話を聞いた人
ユニバーサルファッション協会理事長 山口大人さん(38)
文化ファッション大学院大学修了。在学中に学生コンペで入賞し、国内外でリメイクブランドを展開。リユースやユニバーサルファッション、サステナブルファッションを専門とし、大学や専門学校で講師を務めるかたわら、各地で講演をおこなう。都内在住・在学の学生等を対象としたコンクール「Next Fashion Designer of Tokyo2024」のインクルーシブデザイン部門(障害者向けファッション)の審査員も務める。2022年9月より現職。
ユニバーサルファッションはあくまで「理念」
ユニバーサルファッションというと、特定の服があるのかと思う人も多いかもしれませんが、実は違います。
ユニバーサルファッションの定義は、「年齢、身体、障がい、性別、国籍などにかかわらず、誰もが豊かなファッションを楽しめる社会を作ることを目指す理念」です。ただ、すべての人を対象としていますが、健常者を対象とした服はたくさんありますので、とくに障がい者や高齢者、LGBTQの方などマイノリティの方もファッションを楽しめる社会を目指しています。
とくに、障がいや加齢などにより機能低下があると次のような悩みを抱えていることもあります。
ユニバーサルファッションの事例
ここからお直しを含む事例をいくつか紹介したいと思います。
ユニバーサルファッションは大きくわけて2種類あります。1つ目がデザインから作りあげていく方法、2つ目が既存の製品を利用者の希望に応じてお直しする方法です。
アイデア出しから始めて商品化するのは大変ですが、「お直し」なら比較的取り組みやすいのではないかと思います。
どちらも「アンコトン」という首都圏を中心に展開しているお直し専門店が手がけました。左はお子さんが治療時に着脱しやすいよう、Tシャツを前開きにした例です。何枚も必要になるとのことで、お気に入りのキャラクターが描かれたTシャツなど、複数枚同じ仕様にリメイクしたそうです。
右は、事故の後遺症で頸髄(けいつい)損傷になり、首から下が動かせなくなってしまった人のパジャマをリメイクした例です。片方の腕から前身頃にかけて全開できるようボタンをつけているので、介護者も着せやすくなっています。
ただ、お子さんの服だとすぐにサイズアウトしてしまうので、親御さんが手作りしているという人も結構いるみたいです。既製品を購入してさらにお直しを依頼するとコストがかかってしまうので。
衣服の一部を交換するだけでスムーズに着られるようになるので、そうした材料を活用する方法もあります。
ユニバーサルファッションはすべての人を対象にしているので、幅広い人を対象とした例としてはこちらのTシャツが挙げられます。
骨折した人用の衣服を手がけるブランド「KIRARERU」の商品です。骨折していると着替えが難しくなりますが、こちらの服は片方の脇下にスナップボタンが付いているため骨折部位を大きく動かすことなく着替えられます。シンプルなデザインなので治療期間だけでなくリハビリ時や普段着としても着用可能です。
また、いわゆる「服」以外に義足などもユニバーサルファッションに含まれます。
こちらは創業50年を迎えるくすおか義肢の未来に向けた取り組み「KYOTO gishi*design」が制作した義足と装具です。伝統技法を取り入れるなど、義肢を使う人だけでなく伝統工芸の担い手との共創も見据えた持続可能な生産手法をとっているのが特徴です。
ユニバーサルファッションの課題
例に挙げたようにユニバーサルファッションを手がけるブランドやお直し屋さんはいくつかありますが、本当に少ないです。大手アパレルメーカーも取り組んでいましたが、いまはもう生産していません。
障がいや病気によって人それぞれニーズも異なります。非常にニッチな分野でもあるので、デザインを一から起こして継続的に商品化するのはハードルが高いと言えます。
また、購買者が多いわけではないので大量生産に踏み切れず、リーズナブルな価格で提供できていないのが実情です。ビジネスとして成り立たせることの難しさは、ユニバーサルファッションが浸透しきれない背景の一つであり課題です。
ファッションは心を前向きにしてくれる
以前、お直しをおこなっている会社の人に聞いた話で印象的だったのが、障がいがある人は「着たい服ではなく着られる服を選んでいる」ということでした。
ファッションは気持ちを前向きにする力を持っています。
手がけるメーカーもまだ多くありませんが、当協会では引き続きユニバーサルファッションの理念やお直しを含めたサービスなどの認知拡大を目指しています。
その一環として、お直しに活用できるパーツを紹介した「服飾資材BOOK」の作成をおこなっているほか、アパレル業界、医療・福祉業界、当事者が意見を出し合えるプラットフォームづくりも視野に入れています。
誰しもが好きなファッションを選択でき、より多くの人が社会参加や外出を楽しめるようになることを願っています。