目次
- 1. 精神保健福祉士とは?
- ・心の病や悩みを抱えた人の生活を、さまざまな領域からサポートする
- ・精神保健福祉士と社会福祉士の違い
- 2. 精神保健福祉士になるには?
- ・精神保健福祉士資格が必要
- ・精神保健福祉士国家試験の概要
- ・精神保健福祉士試験の合格率の推移
- 3. 精神保健福祉士の仕事内容
- ・医療に関する支援
- ・住居に関する支援
- ・就労・就学に関する支援
- ・家族への支援
- ・人権擁護
- 4. 精神保健福祉士の勤務先
- ・障害者福祉関係
- ・高齢者福祉関係
- ・医療関係
- ・行政機関
- ・学校教育関係
- ・司法関係
- ・その他
- 5. 精神保健福祉士の働き方
- ・精神保健福祉士の一日
- ・精神保健福祉士の休日
- 6. 精神保健福祉士の給料
- ・【雇用形態別】精神保健福祉士の年収分布
- ・【サービス別】精神保健福祉士の年収相場
- 7. 精神保健福祉士の将来性
1. 精神保健福祉士とは?
心の病や悩みを抱えた人の生活を、さまざまな領域からサポートする
精神保健福祉士は精神科ソーシャルワーカー(PSW:Psychiatric Social Worker)とも呼ばれ、心の病や悩みを抱えた人(クライエント:相談者)の日常生活や社会復帰を援助する専門職です。
精神保健福祉士が誕生する以前から、精神科医療機関を中心に精神科ソーシャルワーカーと呼ばれる専門家が存在していました。その後、1997年の精神保健福祉士法の施行により、国家資格として精神保健福祉士が新設されました。
主な役割は、クライエントの障害特性や人となり、周囲の環境をふまえて課題を明らかにし(アセスメント)、課題を解決するための情報提供や助言、精神障害者を支援する制度や施設といった社会資源との連携、適切な訓練をおこなうことです。
過去5年間で、精神保健福祉士の登録者数は約4,000人のペースで増え続け、2021年時点での登録者数は10万人程度となっています(社会福祉振興・試験センター)。
精神保健福祉士と社会福祉士の違い
どちらも国家資格であり名称が似ていますが、支援対象が異なります。精神保健福祉士の支援対象は心の病や悩みを抱えた人です。
一方で社会福祉士の支援対象は幅広く、精神障害以外にも身体障害や知的障害のある人、高齢者や生活困窮者、虐待を受けている人など、生活に困っているあらゆる人を対象としています。
精神保健福祉士も社会福祉士も名称独占資格
国家資格には「業務独占資格」と「名称独占資格」があります。
例えば医師は業務独占資格にあたり、診察をはじめケガや病気を治療するための手術といった医行為(医療行為)は、医師でなければおこなうことができません。これらの業務を医師免許を持たない人がおこなうと医療法違反となります。
一方で精神保健福祉士は名称独占資格です。国家試験に合格し、登録を受けなければ精神保健福祉士を名乗ることはできません。しかし精神保健福祉士の資格を持っていない人でも、精神障害者を対象とした相談支援の仕事に就くことは可能です。
とはいえ、精神障害者を支援する職場では精神保健福祉士資格が応募要件となっていることが多いため、資格を持っていると職場の選択肢が広がります。
2. 精神保健福祉士になるには?
精神保健福祉士資格が必要
精神保健福祉士として働くには、国家試験に合格したのち、社会福祉振興・試験センターへの資格登録が必要です。
国家試験の受験には、厚生労働大臣が指定する基礎科目または指定科目の履修に加え、必要に応じて相談援助の実務経験や養成施設の修了が求められます。
保健福祉系大学ルート
指定科目
- 人体の構造と機能及び疾病、心理学理論と心理的支援、社会理論と社会システム のうち1科目
- 現代社会と福祉
- 地域福祉の理論と方法
- 社会保障
- 低所得者に対する支援と生活保護制度
- 福祉行財政と福祉計画
- 保健医療サービス
- 権利擁護と成年後見制度
- 障害者に対する支援と障害者自立支援制度
- 精神疾患とその治療
- 精神保健の課題と支援
- 精神保健福祉相談援助の基盤(基礎)
- 精神保健福祉相談援助の基盤(専門)
- 精神保健福祉の理論と相談援助の展開
- 精神保健福祉に関する制度とサービス
- 精神障害者の生活支援システム
- 精神保健福祉援助演習(基礎)
- 精神保健福祉援助演習(専門)
- 精神保健福祉援助実習指導
- 精神保健福祉援助実習
短期養成施設ルート
基礎科目
- 人体の構造と機能及び疾病、心理学理論と心理的支援、社会理論と社会システム のうち1科目
- 現代社会と福祉
- 地域福祉の理論と方法
- 社会保障
- 低所得者に対する支援と生活保護制度
- 福祉行財政と福祉計画
- 保健医療サービス
- 権利擁護と成年後見制度
- 障害者に対する支援と障害者自立支援制度
- 精神保健福祉相談援助の基盤(基礎)
- 精神保健福祉援助演習(基礎)
一般養成施設ルート
精神保健福祉士国家試験の概要
