海外からの介護人材受け入れの現状
少子高齢化が進み、介護を必要とする人が増える一方で介護の担い手不足が深刻化している現在の日本。この状況を解消するために、アジア諸国を中心に海外からの人材の受け入れを進めています。

日本介護福祉士養成施設協会の調査によると、2016年度からの5年間で介護福祉士養成施設に入学した外国人留学生は、257人から2,395人と約9倍にも増加しています。その一方、日本人の入学者は年々減少が続いており、外国人留学生とは真逆の傾向をたどっています。
今はまだ外国人の同僚がいないとしても、今後は同じ職場で働く機会が増えていくでしょう。今回は、日本人にとってますます身近な存在となっている彼(彼女)たちがどのような理由で来日し、どのような思いで暮らしているのかを知るために、日本で働く外国人介護職の方に直接話を聞きました。
話を聞いたのは、来日6年目のベトナム人、ズンさん
話を聞かせてくれたのは、2016年に留学生として来日し、現在は介護福祉士としてデイサービスで働いているベトナム人のズンさんです。

──まず最初に、自己紹介をお願いできますか?
ズンさん:ズンと申します。年は26歳。4人姉妹の末っ子で、私以外の家族はベトナムで暮らしています。
──ズンさんは20歳で日本に来たとのことですが、それまでベトナムでは何を?
小さい頃から医療系の仕事がしたかったので、ベトナムの医療系の専門学校に通って機能訓練と看護の資格を取りました。
卒業後はリハビリテーションの仕事に就いたんですけど、給料が安かったので3ヶ月くらいで辞めて、日本に留学することにしました。

──母国でも医療系の仕事をしていたんですね。どうして日本に留学しようと?
日本を選んだ理由はあまりないんです(笑)。「介護留学プログラム」ってインターネットで調べたら出てきたので。
海外旅行もしたことがなかったので、最初は不安でした。でも、若いうちにいろいろなところに行きたかったし、お金も稼いで、家族のためにも働きたかったから。
──もともとリハビリや看護をしていたのに、どうして日本では介護職を選んだんですか?
ベトナムの資格は日本では使えません。それに、日本の看護師免許を取るのはめっちゃ難しいと思います。介護のほうが易しいし、留学のプログラムもあったので。
あとは、おじいさんやおばあさん……高齢者の方と話すのがもともと好きだったから。それで介護を選びました。
言語の壁を乗り越えて取得した介護福祉士資格
──日本で働く制度には技能実習などもありますが、留学を選んだのは、たまたまだった?
そうですね。インターネットで調べて留学が出てきたので、ほかの制度はよく知らないです。でも(在留資格「介護」を取得するための)留学だとプログラムがずっと先まで決まってるんです。
私の場合、まず日本に着いたら日本語学校に1年間通って、そのあと介護福祉士の専門学校に2年間。そのあとの就職先も決まってます。
tips|介護分野での外国人受け入れ制度
現在、外国人が日本に来て介護分野で働くことができる制度には、主に次の5つがあります。
- 在留資格「留学」…介護福祉士養成施設に留学し介護福祉士資格の取得を目指す。アルバイトも可能だが、労働時間は週28時間以内の制限がある。
- 在留資格「介護」…留学等で介護福祉士資格を取得することで、永住可能な在留資格「介護」が取得できる。
- 在留資格「特定技能1号介護」…2019年に新設された制度。在留期間は5年間。転職が可能。
- 外国人技能実習…外国人を日本の技能や技術を学ぶ実習生として雇用し、働きながらスキルの向上を目指す制度。在留期間は3〜5年間。転職は不可。
- EPA(経済連携協定)…受け入れ国はインドネシア、フィリピン、ベトナムの3ヵ国のみ。国家間の経済強化連携を目的とし、介護福祉士取得を目指す。
──へぇ、留学前から就職先まで決まってるんですね!
そうです。施設の人がベトナムまで来て面接をしてくれたので、日本に行く前に採用が決まってました。
でも、就職先は大阪だったんですよ! 日本語学校や専門学校は東京やその近くだったのに。だから就職するときには周りの人から「なんでまたわざわざ大阪に?」って言われました(笑)。
──関東から関西への引っ越し! それは大移動だ。でも現地に来てみないとなかなか距離感なんてわからないですよね。来日するまでに、何か準備したことはありますか?
とにかく日本語ですね! 日本に行く半年前からベトナムにある日本語センターに通って勉強しました。
でも実際にこっちに来てみると、日本人が話してることがぜんぜん聞き取れなくて……。来て初めの頃が本当につらかったですね。

