訪問介護とケアマネ不足に支援。2025年度補正予算の対策を専門家はどう評価するか

物価高騰や人手不足を背景に介護事業所は厳しい環境に置かれています。補正予算で決定した医療・介護等支援パッケージのうち、訪問介護やケアマネへの支援について、支援内容と専門家の見解を解説します。

訪問介護とケアマネ不足に支援。2025年度補正予算の対策を専門家はどう評価するか

目次

深刻化する訪問介護経営・ケアマネ確保

2025年度補正予算が国会で成立し、「医療・介護等支援パッケージ」の実施が決まりました。物価高騰や人手不足が続くなか、医療・介護の提供体制を下支えするのが狙いです。

介護分野に対しては3,281億円が計上され、厳しい経営環境が続く訪問介護や、人手不足が顕著なケアマネを対象に複数の支援策が盛り込まれています

物価高騰や人手不足を背景に、介護事業所・施設を取り巻く経営環境は年々厳しさを増しています。なかでも訪問介護は、2024年の介護報酬改定での報酬引き下げの影響もあり、運営を続けられない事業所が相次いでいます。東京商工リサーチ(TSR)の調査では、2025年11月末の時点で85件の訪問介護事業者が倒産しており、3年連続で年間最多を更新しました。

一方、介護の担い手確保も大きな課題です。とくにケアマネジャー(ケアマネ)は人手不足が深刻です。背景には、現場介護職との賃金逆転や高齢化があるとされています。ケアマネジャーの年齢構成をみると、60歳以上が占める割合は2024年度の介護労働実態調査で31.5%に上り、5年前の20.6%から10ポイント以上増加しています。

今回の補正予算で示された支援策は、こうした課題にどこまで応えられるのでしょうか。訪問介護やケアマネの現状を踏まえ、「補助金」「地域の体制支援」「ケアマネ支援」の3つのテーマについて、現場を知る専門家に話を聞きました

話を聞いた人

峯尾さんプロフィール写真

特定非営利法人介護の会まつなみ理事長 峯尾 武巳さん

身体障害者療護施設、知的障害児施設、特別養護老人ホームの勤務を経て、2003年から2018年まで神奈川県立保健福祉大学にて介護福祉学を指導。現在はNPO代表として、さまざまな介護サービスを運営し、訪問介護も提供している。介護支援専門員の養成には、制度開始前から指導者として携わり、埼玉・東京・神奈川を中心に法定研修講師を務める。

テーマ1:訪問介護に最大50万円の補助金

補正予算では介護事業所の運営を支えるため、幅広いサービスを対象に補助金が支給されます。そのうち、訪問介護への補助は移動経費や熱中症対策、大規模災害対策を対象に、訪問回数に応じて1事業所あたり最大50万円となります。補助金額の上限は、延べ訪問回数に応じて次のように設定されています。

延べ訪問回数ごとの補助金額の上限

  • 2001回以上:50万円
  • 201回以上〜2000回以下:40万円
  • 200回以下:30万円
  • 集合住宅併設型:20万円

*移動経費の負担軽減が目的のため、訪問よりも低く設定されている

訪問介護は介護サービスを提供する時間だけでなく、移動時間にも人件費が必要です。さらに、中山間地域の事業所は訪問に自動車を使用する場合も多く、ガソリン代などのコストが経営を圧迫しています。今回の補助はこうした負担の一部を軽減し、訪問サービスの継続を下支えする支援といえます。

実際に事業所を運営する立場から、今回の補助金はどのように映るのでしょうか。峯尾さんは支援を評価しつつも課題を指摘します。

峯尾さん:支援があることは評価できるものです。ただ、本質的には使途を定めた補助ではなく、事業所の経営そのものを支える支援が必要だと感じています。

訪問介護は倒産件数が多いだけでなく、事業譲渡なども増えてきています。資本力がないと運営できない経営環境だと、地域密着で昔から親しまれているような小規模な事業所は持ちこたえられません。こういった事業所を支えるには、いずれは介護報酬自体の引き上げが求められるのではないでしょうか。

テーマ2:訪問介護を地域で支える体制づくり

補正予算では補助金だけでなく、訪問介護サービスを継続するための支援策も実施されます。具体的には「タスクシェア」「多機能化」「サテライト」の3つを通じて、地域の体制作りを支援します。

