
1.認知症ってなに?
認知症とは、脳の神経細胞が壊れることで認知機能*に障害が生じ、日常生活や社会生活に支障が出る状態を指します。
*知覚・記憶・思考・感情・学習・判断など社会生活に適応するために必要な機能の総称。
・加齢によるもの忘れとの違いは?
「認知症によるもの忘れ」の症状は「加齢によるもの忘れ」とよく間違えられますが、この2つは大きく異なります。例えば「加齢によるもの忘れ」は脳の老化が原因なのに対し、「認知症によるもの忘れ」は何らかの病気によって脳の神経細胞が壊れることが原因です。
加齢によるもの忘れ | 認知症によるもの忘れ | |
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原因 | 脳の老化 | 脳の神経細胞が壊れる・働きが落ちる |
記憶 | 体験の一部を忘れる ※ヒントがあれば思い出す |
体験をまるごと忘れる ※ヒントがあっても思い出せない |
進行 | あまり進行・悪化しない | 進行する |
判断・理解力 | 低下しない | 低下する |
自覚 | 忘れっぽいことを自覚している | 忘れた自覚がない・気付いていない |
日常生活 | 支障はない | 支障をきたす |
参考:政府広報オンライン|もし、家族や自分が認知症になったら 知っておきたい認知症のキホン
・5人に1人が認知症に?
厚生労働省の研究によると、高齢化に伴い認知症患者数が年々増加すると推測されています。2030年には「高齢者の約5人に1人が認知症である」と推計されています。

参考:厚生労働省|認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)の概要
2.認知症の主な症状
認知症の症状には、認知症の方に必ず見られる「中核症状」と、中核症状に本人の性格や環境の変化が加わって起こる「周辺症状(行動症状・心理症状:BPSD)」があります。

・中核症状とは
脳の神経細胞が壊れることで起こる症状で、代表的な症状は記憶障害です。直前の出来事を忘れてしまう一方で過去の記憶はよく残りますが、症状が進行するにつれて過去の記憶も失われることが多いようです。ほかにも、時間・場所・名前などがわからなくなる見当識障害や、判断力の低下などがあります。
・周辺症状とは
中核症状をベースとして、本人の性格や環境の変化、人間関係などが関係し合って起こります。そのため周辺症状は人それぞれ異なり、時間や接する相手によっても変化します。具体的には妄想や抑うつなどの心理症状と、徘徊や暴力などの行動症状が見られます。
3.認知症にはどんな種類がある?
日本では「アルツハイマー型認知症」「血管性認知症」「レビー小体型認知症」「前頭葉型認知症」が4大認知症と呼ばれています。中でも一番多いのが「アルツハイマー型認知症」で、認知症全体の半分以上を占めています。

