目次
1.フレックスタイム制とは
働く時間や長さを労働者が決められる制度
フレックスタイム制(通称:フレックス)とは、会社があらかじめ総労働時間を決めたうえで、労働者が日々の出勤時刻や退勤時刻を決められる制度のことで、労働基準法に定められています。
育児や介護などにより働ける時間帯が不規則な人や、日や週ごとに業務量に差がある場合などに、フレックスタイム制を利用することで勤務時間を調整でき、ワークライフバランスや生産性の向上に効果があるとされています。
例えば、1ヶ月間の総労働時間が154時間と定められている会社の場合、期間内に決められた労働時間を満たせば、日々の労働時間に差があっても問題ありません。通常9時出社のところ、週に3回保育園の送迎のため10時出社にする、週に2回学童のお迎えのため16時に退勤するなどの働き方が可能です。
なお、フレックスタイム制においても労働者の残業時間や労務管理を目的に、日々の労働時間はタイムカードなどによる管理が必要です。
コアタイムとフレキシブルタイム
フレックスタイム制を導入する会社は、就業規則などに始業と終業時間を労働者が自由に設定できる旨を規定します。さらに、労使協定で1.対象者、2.清算期間*、3.清算期間における総労働時間、4.標準となる1日の労働時間、5.コアタイム(任意)、6.フレキシブルタイム(任意)についても定める必要があります。
コアタイムとは、必ず出社しなければならない時間のことです。それに対してフレキシブルタイムとは、労働者が自由に出勤・退勤を決められる時間のことです。
コアタイムを設けずフレキシブルタイムのみの場合は、「フルフレックスタイム制」「スーパーフレックス制」とも呼ばれ、会社が定める就業時間のなかで働く時間が自由に決められます。

2.フレックスタイム制のメリット・デメリット
メリット
ワークライフバランスの向上
例えば、育児中の人が週に数回、出退勤時刻を調整することで保育園の送迎を夫婦で分担しやすくなります。また、資格取得のために週に1回退勤時間を早めることで、夕方からのスクールに通えるようになるなどのケースも考えられます。
生産性の向上
日や週によって忙しさが異なる職場では、早く帰れる日にフレックスタイム制を利用することで、体力の消耗を防ぎ生産性の向上が期待できます。
デメリット
コミュニケーションの課題
フレックスタイム制があることで同僚や社外の人と就業時間のズレが生じ、退勤後も業務に関する連絡がきたり、すぐに確認したいことがあっても上司が退勤していたりという事態が考えられます。
職種・業種の制限
フレックスタイム制に向いていない職種や業種もあります。例えば、医療・福祉業界では人員配置基準をもとに職員数を確保しており、シフト・交代制勤務を取っていることや、診療時間が決まっていることなどからフレックスタイム制の導入が難しいとされています。
3.フレックスタイム制における残業時間の扱い
残業時間=清算期間中に法定労働時間を超えた時間
フレックスタイム制のある会社でも、法定労働時間を超えて働いた分には時間外手当(残業代)を支払う必要があります。ただし、通常の固定労働時間制と残業時間の算出方法が異なるため注意が必要です。
固定労働時間制の場合、時間外手当は1日8時間、週40時間の法定労働時間を超えた分に対して支給されます。しかし、フレックスタイム制の場合は日によって労働時間が異なるため、清算期間中に法定労働時間の総枠を超えた分を残業時間とします。フレックスタイム制では1日8時間、週40時間を超えてもただちに時間外労働にならない点がポイントです。

なお、フレックスタイム制を採用している会社も法定労働時間を超えて残業させるには、あらかじめ会社と労働者が36協定を結ばなければなりません。
36協定の詳しい内容はこちらの記事で解説しています
>36協定とは? 残業の上限規制や罰則、特別条項をわかりやすく解説
法定労働時間・法定外労働時間について詳しくはこちら
>残業代(残業手当)の計算方法、時間外手当との違い、未払いの場合の請求方法を解説
清算期間は3ヶ月まで延長可能
2019年の働き方改革関連法の改正により、労使協定を労働基準監督署に届け出れば、清算期間の上限が従来の1ヶ月から最長3ヶ月まで延長可能となりました。例えば清算期間が3ヶ月の会社において、1ヶ月目の総労働時間が所定労働時間より長く、3ヶ月目に所定労働時間を満たしていない場合でも、相殺することができます。

ただし、清算期間を延長した場合であっても「清算期間中に法定労働時間を超えて働いた分」「1ヶ月ごとの労働時間が週平均50時間を超えた分」は時間外労働となります。

残業時間の注意点
フレックスタイム制では、清算期間中に法定労働時間を超過した分が残業代として支払われます。反対に、総労働時間より不足していた場合は給与から控除される(減給)、もしくは不足分が翌月の総労働時間に加算される場合もあるため、注意が必要です。

また、働き方改革関連法により時間外労働の上限が設けられたため、フレックスタイム制においても上限規制の範囲内でなければ法律違反となります。
労働基準法で時間外労働の上限は、月45時間・年360時間と定められています。これを超えて時間外労働をする場合は、労使協定で特別条項を結ぶことで年720時間を上限とすることが可能です。ただし、特別条項を締結していても、時間外労働が年720時間以内、時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満などの上限を守らなければなりません。
4.フレックスタイム制に関するよくある質問と回答
Q.フレックスタイム制は1日何時間働く?
A.フレックスタイム制では、労働者が日々の始業・終業時間が決められるため、日によって労働時間が異なります。そのため、1日に働く時間は決まっていません。
フレックスタイム制には2種類あり、1日のなかで出勤が必要な時間帯「コアタイム」が設けられているフレックスタイム制と、コアタイムがなく会社があらかじめ定めた時間内で自由に出退勤時間が決められるフルフレックスタイム制があります。
Q.フレックスタイム制のメリットとデメリットは?
A.フレックスタイム制のメリットはワークライフバランスが取りやすくなることと、生産性の向上が期待できる点です。
一方、デメリットとして周囲の人と就業時間が合わないことからコミュニケーションが取りづらくなることや、職種や業種によってはフレックスタイム制の導入が難しいことが挙げられます。
Q.フレックスタイム制は誰でも適用されますか?
A.フレックスタイム制は会社が指定すればすべての労働者が対象となりますが、職種や部署によっては難しいケースもあります。その場合、特定の部署や個人ごとへの適用も可能です。また、パートやアルバイトでも労使協定のなかで対象労働者に含まれていればフレックスタイム制を適用できます。
Q.フレックスタイム制でも年休はもらえますか?
A.フレックスタイム制を採用している会社でも年次有給休暇は付与する必要があります。フレックスタイム制の対象となっている労働者が年次有給休暇を取得した場合、会社が定めた1日の労働時間を働いたものとみなされます。
参考
- 厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署|フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き