公認心理師とは?
公認心理師は心の問題を抱えた人に対して、心理学の知識と技術を用いて援助する専門家です。カウンセリングやさまざまな心理療法をおこなうことで相談者が抱える問題を分析し、助言や指導、相談者の家族や関係機関との連携などを通じて解決に導きます。
公認心理師は国内唯一の心理職の国家資格として2017年に誕生しました。公認心理師になるには所定の大学等の修了、または一定の実務経験を積んだうえで、国家試験に合格する必要があります。
公認心理師の国家試験や仕事内容について詳しくはこちらの記事をご覧ください。
一度は諦めた資格取得、コロナによって受験を決意

──Aさんは現在作業療法士として精神科病院に勤めているんですね。なぜ公認心理師資格の取得を考えたのでしょうか?
Aさん:最初のきっかけは、公認心理師の第1回試験が実施される2018年でした。私が前職の精神科病院のデイケア(通所リハビリテーション)に勤めていた頃です。
そこで同僚の臨床心理士さんから「公認心理師の試験、受けてみない?」ってお誘いを受けたんです。私大卒じゃないですし、受験資格ないですよって言ったんですけど、どうやら病院での実務経験が5年以上あれば受けられる*みたいで。
私は作業療法士ですけど、もともとデイケアでは精神科の利用者の方やその家族と話をしたり、心理士さんと一緒に心理教育にも取り組んでいたりして、心理学的なアプローチにも携わっていました。そのうえでより心理学的な視点を持てたら、利用者の方にもより良い支援ができますし、私自身の自信にも繋がるなと考えたんです。
──作業療法士としてのスキルアップにも繋がると考えたんですね。
はい。……ただ調べてみると、私の受験資格では現任者講習会の受講が必要ということがわかって。たしか受講時間は30時間だったんですけど、仕事を休んで遠方まで講習に通うっていうハードルがかなり高いと思って……当時は受験を見送ることに。
──そうだったんですか。
そうなんです。ただその2年後(2020年)からコロナが流行り始めて、現任者講習会がオンライン化されるようになって。「今ならオンライン受講できるよ!」って友達の看護師から教えてもらって、一緒に受験することに決めました。

現任者講習会の内容は、30時間以上のビデオ講義の視聴とレポートの提出課題です。レポートでは5つの分野(保健医療、福祉、教育、環境労働、司法犯罪)の事例検討をおこないました。
独学での受験勉強スケジュール
──受験を決めてからのスケジュールを教えてもらえますか?

こんな感じですね。もともと試験日は5月だったんですけど、2021年はコロナの影響で9月に延期されてしまいました。
──では勉強期間は約9ヶ月間あったんですね。
最初の2ヶ月……1月から3月上旬くらいまでは、試験勉強は一切せずに現任者講習会を受けたあとの理解度だけで過去問を解く期間にしました。と言っても公認心理師の過去問は4回分*しかないので、ずいぶんのんびり目なんですけど(笑)。
──過去問の結果はどうでしたか?
公認心理師試験の合格ラインは約60%なんですね。4回中1回だけは合格ラインに達したんですが、ほかはだいたい50%前後で……。
──勉強なしで一度でも合格ライン到達はすごいと思いますよ!
そうですよね?! だから予備校も考えてたんですけど、「合格ラインまであと10%なら自力でいけるだろう!」と思って独学で頑張ることにしました。
──ちなみに、5月と7月に模試を2回受けられたんですね。
はい、辰已法律研究所が主催している公開模試を受けました。2回ともかなり難しくて得点率は50%ちょっとくらいで……。
ただ作業療法士の国試のときも、模試の結果はイマイチでも本番で最高得点を出せたので。今回も模試は難しめなんだろうなって、あまり気にしすぎないようにしました。
脱・苦手意識! 一般書やYouTubeを使って理解を深める
──勉強に使用したテキスト類を教えてください。

過去問は『赤本 公認心理師国試対策』(河合塾KALS)ですね。これは使ってる人が多いと思います。
参考書は『公認心理師必携テキスト』(学研メディカル秀潤社)。用語解説や実験内容などが載っています。写真が全カラーで見やすいですね。
あとは作業療法士の受験時に使ってた『臨床心理学キーワード』(有斐閣)。ほとんど線が引かれてないから、当時はあまり使ってなかったのかな……。これを空いた時間に読んでみたり。
あとおすすめは一般書ですね。一般の方にもわかりやすい言葉で書かれているので、理解しやすいです。イラストも入っていてとっつきやすいというか。私はインプットは目で見たほうが覚えるタイプなので、図解の多い本を選んで買いました。

──受験勉強だと受験対策用の書籍ばかりを選びがちですが、一般書はたしかに使えそうですね。
いきなり難しいテキストだと苦手意識が抜けないじゃないですか。そこを払拭するのに一般書は良いと思いますよ。
ちなみに私の場合、アウトプットは文章で書くほうが得意なんです。なのでノートは文字ばっかり。

自分の記憶の特性──インプットとアウトプットでどの方法が得意か知っておいて、それに合う勉強法を選ぶのが良いと思います。
──ちなみに公認心理師試験では、厚労省が出題範囲を公示している「ブループリント」があると思います。これを意識して勉強はしましたか?
一応軽く目を通しました。ただ対策テキストなどは基本的にブループリントに準拠して作られているはずなので、そこまで気にしてなかったですね。前回試験と今回の変更点を確認したくらいです。
──なるほど。テキストやノート以外で勉強に使用したものはありますか?
YouTubeを結構使いましたね! 通勤は車で往復40分くらいなんですけど、受験期間中はいつも聴いてる音楽を封印して、YouTubeの解説動画を聴くようにしました。
Aさんがよく視聴していたYouTubeチャンネル
あとは公認心理師の問題を出題してくれる無料アプリを使ったり、「MOSS Study」っていう過去問の出題サイトを直前期はよく利用してました。

