当事者だから言えるドラマとの乖離

──救命救急センター(以下:救命)と聞くと、どうしても医療ドラマの世界を連想してしまいます。現場で働く当事者はドラマをどう見ているんですか?
現実とぜんぜん違うなと思っています。実際に働いている医師も看護師もみんなそう思っているんじゃないかな。
──例えばどんな点が違いますか?
あり得ないことをやっていると思いますし、美化されています。喜びに満ちて泣いてるシーンなんかでも「そんなに心が穏やかになることないから!」って。
でもドラマなので、それはそれでいいと思いますよ。
──逆に共感できる点はありますか?
たまに「こういう疾患にこういう手術があるんだね」っていう発見があります。心臓手術の切除の仕方が違うとか。それが正しいのか看護師みんなで調べたりしています。
──なるほど、ドラマと現場には乖離があるものなんですね。とはいえドラマに憧れて救命を志望する人もいそうですが。
ドラマの影響で希望者が増えている気はしますし、人気の科もドラマが影響していると思います。つい何年か前に『恋はつづくよどこまでも』っていうドラマが放送されたときは循環器科が人気でした。災害派遣のドラマが放送されたあとは救命を志す人が多かったかも。
でもそういう人だけじゃないですよ? 実習や見学を通して救命や重症ケアを志望した新人さんも多くいます。
──人命を救う姿はドラマでも現実でも格好よく見えます。
ドラマに憧れて来た子の一部は、理想と現実のギャップに苦しんで数年で辞めちゃう人もいます。志を持って配属された分、ショックが大きいんでしょう。
私も駄目でしたもん。血だらけで臓器が出ている方を見たとき、耐えられなくて号泣しました。
親の意向で医療の世界へ

──看護師を志したきっかけはなんでしょう。
はっきりと覚えていないんです。物心がついた頃から医療関係の仕事に就きたいって思っていたらしくて。母親からは「人の役に立つ仕事をしなさい」と言われて育ったから、それが病院で働くことだって思ったんでしょうね。
子どもの頃に“将来の夢”って書くことがあるじゃないですか。私、幼稚園からずっと医者か看護師のどちらかを書いているんです。
──小さい頃に身近な誰かがお亡くなりになったとか、医療に関わったなどの体験は?
うーん…………ないですね。看護学校に進んだのも、母親から「受けてみれば?」って専門学校の願書を渡されたからで。本当は一般の大学に入学が決まっていたんです。入学金も払ったのに。
──えっ?
同じ大学を受けた友達は落ちちゃって、気まずいので看護学校に進みました。
──いろんなきっかけがあるものですね。通われた専門学校は何年制だったんですか?
3年制です。
──卒業後の就職先は?
大学病院に勤めました。3年ぐらい働いたかな。
──それから何度か転職したんですか。
1回転職して、今の病院に15年くらい勤めています。大学病院で働いていたときに心理学を学びたくなって、働きながら大学に入学したんです。あぁでも、看護の世界の1年目、2年目が結構つらくて“逃げ”もあったかな。
──逃げ? ではこれまでの経歴を教えてもらえますか。

──わざわざ大学に入り直した理由は?
大学病院は大卒の看護師が結構多かったんです。看護師は学歴社会ではないとはいえ、当時の大学病院は学歴が優遇される面もあって、学士号が必要だと感じました。
初めは大学に行きながら仕事をしていたんですが、教員免許を取るための教育実習が2ヶ月間あったんです。職場に相談したけど休職許可が降りなくて、それで辞めました。
──学業を優先するという理由で病院を離れた。
勉強したいというのが半分、つらくて辞めたくて逃げたかったというのが半分……でも、学業のほうが大きいかな。先生の資格が取れる大学だったので、その資格も欲しかったですし。
──病院に勤めながら大学を卒業していますね。当時は相当忙しかったのでは?
日中働いて、仕事が終わったら学校に行って、夜勤をして、明けてまた学校に行くっていう生活でした。ほとんど寝る時間はなかったですけど楽しかったです。大学では医療関係者ではない子たちと関われるので、いろんな刺激を受けました。
それに学校で学んだことを病院で活かせるので、すごくワクワクしましたね。
──働きながら学校に通う看護師って多いんですか?
大学病院のときは夜間大学に通っている先輩が何人かいました。経済学部とか社会学部とか、みんな将来を見越していたのかもしれません。今の病院にはぜんぜんいないんですけど、当時の流行りだったんですかね。
姪のために続ける仕事

