退職金とは? 制度の種類、支給の条件、支給額、税金などを解説

退職時にもらうことができる「退職金」。じつは、支給回数や時期、支給元、課税額など、種類によって条件が大きく異なります。

退職金制度とは?

1.退職金とは

退職金とは、退職する際に、雇い主などから退職者に支給される金銭のこと。「退職手当」「退職慰労金」などとも呼ばれます。

退職金が支給される制度のことを、正式名称で「退職給付制度」と呼びますが、一般的には「退職金制度」と呼ばれることが多いです。

退職金は、定年退職するときに支払われるイメージが強いかもしれませんが、自己都合での退職や、解雇を受けたとき従業員が死亡した場合も支給の対象となります。

なお、あまり一般的ではありませんが、土地や不動産などを退職金の代わりに現物支給することも可能です。

2.退職金制度の導入率

法律上、退職金の支払いは義務付けられていません。退職金制度があるかどうかは、就業規則(退職金規程)や労働協約で定められているか次第です。また具体的な支給内容についても、各法人ごとに設定されているため、一律の決まりはありません。

厚生労働省が発表した「平成30年就労条件総合調査」によると、医療・福祉の事業者で退職金(一時金・年金)制度を導入している事業者数は、全体の87.3%でした。全産業の導入率は77.8%だったため、医療・福祉業界では退職金制度がある事業者が多いと言えるでしょう。

また、退職金の支給率は、法人規模によっても異なります。法人規模が大きいほど支給率が高く、中小規模の法人は支給率が低いです。下の表では、全産業を企業規模別に見た際、退職金制度がある企業の割合をまとめています。

■企業規模別の退職金制度導入の割合
従業員数 退職金制度がある企業の割合
1,000人以上 92.3%
300〜999人 91.8%
100〜299人 84.9%
30〜99人 77.6%
出典:「平成30年就労条件総合調査」(厚生労働省)

3.医療・福祉業界の退職金の支給額

退職金の支給額は、退職理由や学歴によって異なります。下の表は、東京都が「中小企業の賃金・退職金事情(平成30年版)」で発表した医療・福祉分野のモデル退職金(卒業後すぐに入社し、普通の能力と成績で勤務した場合の退職金水準)です。

■モデル退職金(医療・福祉)
学歴 勤続年数 退職金(自己都合退職) 退職金(会社都合退職)
高校卒 3
5 52万円 67万円
10 67万円 76万円
20 124万円 132万円
30 228万円 227万円
高専・短大卒 3 15万円 21万円
5 44万円 56万円
10 59万円 68万円
20 108万円 116万円
30 198万円 206万円
大学卒 3 14万円 20万円
5 45万円 59万円
10 60万円 71万円
20 118万円 132万円
30 221万円 236万円
出典:「中小企業の賃金・退職金事情(平成30年版)」(東京都産業労働局)
※定年退職時の退職金支給額は「会社都合」として計上


いずれの学歴の場合でも、勤続年数が長くなるほど支給額は多くなる傾向があります。また、退職者が自ら希望して退職するよりも、会社の意向により退職する場合のほうが退職金は多く支給されます。

4.退職金の種類

退職金には、受け取り時期や回数、支給元などによっていくつか種類があります。

まず、退職金を2つに大別すると、退職時に一括で支払われる「退職一時金」と、一定額を定期的に年金として受け取る「企業年金」に分けることができます。以下の表は、おもな制度をタイプ別に分類したものです。

退職一時金 企業年金
確定給付型 退職一時金制度 確定給付企業年金制度
確定拠出型 中小企業退職金共済制度
特定退職金制度
確定拠出年金制度

現在もっとも普及しているのは、「退職一時金」です。ただし、「退職一時金」と「企業年金」を併用している法人もありますし、従業員が希望する制度を選ぶことができる法人もあります。

4-1.退職一時金制度

「退職一時金制度」は、退職金を法人の内部に積み立てておき、退職時に一括で法人から支給される制度のこと。

退職一時金の算定方法には、おもに以下3つの方法がとられます。

■定額制

給与に関わらず、勤続年数に応じた定額を支給

■給与比例制

給与に勤続年数などに応じた支給率をかけた金額で算出

■ポイント制

勤続年数や職能、役職、保有資格などをポイント化し、ポイントを合算することで支給額を算定


支給内容については、労働協約や就業規則で定められた内容に基づき決定します。ただし、社会状況や経営状況によっては、労使間の話し合いで制度の規程が変更されたり廃止されたりする可能性も。また、万が一法人が倒産した場合は、退職金が支給されない可能性もあります。

