参加者プロフィール
特養施設長 Uさん
施設長歴5年目。福祉の短大を卒業後、社会福祉法人に入職し現在勤続17年目。これまで有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅、訪問介護事業所、特別養護老人ホームを経験。現在の特養で2ヶ所目の施設長就任となる。
有料施設長 Kさん
施設長歴2年目。看護師。病院と訪問看護で10年以上勤務したあと、現在の会社に転職。看護師として住宅型有料老人ホームの立ち上げから参画するも、途中から事実上の施設長となる。昨年、介護福祉士を取得。
グループホーム ホーム長 Yさん
ホーム長歴8年目。社会福祉法人が運営する特別養護老人ホーム、ショートステイを経験したのち、グループホームに異動。同ホームの主任を経てホーム長に就任。
ファシリテーター 中浜崇之さん
介護福祉士。学生時代の一日デイサービス体験をきっかけに介護の世界へ。特別養護老人ホームの施設長、デイサービスの管理者を経験。現在は介護関連の講演活動やイベント主催など多方面で活躍中。

中浜さん:今日の座談会では、新人施設長や今後施設長になるかもしれない人からの相談や質問に対して、現役の施設長である皆さんに答えていただく形でやっていきたいと思います!

施設長になった経緯は?

中浜さん:まず最初の質問です。「施設長になった経緯」を教えてください!


Uさん:僕の場合、サ高住のマネージャー、特養の施設長代理を経て施設長になりました。施設長代理は業務改善のためだったんですけど、その施設長が辞めるからそのままスライドで自分が施設長になった感じです。

Yさん:私の場合、前任のホーム長が「そろそろ辞めようかな」とにおわせていたタイミングに、主任として異動の打診があったんですよ。「現ホーム長が辞めたらYさんが後任になってください」という前提で異動を引き受け、その結果ホーム長になりました。

Kさん:私はもともと有料老人ホームに併設しているデイサービスの管理者として採用されたんですが、3年くらい経ったころに社長から「施設長にしといたよ」って突然言われた感じですね。

中浜さん:「施設長にしといたよ」ってすごいですね(笑)。でも話を聞くと皆さん全員、マネージャーや主任、管理者などの役職からさらに一段上がって施設長になった感じなんですね。

Uさん:施設長のポジションが空席になったときに“できそうな人”のラインに並んでいる人が上に上がるってイメージですよね。

Yさん:うちも一緒ですかね。ただ毎年一回、個人面談で昇進希望のエントリーシートを取っていて。それで「希望あり」って書いた職員から優先して声かけてるんだろうなとは思います。

中浜さん:へぇーエントリーシートなんて取るんですね。でも「昇進希望なし」とはちょっと書きづらい気が……(笑)。

Uさん:いやーでも、うちの事業所も面談で全員に「将来どうなりたいか」聞きますけど、半分ぐらいは昇進希望ないですよ。
でも昇進して施設長とかになりたいんだったら、事業展開の勢いがある法人のほうがなれる可能性は高いですよね。そのポストが生まれやすい環境にいたほうが。
施設長になって、ぶっちゃけどう?

中浜さん:次の質問、「施設長になってみた感想は?」。ぶっちゃけどうですか? 何に苦労されたとか。


Uさん:施設長になってから、それまでノータッチだった経理とか労務とかを全部やるようになって大変でした。決算書とか読めなくて。だからすぐ行政に電話してましたし、自分でもビジネススクールに通ったりしてかなり勉強しましたね。
現場上がりだったんで、現場に寄り過ぎちゃって判断ミスしたこともあります。

Kさん:私もずっと現場で看護師をしていて、管理者や施設長って何すればいいのかわからなくて。介護業界に入って初めて人材育成とかマネジメントっていうのを学びました。それでもうちの事業所はまだ5年目で、私より下がまだ育ってないので今まさに苦しい状況だったりします。
ただ経理については社長が見てくれていて、「苦手なら数字まわりはやるから」と言ってくれてるので助かってます。

Yさん:うちのグループホームは1ユニット9床と規模は小さいんですが、人手が足りないときはホーム長も現場にフルで入るので、管理業務に時間が割けない時期も多かったです。月に4〜5回ある夜勤中は比較的落ち着いてますから、夜勤の合間に管理業務を終わらせるって感じでした。
あとはホーム長になるとご家族と接する機会が増えますよね。施設の管理者として私がご家族と信頼関係を築けているかどうかが大切で。そこは一番気を使っています。

中浜さん:たしかに一口に施設長といっても、有料か特養かグループホームなどの施設によって、業務内容や求められるスキルが違いそうですよね。Yさんの言うとおりグループホームはホーム長でも現場に入りますし。

Uさん:特養と有料の違いでいうと、有料は株式会社が多いのでお客さんを獲得するために営業が大切で、特養は社福(社会福祉法人)が多いので地域貢献が求められるって違いがあると思います。
有料の施設長と話すと「地域ともっと関わりたいけど、お客さんの獲得を優先しなきゃいけない歯がゆさがある」という話をよく聞きます。
職員を定着させるコツを教えて!

中浜さん:介護現場での定番の悩みといえば人手不足です。「職員を定着させるコツ」はありますか?


Uさん:初めて施設長になったとき、看護師が全員辞めるって辞表を持ってきたことがあります。



一同:うわぁー……。

Uさん:ナース室に閉じこもって最低限の仕事しかしない状況だったんですよ。だからもう腹くくって、全員辞めてもらいました。そこで「辞められると困る」って下手に出ても、もっと無茶を言われるだけなので。退職までの1ヶ月でなんとか2名採用して、本部からも1名ヘルプに入ってもらい、一から看護科を作り直しました。

中浜さん:介護職で辞めた人はいなかったんですか?