精神保健福祉士国家試験は年に一回、2月上旬に実施されます。
- 9月上旬〜10月上旬:願書等提出
- 2月上旬:試験日
- 3月上旬:合格発表
精神保健福祉士国家試験は、例年17科目から1問1点で全163問出題されます。社会福祉士資格の登録者(登録申請中を含む)の場合は、受験申し込み時に必要書類を提出することで一部の科目が免除され、1問1点で全80問の出題となります。
なお、次回の2024年度(第27回)試験からは新しい出題基準が適用される予定です。
精神保健福祉士 国家試験科目(第27回より・予定)
〈専門科目〉
- 精神医学と精神医療
- 現代の精神保健の課題と支援
- 精神保健福祉の原理
- ソーシャルワークの理論と方法(専門)
- 精神障害とリハビリテーション論
- 精神保健福祉制度論
〈共通科目〉
- 医学概論
- 心理学と心理的支援
- 社会学と社会システム
- 社会福祉の原理と政策
- 社会保障
- 権利擁護を支える法制度
- 地域福祉と包括的支援体制
- 障害者福祉
- 刑事司法と福祉
- ソーシャルワークの基盤と専門職
- ソーシャルワークの理論と方法
- 社会福祉調査の基礎
*共通科目:社会福祉士の登録者(登録申請中を含む)が免除される科目
合格基準は総得点の60%程度(問題の難易度で補正)かつ、すべての科目群で得点があることです。
そのほか、精神保健福祉士試験に関する最新情報は社会福祉振興・試験センター「精神保健福祉士国家試験」のページからご確認ください。
精神保健福祉士試験の合格率の推移
精神保健福祉士国家試験の合格率は、長らく60%前後で推移してきましたが、第25回・第26回試験では第2回(2000年)以来となる70%台を記録しています。
社会福祉士の合格率が30〜60%程度で推移しているのと比べると、精神保健福祉士の合格率は高いといえます。これは精神保健福祉士と比べて社会福祉士の出題範囲が広いことや、社会福祉士資格を持つ人が、共通科目の多い精神保健福祉士を受験する傾向にあるためだと考えられます。
3. 精神保健福祉士の仕事内容
もともと日本では、精神障害者の社会復帰や地域参加を支援する制度が立ち遅れていました。それが近年の障害者自立支援法(2006年)や障害者総合支援法(2012年)により整備され、精神障害者への支援は「入院医療中心から地域生活中心へ」とシフトしたのです。
それに伴い、精神保健福祉士の仕事内容も医療と地域、職場、家庭などとの連携が重視されるようになりました。主な支援は次の通りです。
医療に関する支援
例えば医療機関にかかっていないクライエントを適切な受診・受療・入院へと繋げたり、既に入院しているクライエントの退院や、退院後の社会生活への移行をサポートしたりします。
住居に関する支援
入院しているクライエントが退院可能となったとき、退院後に安心して地域で生活できるよう、住まいの確保を支援します。ただ住む場所を用意するだけではなく、十分な福祉サービスを受けられる環境を目指します。
就労・就学に関する支援
クライエントが働くことを通して自立した生活を送れるよう、就労支援サービスの利用を援助します。就労支援サービスには、一般企業への就職を目指して必要な知識やスキルを身に付ける就労移行支援や、一般企業での就職が困難な人へ働く場を提供する就労継続支援などがあります。
就学中もしくは就学を希望するクライエントの場合、必要に応じて学校関係者との調整をおこないます。
家族への支援
クライエントの家族のあり方に合わせて、適切な支援をします。例えばクライエントの病気や障がいに対する理解を深めてもらうため、家族に対して説明することも支援のひとつです。また家庭内暴力など、クライエントの精神疾患の原因が家族にある場合はその原因の解消にも努めます。
人権擁護
クライエントの基本的人権を尊重し、個人としての尊厳、法の下の平等、健康で文化的な生活を営む権利を擁護します。例えば入院中に不必要な行動制限があったり、治療内容に不満があったりする場合の相談に応じ、必要であれば弁護士や専門機関を紹介します。
4. 精神保健福祉士の勤務先
令和2年度の精神保健福祉士就労状況調査によると、精神保健福祉士が働く場所は福祉関係や医療関係が8割を占めています。
以前までは精神保健福祉士の勤務先といえば医療関係が一般的なイメージでしたが、近年では福祉・行政・司法・学校教育など、さまざまな分野でニーズが高まっています。
障害者福祉関係
障がい者への相談支援をおこなう相談支援事業所や、地域の相談支援の中核となる基幹相談支援センター、通所訓練が難しく夜間の生活介護が必要な人向けの障害者支援施設、障がい者が共同生活を送るグループホームなどがあります。
ここでは医療費や生活費に関するアドバイスをおこなうほか、各機関と連携して、適切な福祉サービスを利用できるようサポートします。
また、アルコール・薬物・ギャンブル依存症の人が、依存対象物なしで日常生活を送れるようになることを目指す回復支援施設で働く精神保健福祉士もいます。