4-2.退職金共済制度

「退職金共済制度」は、事業者が共済と契約を結び、毎月掛金を払って退職金を積み立て、退職時に支給する制度です。

中小企業を対象にした「中小企業退職金共済(通称:中退共)」が有名ですが、ほかにも約9割の社会福祉法人が加入している「社会福祉施設職員等退職手当共済制度」をはじめとした業種別の退職金共済や、商工会議所などが運営する「特定退職金共済制度」など、さまざまな種類があります。

支給方法は一時金として一括で支払うことが一般的ですが、条件によっては分割支給が可能な制度もあります。

退職金共済制度は、万が一に事業者が倒産してしまっても、退職者は共済から退職金を受け取ることができます。また同じ制度に加入している法人間で転職した場合は、以前の職場での掛金を引き継ぎできるところが多いです。

また、正社員のみならず、契約社員やパート・アルバイトの場合でも、雇用契約の内容によっては加入できるところもあります。

4-3.確定給付企業年金制度(DB)

「確定給付企業年金制度」は、外部に掛金を拠出することで積み立てておき、従業員が退職したあと、一定期間に渡って一定額が年金として支給される制度です。

掛金は、基本的には企業側が負担し、退職金の積立・運用をおこないます。給付金額が予め決まっている(確定している)ため、従業員に運用リスクは発生しません。

4-4.確定拠出年金制度(DC)

「確定拠出年金制度」は、外部に掛金を拠出することで積み立てておき、従業員が退職したあと、一定期間に渡って運用実績に応じた額が年金として支給される制度です。

前述の「確定給付企業年金制度」との大きな違いは、掛金の運用方法は従業員が選択し、支給される金額も運用結果によって決まります。そのため、運用リスクは従業員が負うことになります。

5.退職金にかかる税金

退職金には、受け取り方に応じた税金がかかります。

「一時金」で受け取る場合 「年金」で受け取る場合
所得の種類 退職所得 雑所得
課税方法 申告分離課税 総合課税
確定申告 勤務先で手続きをすれば不要 一定要件を満たせば不要

■「一時金」として受け取る場合

「一時金」として退職金を受け取る場合は、「退職所得」として、所得税(復興特別所得税を含む)と住民税が課税されます。ただし、退職金は長年の勤労に対する報償の意味もあることから、課税額が大きくなりすぎないよう、退職所得控除が適用され、税負担が軽くなるよう配慮されています。とくに勤続年数が長くなるほど控除額は増えるため、 長く勤めた人とって有利になる設計になっています。

また、勤務先で源泉徴収がされるよう手続きをおこなえば、原則として確定申告をする必要はありません。

■「年金」として受け取る場合

「年金」として受け取る場合は、ほかの公的年金収入と合算して「雑所得」として課税されます。

また、「確定申告不要制度」により、公的年金などの収入の合計が400万円以下で、一定の要件を満たす場合は、確定申告は不要となります。

6.今後の見通し

ここまで退職金制度について解説してきましたが、じつは退職金制度を導入している法人や退職金の平均支給額は、ここ数年で低下しています。

退職金制度の実施状況割合の推移(中小企業)
出典:「中小企業の賃金・退職金事情」各年版(東京都)をもとに作成

上記グラフを見ると、「退職金制度なし」の中小企業の割合が徐々に増えていることが分かります。退職金制度を導入している割合は、2002年(88.8%)と2018年(71.3%)を比べると、17.5%も低下しています。

また、東京都が公表している「中小企業の賃金・退職金事情」のモデル退職金(大学卒・30年勤続・会社都合退職)を比較すると、2010年の支給額は約942万円でしたが、2018年では約852万円と、90万円の減額となっています。

このように退職金の導入率や支給額が低下した背景には、少子高齢化や低金利などの経済状況や、退職金制度・企業年金制度の変遷などが考えられます。

7.さいごに

「老後資金2,000万円問題」などのニュースが取り上げられ、生活資金への影響が大きい退職金について気になる人も多いと思います。現在の職場や転職先の退職金制度がどのような内容になっているか、退職時にどれだけの支給が受けられるかを、一度調べてみるのはどうでしょうか。

ジョブメドレーでは「退職金制度あり」の職場に絞って探すこともできるので、仕事探しの参考にしてみてください。



■参考文献

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