1.クレーム対応の心構え
クレームと聞くと、マイナスなイメージを持ちませんか? 実は必ずしもネガティブなものではありません。クレームを適切に対処することは、提供するサービスをより良くするきっかけや、自分自身のスキルアップにつながるチャンスでもあるのです。
クレームの多くは、相手が期待していたサービスを受けられなかったために発生します。つまり、クレームを通じて「患者や利用者が求めるサービスとはどういうものなのか」を知るきっかけになります。
クレームの種類には、「困っていて」サービスの改善を希望するもののほか、「サービスを良くしたいから」と善意で寄せられるものもあります。クレームを訴える側は時間も労力もかけて、言いにくいことを伝えてくれます。なかには事業所側に非のない理不尽な内容もありますが、まずは相手の言うことを真摯に受け止め、解決策を探る姿勢が大切です。
また、クレームをうまく対処することができれば、相手の満足度と信頼感が高まり、クレーマーがサービスや事業所のファンになってくれることも珍しくありません。クレームが発生してしまったら、「ピンチをチャンスに変えよう」と前向きに捉えられるといいですね。
2.クレーム対応の基本ステップ

ここからは、クレームが発生した際の具体的な対応手順について、ポイントを押さえながら解説します。
なお、職場独自の対応方針が決められている場合もありますので、マニュアルなども併せて確認してください。また、上司や先輩にも適宜報告や相談をするようにしましょう。
・STEP1|傾聴・謝罪
クレームを受けてまず最初にやるべきことは、相手の話を遮らずに最後まで傾聴することです。相手の言い分に納得できないとつい口をはさみたくなりますが、まずはこちらが真摯に聞き入れる姿勢を示しましょう。「この人はしっかり話を聞いて理解しようとしてくれている」と相手に感じてもらうことが、不満解消の第一歩となります。
傾聴のポイント
- 相手の話を遮らずに最後まで聞く
- 反論や言い訳はしない
- 話を真剣に聞いていることが伝わるように、適度に「相づち」「うなずき」を入れる
- 相手の言い分に同意できるところは「そうですね」「おっしゃるとおりです」などと言葉でも共感を示す
傾聴に続いて、相手を不快な気持ちにさせてしまったことに対する「部分的な謝罪」をします。このとき気をつけたいのは、クレームそのものに対する「全面的な謝罪」は、事実確認ができていない内容についてはおこなわないことです。事実確認がとれていない段階で全面的に謝罪してしまうと、「すべての責任は事業所側にある」とこちらが認めたと思われる可能性があります。責任の所在については、正確な事実関係がわかる前に安易に決めてしまわないよう、注意しましょう。
・全面的な謝罪
例:「まったくそのとおりです。申し訳ございませんでした」
→すべての非がこちらにあると認めてしまうため、事実確認が済む前の初期対応では避けたほうが良い
・部分的な謝罪
例:「この度はご不快な気持ちにさせてしまい、申し訳ございません」
→クレームの内容そのものに対する謝罪はおこなわず、相手に不快な思いをさせた点についてのみ謝罪する
tips|使ってはいけないNGワード「でも」「だって」「ですから」
クレーム対応中、つい使ってしまいそうになるのが「でも」「だって」「ですから」という言葉。これらに続くと想定されるのは、「でも、こちらにも事情がありまして…」「だって、先輩に聞いていなくて…」「ですから、先ほどもお伝えしたとおり…」のように、言い訳や上から目線の発言につながりやすくなります。
これらの言葉を使うと、相手の怒りがさらに増す危険性があります。自分まで感情的になると事態はますます悪い方向へ向かいますので、これらの言葉はぐっと飲み込み、冷静な対応に努めましょう。
・STEP2|事実確認・要望確認
傾聴と部分的な謝罪によって相手の気持ちが落ち着いてきたら、クレームの内容を正確に理解するための事実確認と、相手がどのような対応を望んでいるかの要望確認をします。このとき、情報に漏れがないようメモを取りながら聞きましょう。
ポイントとなるのは、5W1H(いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように)を押さえることです。また、聞いたことは適宜復唱し、内容に間違いがないか確認しながら進めましょう。
事実確認・要望確認のポイント
- いつ、どこでトラブルが発生したのか?
- どのようなトラブルの内容なのか?
- なぜトラブルが発生したのか?
- 誰が被害者で、加害者・目撃者はいるのか?
- 何を不満に感じているのか?
- どのような対応をとってほしいのか?
