裁量労働制とは?対象業務や残業代、フレックスとの違いなどをわかりやすく解説

裁量労働制は実際の労働時間ではなく、あらかじめ定めた時間の勤務とみなして賃金が支払われる制度です。働く人の自主性が尊重され、業務の進め方や時間配分の裁量が与えられます。この記事では、裁量労働制ができる業務や残業代の考え方、ほかの働き方との違いなどを解説します。

裁量労働制とは?対象業務や残業代、フレックスとの違いなどをわかりやすく解説

目次

1.裁量労働制とは?

裁量労働制は、実際に勤務した時間にかかわらず、あらかじめ定めた時間(みなし労働時間)を働いたものとして、賃金が支払われる制度です。例えば、みなし労働時間が8時間の場合、実際に勤務したのが6時間でも、10時間でも8時間分の賃金が支払われます

日本の労働者の勤務時間は、労働基準法でルールが定められています。一般的には1日8時間・週40時間の勤務が原則ですが、この規制を受けない働き方として「みなし労働時間制」があります。

みなし労働時間制は、何時間の勤務でも一定時間働いたものとして扱う制度で、裁量労働制もこの一種です。ただし、労働基準法で定められた残業のルールがあるため、無制限に働くことはできません。

働く人にとってのメリット・デメリット

裁量労働制は勤務時間ではなく、仕事の成果に対して報酬を支払うという考え方に基づいています。そのため、働く人にとっては以下のようなメリットがあります。

  • 業務の時間配分や進め方を自分で決められ、自分のペースで働ける
  • 効率良く業務を進められれば、早めに退勤したり、勤務時間を短縮したりできる
  • 子どもの送迎や通勤ラッシュの回避など、ワークライフバランスを維持しやすい

一方で、実際の勤務時間ではなく、規定時間分の賃金が支払われる制度のため、以下のようなデメリットも考えられます。

  • 原則的に残業代が発生しない
  • 勤務時間が長くなるほど、時間当たりの賃金が低くなる
  • 自己管理できないと、長時間労働になってしまう可能性がある

tips|2024年の労基法改正で裁量労働制はどう変わった?

2024年の労基法改正では、働く人の健康確保や適切な制度運用のため、裁量労働制を導入するための手続きが厳格化されました。主な変更点は以下のとおりです。

  • 労働者本人の同意を得ることが必要になった
  • 同意の撤回の手続きを定めることが必要になった
  • 健康・福祉確保措置の強化

とくに、健康・福祉確保措置の強化については、事業所に勤務間インターバルの確保や深夜勤務の回数制限が求められるようになりました。

2.裁量労働制の対象になる業務

裁量労働制には対象になる業務に応じて、専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制の2種類があります

専門業務型裁量労働制

専門業務型裁量労働制は、業務を進める方法や手順、時間配分などを働く人の裁量に委ねる必要がある業務を対象としています。2024年の労働基準法改正により、M&Aアドバイザーが加わり、対象業務は以下の20種類となりました。

  1. 新商品・新技術の研究開発または人文・自然科学の研究
  2. 情報処理システムの分析・設計
  3. 新聞・出版の取材・編集業務、放送番組制作のための取材・編集
  4. 衣服・室内装飾・工業製品・広告などのデザイン考案
  5. 放送番組・映画などのプロデューサー・ディレクターの業務
  6. コピーライターの業務
  7. システムコンサルタントの業務
  8. インテリアコーディネーターの業務
  9. ゲーム用ソフトウェアの創作
  10. 証券アナリストの業務
  11. 金融商品開発
  12. 大学教授・研究職の業務
  13. 公認会計士の業務
  14. 弁護士の業務
  15. 建築士の業務
  16. 不動産鑑定士の業務
  17. 弁理士の業務
  18. 税理士の業務
  19. 中小企業診断士の業務
  20. 銀行・証券会社のM&A業務(2024年4月から追加)

医療・福祉分野では、大学教授や研究職に加え、製薬会社の研究開発職の業務も該当するケースがあります。

企画業務型裁量労働制

企画業務型裁量労働制は、経営計画や営業方針の策定などの業務が対象です。裁量労働制の対象にするには、その業務が以下の4要件のすべてを満たす必要があります

  1. 事業の運営に関する業務であること
  2. 企画・立案・調査・分析の業務であること
  3. 業務方法を労働者の裁量に委ねる必要があると、客観的に判断できる業務であること
  4. 業務手段や時間配分などについて、使用者が具体的な指示をしない業務であること

医療・福祉分野では、製薬会社の一般職や医薬品卸売会社の営業職の業務などで、裁量労働制を取り入れている企業もあります。

3.裁量労働制で「残業代」は出る?

