目次
- 1. 理学療法士とは?
- ・身体の機能回復を助けるリハビリの専門家
- ・理学療法士と作業療法士の違い
- 2. 理学療法士になるには?
- ・理学療法士免許が必要
- ・理学療法士国家試験の概要
- ・理学療法士国家試験の合格率の推移
- 3. 理学療法士の仕事内容
- ・検査測定・評価
- ・運動療法
- ・物理療法
- ・補装具の適合判定
- ・家屋調査・環境調整
- ・多職種・患者家族との連携
- ・記録作成
- ・健康教育・傷害予防
- 4. 理学療法士の勤務先
- ・医療分野
- ・福祉分野
- ・教育・研究分野
- ・行政分野
- ・スポーツ・健康産業分野
- 5. 理学療法士の働き方
- ・理学療法士の仕事着
- ・理学療法士の仕事道具
- ・理学療法士の一日
- ・理学療法士の休日
- 6. 理学療法士の給料
- ・【全国平均】理学療法士の時給・月給・年収の相場
- 7. 理学療法士の将来性

1. 理学療法士とは?
身体の機能回復を助けるリハビリの専門家
理学療法士は、けがや病気などで身体に障がいを持つ人に対してリハビリテーションをおこなう医療専門職で、理学療法士及び作業療法士法に基づく国家資格です。英語表記の「Physical Therapist」を略して「PT」とも呼ばれます。
理学療法士は医師の指示のもと、運動の指導やマッサージ、電気刺激、温熱などを用いて、座る・立つ・歩くといった基本的動作能力の回復を目指し、その人が自立した日常生活を送れるようサポートします。
支援の対象となるのはすでに障がいを抱えた人以外にも、けがや病気の予防、スポーツのトレーニングなどを目的とした健康な人も含まれます。そのため理学療法士は医療機関だけでなく、高齢者や児童を対象とした福祉施設、保健所などの行政機関、プロのスポーツクラブや民間のフィットネスクラブなど、幅広い分野で活躍しています。
理学療法士と作業療法士の違い
理学療法士と並ぶリハビリ職の国家資格として、作業療法士(Occupational Therapist:OT)があります。理学療法士の支援対象は身体に障がいを持つ人が中心ですが、作業療法士の場合は精神障害者も支援対象に含まれます。
理学療法士は座る・立つ・歩くといった“基本的な動作”を中心にリハビリするのに対し、作業療法士は服を着替える、身体を洗う、字を書くといった日常生活での“応用的な動作”を主軸としてリハビリをおこないます。ただし2つの領域が明確に分かれているわけではないため、理学療法士が日常生活上の作業を訓練することもありますし、作業療法士と連携しながら進めることもあります。
作業療法士について詳しくはこちらの記事もご覧ください。
>作業療法士とは?
2. 理学療法士になるには?
