永春会とは
永春会(えいしゅんかい)は、千葉県松戸市に拠点を置く社会福祉法人です。2005年の創設以来、地域に根ざしたサービス提供を続けています。
柱となるのは「高齢」「保育」「障がい福祉」の3つの事業です。特徴的なのは、高齢者向けの不動産事業や身元保証サービス、介護や福祉の仕事紹介、資格取得スクールといった幅広い関連事業まで運営している点です。永春会とグループ会社である株式会社マザーライクを含めた「秋桜(こすもす)グループ」全体の職員数は約700人に上ります。
社会福祉法人を母体とした組織がなぜこれほど多様なサービスを手掛けているのか。永春会理事長の吉岡さんに、地域で果たすべき役割や強み、そして今後のビジョンについて聞きました。
話を聞いた人
理事長 吉岡 俊一さん
松戸で生まれ育ち、大学卒業後は家業の農業に約10年間従事。祖母の認知症発症をきっかけに介護業界に課題を感じ、老人ホームの創設を決意する。2005年に35歳で永春会を設立し、理事および特養施設長に就任。その後、前理事長である父親の引退に伴い二代目理事長に就任、現在に至る。
「必要ならつくろう」でサービスを拡大
──家業である農業を辞めて老人ホームを立ち上げたと聞きました。創業のきっかけを教えてください。
吉岡さん:認知症の祖母が介護サービスを受けるようになったことがきっかけです。感情の起伏が激しかった祖母が、楽しそうにデイサービスへ通う様子を見て「福祉の力はすごい」と実感しました。
祖母が入所するかもしれないので老人ホームを調べてみると、まったく空きがなく、特別養護老人ホーム(特養)にいたっては300〜400人待ちという状況でした。それで、施設が足りないのだったら自分でつくろうと決心しました。
経営どころかサラリーマンの経験すらなかったので、労働法や組織運営を学び、実際の介護現場も経験させてもらいました。役所に相談すると老人ホームの開設希望者が私の前にも数人いたため、実際に開設するまで5年もかかってしまいました。
──松戸を選んだのは、ご自身が生まれ育った場所だからですか?
ええ。私の家は江戸時代から先祖代々、松戸で農業を営んできました。私の代で農業は辞めてしまいましたが、福祉を通じて地元のためになることをしようという思いが根幹にあります。
──特養から始まり、その後は保育園、障がい福祉施設と業態を広げています。高齢者介護に留まらず、違う業態を始めたのはなぜでしょうか。
以前、SNSで「保育園落ちた日本死ね」が話題になっていましたよね。ちょうど同じ時期に我が家も保育園探しをしていたのですが、松戸も待機児童が多く、希望の園に入れない状況でした。なので特養と同じように、足りないのであればつくろうと「こすもす保育園」を立ち上げました。
2022年には聴覚障がい児専門の入所施設「アレーズ秋桜」を開設しましたが、これにも経緯があります。親元で暮らせない子どもたちが入所する施設は各地にありますが、聴覚障がいのある子ども専門というのは、全国でも葛飾区の1施設のみでした。その施設が廃業の危機にあると知り、当時の施設長に手伝えることはないかと連絡をした結果、事業譲渡する形で永春会が運営を引き継いだのです。
入所施設の閉鎖は、そこで暮らす子どもたちの家がなくなってしまうのも同然ですし、実は私の子どもも軽度の聴覚障がいを持っているので、他人事ではなかったんですよね。
社福×企業の強みで描ける多様なキャリアパス
──永春会を設立した翌年には「株式会社マザーライク」を創業しています。社会福祉法人に加えて株式会社を始めたのはなぜですか?
