ドラマ『ザ・トラベルナース』とは?
2022年の放送で人気を博し、2024年10月からは続編の放映が始まった連続ドラマ『ザ・トラベルナース』。ドラマの主人公は、アメリカ国内でトラベルナースとして活躍する看護師です。日本に帰国して病棟に勤務することになり、アメリカとは異なる看護師の待遇や、慢性的な人手不足、院内のヒエラルキーなどに直面します。同時期に入職した伝説の看護師とともに、同僚や患者に影響を与えていくストーリーです。
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トラベルナースは有期契約で働く看護師
トラベルナースは1970年代〜1980年代にかけて、アメリカで普及した働き方です。誕生した経緯は、季節的に発生する看護師不足を補うために、一時的に就労する看護師を受け入れ始めたことがきっかけです。
以前は看護師のライセンスを勤務する州ごとに取得する必要がありましたが、1995年以降、州をまたいで働ける制度の整備が進められました。この動きにより、Nurse Licensure Compact(NLC)という協定が誕生し、加盟する州であれば追加の免許を取らずに就労できるようになりました。2022年9月現在では、全米50州のうち39の州が加盟しており、トラベルナースにとってより自由に働く場を選べるようになっています。
就労先探しはエージェンシー(人材紹介会社)に登録することから始まります。住みたい場所や給与などの希望条件が合うところに自由に応募できます。通常6〜13週間の有期契約で病院やクリニック、老人ホームなどの就労先で働き、本人と勤務先の希望が合えば期間を延長することも可能です。
アメリカの労働統計局によると、2021年から2031年の10年間における看護師の求人数は、毎年約20万人と予測されており、こうした人材不足を補うためにもトラベルナースの需要は高いと言えます。
応援ナース・派遣ナースとの違い
日本では類似の働き方として「応援ナース」や「派遣ナース」があります。応援ナースとは、就労先の医療機関などに直接雇用される期限付きの正社員です。一方、派遣ナースは就労を斡旋する派遣会社と雇用契約を結び、医療機関に派遣されます。ともに期限付きという点では共通していますが、雇用元が異なります。アメリカのトラベルナースの多くは派遣会社に登録しているため、日本における派遣ナースに近い働き方と言えます。
トラベルナース経験者インタビュー
アメリカでトラベルナースをしているMさん
アメリカの医療機関でトラベルナースとして働くMさんに、働き方のメリット、デメリットなどを聞いてみました。

Mさんは、2019年からトラベルナースとしてワシントン、カリフォルニア、バージニア、ニュージャージーと4つの州で活躍してきました。アメリカでトラベルナースとして働くには一定期間、正看護師として病院で働く必要があると言います。
Mさん:トラベルナースになるには、正看護師としての経験が2〜3年ほど必要で、応募条件を満たした看護師はエージェンシーに登録できます。アメリカでは大小さまざまな規模のトラベルナースエージェンシーが100社以上あって、選択肢が豊富なんです。派遣先の病院にもトラベルナースはたくさんいて、知人が派遣された病院では、看護師長以外全員トラベルナースというところもあったようです。
ほとんどの人は勤務先を給与で選んでいる印象を受けますが、私の場合は働きたい土地で探し、希望する病院にトラベルナースの受け入れ体制があるかを確認しています。オンラインで面談して、早ければ就労決定の3日後から勤務開始となります。
住居はエージェンシーに紹介してもらったり、自分でAirbnbの物件を探したりしています。私は引越しばかりしていたので、車に積みきれる量の物しか持っていません。なので、自分で運転して次の勤務地まで移動しています。なかにはトラベルナースとしての契約が終了したら1ヶ月くらい観光してから次の就労先へ移る人もいますよ。
求人は首都圏に集中し、常に募集をかけている病院や施設は慢性的な人手不足のため業務が大変だと言います。Mさんの場合は就労先の人間関係などもエージェントを通して確認していると話していました。
正看護師になってからなかなか希望の職場に就職が決まらなかったMさんですが、転機となったのは新型コロナウイルスによるパンデミックでした。
それまでネイティブの人でもなかなか病院勤務が難しいほどの就職難だったのが、コロナ以後、トラベルナースの求人数も賃金も桁違いに増えました。今はコロナも落ち着いたので、病院のICUに就職が決まったのですが、これもコロナ禍でトラベルナースとして経験を積めたことが大きかったのではと思っています。
夢だったトラベルナースに実際になってみて感じたこと、メリット・デメリットについて次のように話します。
働く場所や時間を自由に決められる柔軟さと、賃金面はメリットしか感じないです。デメリットをしいて挙げるなら、この先もずっと安定しているかというと不安が残る点と、職場が変わるたびにエージェントや病院側とのやりとりが発生するのは面倒に感じる点ですかね。