理学療法士免許が必要
理学療法士になるには国家試験に合格し、免許証の申請・交付を経て、初めて理学療法士として働くことができます。
受験資格を得るには、理学療法士の養成校(大学、短期大学、専門学校)に通い、必要な課程を修了する必要があります。

*海外で理学療法に関する養成校を卒業した場合や理学療法士に相当する免許を受けた場合も、厚生労働大臣の認定があれば受験可能
*すでに作業療法士免許を有している場合は、養成校で2年以上の課程を修了すれば受験可能
理学療法士国家試験の概要
理学療法士国家試験は年に一回、2月に実施されます。
- 12月中旬〜1月上旬:願書等提出
- 2月中旬:試験日
- 3月下旬:合格発表
理学療法士国家試験は一般問題と実地問題の全200問で構成され、マークシート形式で回答します。
〈一般問題〉
- 配点:1問1点、全160問
- 出題内容:解剖学、生理学、運動学、病理学概論、臨床心理学、リハビリテーション医学(リハビリテーション概論を含む)、臨床医学大要(人間発達学を含む)、理学療法
〈実地問題〉
- 配点:1問3点、全40問
- 出題内容:運動学、臨床心理学、リハビリテーション医学、臨床医学大要(人間発達学を含む)、理学療法
合格基準は毎年ほぼ一定で、総得点で164〜167点、実地問題で40〜43点程度となっています。

そのほか、理学療法士国家試験に関する最新情報は厚生労働省の公式サイトからご確認ください。
>厚生労働省|資格・試験情報
理学療法士国家試験の合格率の推移
理学療法士国家試験の過去5年間の合格率は、おおむね80%台で推移しています。

なお、直近の2024年2月におこなわれた「第59回理学療法士国家試験」の結果は次のとおりです。新卒者と既卒者では合格率に大きな開きが見られました。
受験者数 | 合格者数 | 合格率 | |
---|---|---|---|
全体 | 12,629人 | 11,282人 | 89.3% |
新卒 | 11,408人 | 10,869人 | 95.3% |
既卒 | 1,221人 | 413人 | 33.8% |
3. 理学療法士の仕事内容
検査測定・評価
リハビリを実施する前に、まずは患者の状態を確認し今後の治療方針を立てます。基礎疾患や既往歴、生活状況といった患者の基本情報はもちろん、身長体重、手足の長さ、心電図、血圧、筋電図、運動機能(筋力、持久力、柔軟性、敏捷性、平衡性など)、神経機能などを検査します。
検査の結果から必要なリハビリのプログラムを設計し、医師をはじめとした多職種との協議のうえ治療の方針と目標を決定します。その後はプログラムに沿って運動療法や物理療法をおこない、定期的に再評価を繰り返しながら回復を目指します。
運動療法
患者自身の力、または理学療法士による手技や器具によって患者の身体を動かすことで、筋力、持久力、柔軟性、敏捷性、平衡性などの機能の改善を目指します。
代表的な運動療法には、関節可動域運動、筋力増強運動、筋持久力運動、協調性運動、バランス運動、全身持久力運動などがあります。また座る・立つ・歩く、食事を取る、衣服を着替えるといった日常生活動作(ADL)を練習することも運動療法の一部です。
物理療法
電気や光線、温熱、マッサージなどの物理的なエネルギーを利用することで、痛みの軽減、血液循環や筋機能の改善を目指します。
代表的な物理療法には、患部を温める温熱療法、患部を冷やす寒冷療法、超音波などで刺激を与える電気療法、水の浮力や水流を利用する水治療法などがあります。
補装具の適合判定
義肢や装具、杖、車椅子などの補装具が必要な患者の適合判定や調整、着脱や使い方のレクチャーをおこないます。なお義肢や装具などの採寸・採型・製作は義肢装具士がおこない、その過程で理学療法士と連携することもあります。
家屋調査・環境調整
退院後の生活で不便がないよう、患者の自宅へ訪問し屋内や周辺環境を調査することがあります。調査の結果、必要に応じて家屋の改造提案や生活上の指導をおこないます。家屋改造の例では、手すりの設置や段差の解消、介護用ベッドの提案などがあります。
多職種・患者家族との連携
リハビリを実施するには多職種間の連携が必要不可欠です。理学療法士が接することが多いのは医師や看護師、作業療法士、言語聴覚士、義肢装具士、心理職、ソーシャルワーカー、ケアマネジャーなど。それぞれの職種が専門性を活かし、協力しながら今後の治療方針や支援内容を決めます。