──現在の病院では救命を希望されたんですか?
いえ、小児病棟を希望しました。でも配属されたのはICUだったんです。空いているポジションがそこしかなかったんでしょうね。ICUや病棟を転々と配置転換して今に至ります。
──かなり異動が多いんですね。
「なんでそこに行かなきゃいけないんですか?」って食ってかかる人もいますけど「あなたの適性を見ての判断です」みたいなことも言われますね。
──なるほど。今の病院では長く働いていますよね。モチベーションを保つ秘訣は何でしょう?
モチベーション保ててるのかな……って感じです。強いて言えば10歳になる姪がいるんですけど、3歳ぐらいから看護師になりたいと言っていて。看護師になって私と一緒に働きたいらしいので、「今辞めちゃいかん」って思っています。
──姪っ子の夢があるから続けられる。
私の仕事がコロナで大変だったとき、義理の姉が姪に「看護師は大変なのよ」って言ったらしいんです。でも「患者さんの笑顔を見たいからなりたいんだ」って。
コロナ重症患者が救命へ

──基本的なことですが、救命救急センターとはどういった部署ですか。
救急車で重篤と判断された患者さんが運ばれてくる、三次救急という役割を担う部署です。初療(応急的な処置と検査)と、なぜそれに至ったか原因検索をしながら診断をします。その後、一般病棟に入院させるか救命に入院させて治療するかを判断していきます。
──具体的な仕事内容は?
処置や検査の介助とその実施、装着されている医療機器の管理、重症ケアをおこなっています。治療する科が特定できたら脳外科や循環器科などに転棟するんですけど、振り分けられなかった患者さんが救命に入院します。以前はコロナの重症の患者さんもいました。
──コロナ患者の受け入れも救命なんですね。
重症化した患者さんを看れるのが救命しかなかったんです。本来は無いんですけど、一般病棟から救命に来る患者さんもいました。重症化して呼吸不全を起こしたり、人工呼吸器やECMO(心臓と呼吸の維持をする生命維持法)を回さなければいけない状況に陥ることがあって。
第5波(2021年11月頃)がピークでしたね。最近(2022年3月下旬時点)は減りました。
──救命と一般病棟、業務に違いはありますか?
いろんな切り口がありますが、業務の割合が違うと思います。看護師の役割は診療の補助と日常生活の援助の2つなんですが、一般病棟は日常生活の援助がメインだと思います。救命は診療の補助の割合が高いです。
例えば延命機器を装着する介助をおこなうとか、そのモニタリングがメインになりますね。あと一般病棟の患者さんのほうがコミュニケーションを取りやすいです。
──救命の患者さんは意識がないから?
意識がなかったり人工呼吸器を付けている方が多いからです。患者さんとコミュニケーションを取りながら仕事をしたいなら一般病棟が向いてるかもしれません。
真夜中の救命の仕事
──夜勤の働き方についてお聞きします。Aさんの病院は二交替制ですか? 三交替制ですか?
三交替制です。深夜勤は0時に出勤して9時くらいに退勤します。日勤は8時から。準夜勤は16時からです。

──交替時に患者さんの状況報告を受けて勤務を開始する流れでしょうか。
いえ、時間短縮のために申し送りを廃止してるんです。交替するときに伝えるのは0時ジャストくらいに変わったこととか、急な指示であるとか、緊急度の高い情報です。だからもうサクッと。
──病院の働き方も進化しているんですね。夜勤は通常は何名で働いていますか?
8床運営なので4人で回しています。集中治療室は患者さん2人に対して看護師が1人つくと決められているんです。
──0時から6時間の間に4人で休憩を1時間ずつ回すと。休憩中は何をしていますか?
私は病院で眠れないので、スマホいじってたりお茶を飲んだり、お菓子食べたりしています。電気を消してがっつり寝ている人もいます。
──救急の患者さんが運ばれてきたり、容態が急変したら?
残りのメンバーで頑張ります。
──休憩する人は休憩が仕事ということですね。
そう、休憩しないと駄目なんです。ただ緊急で患者さんが搬送されてきたときは1時間の休憩を30分ずつ分けることもあります。
──次にシフトについて教えてください。月に日勤と準夜勤、夜勤は何日程度ありますか?
日勤は10日ぐらい。深夜勤務と準夜勤務が合わせて10日ぐらいですね。基本は日勤・日勤・日勤・夜勤・準夜勤、あと休み2日みたいな流れ。夜勤の前には必ず日勤が入ります。