参考:厚生労働省老健局|認知症施策の総合的な推進について
・アルツハイマー型認知症とは
脳が萎縮することで引き起こされると考えられています。昔のことはよく覚えているものの、新しいことを忘れてしまうのが特徴です。症状の進み方は緩やかであり、重症化すると時間や場所の認識が難しくなります。
発症の原因 | 初期の症状 | 脳の萎縮・脳の神経細胞が壊れる | もの忘れ |
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特徴的な症状 | 経過 |
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記憶障害から始まり、広い範囲の障害へ徐々に進行する |
・血管性認知症とは
脳卒中(脳梗塞・脳出血・クモ膜下出血)で生じる「脳血管障害」によって発症します。記憶障害や見当識障害が見られるほか、脳血管障害によって身体麻痺や言語障害を伴うこともあります。脳血管障害の影響がない部位の機能は保たれるため、できることとできないことの差が大きいのが特徴です。感情の起伏が激しくなることもあります。
発症の原因 | 初期の症状 | 脳血管障害 | もの忘れ |
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特徴的な症状 | 経過 |
|
原因となる疾患によって異なるが、症状が急激に出現し、段階的に進行していくことが多い |
*脳血管障害の影響を受けた部位の機能は低下するものの、影響がない部位の機能は比較的健在であること。例えば記憶力の低下が目立つものの、理解・判断力がしっかりしているなど。
・レビー小体型認知症とは
レビー小体という特殊なたんぱく質が脳内に生じ、脳の神経細胞を破壊することにより発症します。記憶障害や見当識障害のほか、「手足が震える」「動きが遅くなる」などのパーキンソン症状や幻視、自律神経症状などがあります。時間帯や日によって認知機能に変動が生じ、調子が良いときと悪いときの差が大きいことが特徴です。
発症の原因 | 初期の症状 | レビー小体によって脳の神経細胞が壊れる | 幻視、妄想、抑うつ、パーキンソン症状 |
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特徴的な症状 | 経過 |
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調子が良いときと悪いときを繰り返しながら進行する |
・前頭葉型認知症とは
ピック病とも呼ばれ、脳の前頭葉や側頭葉前方が萎縮することにより発症します。前頭葉は人格・社会性・言語をつかさどることから、もの忘れなどの症状よりも性格の変化や行動の異常が初期段階から目立ちます。例えばお店の物を勝手に持ってきてしまう、人に暴力をふるうなどの症状が見られます。
発症の原因 | 初期の症状 | 前頭葉、側頭葉前方の萎縮 | 性格の変化、行動の異常 |
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特徴的な症状 | 経過 |
|
少しずつ進行する |
若年性認知症とは?
65歳未満で発症する認知症のことを言います。厚生労働省の調査によると、若年性認知症患者数は2009年時点でおよそ4万人です。高齢者の認知症と同様にさまざまな種類がありますが、血管性認知症とアルツハイマー型認知症が多く、全体の7割近くを占めます。
参考:厚生労働省老健局|若年性認知症ハンドブック
4.認知症の方の介護・ケアに関する資格は?
認知症への理解を深め、より専門的な知識を身につける手段の一つに資格取得があります。公的資格・民間資格に分けて、認知症に関する代表的な資格を紹介します。
・公的資格
公的資格とは、もともと民間資格だったもののなかで各省庁が認めた資格のことを言います。以下の公的資格の研修は、各都道府県で受講できます。
認知症介護基礎研修 | |
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特徴 | 認知症ケアの初任者向けの研修。認知症ケアに関する最低限の知識・技術・考え方を身に付け、サービスを提供できるようにすることが目的。 |
受験資格 | 介護保険施設・事業所に従事する介護職員(居宅介護支援事業所を除く) |
認知症介護実践者研修 | |
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特徴 | ある程度の実務経験を持つ人向けの研修。現場の中心としてほかの職員をリードし、認知症ケアの具体的な行動ができることを目指す。 |
受験資格 | 介護保険施設・事業所に従事する介護職員(居宅介護支援事業所を除く)で以下の要件をすべて満たす者
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認知症介護実践リーダー研修 | |
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特徴 | ベテラン介護職向けの研修。チームリーダーとしてほかの職員を指導し、認知症ケアの方策を具体的に展開できる力や、地域連携を図った方策を実践できる力を身に付ける。 |
受験資格 | 介護保険施設・事業所に従事する介護職員(居宅介護支援事業所を除く)で以下の要件をすべて満たす者
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認知症介護基礎研修の義務化
2021年4月より、訪問系サービス、居宅介護支援及び福祉用具貸与(販売)を除くすべての無資格の介護職員に対して「認知症介護基礎研修」を受講することが義務付けられます。
現在無資格の介護職員には3年間の経過措置期間が設けられており、2024年度までに認知症介護基礎研修を受講する必要があります。
・民間資格
認知症ケア専門士 | |
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認定団体 | 一般社団法人日本認知症ケア学会 |
特徴 | 認知症ケア技術の向上を目的とした更新制の資格。試験実施年の3月31日以前の10年以内で3年以上の認知症ケアの実務経験が必要。 |
試験 | 筆記による1次試験と、論文・面接による2次試験 |
認知症ケア指導管理士 | |
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認定団体 | 一般財団法人職業技能振興会 一般社団法人総合ケア推進協議会 |
特徴 | 介護・医療現場で認知症ケアに携わる方の専門性向上を目的とした資格。資格や実務経験の有無に関わらず受験可能。 |
試験 | マークシート方式の筆記試験 |
認知症ライフパートナー | |
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認定団体 | 一般社団法人日本認知症コミュニケーション協議会 |
特徴 | 基本的な知識やコミュニケーション手法を学ぶ3級、介護福祉経験者に必要な知識や技術を学ぶ2級、専門職の育成や指導的役割を持つ1級がある。 |
試験 | マークシート方式の筆記試験(1級のみ記述式あり) |
認知症介助士 | |
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認定団体 | 公益財団法人日本ケアフィット共育機構 |
特徴 | 正しい知識を身に付け、認知症の方に寄り添うことを目的とした資格。試験会場のほか、全国のCBT(コンピューター試験)センターや自宅での受験が可能。検定試験がセットになったセミナーも実施。 |
試験 | 試験会場で受験する場合はマークシート方式の筆記試験 全国のCBTセンターや自宅のパソコンでの受験も可能 |
・認知症サポーター養成講座の受講もおすすめ
認知症サポーターは、「認知症に関する正しい知識と理解を持ち、地域や職域で認知症の人や家族に対して、できる範囲での手助けをする人」のことです。特別な職業や資格ではありませんが、介護職の方はもちろん、介護職を目指す方、別業種の方、学生などさまざまな方が受講できます。認知症サポーター養成講座は全国の自治体で開催されています。
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