(1)家政婦やボランティアとのタスクシェア

訪問介護のタスクシェア

訪問する介護職の負担軽減を目的として、家政婦(夫)・学生・地域ボランティアなどが生活援助の一部を担うことを想定しています。地域の多様なリソースを活用することで、介護職は身体介護などの専門的な業務に集中できる環境を目指します。具体的には、家政婦(夫)との協働モデルの構築や、学生・地域ボランティアとのマッチングなどを支援します。

(2)通所介護事業所に訪問機能を追加

訪問介護事業所がない地域の通所介護事業所などに訪問の機能を追加します。訪問に必要な電動アシスト自転車の購入費用などが支援されるだけでなく、経営が安定するまでは訪問1回ごとに補助金も支給されます。

(3)サテライト(出張所)の設置促進

訪問介護事業所のサテライト設置

中山間地域や離島などの人口減少地域で、訪問介護事業所のサテライト(出張所)の設置を促進します。本体事業所にいる管理者やサービス提供責任者のサポートがあれば、サテライトは現地の介護職のみで運営できます。サテライト設置時には備品や自転車の購入が補助され、設置後も一定期間の家賃や交通費、宿泊費なども支援されます。

3つの支援策は訪問介護を提供し続けられるよう、地域の状況に合わせた体制を構築できるようにする取り組みです。実際に神奈川県で介護サービスを運営する峯尾さんは次のように評価します。

峯尾さん:地域の状況に合った制度を活用できると良いですね。例えば、タスクシェアについては大学と自治体が連携して、学生に空き家を安く提供する代わりに、高齢者の見守りをお願いするといった事例もあります。介護に取り組みたい人と事業者のマッチングが重要になると思います。

通所事業所への訪問機能の追加は、2024年の介護報酬改定の際に見送られた複合型サービスに近いものです。手を挙げる事業者の経営が成り立つよう、継続的に支援することが重要です。

サテライトも良い仕組みだと感じています。今はオンラインでやりとりができますから、事業所本体がマネジメントすることで、適切なサービス提供が可能になると思います。ただ、実績や記録の確認については、管理体制を整えてしっかり対応する必要があります。

もちろん、どの取り組みも可能な地域とそうでない地域がでてくるでしょう。地域の違いを認めたうえで、高齢者がそこでどう生きていくのか、みんなで考えていくことが大切になってくると思います。

テーマ3:業務・研修の負担軽減でケアマネ不足解消を後押し

訪問サービスを実施するうえでも、ケアマネは欠かせない職種です。ケアマネ不足の解消に向け、補正予算には次のような取り組みが盛り込まれました。

  • 潜在ケアマネの実態把握やマッチング
  • シャドウワーク対策
  • ケアマネの魅力発信
  • 法定研修の全国統一・オンライン化

資格を持っているものの、ケアマネ業務から離れている人を「潜在ケアマネ」と呼びます。ケアマネの仕事を離れる理由の一つとして、業務範囲を超える相談対応などの「シャドウワーク」の負担があります。峯尾さんは現場のケアマネの業務負担について、次のように語ります。

峯尾さんケアマネはなんでも相談できる窓口と思われがちですが、そうではありません。例えば、横浜市ではリーフレットを作って本来業務とそうでないことを示しています。このような取り組みで、利用者への周知を進めることが重要です。また、市区町村の役所さえもケアマネを頼りすぎていると感じることもあるので、介護業界全体の認識を変えていく必要があります。

研修のオンライン化は負担軽減につながる良い取り組みだと感じます。更新制の廃止も議論が進んでいますが、これまで遠方に住んでいる場合などは日数も交通費もかかり、負担が大きいものでした。「潜在ケアマネ」に仕事に就いてもらうには、こういった負担を少しでも減らし、またケアマネとして働こうとかんじる環境を整えることが重要です。

訪問もケアマネも共通ですが、人の生活を援助する介護の仕事は、成果が目に見えるものではなく、お金に換算できない要素が多いですよね。そのため、成果が見えにくい分、予算がつきにくい面もあると思います。しかし、介護保険制度ができたころとは状況は大きく変わっているので、中長期的に制度を整えていく必要があると考えています。

参考

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