目次
- 1. 臨床心理士とは?
- ・心理的問題を抱えた人を支援する、心の専門家
- ・臨床心理士と公認心理師の違い
- 2. 臨床心理士になるには?
- ・臨床心理士資格が必要
- ・臨床心理士試験の概要
- ・臨床心理士試験の合格率の推移
- 3. 臨床心理士の仕事内容
- ・臨床心理査定(心理アセスメント)
- ・臨床心理面接
- ・臨床心理的地域援助
- ・調査・研究活動
- 4. 臨床心理士の勤務先
- ・医療・保健領域
- ・教育領域
- ・福祉領域
- ・産業領域
- ・司法・法務・警察領域
- ・大学・研究所
- ・私設心理相談
- 5. 臨床心理士の働き方
- ・臨床心理士の一日
- ・臨床心理士の休日
- 6. 臨床心理士の給料
- ・臨床心理士の時給・月給・年収の相場
- 7. 臨床心理士の将来性
- ・公認心理師の創設による臨床心理士への影響
- ・心理職が求められる機会は増えている
1. 臨床心理士とは?
・心理的問題を抱えた人を支援する、心の専門家
臨床心理士は、臨床心理学に基づく知識や技術を活かして、人々が抱える心の問題に向き合う専門家です。心理カウンセラー、スクールカウンセラー、産業カウンセラー、心理相談員など勤務先によってさまざまな呼び名がありますが、これらの心理職に就くために必要となる資格の一つが臨床心理士です。
活動の場は医療、保健、福祉、教育、司法、産業など多岐にわたります。臨床心理士は主にカウンセリングを通してクライエント(相談者)が抱える問題を傾聴し、解決に向かうよう援助します。
臨床心理士は日本臨床心理士資格認定協会が認定する民間資格であり、制度開始の1988年から2022年4月までの間に、4万749人の臨床心理士が誕生しています。
・臨床心理士と公認心理師の違い
臨床心理士が民間資格であるのに対し、公認心理師は公認心理師法に基づく国家資格です。そのため公認心理師になるには、所定の要件を満たしたうえで公認心理師国家試験に合格する必要があります。
公認心理師は2017年に新設されたばかりということもあり、仕事内容や勤務先において臨床心理士との違いはまだあまり見られません。しかし「公認心理師の創設による臨床心理士への影響」で後述するとおり、一部の領域については公認心理師のみに認められる役割も出てきています。
公認心理師について詳しくはこちらでも解説しています。
>公認心理師とは?
2. 臨床心理士になるには?
・臨床心理士資格が必要
臨床心理士として働くには、日本臨床心理士資格認定協会が実施する試験に合格する必要があります。
臨床心理士試験を受験するには、指定大学院または専門職大学院を修了するルートが一般的です。
〈ルートA〉
指定大学院(1種、2種)を修了し、次の必要な年数の心理臨床経験*を積んだ者
- 第1種指定大学院の場合 … 不要
- 第2種指定大学院の場合 … 1年以上の心理臨床経験
*心理臨床経験…教育相談機関、病院等の医療施設、心理相談機関等で心理臨床に関する従業者(心理相談員、カウンセラー等)としての勤務経験。無給のボランティアや研修員等は対象外
〈ルートB〉
専門職大学院において、臨床心理学またはそれに準ずる心理臨床に関する分野を専攻する専門職学位課程を修了した者
受験要件となっている指定大学院、専門職大学院の一覧は日本臨床心理士資格認定協会の公式サイトよりご確認ください。数は少ないですが通信制カリキュラムのある大学院もあります。
>日本臨床心理士資格認定協会|受験資格
・臨床心理士試験の概要
臨床心理士試験は例年10月から11月にかけて、東京で実施されます。
- 7月〜8月:願書等提出
- 10月中旬:一次試験(筆記)
- 11月中旬:二次試験(面接)
- 12月下旬:合格発表
臨床心理士の一次試験は、マークシート形式の多肢選択方式試験と、定められた字数の範囲内で論述する論文記述試験の2種類で構成されています。ただし専門職大学院を修了した場合、論文記述試験は免除されます。
臨床心理士試験 一次試験(筆記)の概要
〈多肢選択方式試験〉
- 形式:マークシート
- 出題数:100問
- 試験時間:2時間30分
- 出題内容:
- 心理学の基礎的設問
