目次
1.専門看護師とは
専門看護分野の知識・技術を深め卓越した看護を提供する
専門看護師とは、特定の看護分野について水準の高い看護を効率よくおこなうための技術と知識を深め、卓越した看護を実践できると認められた看護師のことです(定義:日本看護協会)。英語ではCertified Nurse Spacialist(CNS)と表記します。
5年以上の実務経験、修士課程の修了を経て専門看護師認定審査に合格する必要があり、看護師としての高い専門性を証明する資格のひとつです。
専門看護師の6つの役割
日本看護協会では、専門看護師に求められる6つの役割を定めています。
- 実践:個人、家族および集団に対して卓越した看護を実践する
- 相談:看護者を含むケア提供者に対しコンサルテーションをおこなう
- 調整:必要なケアが円滑におこなわれるために、保健医療福祉に携わる人々の間のコーディネーションをおこなう
- 倫理調整:個人、家族および集団の権利を守るために、倫理的な問題や葛藤の解決を図る
- 教育:看護者に対しケアを向上させるために教育的役割を果たす
- 研究:専門知識および技術の向上並びに開発を図るために実践の場における研究活動をおこなう
このように、専門看護師は自身が高い看護技術を有することだけでなく、相談や教育、コーディネートなど、質の高い看護をけん引する包括的な役割が期待されています。
専門看護分野の種類一覧
専門看護師が担う独立した専門分野は下記14分野です。専門分野は大学院などの教育課程ですでに扱われていて、かつ専門看護師の受験資格を満たす人が3人以上臨床専門分野で実施しているもののうち、申請を受け専門看護師制度委員会が認めたものです。
分野名 | 概要 |
---|---|
がん看護 | がん患者の身体的・精神的苦痛を理解し、患者や家族に対しQOLの視点に立った水準の高い看護を提供する |
精神看護 | 精神疾患患者に対して水準の高い看護を提供するほか、一般病院で心のケアをおこなう「リエゾン精神看護」の役割を提供する |
地域看護 | 産業保健、学校保健、保健行政、在宅ケアの領域において水準の高い看護を提供し、地域の保健医療福祉の発展に貢献する |
老人看護 | 高齢者が入院、利用する施設において、認知症や嚥下障害など複雑な健康問題を持つ高齢者のQOLを向上させるために水準の高い看護を提供する |
小児看護 | 子どもたちが健やかに成長・発達できるよう療養生活を支援し、医療スタッフと連携して水準の高い看護を提供する |
母性看護 | 周産期の母子および家族への支援、女性のライフサイクル全般にわたる健康への援助など水準の高い看護ケアを提供する |
慢性疾患看護 | 生活習慣病の予防や、慢性的な不調を抱える人に対する慢性疾患の管理、健康増進、療養支援などに関する水準の高い看護をおこなう |
急性・重症患者看護 | 緊急度や重症度の高い患者に対して集中的な看護を提供し、患者と家族の支援、医療スタッフ間の調整を通じて最善の医療が提供されるよう支援する |
感染症看護 | 施設や地域における個人や集団の感染予防と、発生時の適切な対策に従事するとともに、患者に対して水準の高い看護を提供する |
家族支援 | 患者を含む家族本来のセルフケア機能を高め、患者の回復を促進し主体的に問題解決できるよう身体的・精神的・社会的に支援し、水準の高い看護を提供する |
在宅看護 | 在宅で療養する患者と家族が、日常生活を送りながら療養を続けることを支援する。在宅看護における新たなケアシステムの構築や既存のサービスの連携促進を図り、水準の高い看護を提供する |
遺伝看護 | 対象者の遺伝的課題を見極め、診断・予防・治療に伴う意思決定支援とQOL向上を目指した生涯にわたる療養生活支援をおこない、世代を超えて必要な医療を受けられる体制構築とゲノム医療の発展に貢献する |
災害看護 | 災害の特性を踏まえ、限られた人的・物的資源の中でメンタルヘルスを含む適切な看護を提供する。平時から多職種や行政と連携し、減災・防災体制の構築と災害看護の発展に貢献する |
放射線看護 | 放射線がもたらす身体、心理社会的影響の特性を踏まえ、平時からの体制構築と放射線事故・災害における健康課題を有する対象者へ長期的な看護を提供する。また、放射線診療を受ける患者と家族へ水準の高い看護を提供し、職業被曝低減の方策など施設における体制を構築する |
参照:日本看護協会「専門看護分野一覧」
認定看護師との違い
