1.保育所保育指針とは
保育所保育指針とは、保育所の保育内容や保育に関する考え方を定めたものです。1965年(昭和40年)に厚生労働省によって制定され、1990年、2000年、2008年の改定を経ています。直近では2017年度に厚生労働省より改定が告示され、2018年4月1日から施行されています。
保育所保育指針は一定の保育水準を保つ基準となるため、保育の現場に立つ人であれば理解しておく必要があります。
また、保育士試験(筆記)においても保育所保育指針から多くの問題が出題されています。
保育士試験合格者の声
保育士の筆記試験では「保育所保育指針」からいろんな問題が出るんです。なのでYouTubeの聴き流し動画を再生したり、自分のスマホのボイスレコーダーに録音した保育所保育指針の音声を聴き流したりして覚えていました。
筆記試験では保育所保育指針から単語の穴埋め問題も出ます。
保育所保育指針は全5章で構成されており、中でも「第1章 総則」からの出題が多い傾向があります。
保育所保育指針の構成
第1章 総則
第2章 保育の内容
第3章 健康及び安全
第4章 子育て支援
第5章 職員の資質向上
2.5領域とは
「第2章 保育の内容」に示されている5領域*は、子どもの総合的な心身の発達のために保育所が目指す目標を「健康」「人間関係」「環境」「言葉」「表現」の5つの領域に分けたものです。
保育所保育指針では領域ごとに、保育を通して育みたい力を「ねらい」、「ねらい」を達成するために必要な事項を「内容」として定めています。なお子どもの発達や能力の特性は年齢によって異なるため、「ねらい」「内容」はそれぞれ1歳以上3歳未満児、3歳以上児で分けて示されています。
5領域それぞれの目標・ねらい・内容は次の通りです。
・健康
「健康」は心身の健康に関する領域です。身体を動かして遊ぶことで健康な心身を育てることや、安全な生活を送るための習慣を身に付け生活力を養うことが目標です。
1歳以上3歳未満児
ねらい |
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内容 |
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3歳以上児
ねらい |
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内容 |
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・人間関係
「人間関係」は人との関わりに関する領域です。周りの子どもや大人とのコミュニケーションを通して、自立心や人と関わる力を養うことが目標です。
1歳以上3歳未満児
ねらい |
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内容 |
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3歳以上児
ねらい |
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内容 |
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・環境
「環境」は身近な環境との関わりに関する領域です。好奇心や探究心を持って身の周りの環境に関わり、物の性質・仕組みなどを自分の生活に取り入れていく力を養うことが目標です。
1歳以上3歳未満児
ねらい |
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内容 |
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3歳以上児
ねらい |
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内容 |
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・言葉
「言葉」は、言葉の獲得に関する領域です。自分の経験・想いを言葉で表現する力や、自ら話す意欲、また相手の話を聞く姿勢を育て、言葉の感覚や表現力を養うことが目標です。
1歳以上3歳未満児
ねらい |
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内容 |
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3歳以上児
ねらい |
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内容 |
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・表現
「表現」は感性と表現に関する領域です。自分が感じたことを言葉や態度を通して表現することで、豊かな表現力を養うことが目標です。
1歳以上3歳未満児
ねらい |
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内容 |
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3歳以上児
ねらい |
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内容 |
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乳児の保育では「3つの視点」で「ねらい」が定められている
