1. 医療事務とは?
時に“裏方”として、時に“顔”として、医療機関の経営を支える
医療事務は、病院や診療所などの医療機関で受付、会計、カルテの準備、診療報酬の請求などの事務作業をおこないます。
医療事務の仕事には医療保険制度に関する専門的な知識が必要なため、一般の事務職とは区別されます。
医療事務には病院の経営を支える“裏方”として速く正確に作業をこなすことはもちろん、病院の“顔”として患者さんにいつも笑顔で接することが求められます。
2. 医療事務になるには?
資格や免許は不要
医療事務の仕事に就くために、特定の資格や免許は不要です。
ただし、前述のとおり医療事務には医療制度に関するさまざまな専門知識が必要なため、医療事務に必要な技能を証明する民間資格が数多く存在しています。「医療事務の仕事に興味があるけど、未経験なので不安」という方は、資格を取得することで自信を持って選考に臨めるでしょう。
医療事務の民間資格
代表的な医療事務の資格には次のようなものが挙げられます。
〈医療事務全般〉
- 医療事務技能審査試験(メディカル クラーク®️)(日本医療教育財団)
- 医療事務技能認定試験(技能認定振興協会)
- 医療事務認定実務者®️認定試験(全国医療福祉教育協会)
〈診療報酬(レセプト)〉
- 診療報酬請求事務能力認定試験(日本医療保険事務協会)
- 医科医療事務管理士®️認定試験(技能認定振興協会)
- 在宅診療報酬事務管理士®︎認定試験(技能認定振興協会)
〈医事コンピュータ(レセコン)〉
- 医事オペレータ技能認定試験(メディカルオペレータ)(日本医療教育財団)
- 医事コンピュータ技能検定試験(医療秘書教育全国協議会)
- 医事コンピュータ能力技能検定試験(日本医療事務協会)
〈医療秘書・医療クラーク〉
- 医療秘書技能検定試験(医療秘書教育全国協議会)
- 医師事務作業補助技能認定試験(ドクターズクラーク®️)(日本医療教育財団)
- 医師事務作業補助者(ドクターズオフィスワークアシスト®️)検定試験(技能認定振興協会)
〈医療接遇〉
- ホスピタルコンシェルジュ®️(技能認定振興協会主催)
〈診療情報管理〉
数多くある医療事務の民間資格の中でも受験者数が多いのは、医療事務に必要な知識・技能について幅広く問われる医療事務技能審査試験と、医療事務の仕事の中でも高い専門性が求められる診療報酬請求事務能力認定試験です。
試験によって問われる知識や技能がそれぞれ異なりますので、就職やキャリアアップのために必要な資格はどれかあらかじめ考えたうえで受験しましょう。
3. 医療事務の仕事内容
医療事務の仕事には主に次のようなものがあります。
診療所の場合はすべての業務をオールラウンドにこなす必要がある一方、診療科目が複数ある病院の場合は配属先によって担当する業務が異なることがあります。
受付業務
患者さんから診察券や保険証を預かります。初診の場合は診察券を発行し、カルテに患者さんの基本情報を登録します。患者さんが最初に訪れる場所ですので、病院や診療所の“顔”として、気持ちのいい対応が求められます。
外来クラーク業務
各診療科の受付で、問診票の記入依頼、カルテの準備、診察室への案内、検査の案内、次回の診療予約などをおこないます。患者さんに安心して診療を受けてもらえるよう、医師や看護師と連携して業務をおこないます。
病棟クラーク業務
主にナースステーションに常駐し、入退院の手続き、カルテ・食事箋の管理、手術・検査スケジュールの管理、面会者の対応などをおこない、多忙な医師や看護師を事務面からサポートします。
会計業務
カルテの内容から診療費を計算し、患者さんから診療費の一部(原則3割)を受け取ります。診療費について患者さんから質問があれば、回答することもあります。
レセプト業務
会計時に患者さんから受け取るのは診療費の一部のみのため、残りについては保険者(国保、健保等)に請求します。患者さん一人ひとりの1ヶ月分のレセプト(診療報酬明細書)の作成・点検・提出作業のため、月末〜月初にかけては残業が増えることもあります(レセプトの点検は業務の合間に日次・週次でおこなう医療機関もあります)。
4. 医療事務の勤務先
医療事務の勤務先による働き方の違いなどについて解説します。
病院
病院の場合、診療科が複数あり一日に訪れる患者さんも多いことから、医療事務の仕事も配属先によって受付、外来、病棟、保険請求などに分かれていることがほとんどです。
任された業務を着実に効率よく捌く能力が求められますので、特定の業務に腰を据えて取り組みたい方や専門性を磨きたい方に向いています。ただし、転職時にこれまで携わってきた業務と応募先の業務にミスマッチがあると、選考上不利になる可能性もあります。
社保完備や産休育休の取得実績があるなど、長く働きやすい環境も魅力で、院内に従業員向けの保育所がある病院もあります。
診療所
一方の診療所の場合は、受付、会計、クラーク、レセプト、そのほか電話対応など、経営に欠かせない業務を一手にこなす必要があるため、医療事務の業務を広く身につけたい方に向いているでしょう。
