この記事をまとめると
・厚生年金とは、会社員や公務員が加入する年金制度
・国民年金と違い、厚生年金は報酬に比例して徴収される
・受給には加入期間が必要で、原則65歳から受け取れる
1. 公的年金とは?
老後など将来働けなくなったときの生活資金を社会全体で支えあうのが公的年金です。まず日本の公的年金制度の概要について解説します。
・日本の公的年金は「国民年金」と「厚生年金」の2階建て!
日本の年金制度はすべての国民が加入する“国民皆年金”であり、条件を満たす方は上乗せの給付が受けられる“2階建て”になっています。
まず、未就業者(学生、失業者)を含む日本国内に居住する20歳以上60歳未満の人全員が国民年金(1階部分)に加入します。さらに、会社員や公務員など社会保険の適用事業所で働いている方は厚生年金(2階部分)にも加入します。
法人事業所や従業員が常時5名以上いる個人事業所*は社会保険の強制適用事業所となります(従業員5名未満の個人事業所は任意適用)。
*理美容院、エステサロンなどのサービス業は対象外(従業員5名以上でも任意適用となる)
病院や介護施設、保育施設など、法人(国、地方公共団体、株式会社、医療法人、公益法人、社会福祉法人)が経営する事業所に勤めている場合は、第2号被保険者となります。クリニックなど、個人が経営する事業所に勤めている場合は、従業員が常時5名以上であれば第2号被保険者(強制適用)、5名未満であれば第1号被保険者となります(任意適用)。

さらに、企業が従業員に対する福利厚生として提供する企業年金(確定給付企業年金、企業型確定拠出年金)や、個人が任意で加入する個人年金(個人型確定拠出年金=iDeCo、国民年金基金)を含め“3階建て”と称することもあります。企業年金や個人年金は「公的年金ではない」という意味で私的年金と総称されます。
・年金は「老齢」「障害」「遺族」の3種類!
“年金”と聞くとまずイメージするのが“老後の生活保障”としての老齢年金(老齢給付)なのではないでしょうか。しかし、年金はさまざまな理由で将来的に働けなくなったときの生活保障と位置付けられているため、老齢給付以外にも、障害を負ったときに受け取れる障害給付や、亡くなったときに遺族が受け取れる遺族給付もあります。

社会保険とは、けがや病気、休業、失業、障害、老齢、死亡などのリスクを社会全体で支え合う仕組みです。厳密には健康保険、介護保険、厚生年金の3つが社会保険(狭義の社会保険)に、労災保険と雇用保険の2つが労働保険に当たりますが、求人情報にある「社会保険完備」の「社会保険」はこれら5つすべてを指します(広義の社会保険)。社会保険は誰もが必要となりうる必要最低限の保険ですので、要件を満たす人は必ず加入しなければなりません(強制保険)。

2. 国民年金と厚生年金の違い
・保険料と給付金額
公的年金の保険料および給付金額は、国民年金が定額なのに対し、厚生年金は報酬比例となります。
第1号被保険者は国民年金にのみ加入しているため、定額部分のみとなりますが、第2号被保険者は国民年金と厚生年金の両方に加入しているため、定額部分と報酬比例部分があるということになります。
第1号被保険者の場合、保険料は定額で月額1万6,610円となります。受け取れる年金は老齢基礎年金のみとなり、満額(20歳から60歳まで40年間保険料を納めた場合)で、約6万5,000円/月となります。ただし保険料を滞納した期間(未納期間)や免除・猶予された期間があると、その分減額されるため平均給付額は約5万6,000円/月に留まっています。
第2号被保険者の場合、保険料率は給与(標準報酬月額)や賞与(標準賞与額)の18.3%ですが、健保同様、事業主が従業員の保険料の半分を負担することが義務付けられているため、実質的な負担率は9.15%となります(労使折半)。保険料は給与天引きのためあまり実感がないかもしれませんが、国民年金と厚生年金の保険料を両方納めているため、老齢基礎年金と老齢厚生年金の両方を受け取れます。平均給付額は合わせて約14万6,000円/月となっています。
第3号被保険者は第2号被保険者の被扶養配偶者のため保険料の負担はありませんが、受け取れる年金は第1号被保険者と同じく老齢基礎年金のみとなります。つまり、一人が専業主婦(主夫)の世帯(2号+3号)が受け取れる年金額の合計は約20万2,000円/月、共働き世帯(2号+2号)が受け取れる年金額の合計は約29万2,000円/月になります。

