目次
1.育児時短就業給付とは?
育児時短就業給付とは、2歳未満の子どもを育てる人が、所定労働時間よりも短い時間で働いた場合に、時短期間中の賃金の約10%が支給される制度です。出産や育児に関係する給付には、育児休業給付と出生時育児休業給付の2つがありましたが、雇用保険法の改正により、2025年4月から育児時短就業給付と出生後休業支援給付金が新たに2つ創設されました。

育児時短就業給付ができた背景
育児時短就業給付が創設された背景には、経済的な負担と労働力不足があります。
時短勤務を選ぶと、一般的にフルタイムより給料が下がります。時短で働いた場合の基本給は、「時短前の基本月給 × 月の合計実労働時間 ÷ 月の合計所定労働時間」で算出されます。例えば、1日8時間のフルタイムで基本月給20万円だった人が、6時間の短時間勤務にした場合の月給は15万円*です。

また、第1子の出産を機に退職する人の割合は年々減少しているものの、いまだに約3割が仕事を辞めているのが実情です。とくに、パートや派遣など正規以外の働き方をしている人の就業継続率は正規職員の半数程度と低水準です。
内閣府の調査によると、総人口に対する15歳〜64歳までの労働力人口は、2014年時点で52%だったのが、超高齢化を背景に2060年には約44%に低下すると指摘されています。こうしたことからも、育児世帯がキャリアを諦めることなく、柔軟な働き方を選べる社会の実現が期待されています。
2.育児時短就業給付の対象者
育児時短就業給付の支給対象となるのは、以下どちらの条件も満たす人です。
- 2歳未満の子どもを養育するために、時短で働いている
- 育休から時短で復帰した、または時短開始前2年間に被保険者期間*が12ヶ月以上ある
支給対象となる時短制度
支給対象となる時短制度は、会社が定める週の労働時間よりも短時間で働く場合を指します。また、以下のような制度が適用されている人も、要件を満たせば支給対象となります。
特別な労働時間制度で働く場合の要件
対象外となるケース
以下にあてはまる場合は、支給対象となりませんのでご注意ください。
- 月の途中で退職し、被保険者資格がなくなった
- 週の所定労働時間が20時間未満の労働条件で転職した
3.支給対象期間はいつから?いくら支給される?
支給対象期間
支給対象となるのは、育児時短就業を開始した月から終了する月までです。子どもが2歳に達した場合や、産前産後休業、育児休業、介護休業のいずれかを開始した場合は、その時点で支給対象外となります。