専門看護師は大学院修士課程の修了が必要なのに対し、認定看護師は同様の実務経験を有したうえで、看護師教育機関が実施する800時間のカリキュラムを修了することで受験資格となります。専門看護師は、認定看護師と比較してより専門性が高く、合格へのハードルが高い認定資格だといえます。
項目 | 専門看護師 | 認定看護師 |
---|---|---|
定義 | 特定の看護分野について、卓越した看護を実践できると認められた看護師 | 特定の看護分野において、熟練した看護技術と知識を有すると認められた看護師 |
求められる役割 | 実践、相談、調整、倫理調整、教育、研究の6つの役割 | 実践、指導、相談の3つの役割 |
専門分野 | 14分野 | 19分野 |
登録者数 | 約3,000人 | 約2万3,000人 |
受験資格 | ・5年以上の実務経験 ・大学院修士課程修了 |
・5年以上の実務経験 ・800時間の課程修了 |
課程の履修期間 | 2年 | 半年〜1年 |
費用 | 約350万円 | 約100万円 |
認定看護師について詳しくは、こちらの記事で解説しています。
>認定看護師とは
2.専門看護師にまつわるデータ
ここでは専門看護師について気になる数字を取り上げます。なお、専門看護師になるための流れについては「3.専門看護師になるには?」で説明しています。
参考:日本看護協会「データで見る専門看護師」
専門分野別の登録者数
2022年12月現在、専門看護師の登録者数は3,115人(うち男性404人)で、各専門分野の人数は以下のとおりです。がん看護が1,043人と圧倒的に多く、精神看護402人、急性・重症患者看護387人と続きます。

専門看護師の所属先
看護師全体の就業先が病院72.2%、診療所11.5%、介護保険施設等7.1%(令和2年衛生行政報告例)という割合なのに対し、専門看護師は病院に次いで学校・大学が多いのが特徴です。医師不在時に判断力を求められる訪問看護においても、専門看護師のスキルが役立つと考えられます。

また、特定機能病院や救命救急センター、周産期医療施設など高い専門性を求められる現場では、いずれも約8割以上の施設で専門看護師が在籍しています(2019〜2020年時点)。
施設の種類 | 全国の施設数 | 専門看護師がいる施設数(%) |
---|---|---|
特定機能病院 | 87 | 85(97.7%) |
がん診療連携拠点病院 | 405 | 320(79%) |
救命救急センター | 297 | 250(84.2%) |
総合周産期母子医療センター | 115 | 110(95.7%) |
専門看護師の平均年齢
専門看護師の平均年齢は46.1歳で、放射線看護(52.7歳)、地域看護(50.5歳)以外の分野で平均40代となっています。実務経験と大学院修了の両方が必要なため、中堅以上の看護師のスキルアップ・キャリアアップの選択肢になっているようです。
3.専門看護師になるには?
修士かつ実務経験5年以上で試験に合格する

専門看護師の受験資格
専門看護師の認定審査(試験)は、例年10月に実施されます。
専門看護師の受験資格
- 日本の看護師免許を持っている
- 看護系大学大学院修士課程で専門看護師教育課程基準の所定の単位を取得、修了している
- 実務経験が通算5年以上、うち3年以上は専門看護分野の実務経験があること
専門看護師の教育機関は2023年時点では107大学院・327課程が対象となっています。看護専門分野では専門看護師の6つの役割(実践、相談、調整、倫理調整、教育、研究)の観点に基づく看護を経験している必要があります。また、離職中でも受験は可能ですが、勤務形態にかかわらず現職であることが望ましいとされています。
専門看護師の出願の流れ
出願(資格認定審査の申請)は「資格認定制度 審査・申請システム」に登録し、6〜7月にオンライン・郵送でおこないます。7月からは同システム内で過去問題のダウンロードができるようになります。
やること | 時期 | 詳細・書類 |
---|---|---|
審査申請 (オンライン) |
6月中旬 〜下旬 |
(1)「資格認定制度 審査・申請システム」に登録・入力 (2)オンラインでの提出書類 ・看護師免許証(カラーコピー) ・履歴書・履修単位自己申告書 |
審査料の振込 | 6月中旬 〜下旬 |
申請システムに登録したメール宛に届く「審査申請受理/振込口座の案内」に従い、審査料(税込5万1,700円)を期日までに振り込む |
審査書類提出 (郵送) |
6月中旬 〜7月上旬 |
