
1.訪問看護のアセスメントとは
1-1.訪問看護とは
1-2.アセスメントとは
1-3.訪問看護のアセスメントで大切なこと
2.訪問の事前準備
3.訪問看護のアセスメントで診ること
3-1.アセスメントの4つの観点
3-2.ヘルスアセスメント
3-3.フィジカルアセスメント
4.さいごに
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・訪問看護ってどんな仕事? 在宅生活を支える訪問看護師の仕事内容・給料・必要な経験・働く場所・服装や持ち物など
・訪問看護ステーションとは? 利用状況、設置基準、職員数、課題などをまとめました
※アセスメントの方法は利用者の状態や訪問看護事業所によっても異なります。主治医や所属する事業所が定める方法に則っておこなってください。
1.訪問看護のアセスメントとは
1-1.訪問看護とは
訪問看護とは、自宅で療養する方のもとに看護師などが訪問しケアをおこなうサービスです。主治医が作成する訪問看護指示書に基づき、健康状態のチェックや療養指導、医療処置、身体介護などをおこないます。
利用者とその家族の相談に乗り、アドバイスをすることも訪問看護師の重要な業務の一つ。利用者・家族・主治医の橋渡し的な存在として、また地域に関わる多職種との連携をスムーズにおこなう調整役としての役割もあります。
1-2.アセスメントとは

アセスメント(assessment)とは、「客観的な評価・分析」という意味の言葉で、看護過程における一つのプロセスです。
看護におけるアセスメントは、上記の図のとおり細分化できます。身体状態のほか心理状態や周辺環境も含めて診る「ヘルス(=健康状態)アセスメント」、身体状態のみを診る「フィジカル(=身体的な)アセスメント」の段階に分けられます。
訪問看護におけるアセスメントは、利用者の心身の状態や療養環境を情報収集・課題分析し、必要なケア内容を明確化する目的でおこないます。
1-3.訪問看護のアセスメントで大切なこと
訪問看護のアセスメントで大切なのは、利用者とその家族が「在宅での療養生活をどのように送りたいか」という希望に寄り添うことです。
とくに病棟勤務が長い看護師は、院内看護と訪問看護の「看護のあり方の違い」に最初は戸惑うかもしれません。病院の場合、「入院生活の目的は治療や機能回復」であるため、患者さんは自宅のように自由度の高い生活を送ることはできません。
一方で、在宅療養における訪問看護は、「生活を中心に医療や看護が存在」します。疾病や障害を悪化させないように治療や医療ケアを優先させるあまり、本人や家族の希望しない生活をおくることになってしまっては本末転倒です。
訪問看護師には、利用者の希望する生活の実現と維持をサポートするため、医学的視点と利用者視点の2つをバランスよく持つことが求められます。簡単ではありませんが、医療と生活をつなぐ橋渡し的存在として、訪問看護師に期待されるところです。
また、訪問看護師だけでできることには限界があります。訪問看護の頻度は週1回程度。訪問がない日の様子については、訪問介護員やリハビリ職員などの多職種から情報共有を受けたり、ケア方針を相談したりすることで、アセスメントの精度をより高められます。 チーム全体で在宅ケアの質を高める意識を持つようにしましょう。
2.訪問の事前準備
1回の訪問時間は、1時間前後が一般的です。この1時間でアセスメントのほか、ケアの処置や療養指導、家族とのコミュニケーションなど多くの作業をおこなうため、計画的に進めなければ時間オーバーで終わってしまいます。必ず段取りを立ててから訪問するようにしましょう。
◎ 訪問看護指示書、カルテ、過去の訪問記録を確認
基礎疾患や治療状態などの基本情報のほか、家のなかの物の置き場所や訪問の注意点などを確認します。
◎ 利用者と家族の情報を把握する
初回訪問の場合、利用者家族の構成や関係性を頭に入れておきます。家族とのコミュニケーションにおける留意点などがないかチェックしましょう。
◎ 前回担当者から引き継ぎ
前回担当者に話を聞ける場合は、書面だけでは分かりづらい情報まで詳しくヒアリングすると良いでしょう。利用者とその家族の接し方のポイントなどを聞き、どうしたらお互いに気持ちの良い時間を過ごすことができるかのヒントにしましょう。
◎ 訪問の流れを考える
訪問先での作業の優先順位を決め、それぞれの順番と時間配分を決めておきましょう。予定通りに進まないこともあるので、起こりうる対応パターンを想定しておくと慌てずに対処できます。
◎ 必要な道具を準備する
訪問看護師が持参する荷物のほかに、市販の医薬品や、利用者が病院から処方されて自宅保管している医療材料を使う場合もあります。具体的に必要な物品については、以下の記事でも紹介しているので参考にしてみてください。
訪問看護ってどんな仕事? 在宅生活を支える訪問看護師の仕事内容・給料・必要な経験・働く場所・服装や持ち物など
3.訪問看護のアセスメントで診ること

3-1.訪問看護のアセスメントの4つの観点
訪問看護のアセスメントでは、以下の4つの観点から総合的にアセスメントしていきます。
1.利用者の身体状況(フィジカル/ヘルスアセスメント)
基礎疾患とその経過の確認。要介護度やADLの程度が生活にどのような影響を与えているか
2.利用者の心理状況(ヘルスアセスメント)
どのような心理状態で生活しているか。ストレスや不安、孤独感などを感じていないか。介護者である家族への接し方はどうか
3.生活環境(ヘルスアセスメント)
介護用品が適切に利用・管理されているか。居宅環境にリスクがなく、利用者が快適に暮らせる状況になっているか
