
ICU看護とは?
1960年代、日本でICUが誕生したころに救命技術である人工心肺蘇生術も確立されたため、ICU看護には“救命”のイメージがあります。しかし、実際には患者の後々の人生のために回復を支援する看護がICU看護です。
現在では、医療の進歩にともない、CCU(冠疾患集中治療室)・HCU(準集中治療管理室)・SCU(脳卒中集中治療室)・NICU(新生児集中治療室)などの専門性に特化した集中治療室も増えていますが、ICUでは疾患を限定せずに、生命に危機がある患者のすべてを受け入れています。疾患を限定しない、ICU看護が特殊だといわれる理由です。
そもそもICUってなに?
どの施設も国から定められた基準を満たす必要がありますが、ICUにも届出基準(1~4)があります。ここでは特定集中治療室管理料1に基づいて述べています。
ICUは「Intensive Care Unit」の頭文字をとったものであり、日本語では集中治療室(特定集中治療室)と訳されています。
ICUでは、術後の患者や生命に危機がある患者を受け入れているため、ベッドサイドに多くの医療機器(血圧や心電図などの生体反応をみるモニター、人工呼吸器など)が設置でき、看護師が一目で監視できる構造になっています。
また、専任で経験のある医師、患者2人に対して看護師1人、臨床工学技士の配置などが求められています。2018年、厚生労働省はICUの看護師について「専門的な研修を受けていることが望ましい」としています。患者の回復のために手厚い治療や看護をしなさいということですね。
ICUに関わる職種
ICUには医師、薬剤師、看護師、セラピストなど多くの職種が関わっています。ICU看護を実践するために、急性・重症専門看護師や集中ケア認定看護師が配属されている施設も多く、職種に関係なく呼吸療法認定士を取得しているスタッフもいます。
また、ICUの特殊性から人工呼吸器などの医療機器を管理する臨床工学技士を配属している施設もあります。
ICU看護の特徴
ここまでに触れてきた「ICU看護」とは、具体的にどのようなものでしょうか?
ICU看護の特徴として、すべての看護領域の中で、ICU看護師はもっとも病態生理に精通していると思います。
ICU看護師は、時に「ミニドクター」と言われながらも、急変しやすい患者の臨床状態とモニターの数値を即座に病態的にアセスメントする能力・技術が絶対に必要だからです。
ICU看護は、すぐに反応があり、患者が安定する喜びもありますが、死に立ち会うことも少なくありません。
自分のアセスメントに抜けがなかったか、患者の不安に対応するだけでなく、なぜここにいないといけないのかわかっていない患者の行動から、声なき声を聴き、見えないものを見る看護をしています。
ICU看護師は常に医療と看護の根拠を考えて行動し、「看護者本位になっていないか?」と振り返っています。
そして、ICU看護師は、安楽に生活することが難しい場だからこそ、セラピストと協力して人工呼吸器を着けたまま立ち、大きな窓から外を眺め、ベッドに簡易的なビニールのお風呂を設置して患者の身体を温め、できるだけ普通に過ごせる環境づくりを大切にしています。
ICU看護のもう1つの特徴は家族の支援です。
患者が生命の危機に合っている…家族は、心配やストレスの感情をICU看護師にぶつけてくることもあります。家族間でも価値観はさまざまで、家族の感情が揺れ動く中で日々価値観が変化している場合もあります。
ICUでは、面会時間と人数が決められていることも多いので、適切に患者の状態を伝えつつ家族の状態も把握し、時間が足りないようだと別に家族面談の時間を設けたりします。
その時に重要なことは、自分の価値観を入れないことです。意見を求められることも多いのですが、家族の価値観を全面的に支援するスタンスを心がけています。
ここまで読んで、「ICU看護って難しい」と感じた方もいるかもしれません。これらは、ICU看護の一側面でありすべてではありません。
たしかにICU看護師は、常に高いアセスメント能力と早い判断力を求められています。
緊張する業務も多いですが、ICU看護師たちが「ICU看護の回復支援が楽しい」と言っていることも事実です。
そして私は、ICU看護師として大事なことは“笑顔”だと思います。患者への笑顔、家族への笑顔、スタッフへの笑顔を心掛け、緊張感を和らげる環境を意識してつくることがICU看護の土台だと思います。
ICUの看護師になるためには?
ICUの看護師は、新卒者を配属し教育していくか、適性を見極めて配属することがほとんどです。
自らICU配属を希望するのであれば、少なくともBLS(Basic Life Support:一次救命処置)、ACLS(Advanced Cardiovascular Life Support:二次心肺蘇生法)やJPTEC(Japan Prehospital Trauma Evaluation and Care:病院前外傷教育プログラム)などの資格を得たほうがいいでしょう。
さらに呼吸療法認定士やNST専門療法士、せん妄や認知症患者に関連する資格があればさらに有利だと思います。
また、専門的な勉強だけでなく、日々の看護の中でもデータと臨床の症状を結びつけて、ICU的にアセスメントするクセをつけましょう。
生体の正常値を覚えるだけでなく、患者の病態に合わせて脈拍と血圧の関係が説明できるようにしたり、Spo2だけ測って正常だと判断せずに、呼吸数と関連して酸素化を説明したり、採血データから代謝を読み取り、データの変化から何をアセスメントするか考えてみたりすることが大切です。
方法論が違うだけで、ICU看護師も一般病棟の看護師も、患者の回復を支援し異常の早期発見の看護は同じです。
ICUの看護師にはどんな人が向いている?
ICUの看護師には、病態だけではなく、進歩している医療機器などの勉強も苦にならない人が向いていると思います。
私自身セミナーを開催し、参加もしていますが、必ずといっていいほどICU看護師が参加しています。最近では倫理研修や心理セミナーでも出会うことがあり、貪欲に学ぶ姿勢を尊敬しています。
看護はどの現場でもチームとして協調性が求められますが、ICU看護師はとくにその傾向が強いです。生命の危機に密接な場だからこそ、緊張感を高めないようにすることが必要です。
そのため、自分の業務が大変な時でも協調性をもって、チームの仕事に貢献することができる人は向いていると思います。
また、ICU看護では日常で起こらないことに毎日向き合っています。自分の感情が不安定になることもあり、仲間のICU看護師に支えられることも多くあります。そのため、患者や家族など限定することなく、人を支えたいという想いの方が向いているのではないでしょうか。
今回の執筆にあたり、ICU師長や急性・重症看護専門看護師、集中ケア認定看護師、ICUに所属している看護師たちにインタビューを行い、快くご協力いただきました。ありがとうございました。