目次
1.年末調整とは
所得税の過不足を精算するための手続き
年末調整とは、1月〜12月の一年間の給与にかかる税金額を算出し、あらかじめ天引きされた税金額(源泉徴収)との差額を精算する手続きです。実際の税金額が源泉徴収額より多ければ差額を納付し、反対に少なければ多く納めていた分が戻ってきます(還付)。
年末調整は勤務先(会社)を通じておこないます。一部の対象外となる人を除き、給与所得者のほとんどは年末調整をもってその年の納税手続きが完了します。
年末調整の詳しい書き方は「3.年末調整のやり方」で説明しています。
年末調整しないとどうなる?
年末調整をしないと、納税上のデメリットが生じるほか、ペナルティを受けることもあります。従業員個人が年末調整の書類を提出しなかった場合は、本人が確定申告をしなければなりません。
会社は従業員の年末調整をする義務があり、適切におこなわない場合、脱税とみなされることがあります。なお、年末調整の書類がきちんと提出されなかったなど従業員の事情による場合は、不正とはみなされません。
年末調整をしなかった場合のデメリット(従業員)
- 還付や控除を受けられなくなってしまう
- 納税が遅れると延滞税(利息)がかかることがある
- 個人で確定申告をする手間が発生する
年末調整をしなかった場合のペナルティ(会社)
- 1年以下の懲役または50万円以下の罰金(所得税法第242条)
- 10年以下の懲役または200万円以下の罰金、あるいはその両方(所得税法第240条)
年末調整をせず、確定申告もしなかった場合、過去にさかのぼって税務調査の対象となり、延滞税や無申告加算税などが発生します。無申告のまま見逃されることはありませんので、必ず期限内に年末調整や確定申告をおこないましょう。
2.年末調整の対象者と控除
年末調整の対象になる人
年末調整の対象になるのは、給料の支払いを受けているほとんどの人です。年の途中から就職している場合も対象となるほか、2ヶ所以上の会社から給料をもらっている人はメインの会社が申告書の提出先になります。
そのほか、個人事業主でも対象となる場合があります。
個人事業主で年末調整の対象となるケース
- 従業員を雇っている場合(雇用側として)
- 青色申告者で、家族を従業員にして給与を払っている場合(青色事業専従者給与)
- 個人事業主としての事業収入が年20万円以下で、ほかに副業などで会社から給料をもらっている場合
年末調整の対象にならない人
年末調整の対象にならないケースは、以下のとおりです。
- 給与が年2,000万円以上の人
- 災害減免法による所得税の軽減免除を受けている人
年末調整で受けられる控除とは
所得税は給与の総額にかかるわけではなく、課税対象にならない金額を差し引いたあとの金額にかかります。この、差し引くことができる額を「控除」といいます。
年末調整で受けられる控除は扶養控除や生命保険料控除など14種類で、種類によって該当する書類が異なります。書類と控除の対応については「年末調整に必要な書類と書き方」で説明しています。
年末調整で受けられる控除早見表
各種控除の具体的な内容は以下のとおりです。当てはまるものがあれば、年末調整で申告して控除を受けましょう。
控除の種類 | 控除の内容・対象となる人 |
---|---|
扶養控除 | 養っている親族がいる人が受けられる控除。16歳以上、同一生計で合計所得金額が48万円(給与所得103万円)以下の人が扶養親族となり、年齢によって控除額が異なる |
障害者控除 | 納税者本人、同一生計の配偶者または扶養親族が所得税法の障害者に該当する場合に受けられる控除。控除額は区分により27万円、40万円、75万円のいずれかで、16歳未満も対象となる |
勤労学生控除 | 学校教育法に規定されている学校や、職業訓練校などの学生・生徒であり、合計所得金額が75万円(給与所得130万円)以下の人が対象 |
寡婦控除 |
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ひとり親控除 | 婚姻をしていない、または配偶者の生死が明らかでない人で、下記要件をすべて満たす人
|
基礎控除 | 合計所得金額に応じて差し引かれる控除(2019年以前は一律)。控除額は合計所得金額2,400万円以下で48万円、2,450万円以下32万円、2,500万円以下16万円、2,500万円を超えると適用外となる |