また患者の家族に対するコミュニケーションや指導も重要な役割の一つです。患者の退院後、自宅で家族が介護する際に身体を痛めることがないよう、正しい介助方法を指導します。
記録作成
リハビリの所要時間や実施内容、評価内容、改善点などを毎回のリハビリ後に作成します。この記録を基に診療報酬または介護報酬が請求されます。
健康教育・傷害予防
生涯にわたりできるだけ健康で過ごせるよう、生活習慣病に対する教育や運動の指導、高齢者の介護予防、フレイル*予防などをおこないます。
4. 理学療法士の勤務先
理学療法士の約8割は医療機関(病院・センター、診療所)に勤務しています。次いで多いのは介護サービス施設・事業所です。

医療分野
医療機関の中では一般病院、総合病院、診療所に勤務する人の割合が多く、そのほかは大学病院、小児病院、療養型病院などで働く理学療法士もいます。
一般病院や総合病院では病棟のほか集中治療室などに配属されます。急性期の患者が多い病院や急性期病棟では早期治療と退院を目標にしたリハビリがメインとなるため、患者一人ひとりと関わる期間が比較的短くなります。
一方、リハビリテーション専門の病院や療養型病院、回復期・慢性期の病棟ではより長期的な目標でリハビリに取り組みます。日常生活動作の訓練をはじめ、補装具の適合調整、退院に向けた家屋調査や環境調整などもおこないます。急性期の病院よりも患者一人ひとりを長期にわたりサポートする点が特徴です。
また最近では退院後に自宅や施設で療養生活を続ける患者が増えていることから、訪問リハビリを実施している病院や診療所も多くなっています。
福祉分野
高齢者を対象にした福祉施設では、退院後に施設から在宅復帰を目指して集中的にリハビリをおこなう介護老人保健施設(老健)、自宅からの通いでリハビリに取り組むデイサービスやデイケア(通所リハビリテーション)などがあります。また最近では訪問看護ステーションで働く理学療法士が増えており、在宅療養中の患者のもとを訪れリハビリを提供します。
割合としては少ないですが、障がい者や障がい児を対象とした福祉施設で働く理学療法士もいます。生まれつき障がいを持つ人の場合は、機能回復ではなく新たな機能獲得を目指してリハビリに取り組みます。
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介護老人保健施設(老健)/訪問看護ステーション
通所介護・デイサービス/通所リハ・デイケア/介護・福祉事業所
教育・研究分野
大学や短大、専門学校で理学療法士を目指す学生の教育に携わったり、より専門性を高めるために大学院や研究機関に所属したりする理学療法士もいます。なお、理学療法における研究は臨床での経験が重視されるため、本業の傍ら個人や職場で取り組むこともめずらしくありません。研究の成果は学会や研究会などで発表します。
行政分野
保健所や保健センターなどの行政機関で、人々の健康のための教育や啓発に取り組みます。乳幼児健診での運動発達面の評価や相談、生活習慣病予防のための指導など、幅広い人を対象に運動の観点からサポートします。
スポーツ・健康産業分野
プロのスポーツチームやフィットネスクラブ、地域スポーツクラブなどでスポーツトレーナーとして働く理学療法士もいます。この分野では傷害予防や機能改善のほか、運動能力を高めるためのトレーニングや健康管理などのコンディショニングも担当します。
また整骨院や整体院などで働く理学療法士もいます。ただしこれらの施術所では医師の指示がないため理学療法としてリハビリは実施できず、あくまで整体の範囲内として施術をおこないます。
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フィットネスクラブ等/整骨院・整体院/企業等
5. 理学療法士の働き方
理学療法士の仕事着
理学療法士の仕事着は職場で指定されることが一般的です。リハビリ中はさまざまな体勢をとるため、動きやすさがなにより重視されます。
〈ケーシー〉
白衣の一種で、半袖・立て襟のシルエットが特徴。医療機関に勤める理学療法士が着用することが多いようです。
〈スクラブ〉
最近ではスクラブを採用する医療機関や福祉施設が増えています。スクラブは比較的ゆったりとした着心地でお手入れしやすく、カラーバリエーションが豊富なところが特徴です。
〈スニーカー〉