申請システムから様式をダウンロードし、必要な書類を揃えて郵送する(期日の当日消印有効)
〈主な必要書類〉 ・認定審査 審査書類 確認用紙 ・修士課程の修了証書の写し ・専門看護師教育課程基準単位取得証明書 ・勤務証明書 など |
合格後の申請手続き・更新方法
新規受験の場合
専門看護師の合格発表は、例年12月上旬です。合格基準は140点以上/200点満点となっており、「資格認定制度 審査・申請システム」上で合否を確認できます。
やること | 時期 | 詳細・書類 |
---|---|---|
合否の確認 | 12月中旬 (発表日以降) |
(1)「資格認定制度 審査・申請システム」にログイン (2)申請状況一覧で合否を確認する |
認定料の振込 | 翌1月上旬まで | 指定された期限までに、認定料(税込5万1,700円)を審査料と同じ口座に振り込む |
情報公開の設定 | 認定料の振込確認後 | 認定料の振込確認完了後に送られてくるメールを確認し、氏名・施設名を日本看護協会ホームページ上で公開するかどうかの設定をおこなう |
合格すると、12月下旬時点の登録情報で「認定証」「認定証カード」「専門看護師徽章」が送られてきますので大切に保管しましょう。
認定更新の場合
専門看護師は、合格後5年ごとに更新審査を受けなければ失効してしまいます。要件と申請の流れは以下のとおりです。
専門看護師 更新審査の申請資格
- 日本の看護師免許を持っている
- 専門看護師である(申請時)
- 過去5年間で、看護実践時間2,000時間以上、研究実績・研究業績合わせて100点以上
なお、「資格認定制度 審査・申請システム」で点数を登録することができますので、専門看護師合格後は定期的に記録しておくとよいでしょう。
やること | 時期 | 詳細・書類 |
---|---|---|
審査申請 | 7月末〜 8月中旬 |
(1)「資格認定制度 審査・申請システム」にログイン (2)専門看護師の認定更新から審査を申請する |
審査料の振込 | 7月末〜 8月中旬 |
申請システムに登録したメール宛に届く「審査申請受理/振込口座の案内」に従い、審査料(税込3万800円)を期日までに振り込む |
審査書類提出 (オンライン・郵送) |
7月末〜 8月下旬 |
〈オンラインの審査書類〉 ・実践報告書 ※1回目の更新のみ ・研修実績および研究業績等申告表 〈郵送の審査書類〉 日本看護協会ホームページから様式をダウンロードのうえ、必要な書類を揃えて郵送する(期日の当日消印有効) ・認定更新審査 審査書類確認用紙 ・実践時間証明書 ・研究実績および研究業績申告表(オンラインの画面を出力) ・学会やプログラムの参加証明など ※該当者のみ |
認定更新の合否発表も新規の受験と同じく12月中旬です。以降、認定料(2万900円)の振込、情報公開の設定、認定証の受領の流れも初回の認定と同様です。
専門看護師になるためにかかる費用
専門看護師になるための費用は、修士課程2年の学費300万円程度と、審査料・認定料の合計10万3,400円です。大学院により学費は異なりますが、およそ350万円程度かかると考えてよいでしょう。
決して軽くない費用ですが、専門看護師を目指す人が利用することのできる、公益財団の助成金や都道府県の看護師等修学資金貸与事業(例:東京都)などもあります。
4.専門看護師になるメリット
高い専門性を客観的に示すことができる
専門分野のスペシャリストである専門看護師になることで、看護技術・知識レベルの高さを客観的に示すことができます。修了した専門分野によって、専門病院や介護福祉施設、在宅医療など一定の病状や患者に特化した職場で重宝されることもあるでしょう。
資格手当があると給料が上がる
「専門看護師・認定看護師に対する評価・処遇に関する調査」報告書によると、専門看護師の資格手当がある職場は34.1%で、毎月手当が支払われる場合の平均額は1万1,279円でした。また、まれではありますが賞与時の手当や、資格取得時の一時金が支払われるケースもあるようです。
5.専門性を高めてキャリアアップを目指そう
看護師としてのキャリアを考えたとき、師長などマネジメント以外の方向性として有力なのが、専門性を高めたスペシャリストになることです。
大学院進学は臨床経験を経た看護師にとって改めて最新の知識を学びなおす機会でもあり、修了・合格することで転職などの場面でも強みになります。長い看護師キャリアのひとつの選択肢として考えてみてはいかがでしょうか。
参考
日本看護協会|専門看護師