしく」という会社理念や「障がい者の暮らしを支える」というコンセプトに惹かれてと言ってくださる方が多いですね。本人や家族に障がいの経験がある人も少なくないです。私自身も障がいに悩んだ経験があり、本社スタッフにもそういった経験者が在籍しているため、当事者によって運営されている会社という点に安心感を抱いてくれる方は多いと感じます。
またAMATUHIでは常勤職員を対象に週休3日制を導入するなど、職員が働きやすい環境を目指してさまざまな工夫をしています。そのため、働き方に魅力を感じて応募される方も多いです。
──週休3日制は魅力的ですね。そのほかの工夫にはどのようなものがありますか?
夜勤の休憩時間を長めに設定しており、生活リズムを崩さずにしっかりと休める環境を整えています。
人事評価制度は、研修に連動させることで本人が成長を実感しやすくなるよう工夫しています。グループホームにおけるさまざまな業務を約150項目に細分化し、習熟レベルを3段階に定義して、何をもってレベルアップといえるのか、質の高いサービスに至っているのかを明確に設定する取り組みを現在進めているところです。これによって業務や習熟度を可視化でき、誰もが働きやすい環境を整えることを目指しています。
──評価軸が明確だとモチベーションの向上につながりやすそうですね。研修はどういった内容なのでしょうか。
まず入社時は、OJT教育と並行してスマホで受講できる研修を受けてもらいます。研修内容は、企業理念を共有するオリエンテーションから始まり、日常業務の説明、マナーや心がけ、設備の取り扱い、発展的な支援スキルまでを包括した5段階のコースがあります。
さらに毎月の研修配信もおこなっています。日々の支援に活かせる実践的な内容から法定研修まで、月ごとに異なるテーマの研修を通じて知識やノウハウを学ぶことができます。
──動画で効率的に学べる体制が整っているのですね。では、AMATUHIの今後の展望について教えてください。
グループホームのブランド名“AMANEKU”は漢字で「遍く」と書きます。この名が表しているとおり、私たちのサービスが普遍的なものとして社会に行き渡ることを目標に、2030年までにグループホーム200拠点の運営を一つの目標として達成したいと考えています。これに向けて、グループホームを中心に医療・介護の領域にもサービスを拡大し、多くの方々に私たちのサービスを届けていきたいと考えています。
まだまだ創業4年目の若い会社ですので、これからの部分も多いですが、今後は福利厚生などもより一層充実させながら、未経験の方も安心して働けて、経験者は一層自分の強みを発揮しながら働けるような職場をつくっていきたいと考えています。
施設長・生活支援員インタビュー
話を聞いた人
施設長 林 美貴さん
小売業勤務から保険会社の営業を経験したあと、介護の道に進む。高齢者施設にて介護助手を経験したのち、介護福祉士専門学校へ入学。資格取得後は社会福祉法人で経験を積み、2022年に株式会社AMATUHIに入社、第1号となるグループホームの立ち上げに参画する。現在はAMANEKU平塚とAMANEKU南足柄の施設長を兼任。
生活支援員 北村 郁絵さん
外資保険会社と派遣会社での勤務後、介護老人保健施設の介護職員、訪問看護ステーションの医療事務員を経験。その後ドラッグストア勤務を経て、2023年より株式会社AMATUHIに入社し、現在はAMANEKU南足柄の生活支援員として活躍中。
障がい者グループホームで働くという選択
──まず最初に、お二人がAMATUHIに転職された経緯を教えてください。
私は自宅が近所なんです。建築中に何が建つんだろうと思っていたら、グループホームができると知りました。当時は育児のために一度離れていた介護業界に再び戻ろうと思っていたときで、ちょうどいいタイミングだと思い転職を決めました。
また、私の姉が障がいを持っており、将来的にグループホームに入居するかもしれないので、どんな施設なのか興味があったというのも理由の一つです。
私は前職でも社会福祉法人のグループホームに勤めていて、利用者さまの一番近くで生活をサポートできる仕事にやりがいを感じていました。しかし、当時は役職についておらず、60歳で定年を迎える就業規定だったことから、将来を見越して転職しようと考えました。
AMATUHIは65歳まで働けますし、何より創業後初となるグループホームを立ち上げるタイミングでしたので、大きなキャリアアップになると思いました。
──1拠点目の立ち上げに携わったのですね! 非常に貴重な経験だと思いますが、ゼロからのスタートはさぞ大変だったのでは……?
もちろん大変でしたが、それ以上にやりがいが大きかったです。前職では任せてもらえないような大きな裁量を与えられ、利用者さまにとって暮らしやすい、職員にとって働きやすい職場はどうあるべきかを考え、形にしていくことはとても楽しいことでしたから。
──北村さんは初めての障がい者施設での勤務ですが、実際に働いてみていかがでしたか?
これまで経験した高齢者施設との違いを実感しました。若い方が多いですし、力も強く、ご自分でできることも多いです。障がい者グループホームで大切なことは、“介護”しすぎてはいけない、ということです。
高齢者施設では、体の不自由な部分をサポートする“介護”の側面が強いですが、障がい者グループホームでは、心身の状況に応じた“支援”として、心と体の両面からサポートする重要性が高いと思います。何かできないことや困りごとがあったときには、代わりにやって終わりではなく、まずはどうすればできるかを一緒に考えます。それでもうまくできなければ、またやり方を変えたり周囲に協力を仰いだりと、支援の形を変えていくことが大切だと学びました。
本当に人それぞれの個性がありますし、同じ利用者さまでも日によって状態が違うので、支援の仕方に正解はありませんね。
大切なのは、安心できる日々を積み重ねること
──これまでの仕事で印象に残っている出来事はありますか?
私の担当している利用者さまが、入居された当初はほとんど食事を噛まずに丸呑みしてしまう状態だったのですが、毎日声掛けや見守りをすることで、最近では咀嚼しながらゆっくりと食事できるようになってきました。半年以上かかりましたが、続けてきて良かったです。
グループホームは生活の場なので、何か劇的なエピソードがあるというよりも、毎朝起きてしっかりと食べて、職員や利用者さまとのやり取りがあって……日々の生活を円滑に繰り返せることが、なにより幸せなことだと思います。
利用者さまの中には、以前入院していた病院に戻ることができず、頼れる家族もいない方々もいらっしゃいます。AMANEKUのグループホームは年齢制限がないため、年齢を重ねた先も安心して生活を続けられるよう、私たちが支援を続けたいですね。
──では最後に、お二人の今後の目標を教えてください。
今は自分の“引き出し”を増やす期間だと思っています。支援の方向性に迷ったとき、施設長やほかの職員に相談して「このケースではこう対応するといい」とアドバイスをもらうことで、少しずつ自分の引き出しが増え、スキルアップにつながっていく感覚があります。なのでこれからも経験を積み、段数を増やしていくことが目標です。
私は施設長をサポートするスーパーバイザーのような存在を目指したいですね。今後もグループホームの開設が相次ぎ、多くの施設長が必要になると思います。施設長の困りごとを一番理解できるのは施設長経験のある人物だと思うので、私がすべてのホームをまわって、これまでの経験を役立てていきたいです。
*
取材はグループホーム内の共有スペースでおこないました。終始穏やかな空気が流れ、利用者さんが思い思いの時間を過ごすなか、スタッフが見守り、時にはサポートに入る姿が印象的でした。AMATUHIのグループホームに興味を持たれた方は、まずは一度話を聞きに訪れてみるのはいかがでしょうか。