裁量労働制では原則的に「残業代」は発生しません。ただし、以下の3つのケースでは時間外手当や深夜・休日の割増賃金が支払われます。

(1)みなし労働時間が法定労働時間を超える場合

みなし労働時間が法定労働時間を超える場合は、時間外手当が発生します。法定労働時間とは労働基準法で定められた労働時間の上限で、1日8時間・週40時間に設定されています。

そのため、みなし労働時間がこの基準を超える場合、超過時間分は時間外手当が必要です。例えば、みなし労働時間が9時間と定められている場合、1時間分は25%以上の割増賃金が必要になります。この1時間を裁量労働制における「みなし残業」と呼ぶこともあります。

tips|みなし労働時間制とみなし残業は何が違う?

みなし労働時間制は勤務全体に関して、実際の労働時間に関係なく、あらかじめ決めた時間を働いたとみなす制度です。一方、みなし残業は、あらかじめ一定時間の残業を想定して、その分の残業代を基本給に含めて支給する制度です。

みなし残業は多くの場合、固定労働時間制の職場で採用されており、みなし残業代は「固定残業代」や「見込み残業代」と呼ばれるケースもあります。

1日8時間・週40時間を超えるみなし労働時間を設定する場合は、36協定が必要です。36協定は労働基準法第36条に基づく労使協定で、締結によって法定労働時間を超える労働や深夜・法定休日の労働を可能にします。

ただし、36協定では残業時間についても規定があり、原則的に残業は月間45時間・年間360時間までと定めています。そのため、みなし労働時間が長くなり過ぎないよう注意が必要です。

36協定について詳しくはこちらの記事で解説しています。
36(サブロク)協定とは? 残業時間の上限や特別条項をわかりやすく解説

(2)深夜労働が発生した場合

裁量労働制であっても、午後10時〜翌午前5時に勤務した場合は、深夜労働の割増賃金(25%以上)が発生します。

(3)休日労働が発生した場合

週1日または4週4日以上の「法定休日」に勤務した場合、裁量労働制でも休日労働の割増賃金(35%以上)が発生します。

4.ほかの働き方との違い

フレックスタイム制

裁量労働制とフレックスタイム制は、対象にできる業務や勤務時間の考え方が異なります。フレックスタイム制は、一定期間の総労働時間を定めたうえで、働く人が日々の始業・終業時間を自由に決められる制度で、必ず勤務する「コアタイム」も設定できます。

 

裁量労働制

フレックスタイム制

対象業務

法令で定められている

制限なし

勤務時間管理

みなし労働時間制

実労働時間管理

賃金

みなし労働時間に対し支払う

総労働時間に対し支払う

コアタイム

なし

設定可能

フレックスタイム制について詳しくはこちらの記事で解説しています。
フレックスタイム制とは?メリット・デメリットと残業時間についてわかりやすく解説

変形労働時間制

裁量労働制と変形労働時間制は、対象にできる業務や勤務時間の配分方法が異なります。変形労働時間制は、1週間・1ヶ月間・1年間など一定期間の労働時間が法定労働時間を超えない範囲で、特定の日や週、月の労働時間を変動させる制度です。繁忙期の所定労働時間を長くする代わりに、閑散期の所定労働時間を短くするといったように、労使が工夫しながら労働時間を配分します。

 

裁量労働制

変形労働時間制

対象業務

法令で定められている

制限なし

勤務時間管理

みなし労働時間制

実労働時間管理

勤務時間の配分

働く人の裁量

業務の繁忙・閑散

変形労働時間制について詳しくはこちらの記事で解説しています。
変形労働時間制とは?1ヶ月、1年など単位別の種類と残業の取り扱いについてわかりやすく解説

事業場外労働みなし労働時間制

裁量労働制と「事業場外労働のみなし労働時間制」は、業務がおこなわれる場所が異なります。この制度は、営業職の外回りなど時間把握が難しい場合に、所定労働時間を勤務したとみなす制度です。

そのため、社外での業務のみに適用されます。なお、社外での業務であっても訪問先・頻度が決まっていたり、常時会社と連絡ができたりして、勤務時間が把握できる場合、事業場外労働のみなし労働時間制は適用できません。

 

裁量労働制

事業場外労働のみなし労働時間制

業務の場所

法令で定められている業務であれば、社内外は問わない

社外での業務のみ

高度プロフェッショナル制度

裁量労働制と高度プロフェッショナル制度は、年収要件や労働基準法の適用の有無が異なります。高度プロフェッショナル制度は、ファンドマネジャーやトレーダーといった高度な専門知識を必要とする職種を想定した制度で、年収1,075万円以上の人が対象です。制度の対象者には、労働基準法の労働時間規制が適用されません。

 

裁量労働制

高度プロフェッショナル制度

対象

法令で定められた業務

法令で定められた業務

年収要件

なし

年収1,075万円以上

労働時間管理

労働基準法の適用を受ける

労働基準法の適用外

5.自分に合った働き方ができる職場を探してみよう

裁量労働制は柔軟な働き方を可能にする制度ですが、対象になる業務は限られています。医療・福祉分野の場合、専門性の高い業務・職種が、裁量労働制の対象となる可能性があるため、自分に合った働き方・職場を選ぶ際の参考にしてください。

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参考

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