─参考:厚生労働省|厚生年金保険・国民年金事業の概況
tips|国民年金の保険料を滞納するとどうなる?
第2号被保険者の場合、国民年金と厚生年金の保険料がまとめて給与から天引きされるため、滞納の心配はまずありません。しかし第1号被保険者の場合、国民年金の保険料は日本年金機構から送られてくる納付書を使って自分で納める必要があります(クレジットカードや口座振替で納めることも可能です)。
万が一、保険料を滞納してしまうとどうなるのでしょうか。保険料を滞納した期間を未納期間と呼びますが、未納期間があると次の3つのリスクがあります。
- 将来、年金が受け取れないリスク
- 将来、受け取れる年金額が減るリスク
- 万が一のときに、障害年金や遺族年金を受け取れないリスク
老齢基礎年金を受け取るには受給資格期間が10年(120ヶ月)以上必要です。未納期間は受給資格期間にカウントされませんので、将来年金が受け取れないリスクが発生します。
国民年金の保険料の納付義務があるのは20歳〜60歳までの40年間ですから、「そのうち10年間納めればいいなら……」と思う方もいるかもしれません。しかし、未納期間は年金額に反映されませんので、当然その分受け取れる年金額も減ってしまいます。極端な話、保険料を10年間しか納めなかった場合、年金額は4分の1(月額1万6,000円程度)になってしまいます。
さらに、万が一のとき(障害を負ったり亡くなったりしたとき)に未納期間があると障害基礎年金や遺族基礎年金を受け取れないリスクも高くなります。詳細は省きますが、障害給付や遺族給付の受給要件は老齢給付の受給要件よりも厳しいのです。
そこで、失業中など保険料を納めることが経済的に難しい場合は、申請することで保険料の納付が免除・猶予されます。未納期間とは異なり、免除・猶予された期間は受給資格期間に含まれます。将来的に受け取れる年金額は保険料の免除割合に応じて減額されますが、免除・猶予されてから10年以内に保険料を納めれば年金額への影響もありません。
もし保険料の納付が難しい事情がある場合は、市区町村の国民年金担当窓口で免除・猶予の申請を必ずおこなってください。
・老齢年金の受給開始年齢
老齢基礎年金は65歳から、老齢厚生年金も支給開始年齢を段階的に引き上げており、最終的には65歳からの支給となります(男性は2025年度、女性は2030年度には受給開始年齢の引き上げが完了)。・老齢年金の給付要件
老齢基礎年金は受給資格期間が10年以上、老齢厚生年金は1ヶ月でも加入期間があれば、給付対象となります。3. 老後の生活資金はいくら必要?
総務省の家計調査によると、高齢夫婦無職世帯の月間の支出額は平均およそ24万円で、年金だけでは毎月3〜4万円程度の不足分(赤字)が発生することになります。

─参考:総務省|家計調査年報2019年結果の概要
日本人の平均寿命がおよそ85歳であることを考えると、65歳からの20年間で必要な生活資金(年金だけでは賄えない金額)は総額でおよそ1,000万円。「もう少し余裕のある暮らしを」「医療や介護のための備えも」と思えばさらに多くのお金が必要です。
終身雇用制度のもと、定年退職するときには2,000万円、3,000万円といった退職金(企業年金)が受け取れるから老後の暮らしは心配ない──という時代は過去になりつつあります。
冒頭で触れた“3階部分”の私的年金を利用するなどして、自ら備える必要性が増してきています。
参考
- 日本年金機構|年金の制度・手続き
- 厚生労働省|厚生年金保険・国民年金事業の概況
- 総務省統計局|家計調査