高齢者福祉関係
介護施設や、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設といった介護保険関連施設などです。ここでは認知症の高齢者のケアや相談業務をおこないます。
医療関係
主に総合病院の精神科、精神科病院、精神科・心療内科の診療所などです。クライエントの入院から退院までをサポートし、精神科ソーシャルワーカーの名で活動することもあります。
入院時には医師などの多職種と連携し、必要に応じて精神療法を実施します。また退院後の生活のサポートとして、クライエントが社会と繋がりを持てるよう、支援機関との橋渡し役となることも大切な役割です。
行政機関
自治体や保健所、福祉事務所のほか、心の病気に関する相談支援や情報提供をおこなう精神保健福祉センターなどがあります。保健所や精神保健福祉センターでは、精神保健福祉相談員と呼ばれます。
専門的な立場から相談に応じたり、利用できる支援制度を紹介したり、就労支援や住居の手配をおこないます。
学校教育関係
スクールソーシャルワーカーとして、いじめや不登校といった学校(小学校〜大学)内で起こる問題に関して、子どもやその家族、教員の相談に応じます。
司法関係
保護観察所、矯正施設などです。精神疾患により善悪の区別がつかず重大な犯罪を犯してしまった人を対象に、法律に基づき社会復帰に向けた訓練や矯正をおこないます。保護観察所では社会復帰調整官と呼ばれます。
また、精神保健福祉士は精神保健参与員として裁判の審判に協力することもあります。厚生労働省が作成した名簿から、事件ごとに地方裁判所が指定します。
その他
企業では産業ソーシャルワーカーとしてストレスを抱えた社員をケアし、ハローワークでは精神障害者雇用トータルサポーターとして精神障害者の就労支援をおこないます。
5. 精神保健福祉士の働き方
精神保健福祉士の一日
一日の仕事内容は勤務先によって異なります。病院を例に、おおよその一日の流れを紹介します。
精神保健福祉士の休日
勤務先によって異なります。病院のなかでも、土日祝を休みとしている場合もあれば、日祝を休みとし、隔週で土曜出勤という場合もあります。
外来のみを受け付ける診療所では、診療所の休診日に合わせて週休2日となることが一般的です。2日とも固定休の場合もあれば、1日は固定休、もう1日はシフト休の場合もあります。応募時には求人をよく確認しましょう。
働き方としては日勤のみがほとんどですが、勤務先がグループホームなどの入居施設の場合は、夜勤を含むシフト制で働くこともあります。
6. 精神保健福祉士の給料
精神保健福祉士就労状況調査結果(令和2年度)によると、精神保健福祉士の年収分布・年収相場は次の通りです。
【雇用形態別】精神保健福祉士の年収分布
雇用形態別の年収分布は、パート・アルバイトでは103万円未満の割合が21.4%、正職員では300〜399万円の割合が26.3%と最も高くなっています。
正職員 | パート | |
〜103万円 | 0.8% | 21.4% |
103〜129万円 | 0.1% | 7.6% |
130〜149万円 | 0.1% | 4.3% |
150〜199万円 | 0.5% | 7.9% |
200〜299万円 | 8.5% | 18.0% |
300〜399万円 | 26.3% | 5.7% |
400〜499万円 | 21.9% | 2.6% |
500〜599万円 | 12.1% | 0.9% |
600万円〜 | 15.0% | 0.3% |
無回答 | 14.7% | 31.4% |
【サービス別】精神保健福祉士の年収相場
サービス別の年収相場は、パート・アルバイトでは精神科医療機関が181万円、保健所や精神保健福祉センターが190万円、学校などの教育機関が252万円となっています。
正職員では精神科医療機関が366万円、保健所や精神保健福祉センターが428万円、学校などの教育機関が465万円となっています。
正職員 | パート | |
精神科医療機関 | 366万円 | 181万円 |
保健所・精神保健福祉センター | 428万円 | 190万円 |
教育機関 | 465万円 | 252万円 |
7. 精神保健福祉士の将来性
精神障害者への支援が「入院医療中心から地域生活中心へ」とシフトしたことで、精神保健福祉士のニーズは医療だけでなく福祉や行政、教育機関にまで広がりを見せました。
またストレス社会と言われる現代では一般企業においてもメンタルヘルスのケアへの取り組みが進んでおり、より一層の活躍が期待されます。
心の病を抱える人が適切な医療や福祉などのサービスを通して心の健康を取り戻せるよう、あらゆる面でサポートする精神保健福祉士の仕事は、今後さらに重要なものとなっていくでしょう。
参考
- e-Gov法令検索|精神保健福祉士法
- 長崎和則(2012年)『精神保健福祉士の仕事』朱鷺書房