Mさんのインタビュー記事では、アメリカでトラベルナースになった経緯や就労方法について詳しく紹介しています。
>週3日でも給与は倍!? アメリカで活躍する日本人トラベルナースに実情を聞いてみた
日本でトラベルナースをしているCさん

続いて話を聞いたのは、日本でトラベルナース(派遣ナース)として働くCさんです。
Cさんは病棟勤務を7年経験したのち、「看護師の仕事をしつつ日本中を見て回りたい」という理由からトラベルナースになりました。2017年から、三宅島、大分、兵庫、久米島にて働き、現在はコロナ患者の療養ホテルに勤務しています。
Cさんに、日本でのトラベルナースの就職方法や就労までの流れを教えていただきました。
Cさん:仲介会社に登録して、希望の勤務地から就労先を選んでいます。派遣ナースとして日本縦断を目指しているので南から、といきたいところだったのですが、合わないときにすぐ戻って来れるよう最初は三宅島を選びました。あと、これまで病棟でしか勤務したことがなかったので、特別養護老人ホームを経験してみようと思い選びましたね。
受け入れ先はわりと派遣慣れしているというか、慢性的に入れていかないと人手不足なところが多いので、一緒に働く職員も患者さんも「ああ、派遣の人ね」っていう感じです。面接はオンラインで実施して、1ヶ月後には勤務開始です。家は就労先が借りている寮やアパートがあるので、自分で探す必要はありません。
求人が多いのは、過疎地や離島。人材確保が難しいため賃金も高い傾向にあるそうです。沖縄などの観光地は人気があるため高待遇ではないと言います。
約3年ほどトラベルナースとして働いたCさんですが、現在(2022年9月)はコロナ患者の宿泊療養施設で働いています。
コロナが流行して他県からの受け入れなどに厳しい時期があって、兵庫の病院で期間を延長して1年ほど働きました。一旦は地元の群馬に帰り、そこから久米島で6ヶ月働いたんですが、今一番求められているのはコロナ関連かなと思い、現在に至ります。
現在の契約期間を終えたら、またトラベルナースに戻り日本縦断の目標を叶えたいというCさん。実際にトラベルナースを経験してわかったメリット・デメリットを聞いてみました。
一番のメリットは委員会や病棟会、研修とかがないことですね(笑)。あとはやっぱり行く先々でローカル文化を知れて、元気な人に出会えること。デメリットは、何もわからない状態で入るので最初の1ヶ月くらいはストレスを感じることです。
Cさんのインタビュー記事では、トラベルナースになった経緯や就労方法について詳しく紹介しています。
>気候に応じて勤務地を選ぶ? 看護師界の渡り鳥「トラベルナース」の働き方を聞いた
トラベルナースに関するQ&A
Q.保険には入れる?
A.日本でトラベルナース(派遣ナース)として働く場合は、派遣元の会社に派遣者を加入させるよう求められています。応援ナースとして直接病院に雇用される場合は病院側が手続きをおこない、加入できます。
一方、アメリカでは日本と違い国民皆保険制度でないため、トラベルナースにはおもに3つの選択肢があります。1つは、エージェンシーが提供する保険に入る。2つめが、自分で保険を探して加入する。3つ目は加入しないことです。保障内容や金額によって希望の条件に合う保険を選びます。
Q.有給休暇などの休みは取れる?
A.日本の場合有給休暇は正職員やパート、派遣を問わず就業開始から6ヶ月間継続して勤務した場合に取得できます。なお、雇用形態に限らず全労働日数の8割以上出勤している必要があります。契約期間が6ヶ月の場合、契約を延長すればそのまま就労先で有休が取れます。直接雇用の場合は就労先から、派遣の場合は派遣会社から付与されます。就労が6ヶ月に満たない場合に休みが必要になった場合は、欠勤扱いとなります。
有給休暇に関する詳細はこちらの記事をチェック!
>有給休暇とは? パートでも取れる? 有給日数の確認方法・義務化・買取・有効期限などを調査
アメリカでは、契約期間中に有休が取得できるかどうかは雇用主であるエージェンシーによります。勤務初日から有休が付与されるエージェンシーもあれば、規定の時間就労すれば付与されるなどさまざまです。また、患者が少ない日には強制的に休暇取得が促されるケースもありますが、有休がないトラベルナースよりも正職員が優先されます。
Q.契約終了後も就労先でもっと働きたい場合は?
A.日本もアメリカも働く側に就労の意志があり、就労先も人手が足りないなどの状況であれば雇用期間を延長することで継続して働けます。
参考
- U.S. Bureau of Labor Statistics|Registered Nurses
- 厚生労働省|新型コロナウイルス感染症に係るワクチン接種会場への看護師等の労働者派遣等について
- 厚生労働省|派遣労働者の労働条件・安全衛生の確保のために