就労移行支援とは、障害のある人が一般企業への就職を目指せるよう、生活リズムやビジネスマナーの習得などを支援する福祉サービスです。
なかでもNeuro Dive(ニューロダイブ)はIT職種への就職支援に特化しています。利用者は、統合失調症や発達障害など精神・発達に障害のある20〜30代の方が中心で、過去に就労経験があるものの、障害特性などから働くことに難しさを感じている方も少なくありません。
そうした一人ひとりに向き合い、支えているのが支援員です。今回は、病院の心理職からNeuro Diveの支援員に転身した新谷さんに、転職の経緯や仕事内容、心理職の経験が現在の支援にどう生きているのかを聞きました。

大学院修了後、精神科病院や研究機関での心理職を経て、パーソルダイバースへ入社。現在はNeuro Dive 秋葉原の講座担当として利用者の支援にあたる。公認心理師。
心理職としてのキャリアを経て、支援員への転身を決めるまで
──支援員になる以前、心理職としてどんな仕事をしていましたか?
支援員になる前は、ふたつの職場で心理職として働きました。最初の精神科病院には3年勤め、主に病棟や外来の患者さんのカウンセリングや検査を担当し、週に一度はデイケアでSST(ソーシャルスキルトレーニング)の講座を受け持っていました。
その後、精神科医の研究プロジェクトの一員として、国立の研究機関に4年ほど勤めました。統合失調症や発達障害の方の診断補助を担当し、治療方針を決めるための検査を年間で何百人分もおこなっていました。
──それからなぜ、支援員に興味を持ったのでしょうか。
検査で患者さんに近況を尋ねると、就労移行支援に通っているという話をよく耳にしました。その内容は「毎日通うのがつらい」というものから、「せっかく就職できたのに体調を崩して続けられなかった」というものまでさまざまです。
そうした話を聞き続けるうちに、一体どんな支援をしているんだろうと純粋に興味を持つようになり、転職を意識しはじめました。
──7年間続けた医療職を離れることに不安はありませんでしたか?
正直、不安は大きかったです。学生時代からの目標が精神科で働くことだったので、医療職を離れていいのだろうかと迷いました。
それでも次第に、病院の心理職としてできることには限界があると感じるようになりました。病院は悪いところを治す医療的なアプローチが中心になるため、回復後の生活まで関わることは難しいのが実情です。
回復しつつあるけれど、まだ心に不安を抱えている人に寄り添い、その人らしく生きていくところまで支援したいという気持ちが強くなり、支援員に転職することを決めました。
ITスキルより、土台づくりが仕事の本質

──Neuro Diveは、就労移行支援事業所のなかでも珍しいIT特化の事業所ですよね。なぜ入社を決めたのですか?
事業内容の説明を見たとき、「能力を持っているのに障害特性によって発揮できていない方が多いのでは?」と想像し、そうしたもどかしさを抱えている方を支援するのは、やりがいがありそうだと感じました。
加えて、面談などの仕事内容を見て、病院で培ってきたアセスメントの経験も生かせそうだと思い応募を決めました。
──実際に、想像していたような方が多かったのでしょうか?
想像していた通り、能力はあってもコミュニケーションや人との関わりの面で難しさを感じ、うまく就活を進められなかったという方が多いです。
同時に、「ほかでは学べないデータ分析や業務効率化のスキルを身につけたい」という、学習意欲の強い方も目立ちますね。自分で問題を解決しようとする気持ちが強い方の支援ができるところが、ITに特化した事業所ならではだと感じています。

──ちなみに、新谷さんはもともとIT分野に詳しかったのですか?
いえ、オフィスソフトの操作くらいしかできない、ほぼ知識ゼロの状態で入社しました(笑)。
Neuro DiveはAI技術やデータサイエンスなどIT分野に特化した事業所ですが、それと同じくらい、職業準備性※を整えていくことも大切にしています。IT特化と聞くと尖った印象を持たれやすいですが、一見目立たない職業準備性の支援こそが、就労移行支援としての力の見せどころだと思っています。
──では、未経験からの入社で苦労したことはありますか?
入社後の2週間はオンラインで研修を受けるのですが、馴染みのない福祉制度が次々と出てきて、毎日のように調べていました。空き時間に利用者さん向けの動画学習サービスを受講することもありましたが、「こんな難しいことをやっているんだ」と驚くことも多かったです。
それから最初の1ヶ月は、ほかの職員が担当する面談や講座に同席しながら業務を学んでいきました。面談は、利用者さん一人ひとりと定期的におこなう個別面談のことで、体調や近況の確認、就活に向けた進捗のすり合わせなどをおこないます。
今でも、専門知識については利用者さんのほうが詳しいこともありますが、その部分の支援はITアドバイザーが担当しているので、ITの知識不足で苦労している感覚はあまりありません。
講座、面談、説明会。支援員の仕事内容と一日の流れ

