今日も“病棟”という名の戦場で戦い続ける、看護師1年目のリアル

就活や新卒1年目は誰もが通る道であり、そこには不安や悩みがつきものです。先輩たちは大変な時期をどう過ごしたのか、異なる選択をした2人の2年目看護師に話を聞きました。今回は卒業できる生徒は半数以下という看護大学のサバイバー、現在も病棟で戦い続ける先輩の話です。

就活と新卒1年目のリアル 看護師編(素材:PIXTA)

話を聞いた人

2年目看護師Nさん プロフィール写真

看護師2年目のNさん

幼い頃から「看護師になりたい」という強い気持ちがあったというNさん。救急看護のエキスパートを目指して高度救命救急センターのある病院に入職。しかし、配属された病棟で1年目から先輩看護師数名のターゲットにされる。どんなにひどいことを言われても「患者さんが好き」という思いで働き続けて2年目に。

出身校は退学者続出のスパルタ校

──Nさんが通っていた大学は厳しくて有名だったそうですね。

Nさん:そうなんです。すべてにおいて進級するための評価がすごく厳しくて。課題は多いし、試験は難しいし、実習も……。別の看護学校に通う友だちの話を聞いても、ほかの学校で合格ラインのものがうちでは不合格だったりするくらいだったので、進級できなくて辞めちゃう人も多かったです。

──アカハラが原因で看護学校の学生さんがほとんど辞めてしまったというニュースも記憶に新しいですが、そういうハラスメント的なことはありましたか?

ありますあります。私も当事者です(笑)。ぶっちゃけ言うと、先生の中でかわいがってる子とそうでない子みたいなのがありました。ペーパーテストだったら自分の努力で点を取れるんですけど、実習になると先生の評価がすべてになるので、どれだけ完璧に記録を書いて提出しても何かしら理由をつけて落とされるっていうのはぜんぜんありますね。

──評価側である教授の力が絶対的なんですね。

本人の特性を見て向いてる向いてないっていうより、先生の好みになっちゃってることがほとんどです。それで単位をもらえなくて辞めていく子とかを見てるとちょっと心苦しいなっていう思いはありましたね。

私も何度も留年とか退学の危機に陥ったことがあるんですけど、もともと「看護師になりたい」っていう自分の強い意思で入学してるので「辞めないぞ」っていう気持ちでなんとかストレートで卒業できました

──その「看護師になりたい」と思ったきっかけは何だったんですか?

うちは体が弱い家系で……。いろんな疾患で家族が病院のお世話になることが多くて、それこそ救急車を要請することも多々あったんですよ。そのときの救命救急の看護師さんがすごくかっこよくて! いろんな患者さんに対応しなきゃいけない分、知識も豊富だし、看護師になるなら命を助ける最前線に行きたいなっていう思いがありました。

それで行きたい病院も低学年の頃から三次救急指定病院の一つに決めていたので、インターンシップとか病院見学とか本当に何も考えてなかったですね。就活のスケジュールとかも組んでなくて「ダメだったらまた考えよう」くらいに楽観的に考えてました。

看護師Nさんの就活メモ

コロナ禍の中、第一志望の三次救急指定病院へ

──それで第一志望の病院に内定し国試にも合格して、4月から晴れて1年目となったわけですが、配属先はどこになったんですか?

急性期の外科の混合病棟です。いろんな科が入ってるようなところです。一時期コロナ病棟にもいました。コロナの患者さんが増えすぎちゃって急きょ増床した結果、看護師も足りないからって。

──それはいつ頃のことですか?

夏ぐらいからでしたね、本当に入職して3ヶ月後ぐらい。

──オリンピックが開催されていた時期ですね。それにしてもいきなりコロナ病棟なんて。

うーん、悩みましたね。配属先の病棟の仕事ですら「それとなく形になってきたかな?」くらいの時期じゃないですか。本来の病棟での仕事が形成されてないのに、ぜんぜん畑の違う呼吸器の仕事をして、また中途半端な状態で元の病棟に戻ってくるわけだから、すべてが中途半端みたいな状態が年末ぐらいまで続いてました。

それでコロナ病棟明けから「新人強化期間」が始まったんですよね。コロナ病棟に入っていた分、例年の新人に比べれば当然進みが遅いので。「強化期間」という名目で一気に重症患者を持つことが増えたんです。

──ずいぶん荒療治ですね。

もうなんか本当にすごくて、日勤なのに終電で帰ったこともあります(笑)

休憩取れません、定時で帰れません

──一日の仕事の流れを教えてもらえますか?

日勤の場合は8時半が始業なんですけど、新人のときは7時には病棟に着いてました

──早いですね! それは患者さんの情報を取るために?