社会福祉法人と株式会社は、それぞれ長所と短所があります。社会福祉法人は非営利法人として公共性を重視するため、株式会社と比べ税制優遇措置や補助が充実しています。ただその分規制も多く、何を決めるにも役員会や行政の許可が必要なため時間がかかります。一方、株式会社は規制が少なく事業展開が早いので、社会福祉法人で数年かかっていたことが数ヶ月で実現できたりもします。
地域の福祉に重きを置く社会福祉法人と、組織の成長速度を上げる株式会社。ふたつの運営主体を組み合わせることで、さまざまな相乗効果を発揮できます。
──グループ会社では不動産業や人材業、資格取得スクールの運営などまで手掛けていると聞き、驚きました。
一見すると福祉に関係ないサービスに見えますが、実はどれもつながっているんです。たとえば不動産業ですが、高齢者になると物件を借りづらいことが問題視されていますよね。保証人の不在や孤独死の問題などで入居を断るオーナーさんが多いので、うちでは定期巡回による見守りサービスをセットで提案し、入居者さんにもオーナーさんにも安心して利用いただけるようになっています。また転居や入院時に必要となる身元保証の会社も運営しています。
資格取得スクールはもっとわかりやすく、介護職員初任者研修の学校を運営しています。対象となるのはすでに介護の仕事をしている人や、これから介護職に挑戦したいという人たちですね。また環境を変えて働きたいという人には、人材紹介・派遣業を通じて地元の医療・福祉の仕事を紹介することもできます。
──たしかにどの事業も、利用者の生活や福祉の仕事とつながっていますね。
はい。秋桜グループの強みは、キャリアの選択肢が多様にあることです。一つの仕事を続けていると、ほかの職種や環境に挑戦したくなることもあると思います。そんなとき、一般的には転職すると思いますが、永春会では異動や移籍の形で叶えることができます。
例えばケアマネジャー資格を持つ職員が地域包括支援センターと高齢者住宅を経験したあと、初任者研修スクールの校長になったケースや、事務職員が総務課長を経て就労継続支援B型の管理者になったケースなどがあります。
とくに未経験ですと、高齢者福祉と障がい福祉のどちらに向いているかわからないという人が多いです。それが永春会なら一方を経験したあと、もう一方もやってみることが可能です。描けるキャリアパスの多彩さに魅力を感じてくれる人は多いですね。
離職率を20%下げた取り組み
──多様なキャリアを選べる分、職員の定着率も高くなりそうですね。
ええ。ここ数年は新規事業により年間採用者数が増えているため、もう少し高い数字にはなっていますが、それまでの離職率は毎年8%程度で、業界水準で見ても低いほうだと思います。ただ、ここまで下げるまでには長い道のりがありまして……創業1年目の離職率は、28%もあったんですよ。
これはまずいと思い、改善を進めました。まず、離職率がこれほど高い理由を探るため職員にアンケートを取りました。すると「身体的につらい」と回答していた職員の離職率がもっとも高いことがわかったんです。
永春会の施設は駅から歩いて30分程度かかることもあり、通勤距離が大きな負担になっていました。そこで職員用駐車場を拡大し、駅と施設を行き来する専用送迎バスの一日8便運行を開始しました。さらに施設近くに社宅も用意しました。
──徒歩30分の削減は大きいですね。
また、それぞれの事情で夜勤が難しい人や、休日数を増やしたい人もいますよね。そういったニーズに応えられるよう、「選択制正職員制度」を設けました。正職員でありながら、「夜勤なし」「休日指定(年間休日120日)」「週休3日制」の働き方が選べる制度です。
全員夜勤なしとはできないので人数制限はありますが、現在は希望者枠をほぼ超えずに運用できています。通常勤務の正職員が不公平に感じないよう、待遇で差をつけてメリハリある制度にしているので、納得感が得られていると思います。
このほかにも残業ゼロの取り組みや、正職員のダブルワークも条件付きで可能にしています。こういった取り組みが功を奏して、約10年かけて離職率を改善してきました。
地域に根ざし、松戸で一番の法人を目指す
──現在永春会で働いている職員はどんな人が多いですか?
一言で表現するならば、優しい人が多いですね。出世して上を目指すというよりも、周囲と協調して働きたいという人が多い印象です。
職員がアイデアを出し合い、町内会イベントの手伝いや近隣の小中学校との合同イベント、クリーン活動、被災地支援の活動などにも積極的に取り組んでくれる人が多いです。
──本業以外でも地域に根ざした活動が多いのですね。採用時に重視している点はありますか?
人柄はもちろんですが、永春会について知っていただいたうえで「永春会だから働きたい」と私たちの考えに共感してくださる方ですね。
──来年で設立20周年を迎えるとのことですが、今後の展望を教えてください。
永春会のミッションは「秋桜にかかわるすべての人に笑顔を…」です。利用者、職員、地域の方全員が笑顔になれるような活動を続けて、この松戸で一番の法人になりたいと思っています。
私たちの活動について知っていただくために、今後はもっと採用やブランディングにも力を入れて、新規事業も立ち上げる予定です。新しいチャレンジをするのが好きな方、コツコツ丁寧に仕事をしたい方、自分らしい働き方をしたい方──全員にフィットする環境だと思います。
笑顔で働ける環境をつくっていくので、ぜひ一緒に働きましょう!