目次
1.職場における熱中症対策が義務化
2025年6月から、職場での熱中症対策が義務化されます。労働環境の安全や衛生について定めた省令「労働安全衛生規則」の改正により、事業者には、熱中症を防止するための体制整備、発生時の対応手順作成、関係者への周知などが求められます。
同改正は、特定の職種や業種ではなく、熱中症リスクのある環境下での作業を対象としています。そのため、訪問看護や訪問介護などで屋外移動や入浴介助が発生する医療・福祉業界など、熱中症が起こりうるあらゆる職場が対象です。
義務化の対象作業
義務化の対象となるのは、以下の両方に該当する作業です。
- WBGT(暑さ指数)28以上または気温31度以上の環境
- 連続1時間以上または1日4時間を超えて実施する作業
WBGT(Wet Bulb Globe Temperature:湿球黒球温度)とは、気温、湿度、ふく射熱*の3つを取り入れた指標で、3つの計測器を使って算出します。日常生活では、指数が28以上になると厳重警戒が呼びかけられます。
*日光を浴びた際に受ける熱や地表から出る熱などを指す
WBGTによる 温度基準域 |
注意すべき 生活活動の目安 |
注意事項 |
---|---|---|
危険 (31以上) |
すべての生活で 熱中症になる危険性 |
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厳重警戒 (28〜31) |
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警戒 (25〜28) |
庭の草むしりや布団のあげおろしなど、中等度以上の生活活動で熱中症になる危険性 |
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注意 (25未満) |
ジョギングや自転車の運転(時速20キロ以上)など、強い生活活動で熱中症になる危険性 |
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職場がある地域のWBGT指数は、環境省のウェブサイトから調べることが可能です。
環境省|全国の暑さ指数(WBGT)
熱中症対策義務化の背景
熱中症対策義務化の背景には、地球温暖化による夏季の気温上昇と、熱中症による死傷者数の増加が挙げられます。

厚生労働省がおこなった調査によると、2024年の熱中症による死亡総数31件のうち20件で、発症時・緊急時の措置の確認・周知が不十分であり、24件でWBGT(暑さ指数)を把握できていませんでした。
こうした死亡や重大な事故が起きないよう、職場での熱中症予防と早期発見・対応の重要性が高まっています。
違反した場合の罰則
熱中症対策を適正におこなわなかった場合は、事業者に6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科されます。
2.熱中症対策で職場がとるべき措置
事業者が実施すべき熱中症対策は、大きく分けて予防を目的とした「準備」と起きてしまった場合の「対処」に分けられます。今回の改正で義務付けられた内容を、それぞれ確認しましょう。
熱中症に備える
例年猛暑となる7〜9月を迎える前に、まずは熱中症への備えが大切です。主な対策は以下のとおりです。
熱中症に対応する

職場における熱中症対応では、「見つける」「判断する」「対処する」の3つを基本におこないます。それぞれの内容を見ていきましょう。
見つける
従業員に、ふらつきや生あくび、大量の発汗、けいれんなどの症状がみられたら熱中症の疑いがあります。
判断する
熱中症は、以下のように重症度ごとに病型が分類されています。
重症度 |
症状 |
手当 |
---|---|---|
Ⅰ度 |
熱失神・熱けいれん
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119番→応急手当て
|
Ⅱ度 |
熱疲労
|
医療機関で受診 |
Ⅲ度 |
熱射病
|
入院治療 |
意識の有無を確認し、返事がおかしい、ぼーっとしているなど普段の様子と見比べ、異常と判断したら、救急隊を要請しましょう。要請すべきか迷う場合は#7119を活用し、専門的な判断を仰ぎます。
対処する
救急隊の到着まで、従業員に水をかけてから送風するなどの方法で身体を冷却し、決して一人にしないよう注意します。
3.従業員にできる熱中症対策
事業者が実施するだけでなく、従業員自身でおこなう対策も大切です。
熱中症予防のためのチェックリスト
熱中症を予防するためには、前日から体調を整えることが大切です。以下の注意点を確認してから仕事に臨みましょう。
前日
当日
業務中
自分でできる熱中症対策

