介護の仕事への入口は人それぞれです。学生時代から目指す人もいれば、身近な人の介護を機に、職業の選択肢として考える人もいます。では、無資格・未経験から働き始めた人の場合、何が転機になったのでしょうか。今回は、株式会社ツクイのグループホームで働く介護スタッフを訪ねました。

株式会社ツクイは、1983年から介護事業に取り組む業界大手です。全国に約790の事業所を展開し、月間9万人以上のお客さまが利用しています。認知症のある方が少人数で共同生活を送るグループホームは、全国で51施設を運営しています(2026年9月時点)。
今回話を聞いたのは、東京・世田谷のグループホームで働くIさん。以前はパン屋で働き、結婚・出産後は子育てを中心とした生活を送っていました。介護とは縁のなかったIさんは、なぜこの仕事を始めたのでしょうか。入社のきっかけや仕事を覚えていった過程、グループホームで働くやりがいについて聞きました。
話を聞いた人
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介護スタッフ Iさん
2023年9月入社。食事作りを中心としたパートの短時間勤務から始め、排泄介助、口腔ケアなどの業務を段階的に習得。現在は正社員として早番・遅番を担当している。介護職員初任者研修修了。
就職活動を始めて気づいた「夢や願望がない」
──介護職に就く前は、どのような仕事をしていましたか?
Iさん:結婚する前まで、パン屋で製造と販売の仕事を15年ほどしていました。当時は、いつか自分の店を持ちたいという夢もあったんです。結婚後、夫の転勤を機に東京へ移り、出産後は3人の子育てを中心とした生活を送っていました。
──もう一度働こうと思ったのはどのようなタイミングでしたか。
末の子が通う幼稚園で延長保育が始まり、働ける時間ができたことがきっかけです。経験を生かせる飲食店の仕事を探しましたが、勤務条件が合わず、なかなか決まりませんでした。
──仕事探しをするなかで印象に残っていることはありますか。
あるお店の面接で「将来のビジョンはありますか」と聞かれたのですが、何も答えられなかったんです。パン屋で働いていたころは自分の店を持つという夢がありましたし、「自分はこうしたい」という気持ちが強かったのに、自分の夢や願望を考えなくなっていたことに気づきました。それですごく落ち込んで、「働くのは今じゃない」と、いったん仕事探しをやめました。
きっかけは友人からのメッセージ「介護の仕事をしてくれる人いないかな」

──そこから、ツクイのグループホームで働くことになったきっかけを教えてください。
ここの管理者のYさんとは、子ども同士が同じ幼稚園に通っていて、以前から面識があったんです。顔を合わせた際に、仕事先の介護施設でスタッフを募集しているという話を何度か聞いていました。
仕事探しをやめたころに、Yさんから「誰か介護の仕事をしてくれる人いないかな」というメッセージが届いたんです。とても困っている様子が伝わってきたので、最初は誰かを紹介できればと思って、「働ける人を探すから条件を教えて」と返信したんです。
──どのような条件だったのでしょうか。
介護の経験がなくても応募でき、勤務時間も相談できるという内容でした。それを見て、「私にもできるかも」と思ったんです。Yさんに聞いてみると、子どもを幼稚園へ送ったあと、9時半から13時までの勤務でもよいと言ってくれて。「それなら私の生活にも合いそう」と、見学に行ってみたいと伝えました。当時はグループホームがどのような場所かも知らなかったので、まずは見てみたいという気持ちでした。
──タイミングが合ったんですね。見学してみて、どのように感じましたか。
お客さまが穏やかに過ごしていて、「こんな場所なんだ」と自然に受け止めることができました。仕事内容についても、食事を作ったり、お客さまの生活をお手伝いしたりすると聞き、食事作りであれば自分にもできそうだと思いました。
──見学から入社までは、どのように進んだのでしょうか。
見学した日のうちに、「私も働けるのかな」とYさんに尋ね、働きたいという意思を伝えました。その数日後、面接や履歴書を提出するなどの採用手続きを進め、見学から2週間ほどで勤務が始まりました。
──未経験の業界に対して不安はありませんでしたか?
介護の知識がなかったので、そこは不安でした。ただ、再就職がうまくいかず落ち込んでいた時期だったので、「私を必要としてくれる人がいる」「社会に自分を必要としてくれる場所がある」と思えたことが大きかったですね。
入社後、会社の資格取得支援制度を利用して介護職員初任者研修を受けに行ったんです。そのときの自己紹介でほかの受講者が、「お年寄りと関わることが好きだから介護の仕事を選んだ」と話していたんです。私の場合は、タイミングが良かったからこの仕事を選んだこともあり、介護への思いがほかの受講生ほど強かったわけではありません。なので、自分のきっかけは「不純なのかな」「このようなきっかけでよいのかな」と感じることはありました。
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最初は食事作りから。少しずつ覚えた介護の仕事