スマホで勉強できるのは、仕事の休憩時間とかちょっとした空き時間にも使えて便利でしたね。
時間管理術を活用した勉強法とモチベーションアップの方法
──勉強はどこで、一日何時間くらいしましたか?
仕事終わりの日は自宅で30分、長くて2時間できたら十分って感じでした。忙しくて難しい日もありましたけど、数分でもいいから継続することを意識してました。
休日は図書館をよく利用していましたね。周りも勉強されている方が多いので集中しやすかったです。毎回の休日ではないですが、6〜7時間くらい勉強していたかな?
──勉強中に何か工夫していたことはありますか?
自宅でなかなか集中力が続かないのが課題だったので、ポモドーロ・タイマーを使うようにしました。25分間は必ず集中して、その後5分間の休憩を挟み、また25分間は集中……と繰り返す時間管理術です。

──半年以上も勉強を続けていると、なかなかモチベーションを保てないときもあるかと思います。そういったときは何か対策しましたか?
がっつり勉強するのがしんどいときは、軽めの一般書を読んだりとか、さくっと解けるアプリを活用したりしてましたね。
あとは一緒に受験していた看護師の友達とZoomで話すのも良いリフレッシュでした。勉強していてわからない用語があったら、お互いに質問と解説をし合ったりとか。
──一緒に頑張れる人がいるのはいいですね。
そうなんです、ほかに周りで受験してる人がいなかったので。
自分が人に説明できないことって、まだ知識が定着してないってことだと思うので、説明できるレベルまで知識を身に付けることを一つの目安にもしてました。
あとこれはちょっと特殊かもしれませんが……仕事で接する利用者さんとも一緒に頑張ってました。
──え、利用者さんと一緒に?
私が試験勉強を始めたばかりの頃、訪問リハビリで定期的に会っていた利用者さんが「運動を習慣化したい」と仰って。じゃあ私も勉強を習慣化させたいからと、シール帳を作ったんです。
毎日達成したらシールを1枚ずつ貼るんですが、本当に小さな目標から始めていて。利用者さんの場合は「一緒にスクワットする」、私は「とりあえずテキストを開く」みたいな。
シールを貼れなかった日もときどきあるんですけど、なんだかんだ半年くらい続けられて。結果私は合格できて、その利用者さんはウォーキングを習慣化できたんですよ。

受験生活を支えたのは、規則正しい生活と周囲のサポート
──受験中に生活面で心がけたことはありますか?
ほんとに基本的なことなんですけど、睡眠をちゃんと取ること、3食しっかり食べること。
若かったら睡眠を削って勉強もできたと思いますけど、昔に比べたら体力も落ちてますし、コロナのこともありましたから。生活リズムを崩さないことを大事にしてました。
あとはたまのご褒美でコンビニスイーツを買って食べてみたりとか(笑)。
──自分の機嫌を取るのも大事ですよね。ご家族など周囲からのサポートはありましたか?
うちは共働きなんですけど、夫が家事を担当してくれる割合が増えたと思います。
あとは職場の上司にも試験のことは話していたんですが、直前期はシフト調整を融通してくれてありがたかったです。「試験前は追い込みたいでしょ」と言って試験直前は一日置きのシフトにしてくれたり、積極的に有休を使わせてもらいました。
──協力的な職場で良かったですね。
本当に。あとは同僚たちも応援してくれてて……そうだ、臨床心理士さんには勉強でわからないことがあったら結構質問してましたね。忙しいのに勉強法とか教えてくれて、本当に助けられました。
試験当日の振り返りと今後について
──では試験当日について教えてください。当日の過ごし方は?
試験は午前と午後の二部でおこなわれるので、途中にお昼休憩を挟みます。あまり昼食を食べすぎると午後眠くなると思ったので、お腹が鳴らないくらいの量に留めました。
あとは普段職場でも使っている水筒に、いつものカフェオレを入れて持参しました。あとは試験にラムネを持っていくYouTubeを見たのに影響されて、ラムネも持っていきました。

──休憩時間にほかの受験生との交流などはありましたか?
私の周りでは話している人たちは少なかったですね。私も休憩時間は会場から出て深呼吸したり、瞑想をやったりしてました。
──試験は順調に終わりましたか?
実は、時間配分がうまくいかなくて見直しの時間が十分に取れませんでした……。私はもともと解くのが遅いほうなので、速く解く練習はしていたんですけど、何度も解いている過去問と本番の初見の問題では解くスピードも変わってしまったみたいで。
全部解き終わって見直そうと思ったら、残り時間があと10分を切っていて焦りました。あとで解こうと思っていた問題が2問くらい残っていたので。
──時間配分には注意が必要ですね! でも、結果としては合格で良かったです。
得点は159点でした! ただ私が受験した年は例年よりも合格基準点が5点も高くて(143点)、びっくりしましたよ……!

──合格から約半年が経ちましたが、公認心理師資格を取得したことでの変化や、今後の目標があれば教えてください。
受験というゴールを過ぎて、今は公認心理師としてのスタート地点に立ったんだなという気持ちです。
私は作業療法士なので、これから心理職として仕事を始めるというよりは、心理職の知識や視点を持った作業療法士としてできることを探していこうというのが近いかもしれません。作業療法士のキャリアとしても、若い方の就労支援など、これまでの病院以外の職場にも興味があったりするので……。これからはもっと視野を広げて、自己研鑽を積んでいきたいと思っています。