6秒ルールだけじゃない。介護で応用したい「アンガーマネジメント」その本質とは?

精神的負荷の大きさから「感情労働」とも称される介護職。利用者からの時に理不尽ともいえる振る舞いや、職場の人間関係のストレス、利用者・家族・職員の板挟みになるジレンマなど、心がすり減る状況に置かれることも珍しくありません。人手不足が深刻化するなか、ますます重要になる「怒り」との付き合い方について、アンガーマネジメントの本質を日本の第一人者である安藤俊介氏に聞きました。

怒りを抱える人

教えてくれたのは

アンガーマネジメント協会安藤代表理事

安藤俊介(あんどう・しゅんすけ)

一般社団法人日本アンガーマネジメント協会代表理事。アンガーマネジメントコンサルタント。新潟産業大学客員教授。アンガーマネジメントをアメリカから導入し、教育現場から企業まで幅広く講演、企業研修、セミナー、コーチングなどに取り組む。アジア人で唯一、ナショナルアンガーマネジメント協会最高ランクのトレーニングプロフェッショナルに選出。『マンガでわかる介護職のためのアンガーマネジメント』ほか著書多数。

コントロールするのは「感情の後」

アンガーマネジメントとは、怒りという感情を切り口に自分を理解するための、認知行動療法の一種です。心理学をルーツに発展した、姿勢や考え方のスキルである非認知能力を高めるトレーニングで、怒りっぽい自覚はありながらも解決方法を知らなかった僕を大いに助けてくれています。

アンガーマネジメントは“怒りのコントロール”や我慢と思われることがありますが、怒りを含めた感情そのものをコントロールする手法ではありません。自分を観察し、出来事に対して心がどう動くかを把握することで、自分が感じたことに対してどう考え、どのような行動をするのか先読みしやすくなります。

それによって、怒りが生じても失敗につながる行動を回避できると、人間関係や仕事での手痛い失敗や困りごとを防げますよね。人は怒りを含むあらゆる感情があって当然で、感情に振り回されないことこそが大事なのです。

怒りが生じるメカニズムを知る

感情に振り回されないようにするためには、何より相手(感情)をよく知ることです。アンガーマネジメントでは、怒りが生じるメカニズムをライターの着火にたとえて説明しています。

怒りのライターモデル

ライターの炎が怒り、ライターに引火するガスが怒りの元となる感情・状態です。この「ガス」には苦痛や不安といった「マイナスの感情」や、疲労や空腹などの「マイナスの状態」が含まれています。ガスの量が多ければ、引火した怒りも大きくなります。怒りそのものを抑制するのではなく、根本的な要因となっているマイナスの感情や状態を減らすことを考えてみてください。

ここで何が怒りのスイッチになるかというと、自分が信じる「べき」が裏切られることです。言い換えれば、「べき」に敏感になることで、怒りへの対策を立てやすくなります。

自分の「べき」に敏感になろう

介護はこうあるべき、連絡はこうすべき、常識ではこうするはず……といった「べき」と現実が相反するときに、確執が生まれます。難しいことではありますが日頃から意識することで、自分がどういう理想や先入観を持っているのか、いつどんな状況で発生しやすいのか、傾向がつかめたらしめたものです。

同時に自分と他人の「べき」は違うこと、そもそも「他人と違うことは当たり前」であることを深く理解できれば、たとえ理想と合わなくても腹が立たなくなると思います。

アンガーマネジメント協会安藤代表理事オンライン取材
取材はオンラインでおこないました

高齢者が怒りっぽくなる3つの理由

アンガーマネジメントの普及活動をしていると、やはり人の感情に毎日向き合わなければならない介護職の方々の関心の高さを感じます。介護現場で働く現役世代と、介護を受ける高齢者には世代的な違いもありますので、高齢者ゆえの怒りについて知っておいて損はないでしょう。

『怒れる老人 あなたにもある老害因子』では「執着」「孤独感」「自己顕示欲」の3つのキーワードを、高齢者が怒りっぽくなる理由として挙げています。

こだわりや大切なものが多ければそれらを守ろうとする気持ちも強くなりますし、孤独感と自己顕示欲は表裏一体の不安の表れでもあります。さらに老眼や運動機能の低下といった心身の衰えもあります。そのうえ、若い頃に高度経済成長期を過ごし、期待した未来とはまったく異なる不況の時代に余生を過ごす「こんなはずじゃなかった」という気持ちも抱えています。

これらのことを踏まえると、自分の世代とは感覚が違って当たり前だ、と少し溜飲が下がるかもしれません。

アンガーマネジメントはダイエットのようなもの

このようにアンガーマネジメントの方法や視点は多々ありますが、やはり最も重要なのは、目的意識を持って継続的に取り組むことです。僕自身20年取り組んでいる今でも、今日はうまくできたな、もっとこうすればよかっただろうかと試行錯誤を続けています。

自分を理解し、感情と向き合うことは一朝一夕にできることではありません。粘り強く続けてやっと成果を感じたり、初めて実践したときは大きな効果を感じてもその後は変化が小さくなったりすることもあるでしょう。たとえるなら、アンガーマネジメントはダイエットのようなものです。

アンガーマネジメントは魔法じゃない。でも、なりたい自分をはっきり持って実践し続けていれば、怒りに振り回される苦労を減らす助けになります。

地道で普遍的な、感情と付き合う方法のひとつとして、知ってほしいと思います。

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参考

  • 安藤俊介『マンガでわかる介護職のためのアンガーマネジメント』(誠文堂新光社、2019)
  • 安藤俊介『怒れる老人 あなたにもある老害因子』(産業編集センター、2021)

プロフィール

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