はい、先輩だと30分前の人が多いんですけど、新人の頃は何もわかんないから。受け持つ患者さんによって疾患が違うし、同じ疾患の患者さんでも経過や手術式が違うし、そのときそのときで知らない用語とかも出てくるから、それを調べながら患者さんの状態を理解するってなると1時間じゃ足りないことが多かったんです。今は慣れてきて、カルテを見ればある程度わかるようになったんですけど、もしものときのために余裕を持って1時間前には着いてますね。

あとはこんな感じです。

新人看護師Nさんの一日

──休憩は取れてますか?

日勤だとあんまり取れないですね、忙しいんで(笑)。日常的にではないですけど、水も飲めないしトイレも行けないしごはんも食べれないっていうような本当にどうしようもなく忙しい日もあります。とりあえず時間どおりに休憩に行けるってことはまずないです。

準夜勤だと処置の合間に30分程度、深夜勤の場合は1時間しっかり休めます。

──定時では帰れま……。

(かぶせ気味に)まずないですね。定時からが本番っていう感じ(笑)。そこから記録書いたりするんですけど、その時間帯は準夜勤の人も忙しいので、17時に緊急入院の人が来たり先生の指示が変わったりすると全部日勤が対応しなきゃいけなかったりするんですよ。だからぜんぜん仕事が終わらないです。

指示が変わるのが17時とか9時とか勤務交代のタイミングなんですよね。だから、なかなか帰れないってことは深夜勤でもあります。ただ、日勤に比べると準夜勤とか深夜勤のほうがわりと時間どおりに進むことが多いので、私は夜勤のほうが好きですね。

看護師Nさん 取材中の様子
残業時間や夜勤数によって変わるが、月収は30〜40万円(額面)ほど
2年目になって昇給したが、それでも基本給は20万円を下回る

遊びたければ“明け”から遊ぶしかありません

──そういう方もいるんですね。

結構多いですね。うちの場合、日勤→深夜勤とかもあるので、日勤が18時とかに終わってまた23時に出勤したりするんですよね。

──えっ! いいんですか? 今、勤務間インターバルとか言われてますが。

就業時間的にはざっくり8時間は開くじゃないですか。

──でも、今聞いた話だと実働時間的にはもっと短いんですよね……。

だからたぶんグレーなのかな? でも結構そういう勤務もあるんです。日勤→深夜勤→深夜勤→準夜勤みたいな。そういうときは本当に体がしんどいですね。二交替と比べて三交替は生活リズムが安定しないし、休みも少ないんですよ。それが三交替のネックなところ。

──休日はどんなふうに過ごされてますか?

家から出られないことが多いです。シフト上は休みでも夜勤入りだったり夜勤明けだったりするので。だって夜から仕事だったら昼は遊びにも行けないし、飲みにも行けないじゃないですか。そういうことがあるので私はそれを休みだとは思ってないです。

──たしかにそうですね。

そう考えると、本当に丸1日休めるのって月に3、4日しかなくって。でも休みの日は家から出たくない。じゃないと体を休ませる時間がなくなっちゃうから。なので私の場合、夜勤明けに遊びに行くようにしてるんです。同期と一緒に1泊2日で大阪に行ったこともあります(笑)。

あんなことからこんなことまで看護師の仕事です

──働く前後でギャップはありましたか?

本当に何でも屋なんですよ、看護師って。それこそ携帯の使い方も教えるし。

看護師Nさん 取材中の様子
「主人からメールが返ってこないので使い方を教えてあげてほしい」などと頼まれるそう

予想の3、4倍はやらなきゃいけないことがあって、しかも本当に細々とした業務が多いので、時間処置の計画がすべて崩れて定時に終われなくなる。

──病院にはほかにもいろんな専門職の方がいますが、業務の分担はうまくできていると思いますか?

いろんな専門職がいるんですけど、結局患者さんが頼ってくるのって看護師なんですよね。看護助手さんはできることに限りがあるし、薬剤師さんも病棟にいることが少ないので……。

──医師の働き方改革で「医師のタスクの一部を看護師に」という流れになってますけど、それ以前に看護師さんの業務が多すぎるのではないかと思います。

そうですね。もうひたすらマンパワー不足なので。改革って言っても、看護師の業務負担が増えるだけだと思うので、看護師の働き方も変えてほしいなとは思いますね。

──話を聞いていると「この仕事も看護師さんがやってるんだ」と思います。

うちの場合、入院時の検薬は薬剤師さんがやってくれるんですけど、薬を管理したり退院処方の説明をしたり、抗がん剤治療の説明をするのも看護師なんですよ。

嚥下訓練もそうですね。言語聴覚士さんがいるのに、うちでは看護師がやるんです。何人も受け持ちの患者さんがいるなかで、ごはんの前後にやるのは大変で……。評価するためには知識も必要なので、プロに任せたらいいんじゃないかなって。

役割分担って意味で言えば、ほかにも細かい業務がいっぱいあると思います。

──可視化されていない細かいタスクもたくさんありそうですね。

看護師の善意というか気遣いで成り立っている部分もすごく多いと思うんです。やらなくていいけどやらないと患者さんが困るからやるっていうことが本当に多いです。

病棟は“戦場”、視界に入れば“キル”されます

──1年目で大変だったこと、つらかったことは何ですか?