──日本語能力試験*などの語学検定は受けませんでした?
*日本語能力試験…日本語を母語としない人の日本語能力を測定・認定することを目的とした資格試験。世界86カ国で実施され、年間約100万人が受験する。認定レベルはN1〜N5までの5段階があり、番号が小さいほど日本語能力が高い
専門学校のときに3級(N3)は取りました! 2級(N2)は受けたんですけど不合格でした。筆記試験だと文法問題もあって、普段しゃべってる日本語とはまた違うから難しいですね。
本当は日本で就職するなら2級まであったほうがいいって聞きます。
──なるほど。介護福祉士の専門学校に留学してからは、どんな生活でしたか?
私の入ったクラスは留学生のほうが多くて、留学生70%、日本人30%くらいでした。ベトナム以外だと、中国、韓国、台湾、インドネシア出身とかですね。
留学生のほうが多いから、テキストにはふりがなが振ってあって。わかりやすくなってて、助かりました。
授業は平日の9時から17時まで。土日はアルバイトをしてたので忙しかったです。
──土日でアルバイトもしてたんですか! それはハードな日々でしたね。
毎週ではなくて、時々休みを取りながらですけどね。
アルバイトは日本語学校の頃は居酒屋で、専門学校に入ってからは特養でアルバイトを始めました。
──アルバイト先の特養では、どんな仕事を?
1階がデイサービスになってて、私の仕事はデイサービスが中心でした。2、3階は特養のエリアで、少しだけそっちの仕事も手伝いました。
夜勤もやりましたけど、その頃はまだ資格がなかったので、介助には入らないで見守りだけでした。
──学業とアルバイトを両立しながら、専門学校を修了するタイミングで介護福祉士国家試験を受験したわけですよね。結果はどうでしたか?
1回で受かりましたよ! ラッキーでした(笑)。
tips|介護福祉士国家試験義務化の度重なる延期
以前は介護福祉士の養成施設を修了すれば、国家試験を受けることなく資格が取得できるようになっていました。それが介護福祉士の質を担保することを目的に、2007年に国家試験(筆記のみ)の義務化が決定します。
しかし介護福祉士を目指す外国人留学生にとって、日本語での国家試験受験は非常にハードルが高いもの。不合格となった場合に人材が流出してしまう懸念から、過去何度も施行が延期されてきました。現在は経過措置として、国家試験で不合格(または未受験)になった場合でも、卒業後に5年間続けて実務経験を積むことで、その後も引き続き介護福祉士資格が認められることとなっています。
特養のデイサービス職員として就職
──晴れて介護福祉士として就職が決まっていた大阪に行くわけですが、どんな職場でしたか?
大阪でも特養に併設されたデイサービスを担当してました。
でも、実は2年半くらいで辞めてしまいました。
──どうして辞めてしまったんですか?
なんて言うんでしょう。生活が合わなくって……? 言葉とかも、ちょっと大阪は強いなって思いました。

──たしかに方言は慣れていないと、日本人同士でも強く感じることはありますからね。でも、留学プログラムで決まっていた就職先となると、辞めるのに条件などはありませんでしたか?
それは学費を返せば転職してもOKだったんです。2年半で返せたので、それから転職しようって。
──なるほど。転職先はどこで、どうやって探しました?
学生の頃に住んでた地域が静かで好きだったので、また関東に戻ることにしました。
でも大阪から関東に行くのは遠くて自分で仕事を探せなかったので、友だちの知り合いを紹介してもらいました。「日本人の知り合いの◯◯さんが優しいよ」って。
それで入った今の職場も特養にあるデイサービスです。ずっとデイですね(笑)。
──紹介だと安心感がありますよね。それで今の職場で働いてみて、どうですか?
はい、今は楽しく働いてます!
デイサービスはスタッフが7人いるんですけど、私のほかにも若い子が3人いて。みんな日本人なんですけど仲良しでよく一緒に遊んでます。ドライブに行ったり、私の家に来てくれて料理作って食べたり。
──良い同僚に恵まれたんですね! では、ズンさんの今の一日の仕事を教えてもらえますか?

こんな感じですね。一日あっという間です。
私はレクリエーションの時間が一番好きです。ゲーム、工作、カラオケ、お菓子作りとかいろいろやります。
──利用者さんとの関係はどうですか?
利用者さんはみんなめっちゃ優しいですよ! デイサービスの利用者さんは元気でよくしゃべるから、会話のチャンスがいっぱいあって、外国人が働くのにおすすめです。日本語を間違えてたら教えてくれます(笑)。
──働いていて困ることや難しいと思うことは?
やっぱり日本語ですね。とくに記録が難しい。
今の職場の事務仕事は、チャットツールを使った申し送りと、月末の介護記録のまとめが多いですね。
利用者さんの家族に渡す連絡帳は、看護師が書いてくれてます。でも前の職場では自分で担当したし、全部手書きで大変でした。

日本での生活と今後について
──今お給料はどのくらいか聞いてもいいですか?
転職したのでちょっと下がって、月23万円くらいです。介護福祉士の資格手当が3万円ついてます。
そこから社宅の家賃や保険料、年金とかが引かれて、手取りで14〜15万円くらいですね。
──貯金や仕送りは?
まだできてないです。学費を返し終わったらすぐに引っ越しでお金がかかって。今はまだギリギリですねー。
──学生時代や前職の住まいはどんなところでしたか?
学生時代はお金もないので、ルームシェアしてました。
就職して正社員になってからは一人暮らし。大阪は寮で、今は社宅ですね。
──新型コロナウイルスが流行して間もなく2年が経ちます。ご家族と連絡は取っていますか?
今は会えないので、ビデオ通話で連絡してますよ。
お父さんお母さんは最初はすごく心配しましたけど、今は私のすることを何でも応援してくれます。
──これからも日本にいるのか、帰国を考えているのか……今後の予定を教えてください。
まだぼんやりですけど、5年くらい経ったらベトナムに帰る予定です。
それまでは今の職場でもっと頑張らないと。記録は苦手だけど、(ほかのスタッフと)同じ給料もらってるからちゃんとできないとって思います。
──いずれは帰る予定なんですね。帰国後はどうするんですか?
私の家は田舎なんですけど、ベトナムの田舎は介護施設が少ないんですよ。家族みんなで介護するので、日本みたいに介護の仕事ってあんまりないです。
でもせっかくなら日本語を使いたいので、日本語関係の仕事を探したいなって思ってます。まだ下手くそですけど(笑)、頑張ります。
──あと5年もいれば、きっともっと上達しますね。応援しています! ありがとうございました。