ミライロIDとは
ミライロIDは、紙やカード形式で交付される障害者手帳を電子化したスマートフォン用アプリです。2019年のリリース以降、利用者数は40万人を超え、多くの人に利用されています。スマートフォンにアプリをダウンロードして障害者手帳を登録することで、公共交通機関、博物館などで割引を受けることができます。
1949年から続く従来型の障害者手帳を、なぜデジタル化しようと思ったのか。開発に込めた思いと、ミライロIDを通じて目指す未来について、株式会社ミライロの井原さんに聞きました。
話を聞いた人
ITソリューション部 部長 井原 充貴さん
大学卒業後、大手銀行などを経て2015年に株式会社ミライロに入社。入社後、一貫して個人顧客向けサービス事業に従事。2016年に、ミライロIDの前身となるバリアフリー地図アプリ「Bmaps」を公開。2019年にミライロIDをリリースし、事業責任者として障がいのある人向けのプラットフォームづくりに取り組む。
手帳に関わるあらゆる人の負担をなくしたい
──ミライロIDは、日本初のデジタル障害者手帳として誕生しました。なぜ、従来型の手帳をデジタル化しようと思ったのでしょうか?
井原さん:障がいのある方が外出時に感じる負担を軽減し、行動を後押しするためです。当事者へのヒアリングを通して、必要な情報がまとまっていないことが外出のバリア(障害)になっていることがわかり、2016年に「Bmaps」という地図アプリをリリースしました。障がい者やベビーカー利用者などが外出時に求める情報を提供し、スムーズな外出を可能にすることを目指しました。
ただ、地図アプリを発表後もヒアリングを続けていたところ、「外出できる」と「外出したい」は別問題であることがわかったのです。そこで、「外出したい」と思える社会にするにはどうすればいいか調査を重ねた結果、障害者手帳に課題を見出しました。
──具体的にはどのような課題があったのでしょうか?
課題は、障害者手帳を利用する側と提示を受ける側の双方にあることがわかりました。障害者手帳は、提示することで公共交通機関やレジャー施設などの割引が受けられます。しかし、利用する側には、持ち歩くことによる紛失リスクや、提示する際に人目が気になるなどの心理的負担があることがわかりました。
一方で、提示を受ける事業者側にとっては、手帳の確認自体が負担になっていたのです。全国には283種類もの障害者手帳のフォーマットがあり、それぞれ情報の配置が異なるため「どこに何が書いてあるかわかりづらい」という意見がありました。
まずは、このフォーマットを統一したいとの思いからアプリ開発がスタートしました。
──283種類もフォーマットがあるのですね……! 開発からリリースまではどれくらいの期間がかかりましたか?
当初は、代表の垣内と私の2人だけでヒアリングや市場調査を重ねていきました。垣内は幼少期から障害者手帳を持っているので、この課題を解決したいという強い思いがありました。
2018年に事業計画を立て、徐々にメンバーを増やしながら、2019年4月に開発を始め、同年7月にリリースすることができました。
苦境を乗り越えて得た信頼
──2019年7月から約5年で、ユーザー数40万人を超えるサービスへと成長しています。どのように広めていったのでしょうか?
リリース後も、ユーザーと事業者の声を反映し改良を続けた結果、徐々に利用者が増えました。ただ、ここまでの道のりは決して平坦ではありませんでした。まずリリース直後にコロナ禍となり、外出を後押しするサービスを提供したにも関わらず、外出そのものが規制される世の中へと変わりました。
この間、利用者数の増加には伸び悩みましたが、レジャー施設などへのアプローチを重ね、使える場所を増やす取り組みに注力しました。
ただ、民間企業のサービスということもあり、信頼性の獲得が課題でした。
──苦境に陥ってしまったのですね。その状況が変わったきっかけは何だったのでしょう?
転機となったのが、2020年6月に民間活用の第一号としてマイナポータルと連携したことです。これにより、ミライロIDの信頼性が確立され、翌年3月には鉄道会社123社でミライロIDの一斉導入が実現しました。
社会性と経済性が両立した社会を目指す
──アプリには、ミライロIDが活用できるマップのほかにもクーポン、ショッピングなどのコンテンツもありますね。単に既存の障害者手帳の代替えとせず、こうした機能を追加した狙いは何でしょうか?
単に外出を支援するだけでなく、障がいのある方の社会・経済活動を後押しすることも目的としているからです。私たちが考える持続可能な社会とは、社会性と経済性が両立することで実現します。
外出のハードルが下がれば、行きたい場所や体験したいこと、買いたい物が増え、働く意欲も湧いてきます。こうした好循環が、多様な人が活躍できる社会につながるのではないかと考えています。
──定期的なアップデートもおこなっていますね。
そうですね、年に1回程度機能を追加しています。QRコードやチケットなどもリリース後に加わった機能です。最近では、駐車場や駐輪場の精算機とミライロIDを連動させ、減免手続きができるサービスも普及し始めています。
これまで、障がいのある方が駐車場や駐輪場で割引を受けるには、窓口で手帳を提示するか、オートフォンを使って遠隔オペレーターと会話し、手続きする必要がありました。これは両者に手間が発生しますし、聴覚障がいがある方は通話がそもそも難しいという課題があります。
障害者手帳を登録済みのミライロIDを使えば、QRコードを精算機にかざすだけなので、手続きが容易になるほか、そもそも手帳を出さなくても済みます。
──障害者手帳に関する課題を一つひとつクリアにしているのですね。では最後に、今後の展望を教えてください。
現在進めているのは、義足や車いすなど補装具を管理できる機能の追加です。補装具を使っている方は、長年使い続けることで破損や不適合により障がいが悪化してしまうケースもあります。また、不調が起きたときにどこに相談したらよいかわからないという声も寄せられているんです。
いま使用している補装具の内容や不調時の連絡先がわかるようにすれば、製作事業者との接点もつくれます。新たなアプリを開発するのではなく、機能の一部とすることで、より利便性の高いサービスになるのではと期待しています。
ミライロIDを活用できる場所はまだまだ多くあり、さらなる広がりを期待できます。今後も、ユーザーと事業者、双方の意見に耳を傾けることで、社会性と経済性の両面から誰一人取り残さない社会を実現していきたいです。
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