目次
1.ベースアップとは
一律に基本給与を引き上げること
ベースアップは基本給を一律に上げることを意味し、略して「ベア」とも呼ばれています。企業と労働組合の交渉や、世間の賃上げ状況に応じて昇給率が決まります。勤務年数や成績、役職などは関係なく、すべての従業員に適用される点が特徴です。
一般的に、昇給率は春季闘争(春闘)で話し合われ毎年2月ころから労働組合が賃上げや労働条件の改善を使用者(経営者)に求めて交渉が進められます。労働組合がない企業でも、業績や大企業などの賃上げ状況に応じてベースアップが実施されることもあります。
ベースアップの目的
ベースアップの目的は、物価上昇などの理由から相対的に下がった賃金を回復することと、従業員のモチベーションアップです。物価が上がったのに給与が変わらないと支出の割合が増え、手元に残るお金が少なくなります。しかし、ベースアップによって物価上昇分がまかなわれれば賃金の目減りを防ぐことができます。
また、ベースアップは勤続年数や役職にかかわらず一律に実施されるため、組織全体のモチベーションアップにつながります。
定期昇給との違い

ベースアップと似た制度に定期昇給があります。ベースアップは賃金表を書き換えることによって企業全体の給与水準が一律に上がる一方、定期昇給は年に1回など一定のタイミングで昇給する点が違います。
一般的に定期昇給は勤続年数や仕事の成果に応じて基本給が上がりますが、企業ごとに昇給のタイミングや評価基準は異なります。また、業績や個人の成績にもよるため必ずしも昇給がおこなわれるわけではありません。
ベースアップの計算方法
企業がベースアップを決めた場合、どのように給与に反映されるのか計算方法を見ていきましょう。昇給前の基本給が月額20万円で2%のベースアップが決まった場合を例に挙げます。
ベースアップの計算方法
昇給額 = 昇給前の月額基本給 × 昇給率
4,000円 = 20万円 × 2%
上記の例では、ベースアップ後の給与が月額20万4,000円になります。ベースアップは全従業員に対し一律に昇給率が適用されるため、基本給が高い人ほど昇給額が大きくなる点が特徴です。
一方で、定額のベースアップもあります。これは一律3,000円などを基本給に上乗せする方法で、低賃金の人ほど昇給率が大きくなります。
tips|実質賃金と名目賃金
一斉に給与を引き上げるベースアップは、名目賃金と実質賃金のギャップを減らし、労働者の可処分所得(自分で使えるお金)を増加させる役割もあります。
名目賃金とは、実際に労働者に支払われた給与の金額のことです。これに対し実質賃金は、名目賃金から消費者物価指数を差し引いた指標、つまり物価を考慮したより体感に近い賃金の値であるといえます。
2020年から2023年にかけては、名目賃金が上昇傾向にあるものの物価上昇には追いついておらず、実質賃金の減少が続いています。春闘でのベースアップに注目と期待が集まっています。
2.ベースアップ実施企業数の現状
実施企業の割合は増加

厚生労働省が実施した「賃金引上げ等の実態に関する調査」を見てみると、年によって消費増税や世界経済の低迷などの影響によりベースアップを実施した企業の割合に差がありますが、2015年と比べ2倍以上の水準となっています。
2021年まではコロナ禍の影響で実施に消極的な姿勢が見られましたが、2022年以降は急激な物価上昇に加え、労働力の需要が高まっていることなどから賃金の引き上げに応じる企業が増えた様子が伺えます。
景気により実施の有無は左右される
高度経済成長期には毎年2〜5%の上昇率でしたが、2000年以降はデフレのために企業側による賃上げ拒否がおこなわれるなど、ベースアップは景気による影響を大きく受けやすいです。
ベースアップすると基本給をもとに算出される保険料や残業代も増え、全体的に人件費が増加します。その後景気が低迷しても賃金を下げるのは難しいため、ベースアップに消極的な企業もあります。
3.医療・福祉業界におけるベースアップの現状
2024年に実施率が3割前後まで回復

医療・福祉業界におけるベースアップ実施率の推移を見てみると、全産業と比べて2022年までは低い割合となっていました。コロナ禍による経営悪化などの影響があったものの、2022年以降は急激な物価上昇への対応や人材の長期雇用などを目的に、ベースアップの実施に踏み切る企業が増えたようです。
2023年は20%を下回ったものの、2024年には介護現場への「介護職員処遇改善支援補助金」支給などの影響もあり、実施企業の割合は30%前後に回復しています。

医療・福祉業界における賃金の昇給額・昇給率の推移を見てみると、2023年に昇給率が1%台に下がったものの、2024年には2.5%まで再び上昇しています。
一般社団法人日本病院会などがおこなった「医療機関における賃金引上げの状況に関する調査」によると、2023年に定期昇給のみ実施している病院は69.0%、ベースアップを含む賃上げを実施している病院は23.3%、賃上げ未実施の病院は7.7%という結果でした。

病床規模別で見てみると、ベースアップと定期昇給の両方またはいずれかを実施した(予定含む)医療機関は200〜399床の医療機関で95%を超えるという結果でした。未実施の割合は20〜99床で多く、賃上げに消極的な様子が伺えます。
昨今、医療・福祉従事者の処遇改善が求められていますが、いまだすべての企業が応じられない現状が伺えます。労働に見合う待遇が得られないと、モチベーションの低下や離職につながりかねません。ベースアップや一時金、賞与などによる処遇改善が講じられることが望ましいです。
介護職員等ベースアップ等支援加算が新設
2022年におこなわれた介護報酬改定により、介護職員を対象とした「介護職員等ベースアップ等支援加算」が新設されました。これは、介護職員を対象とし、月額3%程度(月額平均9,000円)の賃金引き上げを目指す制度です。なお、企業ごとの判断により看護師などほかの職員の処遇改善に充てることも可能としています。
厚生労働省の「介護職員の処遇改善に関する加算等の取得状況」によると、2023年度における介護職員等ベースアップ等支援加算の取得状況は93.4%という結果でした。国は2040年までに必要な介護人材を約280万人と推定しており、今後ますますニーズが高まる介護職員の処遇改善は喫緊の課題です。
4.賃金が改善されなければ転職もアリ
従業員の勤続年数や役職にかかわらず一律に基本給を引き上げるベースアップ。モチベーションの維持や生産性の向上などの効果が見込まれる一方、景気や業績に左右される側面もあります。
企業規模によってはなかなか踏み切れないところも少なくありません。賃金が上がらず、今後のキャリアについても見通しが立たない場合は、より待遇が良いところへ転職するという手もあります。賃金や業務内容、働く環境など自分の条件に合う職場を探してみても良いでしょう。
参考