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NST(栄養サポートチーム)とは
NST(栄養サポートチーム)とは、Nutrition Support Teamの略で、患者へ適切な栄養管理を実施するために、管理栄養士や、医師、看護師、歯科医師、臨床検査技師などの多職種で構成される医療チームのことです。1968年に米国で中心静脈栄養(TPN)が開発されたことを受け、その適応と安全管理の実施を目的として誕生しました。
日本では、1998年に鈴鹿中央総合病院でNSTが設立され、その効果が初めて報告されました。その3年後に、日本経腸静脈栄養学会でNSTプロジェクトが開設され、いまでは、米国を超える1,500以上の施設で稼働し、日本病院機能評価機構にも取り入れられています。米国との大きな違いは、静脈・経腸・経口栄養の一貫管理を独自でおこなっている点です。
NSTに入れる職種と実施内容
NST活動に関わることができない職種はありません。医師や管理栄養士だけでなく、薬剤師、看護師、臨床検査技師、放射線技師、セラピスト、介護福祉士、歯科医、歯科衛生士や医療事務員など多種多様です。
NSTがおこなうのは、全員の患者の栄養状態をスクリーニングして、問題があるとアセスメントされれば適切な栄養管理をおこないます。栄養管理は静脈、経腸、経口のすべてを考慮しながら進めます。
栄養状態の改善は疾患や褥瘡の治療効果、合併症の予防に影響するだけでなく、QOLを高め、在院日数を短くして医療費の削減にもつながります。
そのうえ最近ではほかのチームと連携を図り、特色を打ち出す施設も増えています。例えば、褥瘡(じょくそう)チームと連携して、創部のみを治療するのではなく、全身の栄養状態も評価し検討をおこなっている施設です。
また、摂食嚥下チームと連携し、口から食べることを強化している施設や、セラピストと連携してADLの拡大に取り組んでいる施設も増えています。
活動としては、週に1回のNST回診をおこなっていることがほとんどです。大規模な施設だと、各病棟で曜日が決められ、回診しています。
NST委員は回診前までに患者の栄養状態(身体計測、血液データ、食事摂取量、摂取・投与カロリーなど)を記録し、回診で実際に患者の身体を観察し、回診後に全員で症例検討しつつ栄養評価(改善点や問題点など)をおこない、医師からの指示を受けたり、看護計画の変更や修正を図ったりします。
NSTの看護師に求められる役割
2007年、厚生労働省の「医師及び医療関係職と事務職員等との間等での役割分担について」の医政局通知で、患者の療養上の生活において、看護師が患者の安静度や食事の変更について積極的に対応することでサービスの質向上になると示されています。
看護師は24時間、患者のもっとも側にいる職種であり、多くの情報を得ています。その情報をチームと共有し、栄養管理の早期対応をおこなえる強みがあります。
また、患者個々の生活に合わせた退院指導もおこない、NSTのリーダーとして活動する役割が期待されています。
NSTに入るためには?
「NST専門療法士」という資格を持っていると有利ですが、絶対条件ではありません。ほとんど栄養のことは知らずにNST委員になり、独学で勉強したり、管理栄養士に教えてもらったりした人も多数存在します。
職種によって患者のアセスメントが少しずつ異なります。栄養という共通認識からみんなで患者の栄養管理を考えていく過程が大事です。
NST活動をとおして、患者の栄養問題を解決しようとする姿勢が求められます。
NST専門療法士になるために必要な資格
認定対象国家資格は、管理栄養士、看護師、薬剤師、臨床検査技師、言語聴覚士、理学療法士、作業療法士、歯科衛生士、診療放射線技師の9つです(2025年3月時点)。
受験資格は、これらの国家資格を得てから3年以上、医療・福祉施設で勤務し栄養管理に関する業務を経験したことがある人で、一般社団法人日本栄養治療学会が実施する集会と、NST専門療法士受験必須セミナーにそれぞれ最低1回参加し、学会が認める研究会などに参加し必須単位を満たすこと。そして、一般社団法人日本栄養治療学会に認定された教育施設で合計40時間の実地修練を修了していることです。
セミナーでは、消化器の解剖生理や栄養素の生化学・代謝、水分・電解質代謝、栄養障害の病態生理、経腸栄養剤の種類と選択、静脈栄養法の処方設計から在宅栄養療法まで計11時間を超え、多岐にわたる内容です。受験は年に1回おこなわれています。
筆者の場合、学会入会費と研究会参加費2万円程度、セミナー費1万2千円程度、実地修練費3万円程度と交通費に受験代や問題集代などを合わせて、10万円程度かかりました。
詳しくは、日本栄養治療学会のホームページをご覧くださいね。
NST的な視点のポイント
看護師なら誰でもNST的に患者をみています。私たちは、第一印象で「あれっ、痩せているな……」「うーん、太りすぎている?」とアセスメントしていますよね。そのアセスメントの視点で体重をみているはずです。
もちろん、もともと痩せていても元気に生活されていた人もいますが、そこから一歩先に進み「以前の体重はどうだったのか」「どれぐらい痩せたのかな」あるいは「急に太ったのは浮腫が原因かな」とアセスメントを深めていくことが大事です。そのうえで食事にも注目しましょう。
私たちは食事量を記録しますが、食事摂取内容にはあまり注目しません。副食の5割摂取の内容が、野菜とゼリーだけ完食している場合もあります。活動に必要なたんぱく質である肉・魚は手をつけていないことも現場ではよく見られることですね。体重、食事のアセスメントが栄養管理への第一歩です。
NSTの今後は?
わが国は、世界のトップランナー級のスピードで超高齢化社会に突入しています。高齢者の低栄養も問題になっています。
2018年4月に、回復期施設の入院料1病棟では、管理栄養士の専任常勤が努力義務となり、介護施設でも栄養スクリーニングや改善などの報酬が設定されました。患者の栄養改善に取り組み、成果を出すように求められています。
近年、フレイル(※加齢に伴う予備能力低下のため、ストレスに対する回復力が低下した状態。厚生労働省「高齢者の特性を踏まえた保健事業ガイドライン」より)にも注目が集まり、自治体は高齢者が低栄養にならないような予防に取り組み始めています。
今後、NSTに対するニーズはますます高まり、急性期・回復期・維持期と切れ目のない栄養管理の構築を求められていくでしょう。
参考文献
東口高志(編).(2009).NST完全ガイド・改訂版 経腸栄養・静脈栄養の基礎と実践.照林社