(1)暑さに慣れておく
夏の暑さに身体を慣らすことを、暑熱順化といいます。暑さに慣れることで熱中症になりにくくなるため、運動や入浴をとおして慣れておくことも有効です。
(2)プレクーリング
プレクーリングとは、作業に入る前にあらかじめ体温を下げておくことを指します。これにより、急な体温上昇を防ぎ熱中症になりにくくします。プレクーリングの方法には、シャーベット状の飲み物などによって体内から冷やす方法と、手足を氷水に浸け外部から冷やす方法があります。
(3)水分・塩分補給
のどの乾きを感じたときは、すでに脱水状態が始まっていることがあります。乾きを感じる前に、こまめに水分と塩分を摂取しましょう。
(4)応急手当て
熱中症の可能性を感じたら作業から離れ、涼しい場所で身体を冷却し、水分と塩分を補給しましょう。自分で水が飲めない場合は同僚などに水を飲ませてもらったり、水を全身にかけてもらったりします。
4.【従事者向け】医療・福祉業界における熱中症対策
熱中症は室内外問わず起こります。とくに、医療・福祉の職場では、訪問時の移動や入浴介助、外遊びの見守りなど従事者が熱中症になりうる業務がたくさんあるため、対策が必要です。
ここからは、看護・介護・保育に従事している人が実際におこなっている熱中症対策を紹介します。
看護師の熱中症対策
- 首掛け扇風機、気加熱で冷えるタオル、頸動脈を冷やすネッククーラー、冷感シャツスプレー、シーブリーズを使ってしのいでます
- 日焼け止めと持ち運べる扇風機、冷えピタを首に貼ったり汗対策に着替えを準備していました。靴も、メッシュの軽いやつがベストですよ
- (入浴介助時)お風呂の脱衣所にすぐ飲めるように水分は必ず常備しておいてください!(中略)夜もしっかり寝て食事をしっかりとることも大切ですよ
- 保冷剤などをタオル保護し、首に巻いています◎
- 入浴(介助)前にはポカリを冷やしておいて、適宜飲みながらやってます。気休めに扇風機回ってます
- 定期的に休憩を挟んで、水分補給をこまめに摂ったり、外の空気に当たったりしてました。首のうしろに冷えピタを貼ったり、塩飴を舐めながらしている方もいました。夏の介助は地獄ですよね
カンゴトークより引用
介護職の熱中症対策
- 100均で売っている首元を冷やすグッズを使っています。あとは塩分チャージできる飴ちゃんも置いてます。水分補給はこまめに摂ることを意識してます
- 夏場の入浴介助大変ですよね(^^;;私は、脱衣所は26度くらいで冷房を入れて、こまめに水分補給をしています。首にクールリングを付けているスタッフもいますよ
- 入浴介助の時はタオルに保冷剤を入れて首に巻いています!ヘアゴムで保冷剤が落ちないよう固定しています
- 吸水速乾のTシャツ、クールリングやクールネックタオル、手に冷水をかけると早く体温が下がるそうです
- 介助中、入居者さんが湯船に入っている時に、水で顔を洗ったり、足に水をかけたり、脱衣室に水分を置いているので飲んだりしています
- うちのグループホームは利用者用とは別に麦茶とスポーツドリンクが職員が飲むために冷やされています。職員間でも声を掛け合い水分補給をしてます
カイゴトークより引用
保育士の熱中症対策
- 私の園では、熱中症警戒アラートが出ると、外遊びは禁止になります。水遊びでも、20分間と短くなります(中略)塩分チャージやスポーツドリンクも使ってみた方が良いと思います
- 熱中症警戒アラートが出た場合は、外にはでません。水遊びもタープの下で、短時間だけにしています。塩分入の飴を舐めたり、外に出る前に冷感スプレーをしたりしています
- クールリングおすすめです★あと、できるだけ日陰にいるようにしていますね
- 外で先生だけで作業があるときとかは、タオルや帽子に保冷剤をつけています。首の扇風機に冷たくなるパネルがついてる物も便利です
- 子どもたちに水分補給の声かけをすると共に自分も必ず飲むようにしています。os1を常備してます。ゼリータイプが飲みやすくて個人的に好きなので、ちょっと辛いと思ったら飲んでいます
ホイクトークより引用
5.従業員の安全を守る対策を
日本の年平均気温は上昇の一途をたどり、2024年は統計開始以降最高値を記録しました。今後も暑さ対策は不可欠と予想されます。
各事業者の取り組みに加え、自治体独自の支援も始まっています。東京都では2025年6月から、「訪問系介護サービス暑さ対策緊急支援事業」を実施し、都内にある訪問介護、訪問看護、訪問リハビリテーションなどの訪問系事業所は、熱中症対策にかかる費用への補助が受けられるようになります。
熱中症対策は「法令順守のため」だけでなく、「現場で働く人の命を守るため」と捉え、事業所ごとに早めの準備に取り組みましょう。
参考
- 厚生労働省|職場における熱中症対策の強化について
- e-GOV|労働安全衛生法