
医療・介護・福祉事業を運営する企業形態
医療・介護・福祉事業の運営母体に多いのは、社会福祉法人、医療法人、株式会社です。その大きな違いは2つあります。1つは「営利」か「非営利」か。もう1つは「事業目的」です。
「株式会社」は営利組織です。利益を最大限にするべく事業を行い、その利益を関係者に配当することは、会社運営の目的の1つです。そのために、事業や人材配置の効率化を常に考え、組織運営を行います。
一方、「医療法人」や「社会福祉法人」は非営利団体と呼ばれます。人命や介護サービス、地域貢献などの事業は、かけがえのない命や健康、安全を守ることが事業目的です。営利が目的になっていては、十分なサービスにつながらない場合もあります。そのため、とくに医療事業の経営主体は非営利団体が担うことと定められています。
事業目的の違いは、その名前にも表れています。「社会福祉法人」であれば福祉を目的とした事業を営み、「医療法人」であれば、医療を目的としています。一方で「株式会社」の事業目的は自由です。経営者のアイデアや想い、理念に基づき、さまざまな事業を行うことができます。
社会福祉事業を目的とする非営利組織「社会福祉法人」
社会福祉法人とは、社会福祉法に基づき設立されるもので、「社会福祉事業を行うことを目的として、この法律の定めるところにより設立された法人」と定義されます(社会福祉法第22条)。社会福祉法人の設立には、事務所がある都道府県(政令指定都市や中核市の場合は市)の認可が必要です。
社会福祉事業の内容も定められており、第一種社会福祉事業として「特別養護老人ホーム」「児童養護施設」「障害者支援施設」「救護施設」などが含まれ、第二種社会福祉事業に「保育所」「訪問介護」「デイサービス」「ショートステイ」などが含まれます。また、社会福祉法人は、公益事業として「子育て支援事業」「入浴、排せつ、食事等の支援事業」「介護予防事業、有料老人ホーム、老人保健施設の経営」などを行うことが認められています。
厚生労働省による「平成28年社会福祉施設等調査」によると、社会福祉法人が多く経営しているのは、老人福祉施設、障害者支援施設、婦人保護施設、保育所等の児童福祉施設など。老人福祉施設の91.5%、障害者支援施設の76.3%、婦人保護施設の65.0%、児童福祉施設の53.2%が社会福祉法人の運営です。事業別に見ると、短期入居事業が76.1%、生活介護事業が58.4%、地域相談支援(地域移行支援)事業が54.2%と多くなっています。
社会福祉法人には、地域の多様な福祉ニーズにきめ細かく対応するだけでなく、社会的な支援が必要な人に対し、継続的にサービスを提供していくことが求められています。そのため、社会福祉法人が行う社会福祉事業は、特に継続性・安定性が重要視されています。
社会福祉法人で働くメリットは、介護や保育など、特定のスキルをのばしていけること。介護や福祉についての広い視野が得られ、プロフェッショナルを目指すことができます。それぞれの分野でスキルアップすれば、介護なら社会福祉士やケアマネージャーなどの資格が取得でき、業務の幅を広げることができます。
また、ほとんどの社会福祉法人は、地域に密着して運営しているため、異動があっても狭い範囲にとどまることが多いのも魅力のひとつ。遠方への転勤などがなく、安定して働き続けることができることが多いようです。
医師が常勤する施設が開設できる「医療法人」
医療法人は、医療法の規定に基づいて設立される法人です。医療法の39条には「病院、医師若しくは歯科医師が常時勤務する診療所又は介護老人保健施設を開設しようとする社団又は財団」と定義付けられています。社団とは人の集まりを基盤とした組織で、財団とは財産を運営するために作られる法人ですが、医療法人では、両方を設立できます。一般的に医療法人という場合は医療法人社団を指していることが多いようです。医療法人は、都道府県の認可を受け、設立します。
医療法人が運営するのは基本的に病院や診療所、介護老人保健施設など。最近では、社会福祉施設の運営も行うところも増えています。平成28年社会福祉施設等調査(厚生労働省)では、障害者支援施設等の3.5%、授産施設や医療保護施設などの保護施設の2.9%を医療法人が運営しています。
介護予防のためのリハビリテーションや通所介護などのほか、社会復帰を目的とした福祉サービスなどを行う医療法人も増えています。事業別には、宿泊型自立訓練事業が43.1%と最も多く、自立訓練(生活訓練)事業が9.5%、共同生活援助事業が8.2%を占めています。
医療法人で働くメリットは、なにより医療知識が身につけられること。福祉分野における医療との連携についての経験も積むことができます。知識の幅を広げ、さまざまな分野の考え方を身につけたい方にはピッタリです。
特徴のあるサービスを提供する「株式会社」
株式会社は、一般の企業と同じく営利を目的の1つとする運営組織。資本金や定款などを作成し、登記手続きをすることで、誰にでも設立できます。福祉分野への参入は比較的新しいのですが、事業の目的が幅広く自由に設定できるため、これまでの施設とは異なる視点のサービスで人気を集めている施設も多いのが特徴です。
平成28年社会福祉施設等調査(厚生労働省)によれば、株式会社が運営している施設は、老人福祉施設が2.1%、その他の社会福祉施設が71.3%となっています。その他の施設に含まれているのはサービス付高齢者向け住宅以外の有料老人ホームなど。また、主な事業の種類別を見ると、高齢者の同行援護事業が70.3%、重度訪問介護事業が68.6%、居宅介護事業が67.4%の割合になっています。
株式会社で働く場合のメリットは、研修体制が整っていたり、福祉事業以外の実績や経験を活かした業務手法などに触れることができるという点です。新規事業所を増やす場合の立ち上げなどに関われるだけでなく、事業所の経営に携わる場面も出てくるかもしれません。施設の運営や開業を目指す人にとっては、現場と運営の両方を学べる場所といえるでしょう。
運営母体で給与は違う?選ぶポイントは?
社会福祉法人、医療法人、株式会社には、それぞれの運営形態や目的などに特徴があることはわかりましたが、実際に就職した際、給与などに違いはあるのでしょうか?
2018年8月に、ジョブメドレーに掲載があった介護職/ヘルパー求人の平均給与を見ると、このような結果となりました。
◆社会福祉法人・・・平均月給194,554円(平均時給1,004円)
◆医療法人・・・平均月給191,531円(平均時給997円)
◆株式会社・・・平均月給210,528円(平均時給1,113円)
※賞与や退職金は含まず
平均月給や平均時給を見ると、株式会社が運営母体になっている施設の給与が高いようです。ただ、株式会社の場合、給与額は、運営母体の規模の大きさなどにも左右されますので、大きな違いはない、と考えてもよいでしょう。
福祉関連の就職先を探す場合は、給与がいいからといっても、福利厚生の充実や昇給制度の違い、そのほかの待遇などが異なっている場合もあります。それぞれの施設の仕事内容や担当する業務の範囲なども、しっかりと見比べることも大切です。さらに、介護に対する考え方やサービス提供についての理念などに共感できるかは、働いていくうえで重要なポイント。忘れずにチェックして、納得のいく職場を見つけてください。