- 臨床心理士の専門業務(臨床心理査定、臨床心理面接、臨床心理的地域援助、それらの研究調査)に関する設問
- 臨床心理士に関する倫理・法律等に関する設問
〈論文記述試験〉
- 形式:記述式
- 文字数:1,001字〜1,200字
- 試験時間:1時間30分
- 出題内容:心理臨床に関するテーマ
二次試験の面接試験は、一次試験の多肢選択方式試験の成績が一定の水準に達した人のみ実施されます。
臨床心理士試験 二次試験(面接)の概要
- 形式:面接官2名、受験者1名
- 面接時間:15分程度
- 面接内容:臨床心理士としての基本的な姿勢や態度、専門家として最低限備えておくべき人間関係能力を問う
そのほか、臨床心理士試験に関する最新情報は日本臨床心理士資格認定協会の公式サイトからご確認ください。
>日本臨床心理士資格認定協会|臨床心理士になるには
・臨床心理士試験の合格率の推移
臨床心理士試験の過去5年間の合格率は、65%前後で推移しています。また、公認心理師資格が新設された影響か、近年の受験者数は減少傾向にあります。
tips|合格後は、5年に一度の更新が必要
臨床心理士は資格取得後も自己研修が求められることから、5年ごとの資格更新が義務付けられています。資格更新するには、5年間のうちに次のような活動をおこない、合計15ポイント以上を取得する必要があります。
- 臨床心理士研修会への参加(講師・発表者)…4ポイント
- 臨床心理士研修会への参加(受講者)…2ポイント
- ワークショップ型研修会への参加(講師・発表者)…4ポイント
- ワークショップ型研修会への参加(受講者)…2ポイント
- 研究誌・機関誌への研究論文の発表(原著)…10ポイント など
3. 臨床心理士の仕事内容
臨床心理士は心理テストやカウンセリングなどのさまざまな心理療法を用いて、クライエントの心の問題を解決に導いていきます。
日本臨床心理士資格認定協会では、臨床心理士に求められる専門業務を次の4つに定義しています。
・臨床心理査定(心理アセスメント)
クライエントの自己理解や支援のために、面接や心理テスト、行動観察などを通じて相手の特性や問題の状況、課題を明らかにします。さらにクライエントに対してどのように援助するのが望ましいかを探ります。
・臨床心理面接
クライエントの課題に応じたさまざまな心理療法を用いることで問題の克服や苦難の軽減を目指します。臨床心理士の仕事の中でも中心的な専門行為であり、クライエントが自分の心の状態を理解し、自尊感情を取り戻して自己治癒できるよう寄り添いながら進めます。
代表的な心理療法には、次のようなものがあります。
〈クライエント中心療法〉
「クライエントが中心で、カウンセラーは脇役」という考え方のもとおこなう療法。カウンセラーは積極的な指示やアドバイスよりも傾聴に比重を置き、クライエント自らが問題解決の力を取り戻していくよう支援する。
〈認知行動療法〉
クライエントが抱えている問題を具体的にし、考え方や思考法を変えていくことで問題の解決や症状の軽減を図る療法。カウンセラーは傾聴だけでなく説明や提案をおこない、クライエントも話をするだけでなく、新たな考え方を取り入れて行動する。
〈遊戯療法〉
主に子どもを対象とし、会話ではなく遊びを通じて心の問題を発見、解消していく療法。
〈芸術療法〉
絵画、音楽、写真、踊りなどの芸術を通して自己表現をおこない、問題解決の糸口や治療へと繋げていく療法。
・臨床心理的地域援助
地域住民や学校、企業といったコミュニティに所属する人々の心の健康のために支援をおこないます。災害や事故、事件の被害者に対する心のケアや、将来的に心の問題が生じないようにするための予防的働きかけもおこないます。
・調査・研究活動
臨床心理士の技術や知識を確実なものにするために、基礎となる臨床心理的調査や研究活動を実施します。事例研究では現場で対応した実例を取り上げ、クライエントの心の問題がどのように形成され、どのように援助したのかその内容を検証します。
4. 臨床心理士の勤務先
日本臨床心理士会が実施した調査によると、臨床心理士が働く場所は、病院や保健所といった医療・保健領域が最も多く、次いで小中高校をはじめとした教育領域での勤務が多い結果となりました。