理学療法士は屈んだりつま先立ちになったりとさまざまな動作をとるため、足元はスニーカーが基本です。
理学療法士の仕事道具
理学療法士がリハビリの際に使用する道具には、主に次のようなものがあります。
〈患者の状態を診るための道具〉
- 血圧計:血圧の測定に使用。診療をおこなうときや、患者の状態が急変したときなどに使う
- 聴診器(ステート):心臓や肺の音を聴診するために使用。診療をおこなうときや、患者の状態が急変したときなどに使う
- パルスオキシメーター:血液中の酸素量を調べる器械。運動療法中の体調確認などで使う
〈検査測定やリハビリで使う道具〉
- 打腱器:膝や肘などをたたき、その反応から麻痺の状態を確認する道具
- ゴニオメーター(角度計):足や手の関節の角度を測る道具。測る部位にあわせてさまざまな種類がある
- メジャー:足の長さや太さの差を測るときなどに使用
- ストップウォッチ:リハビリ中の動作にかかる時間を測る
- ペインスケール:患者が痛みの度合いを示すためのものさし
理学療法士の一日
理学療法士の一日のスケジュールは職場によって異なります。ここでは病院の急性期病棟で働く場合のおおよそのスケジュールを紹介します。

理学療法士の休日
理学療法士の休日は勤務先によって異なります。年中無休の病院や入所系の福祉施設の場合、シフトによる週休2日制、4週8休制(4週6休、4週7休などもある)、または1ヶ月単位の変形労働時間制のいずれかになることが多いです。一方、診療所や通所系の福祉施設では日曜祝日と平日1日の固定休となることが一般的です。
また勤務時間は日勤がほとんどですが、急患を受け入れている病院では早番や遅番、宿直や夜勤が発生することもあります。
6. 理学療法士の給料
ジョブメドレーに掲載されている求人から理学療法士の賃金相場を算出しました。なお、残業手当など月によって支給額が変動する手当は集計対象外のため、実際に支払われる賃金はこれより多くなる可能性があります。
【全国平均】理学療法士の時給・月給・年収の相場
2024年12月時点の全国の理学療法士の時給・月給・年収の相場は次のとおりとなりました。
下限平均 |
上限平均 |
総平均 |
|
---|---|---|---|
パート・アルバイトの時給 |
1,579円 |
1,859円 |
1,688円 |
正職員の月給 |
25万9,577円 |
33万7,679円 |
29万851円 |
正職員の年収* |
363万4,078円 |
472万7,506円 |
407万1,914円 |
*年収は「月給 × 14ヶ月(ボーナスは月給の2ヶ月分)」で試算
理学療法士の職場別、エリア別などより詳しい給料についてはこちらの記事をご確認ください。
>理学療法士の給料が高い職場を調べた結果、病院をおさえて年収1位だったのは?
7. 理学療法士の将来性
日本は人口10万人あたりの理学療法士の人数が世界3位(約80人)*に入るほど理学療法士の多い国です。日本理学療法士協会に登録している会員数は、2010年の約6.5万人から2021年の約13万人*と、ほぼ10年間で倍増しました。このままのペースで理学療法士が増え続けると、供給過多になってしまうのではないかと懸念する声も聞かれます。
その一方で、日本の高齢化は2042年をピークに進行が続くと予測されており、さらに今後は医療費抑制の観点からも健康寿命を延ばし介護予防を進めることが重視されます。けがや病気を予防すること、そして傷病後もできるだけ運動機能の維持・回復ができるよう、理学療法士に求められる役割は今後も大きいと言えるでしょう。活躍の場は医療機関に限らず、福祉施設や訪問リハビリ、スポーツ分野など広がりが見られます。
より専門性を磨きたい、キャリアアップを図りたいという方は、日本理学療法士協会が認定している専門理学療法士や認定理学療法士という上位資格を目指す道もあります。
理学療法士の仕事の醍醐味は、けがや病気で一度は心身にダメージを負った人が、リハビリを通じて少しずつ元気になっていく様子を間近で見られることだと言います。そんな仕事に魅力を感じる人は、理学療法士を目指してみてはいかがでしょうか?
参考
- e-Gov法令検索|理学療法士及び作業療法士法
- 日本理学療法士協会監修『理学療法士まるごとガイド』ミネルヴァ書房, 2013
- 丸山仁司編著『理学療法士になるには』ぺりかん社, 2014
- WILLこども知育研究所編著『理学療法士の一日』保育社, 2015