Uさん:介護で辞めた人はそれほどいなかったですね。僕の場合は施設長代理として現場に入っていたので、そのときから辞めそうな人に「もうちょい頑張ろうよ」ってコミュニケーションを取れてたのが大きかったと思います。
でも、トップが変わるとたいてい何人かは辞めるものですよ。それは新しい施設長が嫌だからとかいうだけじゃなく、それまでずっと引き止められてた人が「今だ」ってタイミングを見計らって辞めることもあるし。

Kさん:理念を共有することが大事だと思っていて。うちは社長が熱血なので介護についての理念をSNSで発信してるんです。だから私は施設長としてその理念を現場にしっかり落とし込んでいくことを意識してますね。
最近は理念に共感して入社してくれる社員が増えていて、給料とか勤務条件とかで不満を言う人が減ってきたと思います。

Yさん:仕事の大変さを共有するのも大事ですよね。例えば介助が大変な方を職員に任せっきりにしていると「なんでホーム長ぜんぜん入らないの」みたいに不満が募ります。そうなる前に私も進んで現場に入って、同じ体験をするようにしています。

Uさん:僕もそれやりますよ。上が現場に入ることで士気が上がることもあるので。そういった姿を見せるのもうまく運営するコツなのかなと思います。
チームビルディングのコツと、お局さまのありがたさ?

中浜さん:やっぱり人間関係がうまくいっているかどうか次第で、定着率も変わってきますよね。続いても人間関係に関する質問です。「チームビルディングのコツ」「お局職員の対処法」こちらまとめてどうでしょう?


Yさん:私は来月48歳を迎えますが、最近まで職場で最年少でした。周りはみんな年上のお姉さま方なので、私が彼女たちの不満を聞いてガス抜きしてもらうっていうやり方でうまくいってます。

Uさん:僕も基本的に周りは皆さん年上なので、下から行く姿勢です。「すみません、手伝ってください!」みたいな。やっぱりコミュニケーションはかなりの量を取るようにしてます。施設中を回ってみんなに声をかけたりとか。

Kさん:お局さまについては、結構職場にとって大事な存在だったりします。うちのお局職員が今まさに2ヶ月ほど病欠でお休みしてるんですけど、職場がだらけ始めていて。お局さまは多少言い方がきつかったり面倒なところがあったりしても、職場の雰囲気を引き締めてくれてたんだなって。ありがたさが身にしみてるところです。

Uさん:わかります。お局さんって意外と大事なんですよね、言うことは言ってくれるんで。力もあるし、頼りになる場面もある。
仕事とプライベート、上手なバランスの保ち方

中浜さん:続いて。「休日でも仕事の連絡が来るって本当?」これはどうですか?




Uさん・Kさん・Yさん:連絡は来ますね(笑)。

Uさん:これは仕事柄仕方ないかなと。だってコロナ陽性者が出たら連絡しないわけにはいきませんからね。でも「今すぐ判断が必要な場合は電話」「そうじゃないときはメール」って状況に応じて使い分けてます。
例えば、感染症の陽性者が出た場合や事故が起きた場合は電話。陰性の結果報告やヒヤリハットの報告とかはメールって感じです。

Yさん:うちも同じように使い分けていて。あとはどうしても電話に出れないときは、あらかじめ本部に直接連絡してもらうよう伝えています。

Kさん:うちの場合は一人夜勤なので、経験の浅い職員からすると不安だと思うんですね。なので私のほうから「なにかあればすぐ電話してね」って言っています。

中浜さん:連絡が入って出勤しなきゃいけない、っていう頻度はどのくらいあります?

Yさん:時期にもよりますけど、出勤まで必要になるのはコロナ禍の今で月1回くらいですかね。あとはだいたい電話で指示したり、翌日早めに出勤して対応したりしてますね。
施設長の大変さとやりがいは紙一重

中浜さん:そろそろお開きの時間となってきました。最後に、新人施設長や未来の施設長に向けた激励のメッセージに代えて「施設長のやりがい」を教えてください!


Uさん:やっぱり最終判断を自分で下せるっていう強みは大きいですよね。そこがトップに立って運営するおもしろさだと思います。
ただ施設長になるなら、自分のやりたいことや目標を明確に持って、それを達成するために何をすべきか考えてほしいなって思います。どんな組織にしたいとか、こういうケアをしていきたいとか。僕はそこをしっかり持たずにスタートして失敗してるんで(笑)。
施設長が目指すイメージをしっかり描けていれば、職員も協力してくれると思います。

Kさん:私も以前は現場の声ばかり気にして、自分がぶれてしまって失敗してました。だから今は施設長の上にいる社長の理念に立ち返って、トップの思いをいかに汲み取り現場に落とし込んでいけるかを意識しています。そういう意味でも、ついていく人を間違えないことは大事なんじゃないでしょうか。

Yさん:やりがいの面では、施設長に限った話じゃないんですけど……やっぱり利用者さんとご家族からの「ありがとう」の言葉は一番のエネルギーになりますね。最期を看取ったあとに「このホームで過ごせて良かったです」って言っていただけるだけで、それまで大変だったことがすべて消える感覚がありますから。
アドバイスとしては、一人でもいいので身近に相談できる人がいると支えになるんじゃないかなと思います。私の場合は元上司だったんですけど、その人の存在にかなり助けられました。