お笑い芸人にとどまらず、女優、作家など、キャリアの幅を広げる鳥居みゆきさん。
発達障害やグレーゾーン(発達障害の特性は見られるものの確定診断が出ていない状態)の人に向けた番組『でこぼこポン!』の出演をきっかけに発達障害について学び、この春、ふたつの資格を取得しました。
前編では、学びのなかで何を見つけ、どのような環境の変化があったのかを探ります。(前後編の前編/後編はこちら)
話を聞いた人

鳥居みゆき
2000年に芸人デビュー。白装束で踊る「ヒットエンドラン」のネタでブレイク。映画やドラマ出演のほか、著書に『夜にはずっと深い夜を』『余った傘はありません』(幻冬舎)、『やねの上の乳歯ちゃん』(文響社)がある。発達障害をテーマにした番組『でこぼこポン!』(Eテレ)に出演中。
無責任なことは言えないから、障がいについて知ろうと思った
──Instagramで「児童発達支援士」と「発達障害コミュニケーションサポーター」の取得を報告されました。それぞれどのような資格か教えていただけますか?
鳥居みゆきさん:児童発達支援士は、発達の特性を理解して子どもの成長をサポートする資格です。発達障害といっても人によって違いますので、それぞれの個性に合ったアプローチの方法を学びます。
発達障害コミュニケーションサポーターは二次障害*を防ぎながらコミュニケーションを図り、自己肯定感を高める支援をする資格です。さらに、人間関係や社会生活を円滑にするコミュニケーションスキルを身につけるための知識を学びます。

──資格を取ろうと考えたのはなぜですか?
『でこぼこぽん!』に出演するようになって親御さんから発達に関する相談を受ける機会が増えました。でも、うまく答えられなくて、それがイヤだったんです。「うちの子、3歳なのにおしゃべりしないんです。大丈夫ですか?」などと聞かれても「専門家じゃないんだからわからないよ」と思っていました。
でもそれって、相談してくれる人に対して不誠実ですよね。気持ちにはこたえたい、でも無責任なことは言えない。それなら障がいについてちゃんと知ろうと思ったんです。的確なアドバイスはできないかもしれないけど、“でこぼこ”の特性を理解したうえで話を聞くことならできるなって。
──ちゃんと知ろうと決めて、勉強を始めたのはいつからですか?
資格を取ろうと考えたのは2023年末で、教材が届いたのは1月25日です。そこから勉強を始めて、児童発達支援士は2月5日に、発達障害コミュニケーションサポーターは2月20日に試験を受けて合格しました。
そもそも、発達障害コミュニケーションサポーターを受験するつもりはなかったんですけど、教材を2つセットで申し込むとお得だったんですよ。

鳥居みゆきの勉強法とは?
──児童発達支援士は教材が届いてから10日で合格したんですね!
興味のあることは寝ずにやれちゃうので、テキストが届いた日から夢中になって読みました。本来は数ヶ月間勉強して覚えるべきものらしいのですが、一度読み終えると「あれ? 内容が頭に入ってるじゃん」と思ったんです。それでオンライン試験に申し込んで受験してみたら合格しました。
今回の試験は、私の人生のなかでも勉強したほうです。学生時代から記憶力が良かったので、テストは一夜漬けで受けていたんですよ。でも、その瞬間に覚えたことってすぐに忘れてしまうんですよね。
発達に関することは今までと同じじゃダメだ、ちゃんと覚えようと思って、一つひとつのことを咀嚼しながら理解しました。
──言葉の意味を調べたり、ノートに書き写したり?
書き写すというより、理解したことを頭の中で要約して書き出す方法です。私まとめるのが好きなんですよ。児童発達支援士は4ページ、発達障害コミュニケーションサポーターは2ページにまとめました。

久しぶりに勉強するから勉強グッズを揃えようと思って、とりあえず赤ペンと暗記用の緑シートを買ったんです。でも使い方を間違えているからシートで隠しても文字が見えちゃうんですよ(笑)。どう使えばいいかわからないから、シートはアンダーラインを引くための道具にしました。
色付きの付箋も使ってみたんですけど、いつの間にか色の意味を忘れちゃっていて。やっぱりこういうことがうまくできないんだなと改めて感じましたね。でも、そこも愛嬌だなって(笑)。

「人の役に立ちたいんです」
──勉強して改めて知ったことはありますか?
私はいわゆる発達障害を特性や個性だと考えていました。だから『でこぼこポン!』の台本の困りごとを読んでも「これ私に当てはまるな。じゃあ変わってない(障がいではない)じゃん」と思っていたんです。
でも勉強するなかで、脳の機能障害であることを知りました。突然大きい声を出しちゃうのは世間一般の目線では変わっているんですね。
──発達障害の基礎から学んだんですね。
そうなんですよ。勉強自体すごくおもしろかったし、知識が身についてうれしかった。
応用できることも覚えましたよ。例えば、ウィリアム・ジェームズという心理学者が唱えた習慣を身につける方法です。何か良いことをしたら60秒以内に“快”なこと、つまり気持ちいいことを与える、これを200回繰り返すと習慣にできるらしいんですよ。
例えば片付けを習慣化させたいとしますよね。子どもが片付けをしていたら60秒以内に褒めたりご褒美をあげたりする。これを200回繰り返すと片付けを習慣化できるらしいです。
あと、興味深く読んだのは「心の多重構造」です。(ページをめくりながら)どこだったかな……すごくおもしろかったから付箋貼ってるはずなんですけど……あった! 付箋貼ってませんでした(笑)。

私たちの心はいくつかの層になっていて、中心のほうには「自分さえよければいい」と考える利己心が、その奥に「人の役に立とう」という利他心があるんですって。
なるほどなと思いました。モテたいから、知名度を上げたいから、お金がほしいから芸人を続けている、これは利己心です。でも、もっと奥深くには人を笑顔にさせたいという思いがある、これが利他心です。
私はずっと自分さえよければいいという利己心で生きてきたんですけど、発達障害について学んでから利他心を意識するようになりました。私、人の役に立ちたいんです。
資格を取ってわかった「みんな普通に話したい」

──資格取得を公表してから周囲の人から反応はありましたか?
「実はうちの子も障がいがあって……」と話してくれる人が増えました。みんな子どものことを普通に話したかったと言うんですよ。
──普通に、というのは?
療育施設(障害のある子どもが通所する施設の総称)の担当者さんに相談するようにじゃなく、「うちの子、おもちゃをすごく几帳面に並べて遊ぶのよ」「何それ、すごいね!」みたいな、子どもの様子を普通に話して、普通のリアクションがほしい、そんな思いがあったみたい。
話を聞くと「子どもがこんなことをしていて、すごくかわいかったのよ」って言うわけ。子どものかわいいところを誰かに伝えたい、そんな思いを私が受け止められるなら資格を取って良かったです。
あとね、街中でも親御さんに話しかけられることが増えたから、コミュニケーション能力が上がりました(笑)。
──そうなんですね! 人と接するときに意識していることはありますか?
苦手意識を持たずに接しようと心がけています。昔はね、この人苦手だな〜って思ったら、その人を避けていたんです。でも私が「苦手だ」と思うと、相手も同じ気持ちになっちゃうから。自分が変われば人も変わる、そう折り合いをつけています。
──そう思えるようになったのは、発達障害を学んで成長したからですか?
信念はあまり変わってないから子どものまま大人になってる感じだけど、勉強を通して人の気持ちを考えるようにはなりましたね。
後編「ありのままを受け入れる鳥居みゆきの生き方「発達障害の診断を受けないのはそう選んだから」に続く