・STEP3|解決策の提案
事実確認と要望確認を終えたら、解決策を提案します。もしこの時点で自分ひとりで判断ができない場合は、「一度持ち帰り確認します」と伝え、結論を急がないようにしましょう。焦って誤った対応をして話をこじらせないように、上司や先輩の指示を仰ぎます。
解決策を提案する場合は、事業所側に非があるようであれば、誠意を持って改めて謝罪します。加えて再発防止のためにできることを提示することで、相手の満足度と信頼感が高まります。
事業所側に非がないときは、事実情報をもとに説明を試みます。このとき再び重要になるのが、共感の気持ちを伝えながら話すことです。たとえ相手の勘違いが発端だったとしても、「そのようなことがあって大変でしたよね。実は◯◯は〜」などのように、相手の気持ちに寄り添いながら話していきましょう。淡々と相手の間違いを指摘し事実を伝えても、また相手を怒らせてしまいます。
とくに病院や介護施設などは、病気や障がいが原因となり、通常よりもストレスを感じやすく、ネガティブになりやすい環境です。そういった背景も理解したうえで、相手の気持ちに寄り添いながら対応することが重要です。
・STEP4|感謝
最後に、意見を伝えてくれたことに対する感謝を伝えます。「クレームを受けたのになぜお礼を言わなくてはいけないのか」と思うかもしれませんが、相手にしてみても「できればこんなことは言いたくなかった」「来なければよかった」などと感じているかもしれません。そのことに対する労いとサービスを良くするヒントをもらえたことへのお礼と考え、「この度は仰ってくださり、ありがとうございました」と伝えられるようにしましょう。
最後に感謝を伝えることで、相手に嫌な気持ちが残りづらく、「伝えて良かった」と思ってもらいやすくなります。
3.病院・介護施設・訪問介護でのクレーム対応事例
ここからは、病院や介護施設などで起こりやすいクレーム例をシチュエーション別に紹介します。クレーム対応に慣れるには、過去どのように対処してきたのか事例を知っておくことが大切です。また、職場でロールプレイングとして対処法を演習しておくのもおすすめです。
・「待ち時間が長い」ことへのクレーム
・シチュエーション
病院の会計にて、「受付から会計まで2時間もかかるとはどういうことか」と通院患者から怒りのクレームを受ける
・NG対応
「そう仰られましても……。ほかの方々も順番にお待ちいただいてますので」
・OK対応
「お待たせしてしまい申し訳ございません。◯曜日の朝一番の診察でしたら、今日よりも比較的空いているので待ち時間が短く済むかもしれません。よろしければ、次回のご来院時にご検討ください」
病院やクリニックでは、待ち時間が長いことに対するクレームをよく受けます。待ってもらうしかないとしても、まずは相手を待たせてしまっていることに対してお詫びの気持ちを伝えましょう。
そのうえで、比較的空いている時間帯などがあれば、代替策を案内できると相手の満足度も高まります。
・「会計金額が正しくない」ことへのクレーム
・シチュエーション
通院している患者から「前回と同じ診察内容なのに金額が異なっていた。計算が間違っているのではないか」と、会計について指摘を受ける
・NG対応
「そんなはずはありませんよ。計算は自動なので間違いありません」
・OK対応
「さようでございましたか。お時間をとらせてしまい、申し訳ございません。確認いたしますので、こちらで少々お待ちいただけますでしょうか」
たとえ相手が間違っていたとしても、否定から入るのは良い対応ではありません。まずは相手の言い分を聞き入れ、部分的な謝罪をします。
パソコンなどを使っていても、人間が操作する以上はミスが絶対にないと言い切れません。きちんと再確認したことを相手に納得してもらうためにも、確認の時間は改めて取るようにしましょう。
・「職員に話しかけづらい」ことへのクレーム
・シチュエーション
介護施設の入居者から「スタッフさんにお願いしたいことがあるのに、いつも忙しそうでお願いできない」とお困りの相談を受ける
・NG対応
「すみません、忙しくて気づきませんでした」
・OK対応
「お気持ちに気づけずに申し訳ありませんでした。今後は遠慮せずにいつでもお声がけください。また、私たちからも◯◯さんがお困りごとや話したいことがないか、伺うようにしますね」
人手不足の施設などで発生しやすいクレームの例です。忙しさから余裕がなくなってしまうと、利用者の要望に気づくことや他愛のない会話にかける時間はどうしても減ってしまいがちです。しかし利用者に対してそれを言い訳にしてはいけません。
まずは相手の気持ちを受け止め、お詫びの言葉と解決策を伝えます。また、その方に限らずほかの利用者も同じように感じているかもしれません。今後同じような問題を減らせるように、施設内で検討会を設けるなどして根本的な解決策を考えられると良いですね。
・「調理方法に納得がいかない」ことへのクレーム
・シチュエーション
訪問介護で調理の手伝いをしているヘルパーに対して、利用者から「野菜の廃棄部分が多い。食べられる部分まで捨ててしまうなんて信じられない! いったい何を教わってきたの?」と指摘を受ける
・NG対応
「でも……いつもうちではこう作っているので」
・OK対応
「申し訳ありません。◯◯さんは、いつもどの部分まで使っていますか? どこまで食べられるのか、教えていただけないでしょうか」
このシチュエーションのように、日常生活に関することは各家庭のやり方があるので、これと決まった正解はありません。このような場合は相手の考え方を尊重することが大切です。
さらに利用者から学ぼうという姿勢で接すると、高齢者は年下の職員に対して自分の知見を教えてくれる人も多いので、お互いにポジティブな気持ちで接しやすくなります。
参考
- 蜂谷英津子『介護職が知っておきたい接遇マナーのきほん』2018年
- 関根健夫・杉山真知子『イラストでわかる介護・福祉職のためのマナーと接遇』2017年