また、臨床心理士は非常勤で働く人の割合が約半数と高いため、複数の仕事を掛け持ちして働くケースが多いようです。
・医療・保健領域
医療機関の場合は、精神科、心療内科、小児科のある病院・診療所やリハビリテーションセンターなどが主な勤務先として挙げられます。臨床心理士は医師からの依頼を受けて心理査定(アセスメント)や心理療法をおこなうほか、看護師やリハビリ職といった多職種との連携も求められます。臨床心理士が携わる疾患は、うつ病などの気分障害や統合失調症、依存症、発達障害、認知症など多岐にわたります。なお医療機関では「心理療法士」と呼ばれることもあります。
保健機関の場合は、保健所、保健センター、精神保健福祉センターなどの公的機関で「精神保健福祉相談員」の名前で公務員として働きます。アルコール依存症や薬物依存症の相談、ひきこもりの相談援助、乳幼児の発達検査などクライエント一人ひとりの相談に応じるほか、担当地域の精神保健福祉に関する実態の把握や、心の病や精神疾患について正しい理解を広めるための普及啓発活動もおこないます。
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・教育領域
幼稚園で働く心理職を「保育カウンセラー」、小中高校で働く場合は「スクールカウンセラー」と呼ぶことが一般的です。
保育カウンセラーは育児や発達についての相談に応じることが多く、スクールカウンセラーは不登校やいじめの問題、友人関係・親子関係・学習関係の悩み、発達障害・精神疾患の疑い、自傷行為などさまざまな問題に応じます。当事者である児童や保護者からだけでなく、保育者や教職員も含めて幅広く相談に応じ、必要に応じて外部の専門機関とも連携しながら問題の解決を図ります。
また、自治体が運営する教育相談室や教育センターで働く心理職もいます。メール・電話での個別相談やグループ相談にも対応するほか、心理検査や発達検査などをおこないます。
・福祉領域
福祉領域で最も多い活動の場は、児童相談所や児童福祉施設*といった児童福祉の領域です。児童相談所では「児童心理司」「心理判定員」などの名前で呼ばれ、児童虐待の対応、発達障害・療育手帳に関する判定や相談に応じます。児童福祉施設では障がい児を対象とした療育や家族支援が中心となります。
障害福祉領域では、障がい者の通所施設や入所施設、相談機関などで働きます。心理査定や心理面接をおこない、その結果を受けての関係機関との連携や、障がい者の家族との相談・援助をおこないます。
そのほか特別養護老人ホームや養護老人ホームといった高齢者施設や、DV被害を受けた女性支援をおこなう機関など、社会的に弱い立場に置かれた人たちを支援する場所で幅広く活動しています。
・産業領域
会社員や公務員など働く人のメンタルヘルスを支援する領域です。大企業を中心に企業内の健康管理室や健康管理センター、職場におけるメンタルヘルスを専門に請け負うEAP(従業員支援プログラム)の専門機関などで働きます。「産業カウンセラー」や「相談員」と呼ばれます。
仕事上の悩みの相談や、過労や精神疾患などによる休職者の職場復帰の支援、必要に応じた家族や上司へのコンサルテーション*、従業員を対象としたストレスチェックの実施、職場全体の健康増進の啓発などを担当します。
・司法・法務・警察領域
司法関係機関では家庭裁判所の「調査官」、法務省関係機関では少年鑑別所、少年院などの「鑑別技官」や「法務教官」、刑務所の「処遇カウンセラー」、保護観察所の「保護観察官」、警察関係機関では警視庁や都道府県警察本部の「心理職員」などとして働き、ほとんどの場合が公務員として採用されます。
司法・法務・警察領域での心理職の主な役割は、事件を起こした人の心理査定を通して処遇の方針を示すことや、更生に向けた心理療法をおこなうことなどです。
・大学・研究所
大学院や研究機関で研究職として活動を続けたり、教授として臨床心理士の養成に携わります。多くの機関では学生相談室や臨床心理センターなどが併設されているため、学生や地域住民の相談にも応じるケースが多いようです。
・私設心理相談