──初日はどのような仕事をしたか覚えていますか?
OJTを兼ねて先輩スタッフについてもらい、食事作りから始めました。お客さまの健康状態に合わせて食材を細かくすることや、軟らかくすることなどを教わりました。ブレンダーでムース状にする場合もあり、そこは家庭の食事作りとは少し違いましたね。ただ、料理の経験が長かったので、「これならできる」と思えました。
2日目以降は食事介助と口腔ケア、排泄介助などを一日の流れに沿って教わり、少しずつ仕事を覚えていきました。
──OJTの期間はどれくらいありましたか?
期間ではなく、勤務回数で決まっていました。私が働くグループホームでは、お客さまの状態などに応じて生活するフロアが分かれており、スタッフのシフトも1階と2階で分かれています。そのため、それぞれ3勤務ずつ、計6勤務を通して一連の業務を教わりました。
OJTでは、認知症ケアやお客さまへの声のかけ方、移乗介助(ベッドから車椅子、車椅子からトイレなどへ乗り移るときにサポートする介護技術)などの基本を教わりました。
その後も、先輩スタッフがお客さまへどのように声をかけ、介助しているかを見て、実践しながら学んでいきました。
──実際に働いて驚いたことや、意外に感じたことはありますか?
排泄介助を教わったときは驚きましたが、介護に欠かせない大切な仕事だと受け止めることができました。それ以上に、スタッフのみなさんが日々こうした介助を担っていることを知り、「すごい仕事だな」と尊敬したんです。介護の仕事は、食事を作ったりお客さまと一緒にレクリエーションをしたりするだけではないのだと、働き始めて初めて知りました。
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グループホームの一日の仕事とは?
──入社当時は時短のパート勤務だったと伺いました。現在の働き方も同じですか?
現在は正社員として、7時半から16時半の早番と、9時半から18時半の遅番の勤務時間で働いています。家庭の状況と自分がやってみたい仕事に合わせて、少しずつ時間を延ばしてきました。正社員になったのは2026年6月です。
──現在は、どのような一日を過ごしていますか。
早番では、夜勤のスタッフから申し送りを受けたあと、お客さまの生活に必要な介助や健康状態の確認、食事の準備などをおこないます。午後は、お客さまと洗濯物を畳んだり、おやつを準備したり、散歩に出かけたりすることもあります。

──お客さまとは、日々どのように関わっていますか。
お客さまの生活のすべてをスタッフが担うのではなく、できることを続けられるようにお手伝いしています。
洗濯物を畳める方にはお願いしていますし、おやつのケーキに生クリームを絞ってもらうこともあります。食事を器に取り分けられる方にはお願いすることもあります。盛り付けの途中で召し上がったり、複数のおかずを一緒にしたりすることもありますが、そうした場面でもスタッフが近くで見守り、必要に応じて声をかけます。

──認知症のある方との関わりで、難しさを感じる場面はありますか。
こちらが想定しているスケジュールと、お客さまのそのときのお気持ちが合わないことがあります。例えば、食事の時間に声をかけても、すぐには席に向かわれないこともあります。
そんなときは無理にお誘いせず、少し時間を置いてから改めて声をかけたり、別のスタッフに代わってもらったりします。こちらの都合で進めようとせず、お客さまのペースに合わせることが大切だと思いますね。
──そうした場面では、どのように気持ちを切り替えていますか。
今は難しそうなら別のことをして、また戻る。その繰り返しです。私は、予定どおりにいかないことも含めて、楽しみながら仕事ができていると感じます。時間との勝負だったパン屋の仕事や、家事・子育てで身についた、優先順位を変えながら柔軟に動く力が生きているのだと思います。
──では、パートから正社員になって、家庭とのバランスはいかがですか。
勤務時間が長くなったので、帰宅後は食事や洗濯に追われ、まだ余裕がない日もあります。今は生活のリズムを整えているところですね。ただ、パートに戻りたいとは思っていません。まずは今の働き方に慣れていきたいです。
──ツクイにはさまざまな福利厚生があるそうですね。今後、利用してみたいものはありますか?
宿泊費用を1泊7,000円まで補助してもらえる制度(年度内1泊まで)があります。パートでも利用できる制度なのですが、まだ活用したことがないので、今後ぜひ使ってみたいです。

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「ありがとう」を励みに、介護福祉士の資格取得を目指す
──この仕事を始めて良かったと思うときはありますか?
お客さまが、何気ない瞬間に私の手をさすりながら「ありがとうね〜」と言ってくださることがあるんです。最初はびっくりして、感謝の言葉をかけてもらうことが、こんなにうれしいのだと感じました。あとは、静かにうつむいていた方がパッと顔を上げて、私と目が合うとニコッと笑ってくださることもあるんです。

忙しく時間に追われていても、こういった瞬間に気持ちがふっと穏やかになるんです。これは介護の仕事だからこそ得られるものだと思いますし、この仕事の楽しさだと思います。
──無資格・未経験で働くうえで、大切なのはどのようなことだと思いますか。
お客さまへの思いやりや敬意を持つことと、予定どおりにいかないときに気持ちを切り替えられる柔軟性が大切なのかなと思います。介助の技術は経験のあるスタッフのほうがずっと上手です。私も、先輩の声のかけ方や介助の仕方を見ながら学んでいます。最初から何でもできる必要はないと思います。
──飲食店の面接では答えられなかった「将来のビジョン」について、介護の仕事を始めた今はどうでしょうか。
まずは夜勤を経験し、夜間の仕事の流れや必要な業務を身につけたいです。その後、実務者研修を受けて介護福祉士の資格を取得することが目標です。介助の技術も、さらに高めていきたいと思っています。
介護の仕事を始めたことで、努力すれば実現できると思える目標を、もう一度持てるようになりました。今後も日々の業務を積み重ねて成長したいと思います。
※掲載内容・所属・肩書はインタビュー時点のものです。