また、男性が配偶者の出産前から時短を開始しても、育児時短就業給付金の支給が始まるのは出産予定日もしくは出生日いずれか早い月からです。
支給額と計算方法
育児時短就業給付金は、時短就業中の賃金の10%程度が支給されます。実際の支給額は、「育児時短就業開始時賃金月額」と比較して賃金がどれくらい下がったかによって決まります。育児時短就業開始時賃金月額は、時短勤務を始める直前の6ヶ月間に支払われた賃金の総額を180で割った数に、30をかけた金額で算出できます。
給付金の計算方法は、以下3つの方法があります。なお、時短前の賃金額は育児時短就業開始時賃金月額を指し、時短中の賃金額は、支給対象月に支払われた賃金額を指します。
(1)賃金が時短前の賃金額の90%以下の場合
計算式
支給額 = 時短中の賃金額 × 10%
計算例
時短前の賃金額 = 30万円
時短中の賃金額 = 20万円
20万円 × 10% = 2万円(支給額)
(2)賃金が時短前の賃金額の90%超〜100%未満の場合
計算式
支給額 = 時短中の賃金額 × 調整後の支給率*
*調整後の支給率は、{9,000 × 時短前の賃金額 ÷ (時短中の賃金額 × 100)- 90}÷ 100で算出
計算例
時短前の賃金額 = 30万円
時短中の賃金額 = 28万円
28万円 × 6.43%* = 1万8,004円(支給額)
*{9,000 × 30万円 ÷ (28万円 × 100)- 90}÷ 100 = 0.06428
(3)賃金と(1)または(2)の合計が支給限度額を超える場合
計算式
支給額 = 支給限度額* – 時短中の賃金額
*45万9,000円(2025年7月末までの上限額)
計算例
時短前の賃金額 = 47万700円(上限額)
時短中の賃金額 = 42万円
時短中の賃金額が時短前の賃金額の90%以下のため、支給率は10%となるが、42万円×10%で4万2,000円になる。時短中の賃金額の42万円と合計すると46万2,000円で、支給上限額を上回るため、以下の金額が支給される。
45万9,000円 – 42万円 = 3万9,000円(支給額)
支給されないケース
以下のケースに該当する場合は、給付金が支給されません。
- 時短中の賃金が、時短前の賃金額の100%以上の場合
- 時短中の賃金が、支給限度額*以上の場合
- 計算方法(1)〜(3)の結果が、最低限度額以下の場合
時短開始後に賃金に変化がない、または上がった場合は支給対象外となります。また、「支給額と計算方法」で紹介した(1)〜(3)で算出した支給額が、最低限度額である2,295円以下の場合も支給対象外となります。
育児時短就業開始時賃金(時短前の賃金額)の上限と下限も以下のように定められており、範囲内の賃金でなければ支給されません。
上限額 |
下限額 |
|
---|---|---|
育児時短就業開始時賃金日額 |
1万5,690円 |
2,869円 |
育児時短就業開始時賃金月額 |
47万700円 |
8万6,070円 |
4.育児時短就業給付の申請方法
育児時短就業給付を受けるには、ハローワークに会社から申請をおこないます。その際、以下の書類の提出が必要です。
- 雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書・所定労働時間短縮開始時賃金証明書*
- 育児時短就業給付受給資格確認票・(初回)育児時短就業給付金支給申請書
また、申請に際して時短の開始と賃金額、労働時間、育児の事実を確認するために、以下の書類の添付も求められます。住民票などは従業員から会社へ提出が必要となるため、あらかじめ準備しておくと良いでしょう。
- 賃金台帳、出勤簿、タイムカード、労働条件通知書、育児短時間勤務申出書、育児短時間勤務取扱通知書、就業規則など
- 母子健康手帳(出生届出済証明のページと分娩予定日が記載されたページ)、住民票、医師の診断書(分娩予定日証明書)など
5.育児時短就業給付金に関してよくある質問
Q.フレックスタイムでも給付は受けられる?
A.清算期間における総労働時間を短縮して働いた場合は、育児時短就業と見なされます。総労働時間は変わらずに、フレックスタイムの一部または全部の勤務をおこなわないことで、清算期間ごとに欠勤控除を受ける場合は、育児時短就業とは扱われません。
Q.シフト制でも給付は受けられる?
A.労働時間や曜日を確定せずに働くシフト制では、実際に働いた時間に基づいて1週間の平均労働時間を算出し、短縮が確認できた場合は育児時短就業と見なされます。
Q.同じ子どもに対して2回時短を使っても給付が受けられる?
A.一度フルタイムに戻ってから、同一の子どもに対して再び育児時短勤務を再開した場合でも、支給要件を満たしていれば、回数に制限なく給付が受けられます。
Q.制度開始前から時短だった人は対象外になる?
A.制度が始まる前から時短勤務をしていた人も、支給要件を満たせば、2025年4月を起点として給付対象となります。
Q.短時間正社員やパートへ転換しても対象になる?
A.子どもの養育のために、フルタイム正社員から短時間正社員やパートタイム労働者に転換した場合でも、1週間あたりの所定労働時間の短縮が確認でき、支給要件を満たせば給付対象となります。
参考
- 厚生労働省|育児時短就業給付の内容と支給申請手続
- 厚生労働省|業務取扱要領