個人での開業、または複数のカウンセラーが所属し運営される私設の心理相談機関です。クライエントとは直接契約を結び、独自の手法や裁量でサービスを提供します。来所だけでなくメールや電話、訪問での相談に応じるところもあり、必要に応じて外部の専門機関との連携も求められます。
5. 臨床心理士の働き方
・臨床心理士の一日
臨床心理士の一日のスケジュールは職場によって異なります。ここでは非常勤のスクールカウンセラーとして働く場合のおおよそのスケジュールを紹介します。
また以下の動画では、保育園で働く臨床心理士の一日の様子を紹介しています。
今はまだ珍しい、保育園で働く心理カウンセラーの一日に密着!より
・臨床心理士の休日
臨床心理士の休日は、勤務先の営業日によって異なります。学校や大学・研究所、保健機関、企業などでは土日祝休みの完全週休2日制が多く、それ以外の職場ではシフトによる週休2日制を取るケースが多いようです。
なお24時間対応が必要な入所型の児童養護施設や児童相談所、少年鑑別所、刑務所などではシフト制での早番・遅番・夜勤があることもあります。
6. 臨床心理士の給料
臨床心理士は非常勤で仕事を複数掛け持ちしながら働く人も多く、さらに仕事内容や経験年数によるところもあるため、収入面での個人差が大きいところが特徴です。例えばスクールカウンセラーの時給は5,500円程度が相場と言われますが、臨床心理士の給料としてはかなり高額なほうでしょう。公務員として働く場合は俸給表が一つの目安となります。
参考までに、ジョブメドレーに掲載されている求人から臨床心理士の賃金相場を算出しました。残業手当など月によって支給額が変動する手当は集計対象外のため、実際に支払われる賃金はこれより多くなる可能性があります。
・臨床心理士の時給・月給・年収の相場
2023年11月時点の全国の臨床心理士の時給・月給・年収の相場は次のとおりとなりました。
下限平均 |
上限平均 |
総平均 |
|
パート・アルバイトの時給 |
1,333円 |
1,716円 |
1,525円 |
正職員の月給 |
24万2,559円 |
30万9,834円 |
27万6,196円 |
正職員の年収* |
339万5,821円 |
433万7,677円 |
386万6,749円 |
*年収は「月給の総平均 × 14ヶ月(ボーナスは月給の2ヶ月分)」で試算
7. 臨床心理士の将来性
・公認心理師の創設による臨床心理士への影響
2017年に心理職として初の国家資格である公認心理師が誕生したことにより、臨床心理士の立場が変わってきました。以前は診療報酬の加算対象である「臨床心理技術者」に臨床心理士も含まれていましたが、改定により2018年度から公認心理師のみに限定されるようになった*のです。
・2019年3月末時点で、臨床心理技術者として保険医療機関に従事していた者
・公認心理師の国家試験の受験資格を有する者
現時点で医療機関においては臨床心理士と公認心理師の区別が明らかになりました。しかしそのほかの領域においても、今後の公認心理師の普及に伴い、例えば公的機関では公認心理師が、民間機関では臨床心理士が中心となるような差別化が進む可能性もあります。これから心理職の仕事に就こうという方は、この状況も考慮する必要がありそうです。
・心理職が求められる機会は増えている
臨床心理士の今後の立ち位置が気になるところですが、変化の激しい現代社会では心理職が必要とされる場面は増えているとも言われています。心の問題を抱える人の数は年々増え続けており、「生涯を通じて5人に1人がこころの病気にかかる」という調査結果も示されています(参考:厚生労働省)。
10代・20代の若者を中心に表れやすいうつ病や不安障害、統合失調症といった精神疾患、高齢者の6人に1人が発症すると言われる認知症、子どもだけでなく大人の認定も増えている発達障害など──さまざまな心の問題を抱える人たちへの支援、そして今後発症する人たちを減らすための予防的支援が必要です。医療や福祉、産業、行政、地域コミュニティなどの多方面とも協力しながら、心の専門家としての役割が期待されます。
参考
- 乾吉佑, 平野学編著『臨床心理士になるには』ぺりかん社, 2004
- 亀口憲治監修『臨床心理士・公認心理師まるごとガイド』ミネルヴァ書房, 2016