※本記事は2022年1月13日時点で政府より公表されている情報を基に作成されました。内容は今後変更される可能性があります。
※2022年3月15日一部追記
1.賃上げ政策の概要
2022年2月から9月までの間、介護・障害福祉職員、看護職員、保育士・幼稚園教諭・放課後児童支援員などを対象に、月額平均4,000円〜9,000円(収入の1〜3%程度)の賃上げが実施されます。
対象職種 |
対象施設 |
交付額 |
介護・障害福祉職員 |
処遇改善加算Ⅰ~Ⅲのいずれかを取得する事業所(※1) |
月額平均9,000円(収入の3%程度) |
保育士・幼稚園教諭・放課後児童支援員ほか(※2) |
国や自治体の定めにより運営される所定の教育・保育施設 |
月額平均9,000円(収入の3%程度) |
看護職員(看護師、准看護師、保健師、助産師) |
コロナ医療など一定の役割を担う医療機関(※3) |
月額平均4,000円(収入の1%程度) |
※1:処遇改善加算対象のサービス例…訪問介護/訪問入浴介護/通所介護/通所リハビリテーション/特定施設入居者生活介護/認知症対応型通所介護/小規模多機能型居宅介護/看護小規模多機能型居宅介護/認知症対応型共同生活介護/介護老人福祉施設/短期入所生活介護/介護老人保健施設/介護療養型医療施設/介護医療院/重度訪問介護/同行援護/行動援護/重度障害者等包括支援/自立訓練/就労移行支援/就労継続支援/共同生活援助/施設入所支援/短期入所/療養介護/児童発達支援/放課後等デイサービス など(介護予防サービスを含む)
※2:保育所、幼稚園、認定こども園、地域型保育事業の公定価格の対象の事業所で働く職員や、放課後児童クラブの職員、児童養護施設、乳児院、児童自立支援施設、児童心理治療施設、母子生活支援施設、自立援助ホーム、ファミリーホームの職員、および公定価格の対象でない私学助成を受ける幼稚園の教諭等
※3:救急医療管理加算を算定する救急搬送件数200台/年以上の医療機関および三次救急を担う医療機関
今回の賃上げは、所定の条件を満たす事業所に対して賃上げの原資として補助金が交付され、それが従業員の給与に反映される仕組みとなっています。交付金を得るには勤務先の事業所が自治体に対して申請をおこない、承認を受ける必要があります。
また、対象職種についても注意点があります。「介護職員」の場合、利用者や入居者に対して介護をおこなう職員のみが対象であり、同じ施設で働くケアマネジャーや相談員、看護師、リハビリ職、栄養士・調理師、事務職などは対象外となります。「看護職員」についても、看護助手や看護補助者は対象外です。
ただし場合によっては、対象外の職種であっても補助金の一部をもらえる可能性があります。政府の資料には「他の職員の処遇改善にこの処遇改善の収入を充てることができるよう柔軟な運用を認める」と記載されています。つまり事業所の判断次第ではありますが、賃上げの対象とならない職員(ケアマネジャー、相談員、リハビリ職、看護助手、事務職など)にも、補助金の一部を割り当てることが認められています。
なお、補助金の交付額は常勤換算によって算出されます*。そのため契約職員やパート・アルバイトなどの非正規職員も賃上げの対象となります。
*保育所・幼稚園・認定こども園・地域型保育事業に関しては、常勤換算による方法ではなく児童数を基に算出されます
2.今後の論点
今回の賃上げ政策は、2021年10月に発足した岸田内閣の肝入り政策の一つです。かねてより産業全体と比較して賃金が低いことが問題とされてきた介護や保育業界において、賃金アップが図られること自体は前向きに受け止められています。しかし業界関係者や現場職員の間では、その具体的な内容について疑問視する声も聞かれます。
・対象者は全額を受け取れるのか?
まず指摘されるのは、対象となる職員に補助金の全額が行き渡らない可能性があること。今回交付される補助額の3分の2は賃金のベースアップ(基本給または毎月決まって支払われる手当)に使用することが定められていますが、残り3分の1の扱いは各事業者の裁量に任されています。さらに前述のとおり、交付対象とならない職員への分配も認められているため、一人あたりの交付額がさらに少なくなる点も懸念されています。
・一時的な補助金で終わる? その後の方針は?
今回の賃上げは2022年2月から9月までの8ヶ月間と期間が限定的です。政府の資料によれば交付終了後の2022年10月以降においても、今回の賃上げと同水準を維持することが前提とされています。しかし介護や医療、保育といったサービスの性質上、国が定める公定価格(介護報酬や診療報酬)が見直されない限り継続的な賃上げは難しいのが現実です。
そのため、介護・障害福祉職員については臨時の介護報酬改定をおこない、2022年10月以降も恒久的な加算として組み込む方針が示されています。正式発表はこれからとなりますが、報酬改定後も対象職種の条件や交付額は2月開始の賃上げと同内容になる可能性が高いと見られています(出典:2022年3月15日開催 一般社団法人日本在宅介護協会主催「介護職員処遇改善支援補助金に関する行政説明」セミナーより)。
看護職員については、診療報酬改定をおこなうことで2022年10月以降の看護職員の収入を月額平均12,000円(収入の3%程度)引き上げる見込みとなっています。なお、対象となる医療機関を緊急医療の縛りなく拡大するのか、ほかの医療従事者まで対象に含めるのかといった点についても、検討が進められています。
保育士・幼稚園教諭・放課後児童支援員などについては、2022年10月以降の具体的な方針はまだ明らかになっていません。
*
現時点では不透明な部分も多い今回の賃上げ政策ですが、長年の人材不足を解消する一手となるのか、それとも一過性の施策で終わってしまうのか。今後の動向に注目が集まります。
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参考
- 内閣官房|公的価格評価検討委員会
- 内閣府|通知: 子ども・子育て本部
- 厚生労働省|社会保障審議会(介護給付費分科会)
- 厚生労働省|福祉・介護職員処遇改善臨時特例交付金
- 厚生労働省|看護職員等処遇改善事業