──入社して1年が経つそうですね。今はどんな業務を担当しているんですか?
職業準備性を整える講座運営を中心に担当しています。Neuro Diveでは週3日、複数の支援員で分担しながらオンライン講座を実施しているんです。内容は、ビジネスマナーのようなものから、就活に向けた講座、メンタルケアの講座まで幅広く扱っています。
私が講師を務めるのは月に3回程度ですが、講座担当としてグループワークの運営方針を考えたり、ほかの支援員も使う講座のマスター資料を調整したりと、講座全体を運営する役割も担っています。講座以外にも、支援員ごとに担当業務があります。
──講座以外には、どんな担当があるんですか?
企業担当(企業の見学対応や訪問)、入り口担当(Web説明会や個別相談の対応)、事務担当(実績記録表の回収や利用申請書類のチェック)など、それぞれが得意な分野を担当しています。
ただし、これはあくまで担当業務の話です。支援員は日々の業務として、利用者さんとの面談やWeb説明会対応など、幅広い業務をおこなっています。

──支援員としてどんなときにやりがいを感じますか?
今は担当講座を運営しているときですね。講座は20人ほどが受講していて、一つの講座ごとに利用者さんから感想やフィードバックをもらえます。これは私の個人的なこだわりなんですが、講座のたび、利用者さんに合わせてちょっとだけ資料を変えるようにしているんです。
こちらの意図が伝わったときは「やってよかった!」と思いますし、うまくいかなかったときは、次はどう改善したらいいか考えます。そこが講座運営の楽しいところですね。
治療の視点から、支援の視点へ

──福祉職として働いてみて、支援に対する考え方に変化はありましたか?
入社したてのころは、病院でおこなっていた治療の延長のような感覚で、利用者さんと関わっていたと思います。この人がどうやったら良くなるのか、という「治す」アプローチが抜けきっていなかったんです。
1年ほど利用者さんと関わるなかで、良くなったかどうかに加えて、就職に向けて今この人に何が必要なのか、という視点も持てるようになりました。
──例えば、どんなときにそれを実感しますか?
入社当初からずっと関わっている利用者さんがいます。ITスキルはすでに就業できるレベルだったのですが、体調が安定せず、遅刻や早退も多くて、なかなか就活に進めずにいたんです。
最初は「体調はどうですか?」と聞いても、「わからないけど具合が悪いです……」としか答えが返ってきませんでした。そこで、体調そのものより自分の状態を言葉にできるようになることを大事にして、毎週の面談で関わるようにしました。
すると、少しずつ「昨日お昼寝をしてから調子が悪いです」など具体的な返事が返ってくることが増えたんです。面談内容との因果関係はわかりませんが、今では通所時間の最初から最後まで安定して利用できるようになり、もうすぐ就活に進めそうな段階まで来ました。
障害者雇用への「見方」を変えていきたい

──IT職の障害者雇用について、企業側にどのような課題を感じていますか?
社会全体として、障害者雇用に対する理解はまだ十分に進んでいません。企業側はどんなスキルを持つ人を採用できるのかわからず、求人を出しにくいのが実情のようです。
そんななかでも、Neuro Diveに興味を持ってもらえる企業さんもいらっしゃいます。見学で利用者さんの成果物を見たことをきっかけに求人を出してくださる企業もありますし、見学で出会った利用者さんのスキルを見て、その方向けの求人を作ってもらい、就職が決まったケースもあります。
──企業がそこまでして採用したいと思うのには、どんな事情があるんでしょう?
社会的にIT人材が不足しているという事情があります。だからこそ、利用者さんが持っているスキルや能力に、可能性を感じてくれている企業も少なくありません。そういった意味で、ITに特化しているNeuro Diveは社会の障害者雇用に対する見方を変えていくための発信ができる場所だと思っています。
──最後に、Neuro Diveの支援員として目指していることを教えてください。
利用者さん一人ひとりが、自分に合った働き方を見つけ、無理なく働き続けられるよう支援していきたいです。私自身、シックリーブ(通院のための有休以外の休暇制度)を使えたり、生活に合わせて在宅勤務ができたりする環境のおかげで、無理なく仕事を続けられています。
こうした制度や柔軟な働き方は、障害の有無にかかわらず役立つはずです。一人ひとりが自分に合った働き方を選べる環境が広がれば、障害者雇用という枠組みを超えて、誰にとっても働きやすい社会につながっていくのではないでしょうか。
※本記事は提供企業の方針を反映し「障がい」を「障害」と表記しています。