私、わりと先輩に嫌われてて(笑)。一部の先輩看護師から「あんたって本当にバカ」とか「本当に看護師免許持ってるの?」とか「泣けば済むと思ってるところがムカつく」とかいろいろ暴言を吐かれてます

──!! 面と向かってこんなことを言う人が本当にいるんですね。

そう! 本当にこんなヤバい人いるんだみたいな。学生時代の実習先の病院ではそこまでキツく言われることもなかったので、実際に看護師になって「わ、こんな感じなんだ」って。

信じられないことが多発してます、人間関係において。だって私が視界に入るとキレるんです。

──視界に入っただけで!?

だから逃げてるんですけど、やっぱり同じ空間にいるとどうしても視界に入っちゃうから、私の姿が目に入るともうロックオンされちゃって「あんたの顔見るとムカつくんだよね」って。もう戦場です。

──まさに戦闘ゲームで「射程に入ったら撃ってくる」みたいな感じですね。

そう、本当にすぐキルされるって感じの病棟だから(笑)

──病院なのに。

看護師の心が殺されるんです。

もちろん、いい人も多いんですよ。大好きな先輩も尊敬してる先輩も病棟にたくさんいるし。でも、注意したら自分に火の粉が降りかかるから先輩たちも注意できないんです。その中で今ターゲットにされてるのが私っていう状況です。

看護師Nさん 取材中の様子
暴言の数々は師長も把握しているが、「受け流して」「あなたから歩み寄って」と何の配慮もない

「バランスが大事、自分を犠牲にしてまで頑張る必要なし」

──辞めたいと思ったことはないんですか?

もう毎日ですよ(笑)。暴言吐かれるたびに「今日こそ辞める!」って思ってます。

「もう無理です。本当に辞めます」って師長に言ったこともあるんですけど、「ふーん」って言われただけで、相手にされませんでした。

でもやっぱり患者さんが好きだから。

私、患者さんとは結構仲良くなれるタイプなんです。受け持ちじゃないのにナースステーションまで会いに来てくれる患者さんもいるくらい(笑)。患者さんからお手紙をもらったり、アンケートに名指しで「すごくよく対応してくれた」って書いてくれたりするのは嬉しいし。

だからその暴言を吐く先輩さえいなければずっとそこで働きたいんですよね。看護師って仕事自体は好きだから、続けたいから、そこでどう戦っていくかなんですけどね。

──どんな看護師になりたいと思いますか?

キャリアの面では、病棟で知識とか経験を積んだうえでいずれは救急にって。やっぱり前線で活躍したいなっていう気持ちがあります。

身近なところだと、自分がこういう仕打ちを受けているから反面教師の意味もあるんですけど、下には絶対優しくしようって決めてるんです。今、後輩や実習生も入ってきているので「この人だったら絶対に怒ったりしないから話しかけて大丈夫」って思ってもらえる関係性を築きたい

看護師Nさん 取材中の様子
1年目や実習生にとって2年目は一番身近な存在
一緒に考えたりベッドサイドまで行ったり、いい関係を築けるように心がけている

──命を扱う現場なのでもちろん緊張感はあると思うんですけど、それで萎縮してしまうとそれはそれでインシデントの原因に?

そうですそうです。私がそれで何回かやらかしてるんですよ。聞きたいんだけど怒られるのが怖くて聞けなくて失敗したことが。こんなこと聞いて「わかってない」って思われるのも怖いし、怒られるのも怖いし。でもそれって最終的には患者さんが不利になるわけじゃないですか。それって絶対あってはいけないことだから、やっぱり話せる人がいる環境ってすごい大事だと思ってるんです

──最後に新人さんへのアドバイスとして、メッセージをいただけますか?

アドバイスですか? 何だろう……。でも、勉強は絶対裏切らない。いくらやっても損はないし強みになるけど、でもやっぱり新人の間はバランスを取るっていうのが一番大事で一番の課題になります。

看護の世界では自己研鑽って言葉をよく使いますけど、私の場合、自己研鑽の名の下に無賃労働はしたくないので、課題や研究は病院でやって家に仕事を持ち込まない。じゃないと「やらなきゃやらなきゃ」って思っちゃって休めないので。家は自分の好きなことをする場所だから、そこに仕事を持ち込まないっていうのを徹底してます。

「勉強してこい」とか言われますけど、まずは自分の心と体を第一に優先して自分で自分を守ってほしい。自分を犠牲にしてまで頑張らなくていいと思います。

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