乳児は感情・物事が自分の中で起きているものなのか、自分の外で起きているものなのかが曖昧なところから発達していきます。
人や物と関わるなかで少しずつ「自分」を理解していく乳児の保育に対して、保育所保育指針では5領域に代わって次の3つの視点で「ねらい」を定めています。
3つの視点
- 健康な心と身体(身体的発達)
- 身近な人との関わり(社会的発達)
- 身近なものとの関わり(精神的発達)
3つの視点のねらい
- 健やかに伸び伸びと育つ(身体的発達)
- 身近な人と気持ちが通じ合う(社会的発達)
- 身近なものと関わり感性が育つ(精神的発達)
3.10の姿とは
「第1章 総則」では、5領域をもとに「幼児期の終わりまでに育って欲しい姿」を示しています。10の項目に分けて記載されていることから「10の姿」と呼ばれ、幼稚園、保育所、認定こども園で共通の指針となっています。
幼児期の終わりまでに育ってほしい姿(10の姿)
- 健康な心と身体
- 自立心
- 協同性
- 道徳性・規範意識の芽生え
- 社会生活との関わり
- 思考力の芽生え
- 自然との関わり・生命尊重
- 数量や図形、標識や文字などへの関心・感覚
- 言葉による伝え合い
- 豊かな感性と表現
10の姿は子どもが育ってほしい方向性を示したものであり「こういうことができるようになる」といった達成が求められる課題ではありません。そのため「目標」ではなく「姿」という言葉が使われています。保育の現場では、日々の保育の積み重ねが「10の姿」につながる意識を持つことが大切です。
4.2018年の改定ポイント
共働きの家庭の増加や保育ニーズの多様化など、保育をめぐる社会状況の変化を受け、2017年に保育所保育指針が改定され、2018年に施行されました。改定は2008年以来、約10年ぶりとなります。
主な改定ポイントを6つに分けて紹介します。
・「乳児」「1歳以上3歳未満児」に関する記載が充実
日本では共働き家庭の増加に伴い、保育所に入る0歳~2歳児の数が増加しています。また「乳児」「1歳以上3歳未満児」の保育は、その後の子どもの発達や生活に深く影響すると言われています。
こうしたことから、2018年の改定では「乳児」「1歳以上3歳未満児」の保育の充実・質の向上が図られました。
新保育所保育指針「第2章 保育の内容」では、「乳児保育に関わるねらい及び内容」「1歳以上3歳未満児に関わるねらい及び内容」で0歳~2歳児の保育内容を具体的に示しています。
・「養護」の徹底を強調
保育における「養護」とは、「生命の維持」「情緒の安定」のために保育者がおこなう援助や関わりのことを指します。保育所には子どもが安全・健康に過ごせる環境や、子どもが安心して過ごせる環境を作ることが求められます。
旧保育所保育指針「第3章 保育の内容」に記載されていた「養護に関わるねらい及び内容」が、新保育所保育指針では「第1章 総則」の中に記載されました。全体に共通する事項である総則に記載されたことから、養護の大切さが改めて強調されていることがわかります。
・保育所を教育施設として位置づけた
新保育所保育指針の「第1章 総則」には「幼児教育をおこなう施設として共有すべき事項」の記載があります。これまでは「保育所は厚生労働省管轄の児童福祉施設」「幼稚園は文部科学省管轄の教育施設」「認定こども園は内閣府管轄の児童福祉・教育施設」という明確な区分がありましたが、今回の改定では保育所が幼児教育の場でもあるということが明記されています。
また今回の改定で、幼児教育に関する記載が幼稚園教育要領、幼保連携型認定こども園教育・保育要領とほぼ共通化されました。さらに幼児教育から小学校へのよりスムーズな接続を目指して、「幼稚園」「幼保連携型認定こども園」「保育所」は「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿(10の姿)」を共有しています。
このことから、「幼稚園」「幼保連携型認定こども園」「保育所」のどこでも同じ水準の教育を受けられることを目指しているのが伺えます。
・新たに「災害への備え」が記述された
新保育所保育指針「第3章 健康及び安全」の中に「災害への備え」の項目が新たに設けられました。
子どもたちの健康・安全を守ることは保育者の使命であり、日頃の準備と訓練は欠かせません。「災害への備え」では、地域の消防署や防災センターと連携し、緊急時に協力が得られる体制を整えておく必要性が明記されています。
・「保護者への支援」から「子育て支援」へ
子育てニーズの多様化に伴い、旧保育所保育指針で新たに設けられた「保護者に対する支援」が新保育所保育指針では「子育て支援」に改められました。
保育所には、保護者への支援だけでなく、保護者・家庭・地域*と連携した「広い子育て支援」が求められるようになりました。
・職場での研修体制を強化し、保育士の資質向上を推進
保育所の役割が広がったことを受け、保育士の一人ひとりの資質向上が求められています。新保育所保育指針「第5章 職員の資質向上」では、新たに「研修の実施体制等」が記載されました。
新しく記載された内容は主に2つです。1つ目は、研修で得た知識・スキルを保育所で共有し、保育所全体の資質向上を図ること。2つ目は、保育所において保育士の「キャリアパス」を見据えた研修計画を作成することです。保育所全体で保育士の資質向上に取り組むことが求められています。
参考
- 汐見稔幸『保育所保育指針ハンドブック』2021年
- 厚生労働省「保育所保育指針解説」2018年