目次
1.精神科病院とは
精神障害の専門治療やケアをおこなう医療施設
精神科病院とは、精神に障がいや疾患のある人に対し専門的な治療やケアを提供する、20床以上の入院施設を持つ医療機関です。通院や入院によって患者へ治療をおこなうだけでなく、家族へのサポートもおこないます。
全国には1,057ヶ所の精神科病院があり、病院総数の約13%を占めます(2023年時点)。精神障がいのある人は、内部疾患を併発するケースもあることから、精神科以外にも、内科や心療内科、脳神経内科などの診療科を持つ機関もあります。
メンタルクリニック・精神科診療所・心療内科との違い
精神科病院と似た機能を持つ医療機関として、メンタルクリニック・精神科診療所、心療内科があります。これらの主な違いは、病床数と入院施設の有無、対象疾患です。
精神科病院 |
メンタルクリニック・精神科診療所 |
心療内科 |
|
---|---|---|---|
病床数 |
20床以上 |
無床または19床以下 |
さまざま |
入院 |
可 |
設備があれば可 |
設備があれば可 |
対象疾患 |
精神に起こる 症状・疾患全般 |
精神・身体・神経に起こる症状・疾患 |
心が原因で起こる身体の不調 |
メンタルクリニックや精神科診療所は、精神科や神経科、心療内科などの精神科領域の医師が在籍する医療機関で、19床以下の施設か無床である点が特徴です。外来が中心となるため、入院が必要な場合は転院するケースもあります。土日祝日や比較的遅い時間まで開いている施設も少なくないため、仕事や生活状況に合わせて通院しやすいといえます。
心療内科は、心理面の不調によって起こる体の症状(心身症)を扱います。例として、うつ病による食欲不振や体の痛み、適応障害による頭痛やめまいが挙げられます。精神科病院のなかで、精神科と心療内科どちらも掲げている機関もあり、症状によってどちらの科が適しているか判断し、対応します。
病棟の種類
精神科病院には大きく2種類の病棟があります。1つ目が、日中自由に出入りできる開放病棟です。患者の意思で入院した場合は、開放病棟に入院します。
2つ目が、病棟の出入りを職員が厳しく管理している閉鎖病棟です。家族の同意による入院や、後述する措置入院の場合などに利用されます。
いずれの病棟も、患者の尊厳を尊重し人権に配慮した医療提供が求められています。
2.精神科病院の患者数の推移と対象疾患
患者数の推移

精神疾患のある患者数を見てみると、総患者数は614万9,000人(2020年時点)と、15年前の302万8,000人と比べて2倍以上に増えています。
とくに、入院患者が減少傾向にあるのに対し、外来患者数が増加しているのが特徴です。この背景として、国が2004年に提唱した「精神保健医療福祉の改革ビジョン」において、入院から地域生活へのシフトが掲げられ、地域包括ケアシステムの構築が進められたことがあります。こうした施策の結果として、過去15年間における平均在院日数も327.2日から277.0日(2020年時点)と、50.2日少なくなっています。
対象疾患
精神科で対象とするのは、統合失調症や双極性障害、うつ病、気分障害、認知症、てんかん、アルコールや薬物依存症、摂食障害などさまざまな疾患が挙げられます。

厚生労働省がおこなった調査によると、外来で最も多い疾患は躁うつ病を含む気分(感情)障害(31.7%)で、神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害(21.1%)と続きます。
なかでも、アルツハイマー型認知症は15年間の間で約7.3倍、躁うつ病を含む気分・感情障害は約1.8倍と著しく増加しています。

一方、入院で最も多い疾患は統合失調症、統合失調症型障害および妄想性障害(50.8%)で、認知症・アルツハイマー病(16.2%)の順です。
3.入院形態の種類
精神科の入院形態は、精神保健福祉法で以下の4つに定められています。精神科入院患者のうち半数近くを任意入院と医療保護入院が占め、措置入院、応急入院はわずかとなっています(2022年時点)。
任意入院
患者本人の意思によって入院する形態です。原則的に自由に出入りのできる開放病棟に入院することが一般的ですが、本人が同意した場合は閉鎖病棟へ入院することもあります。
医療保護入院
病気の症状などにより、本人が入院に同意できない場合に限り、精神保健福祉法で定められた指定医と家族の同意によって入院する形態です。家族には、配偶者や父母、祖父母、兄弟姉妹、子、孫のほか後見人が含まれます。
措置入院
警察などに保護され自傷他害の恐れがある患者に対し、指定医2名が必要性を認めた場合に、都道府県知事の命令によって入院させる形態です。緊急時は指定医1名による判断でも、72時間以内に限り措置入院ができます。
応急入院
指定医による診察で入院の必要性が認められた場合に、本人や家族の同意なしに入院させる形態です。入院は72時間以内に制限されています。
4.精神科病院で働く
ここからは、精神科病院で働く職種とそれぞれの仕事内容を紹介します。
配置基準
大学病院等* |
左記病院以外 |
|
---|---|---|
医師 |
患者16人につき1人 |
患者48人につき1人 |
看護職員 |
患者3人につき1人 |
患者4人につき1人
*当面、患者5人につき1人、または看護補助者を合わせて患者4人につき1人 |
薬剤師 |
患者70人につき1人 |
患者150人につき1人 |
*大学病院のほか、内科、外科、産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科を有する100床以上の特定機能病院以外の病院
医師
症状に関して患者や家族に問診するほか、診断テストなどの検査を実施し、薬物や入院による治療をおこないます。精神保健福祉法に定められる指定医の認定がなくても、精神科医として働けますが、指定医の資格を取得するには、以下の要件を満たす必要があります。
- 5年以上の診断または治療経験
- 3年以上の精神障害の診断または治療経験
- 厚生労働省が定める精神障害に関する診断・治療経験
- 厚生労働大臣が定める研修課程を修了
看護職員
精神科では、心理的、身体的な幅広い症状のある患者を対象とするため、個々に合わせた病状の把握とアセスメント、服薬管理をおこないます。また、危険行為の防止や安全管理は一般病棟よりも厳格におこなわれます。
日本精神科看護協会では、精神科領域における質の高い看護ケアを実践することを目的に、精神科認定看護師制度を実施しています。看護師としての実務経験5年、うち3年以上の精神科看護経験が受験資格となっています。
薬剤師
基本的な業務は調剤、服薬指導、服薬管理です。とくに、精神科では治療が長期にわたるケースも多いため、服薬への理解を得る必要があります。また、薬物療法の効果・副作用の発現が患者ごとに異なるため、本人の希望や効果に合わせた提案を医師におこなうことも大切な業務です。
5.精神科病院の現状と今後
精神科病院は、精神に障がいがある人を対象に専門的な治療を提供する医療機関です。入院患者の数は減少しているものの、外来患者の増加に伴い総患者数も増えています。
国は、2005年の精神保健福祉法の改正に合わせ、「入院医療中心から地域生活中心へ」という方針を掲げてきました。平均在院日数は減っているものの、諸外国が平均1週間から数ヶ月程度なのに対し、日本はいまだ突出して長いのが現状です。
今後、高齢化に伴う認知症の増加や患者の高齢化、すでに外来の約半数を占めるうつ病などの気分障害、ストレス関連障害への治療ニーズも見込まれます。
精神科病院は対象となる疾患やその症状も多様なため、専門的な知識が求められる職場です。大変さを伴いますが、患者が回復し元気になっていく姿を見られることは、やりがいのひとつといえるでしょう。
参考
e-Gov|精神保健及び精神障害者福祉に関する法律