1.医療的ケア児とは
日常生活を送るために医療的ケアが必要な子ども
身体障害や知的障害の有無に関わらず、 生きるために医療的なケアを必要とする子どものことを医療的ケア児(以下:医ケア児)と言います。
新生児集中治療室(NICU)等に長期入院したあとでも、人工呼吸器や胃ろうなどで身体の機能を補ったり、痰の吸引や経管栄養をおこなったりしながら生活をしています。

一言で医ケア児と言っても、歩ける子どもから寝たきりの重症心身障がい児*まで幅広く、抱える障がいや取り巻く環境、家族が直面する困難はさまざまです。
2.医療的ケア児の現状
国内の医ケア児は2万人超
厚生労働省によると、2005年の在宅医ケア児の推計は約1万人と発表されていました。しかし2019年には約2万人と2倍に増加し、その存在が知られるようになりました。

医ケア児増加の背景
要因の一つは総合周産期母子医療センターやNICUの増設など、高度な医療施設の整備が進んだことです。以前なら出生直後に亡くなることの多かった超未熟児や、生まれつき病気を持つ子どもなどの命が救われるようになったのです。
医ケア児の多くは生後数ヶ月ほどで退院し、在宅医療に移行します。本来医師や看護師がおこなう医療的ケアは医療従事者の指導を受けた家族がおこないます。
日常生活で必要な在宅医療的ケアの例
- 服薬管理
- 経管栄養(経鼻、胃ろう、腸ろう)
- 痰などの吸引
- 血液中の酸素飽和度と脈拍数の測定
- 気管切開部の管理(バンド交換等)
- 在宅酸素療法、など
医ケア児の保護者「退院してからもずっと不安」
医療の進展によって救われる命が増えるのは喜ばしいことです。しかし、生活環境や支援制度が十分に整備されているとは言い切れず、負担やしわ寄せが家族に及んでいるのも事実です。中には子どものケアに追われ、就労の機会を失う方もいます。

都内で医ケア児と暮らすKさん。心疾患を抱える娘のMちゃん(3歳)は嚥下機能が弱く、鼻から入れたカテーテルを通して食事をしています。高濃度の酸素を鼻から送る酸素療法も欠かせません。

夫と手分けをしながら24時間体制で対応に当たるKさんは、医ケア児との生活にはさまざまな困りごとがつきまとうと言います。
病院から離れる不安
「退院前に必要な医療用具を揃え、利用できる福祉サービスをとにかく調べました。それでも病院という後ろ盾から遠のく不安がありましたし、実際には想定外のトラブルで何度も病院に足を運ぶことになりました」
慢性的な睡眠不足
「日中のケアに加えて、深夜と早朝には栄養注入があります。夫と2人で看るとはいえ、どうしても睡眠時間は削られてしまいます。深夜も息をしているか、生きているかが不安で、シーツが擦れる音で起きることがよくありました」
成長への懸念
「自宅や病院など同じ環境で日中を過ごすことが多いんです。そのため、同年代の子どもとの交流や多様な環境に触れる機会が減ってしまい、年齢に応じた成長や発達ができないんじゃないかずっと不安です」
預け先が見つからない
「今は障がい児専門の保育園に預けていますが、受け入れ先を見つけるまでが苦労の連続でした。当時は子ども病院の近所に住んでいて、近隣にも医ケア児が多かったんです。なので保育園の倍率が高く、受け入れまで2年かかると言われて……。必死で保育園を探し、今の地域に引っ越しました」
支援申請の煩雑さ
「自治体の支援制度は自分で調べなければいけないんですよ。子どもを抱えながらたくさんの窓口を回らなければならなかったり、課を横断したりととにかく疲れます。書類を書くにしても、病名や名前、住所を何度も書かなければいけないので地味にストレスです」
ほかにも「自分の死後の生活を考えると漠然とした不安に襲われる」など、将来への懸念が尽きないと語ります。
医ケア児が利用できる可能性のあるサービス
医ケア児が日常生活を送るための支援として、障害児通所支援、訪問支援、相談支援などのサービスがあります。利用できる支援の一部と基本的な内容を紹介します。
サービス名、内容、対象 |
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障害児通所支援 |
児童発達支援 |
医療型児童発達支援 |
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放課後等デイサービス |
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訪問支援 |
居宅介護 |
訪問看護 |
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訪問診療 |
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往診 |
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相談支援 |
計画相談支援 |
障害児相談支援 |
3.医療的ケア児と家族のための新法
2021年6月、医ケア児の成長とその家族の負担を軽減することを目的とした法律「医療的ケア児支援法(医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律)」が成立し、同年9月18日に施行されました。本法律により、自治体は保育所や学校などで医ケア児を受け入れる支援体制の拡充が求められることになりました。下記が法律のポイントです。
1.医ケア児の支援が国や地方自治体の「責務」となり、措置が明文化された
- 国や自治体は、医ケア児が在籍する保育所や学校へ支援をする
- 医ケア児や家族の日常生活における支援をする
- 相談体制を整える
2.保育所・学校等の「責務」が明文化された
- 保育所や幼稚園の設置者は、看護師または喀たん吸引等が可能な保育士を配置する
- 保護者の付き添いがなくても適切な医療的ケアや支援が受けられるよう看護師を配置する
3.各都道府県に医療的ケア児支援センターを設置
- 医ケア児やその家族への相談窓口を集約する
- 医療、保健、福祉、教育、労働に関する業務をおこなう関係機関等へ情報を提供し研修をおこなう、など
各都道府県に新設される医療的ケア児支援センターには医師、看護師、保健師、理学療法士、社会福祉士などが配置される予定です。
4.残された課題
医療的ケア児支援法の施行により、医ケア児を取り巻く環境は良い方向に向かいつつあります。しかし、新しく医ケア児を受け入れる保育所や学校の理解、ガイドライン作り、ケアを担う人材不足など多くの課題が残ります。
また本法律は各自治体が予算を持ち、支援する事業を進めていきます。これまで地域差のあった支援体制の格差是正に期待するばかりです。
参考
厚生労働省|医療的ケア児等とその家族に対する支援施策