目次
1.訪問診療とは
医師が患者宅を定期的に訪問するサービス
訪問診療とは、医師が患者の自宅や入所先施設を1〜2週間に1回程度定期的に訪問し、診療や相談対応をおこなうサービスのことです。病気の治療以外にも、ケガや新たな病気の発症を未然に防ぐことも目的としています。
訪問診療をおこなうのは、病院や診療所(クリニック)などで、厚生労働省の調べによると病院の約3割、診療所の約2割が訪問診療を実施しています。また、医科だけでなく歯科医師による訪問診療(訪問歯科)もあります。
対象者
訪問診療の対象者は、病気や障がいなどにより通院が困難な、自宅や施設で暮らす人です。例として、歩行困難で寝たきりの人や、胃ろうや人工呼吸器を装着しているために移動が難しい人が挙げられます。
利用者の約9割は75歳以上の高齢者ですが、60歳未満の成人や小児も一定数利用しています。
訪問診療と往診の違い

訪問診療と似た言葉に、「往診」があります。訪問診療と往診の主な違いは、訪問の目的と頻度にあります。訪問診療が治療や健康管理を目的とし、計画的・定期的に患者宅を訪問するのに対し、往診は患者の容体が急変したときなどに緊急対応することを目的に、臨時で訪問します。
訪問診療と在宅医療の違い

訪問診療や往診に関連する言葉として「在宅医療」があります。在宅医療とは、病気や障がいの有無に関わらず、住み慣れた地域で生活を続けられるよう、医療・福祉サービスが連携して日常生活を支える仕組みや体制を指します。この枠組みには、医療以外にも看護、介護、歯科、障害福祉などさまざまなサービスがあり、その中の一つに訪問診療や往診も含まれます。
また、訪問診療をおこなう医療機関のうち、24時間体制の往診対応が可能であり、訪問看護ステーションとの連携があるなどの基準を満たし、地方厚生(支)局長に認可された施設は、在宅療養支援病院または在宅療養支援診療所と呼ばれます。
2.訪問診療の現状
医科の訪問診療件数

訪問診療の件数は、2010年から2019年にかけて約2.6倍に増加しました。

*医療保険等による在宅サービスを実施している医療機関
一方、訪問診療をおこなう医療機関の件数は、利用件数ほど顕著に増加していません。
医療機関の数を見ると、病院が8,238ヶ所あるのに対し、一般診療所は約13倍の10万2,612ヶ所*となっています。しかし、訪問診療をおこなう割合で見ると、病院が36.1%、診療所が19.7%と、病院のほうが高くなっています。
*いずれも医療施設調査・病院報告(2020年)より
歯科の訪問診療所数

*医療保険等による在宅サービスを実施している歯科診療所
居宅や病院、施設への訪問診療をおこなっている歯科診療所は増加しており、とくに施設等への増加が目立ちます。
3.訪問診療の内容
ここからは、訪問診療で提供する主なサービス内容を紹介します。
医療処置や薬の処方
訪問診療では退院後の経過観察から、点滴や経管栄養、人工呼吸器の管理などの医療措置、症状に合わせた薬の処方、褥瘡(じょくそう)のケアなど幅広く対応しています。
相談対応や服薬管理など
医療的処置以外にも、療養上の不安や健康管理に関する悩みの相談にも応じます。また、残薬や服薬による体調変化の確認と、指導をおこなうのも大切な役割の一つです。厚生労働省がおこなった調査によると、訪問診療を利用している人のうち、46%は「健康相談」「血圧・脈拍の測定」「服薬援助・管理」のみに該当していました。
4.訪問診療で働く
訪問する職種と仕事内容
医科の訪問診療では、主に次の職種が訪問をおこないます。
医師
定期的に患者宅を訪問し、中心となって診療します。病気の経過観察や医療的処置以外にも、患者家族へ療養に関するアドバイスや、相談に応じることも業務の一つです。
看護師
診療をおこなう医師に同行し、バイタルの測定や採血、点滴、薬の管理などをおこないます。職場によっては運転業務や患者家族との連絡調整を担うこともあります。
在宅医療に特化した看護技術や知識を持つ資格として、認定看護師制度の「在宅ケア」や、専門看護師制度の「在宅看護」があります。訪問診療をおこなう看護師は取得を視野に入れてみるのもよいでしょう。
詳しくはこちら▽
認定看護師になるには?種類と取得費用、更新方法、専門看護師との違いを解説
専門看護師とは? 種類や役割、認定看護師との違いを知ろう
歯科の訪問診療では、主に次の職種が訪問をおこないます。
歯科医師
訪問歯科では、インプラント手術などを除き通常の歯科診療所とほとんど同じ治療をおこなえます。その内容は口腔内の状態確認から、むし歯・歯周病の治療、義歯の製作・調整など多岐にわたります。
訪問歯科の詳しい仕事内容はこちらもチェック▽
訪問歯科で働く歯科医師の一日に密着!外来ではできない「生活を支えに行く」診療とは
歯科衛生士
歯科医師の治療補助や、口腔内清掃、フッ化物塗布のほか、患者や患者家族に対する歯磨き指導などが主な業務内容です。治療に使う器具の準備や運転業務が発生する診療所もあります。
訪問歯科で働く歯科衛生士の詳しい仕事内容はこちらもチェック▽
【在宅医療・介護の仕事】訪問歯科衛生士が考える、“外来でできない”働き方とやりがい
訪問診療の一日

訪問診療以外に外来を受け付けている場合は、午前中は訪問、午後は外来対応などと分けているところもあります。
訪問診療の給料
ジョブメドレーに掲載中(2024年10月時点)の求人から、訪問診療に関わる職種の給料を算出しました。
月収 |
年収 |
|
---|---|---|
医師 |
163万8,506円 |
2,293万9,084円 |
看護師/准看護師 |
32万8,693円 |
460万1,702円 |
歯科医師 |
72万1,068円 |
1,009万4,952円 |
歯科衛生士 |
28万1,004円 |
393万4,056円 |
5.訪問診療を受けるには

まず、利用したい医療機関か担当のケアマネジャーに訪問診療を希望する旨を相談します。この際、かかりつけ医や入院先の病院からの情報提供書(紹介状)があれば提出が必要です。その後、体調や病気の状態、生活状況などの確認、料金や訪問頻度について説明を受け、合意のうえ契約を結んだら利用開始となります。
6.人材の確保と体制づくりが期待される
訪問診療は、医師や看護師などが患者の自宅や入居施設を訪問し、治療や薬の処方、体調管理をおこなうサービスのことです。高齢化に伴い、医科・歯科ともに利用件数が増加しています。
病気になっても、住み慣れた地域で医療を受けながら生活を送りたいという需要は、今後も増すことが予想されます。しかし、多様化するニーズに対し医療機関や従事者の数は十分とは言い切れないのが現状です。これらの課題に対し、国や自治体では在宅医療体制の構築に向けた財政支援や、人材育成・確保の施策を進めています。
地域の医療や介護、福祉サービスが連携し、訪問診療を必要とする人に適切なサービスが行きわたる体制づくりが期待されます。