配偶者(特別)控除 | 合計所得金額が1,000万円以下で、配偶者の収入が一定以下の場合に差し引かれる控除 |
所得金額調整控除 | 以下のいずれかに該当する場合に差し引かれる控除
|
社会保険料控除 | 給与から天引きされる社会保険料を除いた、納税者が直接払った国民年金、国民年金基金の掛金について受けられる控除 |
小規模企業共済等掛金控除 | 小規模企業の個人事業主、経営者、役員を対象とした経営者向けの退職金共済制度で、掛金を支払った分について受けられる控除 |
生命保険料控除 | 生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料を支払った場合に受けられる一定の控除。2012年以降に締結した契約(新契約)の場合、年間の保険料に応じて最大4万円が控除される |
地震保険料控除 | 地震保険の保険料(一定の長期損害保険契約の保険料含む)を払った場合に、金額に応じて受けられる一定の控除 |
住宅借入金等特別控除 | いわゆる「住宅ローン控除」。住宅ローンなどを利用してマイホームの新築や増改築をおこなった場合、一定の要件を満たすと受けられる控除(控除期間13年) |
年末調整と確定申告の違い
年末調整と確定申告は、どちらも一年間の所得を計算し、所得税を精算・納付するための手続きですが、対象者と申告期間、適用できる控除の数に違いがあります。
年末調整 | 確定申告 | |
---|---|---|
手続き | 会社がしてくれる(従業員は書類を提出) | 個人でおこなう |
対象者 | 給与が支払われているほとんどの人 |
|
申告期間 | おおむね11〜12月 ※扶養控除等(異動)申告書は翌年最初の給料日前日が提出期限だが、社内の締切があればそれに従う |
対象年の翌年2月16日〜3月15日 |
控除 | 扶養控除など14種類 | 年末調整で受けられる控除に加え、以下の申告ができる
|
給与所得者の場合、一般的には年末調整のみで所得税の精算・納付が完了しますが、寄附金などがあれば確定申告をしたほうがいい場合もあります。
確定申告について、詳しくはこちらの記事で解説しています
3.年末調整のやり方
給与の支払いを受けている人は、以下の流れで年末調整をおこないます。
- 各種控除に必要な証明書などを用意
- 各種控除の申告書に必要事項を記入・証明書などを添付
- 勤務先に書類を提出
続いて各書類(控除)について詳しく説明します。
年末調整に必要な書類と書き方
各申告書の名称と、対応する控除の種類は以下のとおりです。申告書の裏面には記入上の注意や算出表などがありますので、不明点があるときは参照しながら記載するとよいでしょう。
申告書 | 申告できる控除 |
---|---|
扶養控除等(異動)申告書 | 扶養控除、障害者控除、勤労学生控除、寡婦控除、ひとり親控除 |
基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書 | 基礎控除 |
配偶者控除、配偶者特別控除 | |
所得金額調整控除 | |
保険料控除申告書 | 社会保険料控除、小規模企業共済等掛金控除、生命保険料控除、地震保険料控除 |
住宅借入金等特別控除申告書 | 住宅借入金等特別控除 |
扶養控除等(異動)申告書
年末調整の対象となる全員が提出しなければならない書類です(提出しないと税率が高くなります)。翌年最初の給料日前日までに提出することになっていますが、勤務先で提出期限が決められている場合はそれまでに提出しましょう。
氏名、生年月日、住所、マイナンバー、配偶者の有無の記載は全員共通で、ほかに該当する項目がなければ記入済みの扶養控除等(異動)申告書と、次に説明する基礎控除申告書を勤務先に提出すれば手続き完了です。
扶養対象親族や控除対象配偶者、障害者、寡婦、勤労学生など各種条件に当てはまる場合は該当箇所にチェックを入れ、親族の氏名、生年月日、収入などを記載します。また、年の途中に家族の結婚や就職などで控除対象扶養親族の人数に変更があった場合は、その時点で異動申告書を提出します。
扶養控除について詳しく知る
扶養控除等(異動)申告書の書き方を見る
基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書