今の病院は休みが多いんです。お金よりも休みやゆとりがほしいっていう人たちにはいい環境です。私は大学病院よりも今の病院のほうが合っていると思います。
夜勤ならではの緊張感
──Aさんの目線で夜勤の良いところを教えてください。
平日の夜勤明けに銀行や病院に行けることですかね。平日の昼間しかやっていないお店に行けたりとかね。それが嬉しいです。夜勤明けの良さはそれに尽きると思います。
あとこれは私の場合ですけど、日勤ばかりだと疲れちゃうんですよね。日勤は処置やケアの頻度が高いし、業務量が多いので。
──逆にネガティブな面はありますか。
日勤よりも業務量が少ないとはいえ、看護師の人数がはるかに減るので精神的に疲れますね。少ないスタッフで業務をこなさないといけないので。
あと夜勤のほうが恐怖心が増します。先生の人数も減るし、スタッフもすぐ集まるわけではない。そういう怖さ。あ、日勤は緊張感がないという訳ではないですよ?
それに変則的なシフトなので身体も壊しますよね。
──どういった不調が出やすいですか?
風邪をひきやすい人が多いです。あとは次の日の勤務に寝坊したりとか(笑)。わりと時間の融通がきくけど、時間感覚が麻痺するのがデメリットですね。明日が何勤なのかわからなくなることもあります。
──休みなのに来ちゃったみたいな?
逆ですね、休みだと思ったら休みじゃなかったっていう率は高かったりすると思います。新人はとくに。若いときはガっと寝ちゃって、起きたときに「あれ? 私、勤務大丈夫かな?」って思ったことが何度もあります。寝過ごしたかと思ってすごく焦ったみたいな。
──そうしないために気をつけていることは?
今は日勤と同じ時間に夜ご飯を食べて、ちゃんと夜に寝るようにしています。だから夜勤明けでも頑張って寝ないようにしています。
主任看護師の給料事情
──Aさんは主任という肩書きですが、今の給料や手当について教えてください。
基本給は40万円くらいです。そこに主任の役職手当がつきます。あと特殊勤務手当、看護師って感染リスクが高いのでその手当ですね。それと夜勤手当が付いて、祝日に働いたら祝日手当も付きます。その4つ合わせて10万前後ぐらいです。
──手当の内訳は?
夜勤手当がトータル2万円ぐらい。主任手当が4万円ぐらい、特殊勤務手当が4万円ぐらい。月によってプラス祝日手当です。
──ありがとうございます。比較的高待遇ですか……?
いや~どうでしょう。給料は大学病院のほうがいいと思います。

──ところでジョブメドレーは医療介護求人サイトなのですが、求人サイトってご覧になります?
いろいろ見ますよ。
──求人サイトにこういう情報があったらいいなど、思うことがあれば教えてください。
転職して初めて気づく部分ってあるんですよ。私は給料よりも働きやすい職場なのか、お休みの希望が通るのか、そういう情報が知りたい。
働いている人たちについても知りたい。若い層からキャリア層までちゃんといる病院なのか。人数は足りているけれど、実際は若者だけで回してるんじゃないかなど気になりますね。
──何度も配置転換を経験しているとのことですが、その有無も重要でしょうか。
知りたいですね。私が10年以上今の病院に勤められているのは配置転換があったからです。人によると思いますが、私は同じ部署にずっと居続けなくてもいいという。人間関係がもっと良くなるかもしれないし。
──ちなみにAさんのような管理職クラスの転職ってどのような理由が多いですか?
がん看護がやりたいから癌専門の病院に行きたいとか、循環器系の医療に携わりたいから循環器専門の病院に行きたいとか、子ども専門の病院に行きたいっていう人とか。
──この先どういう方向に進みたいなど展望はありますか?
うーんどうだろうな……転職というより、今の職場をもっと働きやすくしたいという思いはあります。
病院が求めているものと実働部隊の私たちの思いに乖離があったりするんです。とくに若者たちはそこにジレンマやストレスを感じやすい。それを少しでも理解して、癒やしてあげたいという思いはあります。
あとはやっぱり看護師を夢見てる姪の夢を壊さないようにしたいなと。
──最後に、救命に勤めて得られたものはありますか?
全科を見るので医療知識は増えますね。広く浅くなっちゃうのかもしれないですけども。あとアセスメント力が深まります。今得た情報やデータから、今後なにが予測されるかを常にアセスメントしておく。アセスメントして行動したり、先生に報告したりしていかないと、患者さんは悪くなる一方なので。
──ありがとうございました。ちなみに、先ほど夜勤の休憩でお菓子を食べると言っていましたが、好きなお菓子は何ですか?
たべっ子どうぶつです(笑)。