4.家族の介護力(ヘルスアセスメント)
介護者である家族の心身の健康状態のチェック。服薬管理や医療処置、介護を適切におこなう能力の有無、利用者との関係性はどうか
「ヘルスアセスメント」は1〜4を総合的に診ること。「フィジカルアセスメント」は1の身体状況のみを診ます。次の項からは、ヘルスアセスメントとフィジカルアセスメントに分けて説明していきます。
tipsアセスメントを漏れなく効率的におこなうのに便利な「アセスメントシート」を利用しても良いでしょう。
アセスメント項目には、利用者の家族構成、既往歴、利用している医療介護サービス情報、フィジカルアセスメントの項目などがあり、これらの情報をもとに訪問看護の方向性やケア内容を決定していきます。
訪問看護ステーションが独自に作成したアセスメントシートがあればそれを使うか、日本看護協会などが提供しているフォーマットをダウンロードして利用することもできます。
日本看護協会「アセスメントシート」はこちらからダウンロード
3-2.訪問看護のヘルスアセスメント
ヘルスアセスメントは、利用者の心身の状況、生活環境、家族の介護力などを診るため、その人自身と生活すべてをアセスメントすることになります。そのため、訪問先に入室するときからアセスメントは始まると心得ましょう。
挨拶したときの表情や受け答えにいつもより元気がなかったり、日課の趣味や家事を数日間していない様子があったり、家の中がいつもより片付いていなかったりする場合は、何か変化があったサインです。問診やバイタルチェック以外の何気ない会話や住環境にも意識的にアンテナを張り、変化に気づけるようになりましょう。
会話をする上で大切なことは、表情や視線で「あなたの話をちゃんと聞いている」ことを伝えることです。自分のことを理解しようとしていることがわかると、相手も安心して心を開きやすくなります。できるだけ目と目を合わせた会話を心がけましょう。
自然な会話の中でアセスメントに必要な情報をうまく引き出していくのが訪問看護師の腕の見せどころ。たとえばおやつの摂取量を確認する場合、ストレートに「おやつはどのくらい食べましたか」と聞かれると、正直に答えづらい人もいるでしょう。何気ない世間話の間にさりげなく質問を織り交ぜられると、相手にストレスを感じさせず正直な回答を聞き出せます。
■食事内容を確認する会話の例利用者)ほんとにねぇ。また冷たいあんみつが食べたいわ。
看)いいですね! あんみつは、よく召し上がるんですか?
利)ええ。わたしの好物で、息子が毎年送ってくれるからこの時期は毎日食べてるの。
看)毎日あんみつを召し上がるんですね。ほかにもよく召し上がるものはありますか?
利)そうねぇ、今の時期だとアイスも時々食べるわね。
→ あんみつが好物で毎日食べていること、アイスを時々食べることを自然に聞き出すことができた。
3-3.訪問看護のフィジカルアセスメント
病院でおこなうフィジカルアセスメント(身体状況のアセスメント)は、その作業だけに集中しておこなうことが多いです。しかし訪問看護では、生活の妨げにならないよう自然な会話のなかで効率的にケアをおこなうため、できるだけ会話(問診)しながらフィジカルアセスメントも同時に進めます。
訪問看護のフィジカルアセスメントで診ることは、以下のとおりです。
■問診・バイタルチェック
問診では、食事、便、睡眠の状況のほか、前回の訪問後から生活や体調に変化がないか確認します。
バイタルチェックでは主に、血圧、体温、呼吸、脈拍を測ります。動く力のある人には、シャツのボタンを外したり、体温を測ってもらったりするなど、自分でできることはしてもらうようにしましょう。
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バイタルサインとは? おさえておきたい正常値(基準値)と測定方法
■視診
皮膚の状態や目元、口元などの視診も利用者と会話をしながら自然な流れで診ていきます。身体の状態だけではなく、表情や話し方にも注意をはらいましょう。
■聴診
ステート(聴診器)による聴診は、呼吸音を中心に、心音、血管音、腸蠕動音などを確認します。ステートは冷たいので、手で温める配慮も忘れずに。
■触診・打診
触診では、利用者の手脚や首のリンパ節に直接触れながら、皮膚のハリやむくみの状態を診ていきます。
打診では、腹部を中心に体内の状況を診ます。打診時に痛みを感じないか、硬さや打診音に異変がないかチェックします。
▼フィジカルアセスメントについてはこちらもチェック
フィジカルアセスメントとは? 看護用語の意味や基本手順を解説
4.さいごに
訪問看護のアセスメントでは、これまでの健康状態や生活環境を評価・分析し、次回の訪問まで利用者が安心して生活できるケアを考えることが大切です。次回訪問までの間に発生しそうな症状や問題があれば、それを予防するための対策を講じましょう。
訪問看護師のアセスメントとケア次第で、利用者とその家族が安心して療養生活を送ることができ、夜間のトラブルやオンコールの軽減にもつなげることができます。
また、「セルフケア能力を生かす」意識も忘れないようにしましょう。看護師はつい世話を焼いてしまいがちですが、療養生活で自分でできることを利用者本人がやることは、リハビリの観点でも重要です。
食事量や健康状態の日々の記録を本人や家族がすることで、記録内容の変化を実感でき、セルフケア管理能力の向上につながって効果的です。会話のなかで管理しやすい方法を一緒に考えたり、やる気を高めたりしながら療養指導をしていきましょう。
『ナースのためのやさしくわかる訪問看護』(ナツメ社)