診療所の中でも自由診療の比率の高い美容皮膚科、美容外科、審美歯科、矯正歯科などは基本給が高い傾向にあります。業務内容にカウンセリングが含まれる場合、個人やチーム(部門)で目標を達成するとインセンティブが支払われることが多いため、サービス業や営業の経験を活かせるケースもあります。
このように診療科によって求められる適性は異なりますので、医療とは関係のない意外な経験を活かせるかもしれません。
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在宅医療
訪問診療所や訪問看護ステーションなど、在宅医療のニーズが増加しており、そこでも医療事務が活躍しています。
医療事務は訪問に同行し、診療(看護)のサポートをおこないます。具体的には訪問に必要な機材や物品の準備、カルテの入力代行、訪問スケジュールの管理、レセプトの作成など、医療行為以外のあらゆる業務を任されます。移動は車のため、多くの求人で運転免許が必須とされます。
また、ケアマネジャー、看護師、薬剤師、リハビリ職との連携も重要で、利用者やそのご家族と医療・介護チームの架け橋となります。
保険請求については、介護報酬など介護保険に関する知識も必要となります。勤務先で研修がおこなわれている場合もありますが、多くは現場で学ぶことになります。不安な場合は、介護事務の民間資格にチャレンジしてみてもいいでしょう。
こう聞くとハードな印象を持つかもしれませんが、訪問のほとんどが平日の日中(9時〜17時)ですので、ONとOFFのメリハリをつけて働くことができます。
治療院
健康意識や美意識の高まりから、整骨院(接骨院)や鍼灸院、マッサージ院、整体院などの代替医療の治療院も増加しています。
このような治療院には病気やけがの治療(保険診療)*のために通う方もいれば、病気の予防や健康、美容(自由診療)のために通う方もおり、近年は後者に力を入れる院が増えています。そのため、健康や美容に関心のある方や新しいことを柔軟に受け入れられる方に向いているでしょう。
治療院で働く場合も業務内容は診療所と大きくは変わりませんが、夜の20時〜21時まで開いている院が多いため、応募時には自分のライフスタイルに合っているか確認しましょう。
5. 医療事務の働き方
仕事内容や一日の流れなど、医療事務のワークスタイルについて解説します。
医療事務の一日
入院設備のない一般的な診療所の場合、医療事務の一日の仕事の流れはおおむね次のようになります。
医療事務の休日
勤務時間は「外来患者の対応が必要な時間」となるため、医療事務は日勤のみ、固定休(日曜などの休診日)を含む週休2日と、自分のペースで働きやすいのが特徴です。
病棟クラークも基本的に同様ですが、シフト制で土日出勤が必要な医療機関もあります。
また、「日勤のみ」といっても医療機関によって診療時間はさまざまですので、無理なく勤務できそうか求人応募時に確認しておきましょう。
6. 医療事務の給料
ジョブメドレーに掲載されている求人から医療事務の賃金相場を算出しました。なお、残業手当など月によって支給額が変動する手当は集計対象外のため、実際に支払われる賃金はこれより多くなる可能性があります。
【全国平均】医療事務の時給・月給・年収の相場
2024年4月時点の全国の医療事務の時給・月給・年収の相場は次のとおりとなりました。
下限平均 |
上限平均 |
総平均 |
|
---|---|---|---|
パート・アルバイトの時給 |
1,131円 |
1,281円 |
1,184円 |
正職員の月給 |
20万1,058円 |
24万5,127円 |
21万8,905円 |
正職員の年収* |
281万4,812円 |
343万1,778円 |
306万4,670円 |
エリア別・勤務先別など詳しい給料はこちらの記事をチェック!
>医療事務の給料・年収は高い?病院・クリニックなど勤務先・エリア別に紹介
7. 医療事務の将来性
高齢化が進む日本。65歳以上の人口は2042年にピークを迎えその後減少に転じますが、若年層の人口が減っているため高齢化率はその後も緩やかに上昇すると見込まれています*。
このように増加する医療介護ニーズを支えているのが医療保険や介護保険といった社会保険制度です。それに関わる膨大な事務作業を担う医療事務は今後も広く必要とされるでしょう。IT化やAI導入によって事務負担が軽減されることが期待されますが、それでも決してゼロになることはないと考えられます。
また、医療事務の仕事は無資格・未経験でも始めることができ、経験があれば転職にも有利です。レセプト業務については診療報酬制度は全国共通のため、転居が必要になっても全国で通用します。
今後も高い需要が見込まれ、ライフステージの変化にも強い医療事務の仕事。安定して働ける仕事に就きたいと考えている方はぜひチャレンジしてみてはいかがでしょうか。