これら3つの控除の申告書は、ひとつにまとめられています。基礎控除は2019年(令和元年)までは申告不要で一律に受けられましたが、2020年(令和2年)以降は基礎控除申告書の提出が必要になっています。合計所得金額が2,500万円以内の人が対象ですので、こちらも忘れずに記載・提出しましょう。
なお、扶養控除等(異動)申告書で源泉控除対象配偶者のチェックを入れていても、配偶者控除・配偶者特別控除を受けるにはこちらの申告書を提出しなければなりません。
配偶者(特別)控除について詳しく知る
基礎控除・配偶者控除等・所得金額調整控除申告書の書き方を見る
保険料控除申告書
各種保険料の控除を受けるには、申告書に証明書を添付して提出する必要があります。証明書は保険会社などが発行し、一般的に10月頃に送られてきます。
それぞれの保険料控除に必要な証明書類は以下のとおりです。
保険の種類 | 必要な証明書類 |
---|---|
生命保険 | 保険会社などが発行する証明書 ※旧契約の一般の生命保険料9,000円以下(1契約あたり)のものは添付不要 |
地震保険 | 保険料額にかかわらず保険会社などが発行する証明書が必要 |
社会保険料小規模企業共済等掛金 | 国民年金及び国民年金基金に係る保険料・掛金小規模企業共済等掛金はすべての掛金 |
2019年からは証明書の電子データ添付が認められていますので、勤務先に確認のうえ、電子データで提出することもできます。
住宅借入金等特別控除申告書(2年目以降)
住宅を購入した最初の年は、住宅借入金等特別控除を受けるのに確定申告が必要となります。2年目以降は、控除の対象となる人に税務署から直接申告書が送られてくるので、それを使い年末調整をおこないます。
申告書は、借入先の金融機関が発行した「住宅取得資金にかかる借入金の年末残高等証明書」を参照し金額を記載します。2ヶ所以上から借り入れている場合も、すべての年末残高等証明書にもとづいて記載し、欄に従って控除額を計算します。
控除の対象となるには、12月31日まで居住していること、合計所得金額が3,000万円を越えていないことが条件です。また、連帯債務や借換えをしている場合は、算出額を間違えないようとくに注意が必要です。
初回の確定申告時に控除証明書の電子交付を希望すると、2年目以降の年末調整はペーパーレスで申請することができます。
年末調整はいつまでにやる?
年末調整の書類は翌年最初の給料日前日が提出期限となっていますが、控除申告書を提出したあと勤務先(会社など)では控除内容が合っているかなどの確認をおこないます。そのため、11月下旬〜12月が書類の提出期限とされることが一般的です。
翌年1月を過ぎると、間違いがあった場合に勤務先での修正ができず、自分で確定申告をする必要が生じます。年末調整の書類は、勤務先で決められた期限内にきちんと提出しましょう。
4.年末調整に関する疑問
Q.2社以上から給与をもらっているときの年末調整は?
ダブルワークなど複数の会社から給与をもらっている場合でも、年末調整はメインの1社のみでおこないます(その1社にのみ「扶養控除等(異動)申告書」を提出します)。メインの会社(主たる給与)はほかの会社より長時間働いている・または多く給与をもらっているところにしましょう。それ以外の会社からもらう給与が年20万円を超える場合は確定申告も必要です。
Q.アルバイトやパートも年末調整の対象になるの?
アルバイトなどの場合、年収103万円以下かつ月給8万8,000円を超えなければ、年末調整は必要ありません。源泉徴収されている、年収103万円を超えている、勤務先に「扶養控除等(異動)申告書」を提出しているといった場合は年末調整が必要です。
Q.年末調整と確定申告は両方必要?
多くの場合、年末調整をおこなっていれば確定申告は必要ありません。ただし、副業をしていて年末調整をした会社以外の収入が20万円以上ある、医療費控除や寄附金控除など確定申告でのみ受けられる控除を受けたいという場合は確定申告も必要です。
Q.年の途中で転職したときはどっちで年末調整する?
年の途中で転職した場合は、転職先(新しい会社)で年末調整をおこないます。前職を退職後に源泉徴収票が送られてきますので、それを転職先に提出し手続きをしましょう。
ただし12月入社で12月中に給与の支払いがなければ転職先で年末調整されないため、後日自分で確定申告をする必要があります。退職・入社までに間があり12月に会社に所属していない場合も同様です。
参考
国税庁|年末調整がよくわかるページ